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第496話 23年前 危険聖域
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船室のブリッジまで入ったジョージは、マッケランが、机にバサッと広げた海流図へ目をやる。
「まだエンジンも無く、帆を張って進んでいた時代ではこの辺りの海域は決して近づいてはならない地点として船乗りには恐れられていた」
「例の海流に流されるからか?」
「それだけではない。例の海流の調査も近年に行われたが、原因不明の異常気象に見舞われては中止を余儀なくされている。
「異常気象? 嵐か?」
「積乱雲だ。だが、発生するのは超低空。それも高速で生成され、僅か半日で消失すると言う現象が度々起こっている」
理由は現在でも全く解らない。数分前まで晴天だと思っていたら、霧が出始め、30分もすれば太陽の光を通さない程の積乱雲が真上に現れると言う。
「昼間なら違和感に気づくだろう。しかし、夜にソレを遭遇すれば、直下の嵐雨をモロに受ける事になる」
「では何故、『ウォータードロップ』はそんな海域に入った?」
「この海域の危険性を理解しているのは、その脅威を体験したか、親の代から教え込まれた者達だけだ。晴天であれば、海洋生物が豊富な海域でも知られ、その手の調査には絶好の海域でもある。イルカやクジラなども群れで通過する海域だからな見る。稀にオーロラも見える」
「水中は魅力的だと言う事はわかった」
『ウォータードロップ』は世界の主要都市を経由する客船である。代わり映えのしない海の景観に飽きさせない為に、不思議スポットに行くことには躊躇いはなかったのだろう。
「『ウォータードロップ』の船長はベテランの船乗りだったと聞く。故に平和に見える海域に常識外れの脅威が潜んでいるとは思わなかったのだろう」
ジョージが調べた情報によると、今回の『ウォータードロップ』は新たな海路を進む事を試験的に行ったそうだ。
「……マッケラン、お前は例の積乱雲の発生を予見できるか?」
「勘弁してくれ、ジョージ。先程も言っただろう? 自ら、嵐に突っ込むのは自殺行為だと」
「……頼む。『ウォータードロップ』には息子と娘……孫が乗船していた。金は3倍払う。少しでも危険だと感じたら引き返してくれて良い」
「………………」
頭を下げるジョージにマッケランは机を離れると、ブリッジの無線を手に取る。
「総員、デルタスポットに向かう。警戒レベルを3に維持しつつ、耐、雷雨設定に船を切り替えろ」
マッケランは、それだけを船に告げて無線を置いた。
「金は燃料費だけでいい。後、港に戻ったら皆に旨い酒を浴びるほど奢ってくれ」
「すまんな」
「危険な海域か。どうりで坊主達がドタバタし出すハズじゃ」
「ワタシ達はデルタスポットって言ってます。オーロラとかイルカとか見れるので、この辺りでも知る人ぞ知る、海域スポットなんです」
『ガルート号』の食堂にて、釣り上げたマグロを解体するトキと食堂長のマカは話しながら夕飯の準備をしていた。
「前に国からの調査依頼を受けて、その海域に入ったんですけど、ヤバいですよ。間近で積乱雲が出来るのに飲み込まれそうになりましたから。グランパの機転で難を逃れましたけど」
マカはマッケランの孫娘であり、昔から船に乗せて貰っていた事もあって、船員とは家族の様なモノだった。
「そんなにヤバいのか?」
「まぁ、普通なら予測不明の嵐が発生する海域になんて誰も行きたく無いでしょう? 地雷原を歩くのと同じですよ」
「なら、何故禁止指定されておらんのだ?」
「グランパが言うには、昔の船乗りは今よりもずっと慎重で勘も鋭かったらしいですから避けてたんです。でも今は、造船の技術も昔よりもずっと上がって、ある程度の嵐は避けずに進める様になったので」
「ふむ」
「昔の人は、トールの怒りとか、リヴァイアサンの住みかとか言って一種の聖域に見る人も居ましたからね。オーロラを見たら幸運が舞い降りるとか」
「ソイツは見てみたい気がするのぅ」
「だいぶ中まで行かないと見れないそうですよ。まぁ、グランパの事だから何かあればすぐに引き返すと思いますし、警戒し過ぎるな越したことは無いですからね」
「…………」
トキは自分と夫の都合で『ガルート号』の面々に危険な事をさせてしまう事を心の中では謝った。
“親父、お袋。結婚を前提に連れてきた、九官鳥だ”
“その自己紹介の仕方っ! あ! 僕、アキラって言います! 特技は歌です! ラブ&ピース! 出会い頭に一曲歌いましょうか?”
