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第534話 ホントにラッキーだよね!
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「あら、智人。朝からお出かけ?」
午前中からそれなりにお洒落をして靴を履くノリトへ彼の母親の紬は洗濯物を抱えつつ声をかけた。
「昼飯はいらないから」
「ふーん」
「なに、その意味深な反応」
「ノリト、好きな子が出来たの?」
「彼女なら何人も居たの知ってるだろ?」
初恋は終わってるよ、とノリトは玄関を出る前に靴棚に備え付けの大鏡で自分の姿を最終チェックする。
「違うわ、ノリト。共に歳を取る人と出会った時が本当の初恋なのよ」
「……とてもタメになる助言をありがとう」
「どういたしまして」
母は何かとその手の話題を広げたがる。これ以上時間を取られる前に身だしなみを確認したノリトは、いってきます、と扉から出て行った。
「……難しい子なのかしら?」
珍しく、難しい顔をして出て行ったノリトに紬は少しだけ心配になった。
女子との待ち合わせは何度も経験がある。
だから、今回も普通に顔を合わせるだけだと思っていたが。
「今まで真剣にならなかったからか?」
俺は駅前の鬼灯との待ち合わせにどことなく緊張していた。
今までの相手は全部相手からの告白だったし、断る理由も無いから何となく付き合ってた。
けど、今回は自分から踏み込んだ形と言う事もあり、それが緊張の要因の一つなのだろう。
「そろそろだと思うけどな……」
交換してたLIKEで駅に着いた旨を送ると、今向かってるよ! と言う看板を持ったユニコ君のスタンプが返って来ている。
文面では全くの別人格と思わせる鬼灯の返答には毎回驚く。て言うか、ユニコ君のスタンプ販売されてるのかよ。
「…………」
しかし、今向かってるよ! が返って来てから既に30分は経っている。鬼灯の家から駅までは10分も掛からないのだが……
「あー、そっか」
俺はある可能性に至り、駅から鬼灯ん家に向かう最短距離を逆に向かって歩くと、
「すみません。待ち合わせをしてるので通してくれませんか?」
「大丈夫、大丈夫。待ってくれてる人も理解してくれるだろうからさ」
「そうそう。俺らの方で説得するから」
案の定、類を見ない美少女でもある鬼灯は人気の少ない駅の駐車場前でナンパに絡まれていた。
「貴方達には何も興味は無いので、いい加減通してください」
鬼灯は相変わらずバスや電車で流れる様な機械音声であるが、ナンパどもは彼女の容姿の一点だけに興味を持っている様だ。
「まぁまぁ、そんな事言わないでさ」
「物凄くお金を稼げるバイトがあるんだけど、興味ある?」
「興味ありませんので」
痺れを切らして鬼灯が脇を抜けようとすると、男がその手を掴む。
「まぁ、待ってよ」
「まぁ、離せよ」
その鬼灯を掴んだ手を俺が掴む。突如として割り込んできた俺に男達は驚き、鬼灯は……マシンフェイスで視線を向けた。
「なに? お前何?」
「彼女の待ち合わせ相手。もう、いいッスか? これから彼女と予定あるんで」
俺は握る手に力を入れて男が鬼灯を掴む手を強制的に離させる。男は、チッ! と手を離すと振り払う様に身を引いた。鬼灯は俺の後ろへ隠れる。
「じゃ、そう言う事で」
俺は後ろに振り返りながら鬼灯の肩を押しつつ小声で、取りあえず駅に行くぞ、と言うと彼女はコクリと頷く。
「おっと」
しかし、退路を塞ぐように目の前に別の男が現れた。しかも二人。
「おいおい、兄ちゃんよ。そんなに可愛い子を独り占めは良くねぇなぁ」
更に駐車場に止まっているバンから二人の男が降りてくる。
全部で計六人。しかも、車まで用意してたのか。鬼灯を探しに来なければ本当に危なかったぜ。
「もう、その子の客は決まっててね。レートSの大口の客だ。絶対に来て貰うぜ」
男達が少しずつ間を詰めてくる。本来なら絶体絶命の状況だが、俺は妙に落ち着いていた。
「七海君」
「大丈夫だ。俺から離れるなよ」
「わかったわ」
鬼灯の機械音声も、何処と無く頼ってくれている様が伝わってくる。駅側の二人をこじ開けて鬼灯を先に逃がす。そのまま警察を呼びに行ってもらい、それまで俺は耐えだな。
「女の方は傷をつけるなよ。野郎は病院送りで構わねぇ」
「やって見ろよ、クソ野郎ども」
「言うじゃねぇか……クソガキ!」
「ほっほう!」
これから始まる戦いに身構えていると天からそんな声が降ってきた。
「いやさ! ホントにラッキーだよね! まさかのまさか! こんなに美味しい場面に出くわせるなんてさ♪」
俺はその声に聞き覚えがある。いや……上半身半裸で歩いて来るあのマッチョを見間違うハズがない。
そのマッチョの登場に俺以上に男達の方が動揺していた。
「ば、馬鹿な! あり得ねぇ!」
「お前は……お前は3日間! この街を離れているハズだ!」
「この圧! 幻覚でも他人の空似でもない!?」
「90%の確定情報で、10%が当たっただと!?」
「何故、貴様がここにいる!?」
「「「「「「国尾正義!!!??」」」」」」
最後に名前を叫んだ所で男達六人がハモる。
影かかった凄み溢れるカットインと共に現れた半裸のマッチョは、8月の盆休みに俺とリョウが遭遇した愛の押し売り戦士こと、国尾正義(俺もあれから友達に聞いて調べた)。
「ほっほう! 七人も居るじゃなぁーい!」
そして、相変わらず俺も標的に入っている様だった……
午前中からそれなりにお洒落をして靴を履くノリトへ彼の母親の紬は洗濯物を抱えつつ声をかけた。
「昼飯はいらないから」
「ふーん」
「なに、その意味深な反応」
「ノリト、好きな子が出来たの?」
「彼女なら何人も居たの知ってるだろ?」
初恋は終わってるよ、とノリトは玄関を出る前に靴棚に備え付けの大鏡で自分の姿を最終チェックする。
「違うわ、ノリト。共に歳を取る人と出会った時が本当の初恋なのよ」
「……とてもタメになる助言をありがとう」
「どういたしまして」
母は何かとその手の話題を広げたがる。これ以上時間を取られる前に身だしなみを確認したノリトは、いってきます、と扉から出て行った。
「……難しい子なのかしら?」
珍しく、難しい顔をして出て行ったノリトに紬は少しだけ心配になった。
女子との待ち合わせは何度も経験がある。
だから、今回も普通に顔を合わせるだけだと思っていたが。
「今まで真剣にならなかったからか?」
俺は駅前の鬼灯との待ち合わせにどことなく緊張していた。
今までの相手は全部相手からの告白だったし、断る理由も無いから何となく付き合ってた。
けど、今回は自分から踏み込んだ形と言う事もあり、それが緊張の要因の一つなのだろう。
「そろそろだと思うけどな……」
交換してたLIKEで駅に着いた旨を送ると、今向かってるよ! と言う看板を持ったユニコ君のスタンプが返って来ている。
文面では全くの別人格と思わせる鬼灯の返答には毎回驚く。て言うか、ユニコ君のスタンプ販売されてるのかよ。
「…………」
しかし、今向かってるよ! が返って来てから既に30分は経っている。鬼灯の家から駅までは10分も掛からないのだが……
「あー、そっか」
俺はある可能性に至り、駅から鬼灯ん家に向かう最短距離を逆に向かって歩くと、
「すみません。待ち合わせをしてるので通してくれませんか?」
「大丈夫、大丈夫。待ってくれてる人も理解してくれるだろうからさ」
「そうそう。俺らの方で説得するから」
案の定、類を見ない美少女でもある鬼灯は人気の少ない駅の駐車場前でナンパに絡まれていた。
「貴方達には何も興味は無いので、いい加減通してください」
鬼灯は相変わらずバスや電車で流れる様な機械音声であるが、ナンパどもは彼女の容姿の一点だけに興味を持っている様だ。
「まぁまぁ、そんな事言わないでさ」
「物凄くお金を稼げるバイトがあるんだけど、興味ある?」
「興味ありませんので」
痺れを切らして鬼灯が脇を抜けようとすると、男がその手を掴む。
「まぁ、待ってよ」
「まぁ、離せよ」
その鬼灯を掴んだ手を俺が掴む。突如として割り込んできた俺に男達は驚き、鬼灯は……マシンフェイスで視線を向けた。
「なに? お前何?」
「彼女の待ち合わせ相手。もう、いいッスか? これから彼女と予定あるんで」
俺は握る手に力を入れて男が鬼灯を掴む手を強制的に離させる。男は、チッ! と手を離すと振り払う様に身を引いた。鬼灯は俺の後ろへ隠れる。
「じゃ、そう言う事で」
俺は後ろに振り返りながら鬼灯の肩を押しつつ小声で、取りあえず駅に行くぞ、と言うと彼女はコクリと頷く。
「おっと」
しかし、退路を塞ぐように目の前に別の男が現れた。しかも二人。
「おいおい、兄ちゃんよ。そんなに可愛い子を独り占めは良くねぇなぁ」
更に駐車場に止まっているバンから二人の男が降りてくる。
全部で計六人。しかも、車まで用意してたのか。鬼灯を探しに来なければ本当に危なかったぜ。
「もう、その子の客は決まっててね。レートSの大口の客だ。絶対に来て貰うぜ」
男達が少しずつ間を詰めてくる。本来なら絶体絶命の状況だが、俺は妙に落ち着いていた。
「七海君」
「大丈夫だ。俺から離れるなよ」
「わかったわ」
鬼灯の機械音声も、何処と無く頼ってくれている様が伝わってくる。駅側の二人をこじ開けて鬼灯を先に逃がす。そのまま警察を呼びに行ってもらい、それまで俺は耐えだな。
「女の方は傷をつけるなよ。野郎は病院送りで構わねぇ」
「やって見ろよ、クソ野郎ども」
「言うじゃねぇか……クソガキ!」
「ほっほう!」
これから始まる戦いに身構えていると天からそんな声が降ってきた。
「いやさ! ホントにラッキーだよね! まさかのまさか! こんなに美味しい場面に出くわせるなんてさ♪」
俺はその声に聞き覚えがある。いや……上半身半裸で歩いて来るあのマッチョを見間違うハズがない。
そのマッチョの登場に俺以上に男達の方が動揺していた。
「ば、馬鹿な! あり得ねぇ!」
「お前は……お前は3日間! この街を離れているハズだ!」
「この圧! 幻覚でも他人の空似でもない!?」
「90%の確定情報で、10%が当たっただと!?」
「何故、貴様がここにいる!?」
「「「「「「国尾正義!!!??」」」」」」
最後に名前を叫んだ所で男達六人がハモる。
影かかった凄み溢れるカットインと共に現れた半裸のマッチョは、8月の盆休みに俺とリョウが遭遇した愛の押し売り戦士こと、国尾正義(俺もあれから友達に聞いて調べた)。
「ほっほう! 七人も居るじゃなぁーい!」
そして、相変わらず俺も標的に入っている様だった……
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