「将平……アキラ。お前達なら……」
あの二人はどんな窮地に陥っても諦めるハズはない。そして……息子であるケンゴを護り、絶対に生きているハズだ。
「グランパ? デルタスポットに入る前に皆で腹ごしらえしようよ。トキサン考案のマグロのタタキ丼ってヤツを作ったから。めっちゃ旨そうだよ」
マカはブリッジに無線で早めの食事を提案し、船長はそれを了承。
『ガルート号』はデルタスポットを前にエンジンを止め、これからの緊張感に備える為に一度、停船する。
「まだエンジンも無く、帆を張って進んでいた時代ではこの辺りの海域は決して近づいてはならない地点として船乗りには恐れられていた」
「例の海流に流されるからか?」
「それだけではない。例の海流の調査も近年に行われたが、原因不明の異常気象に見舞われては中止を余儀なくされている。
「異常気象? 嵐か?」
「積乱雲だ。だが、発生するのは超低空。それも高速で生成され、僅か半日で消失すると言う現象が度々起こっている」
理由は現在でも全く解らない。数分前まで晴天だと思っていたら、霧が出始め、30分もすれば太陽の光を通さない程の積乱雲が真上に現れると言う。
「昼間なら違和感に気づくだろう。しかし、夜にソレを遭遇すれば、直下の嵐雨をモロに受ける事になる」
「では何故、『ウォータードロップ』はそんな海域に入った?」
「この海域の危険性を理解しているのは、その脅威を体験したか、親の代から教え込まれた者達だけだ。晴天であれば、海洋生物が豊富な海域でも知られ、その手の調査には絶好の海域でもある。イルカやクジラなども群れで通過する海域だからな見る。稀にオーロラも見える」
「水中は魅力的だと言う事はわかった」
『ウォータードロップ』は世界の主要都市を経由する客船である。代わり映えのしない海の景観に飽きさせない為に、不思議スポットに行くことには躊躇いはなかったのだろう。
「『ウォータードロップ』の船長はベテランの船乗りだったと聞く。故に平和に見える海域に常識外れの脅威が潜んでいるとは思わなかったのだろう」
ジョージが調べた情報によると、今回の『ウォータードロップ』は新たな海路を進む事を試験的に行ったそうだ。
「……マッケラン、お前は例の積乱雲の発生を予見できるか?」
「勘弁してくれ、ジョージ。先程も言っただろう? 自ら、嵐に突っ込むのは自殺行為だと」
「……頼む。『ウォータードロップ』には息子と娘……孫が乗船していた。金は3倍払う。少しでも危険だと感じたら引き返してくれて良い」
「………………」
頭を下げるジョージにマッケランは机を離れると、ブリッジの無線を手に取る。
「総員、デルタスポットに向かう。警戒レベルを3に維持しつつ、耐、雷雨設定に船を切り替えろ」
マッケランは、それだけを船に告げて無線を置いた。
「金は燃料費だけでいい。後、港に戻ったら皆に旨い酒を浴びるほど奢ってくれ」
「すまんな」
「危険な海域か。どうりで坊主達がドタバタし出すハズじゃ」
「ワタシ達はデルタスポットって言ってます。オーロラとかイルカとか見れるので、この辺りでも知る人ぞ知る、海域スポットなんです」
『ガルート号』の食堂にて、釣り上げたマグロを解体するトキと食堂長のマカは話しながら夕飯の準備をしていた。
「前に国からの調査依頼を受けて、その海域に入ったんですけど、ヤバいですよ。間近で積乱雲が出来るのに飲み込まれそうになりましたから。グランパの機転で難を逃れましたけど」
マカはマッケランの孫娘であり、昔から船に乗せて貰っていた事もあって、船員とは家族の様なモノだった。
「そんなにヤバいのか?」
「まぁ、普通なら予測不明の嵐が発生する海域になんて誰も行きたく無いでしょう? 地雷原を歩くのと同じですよ」
「なら、何故禁止指定されておらんのだ?」
「グランパが言うには、昔の船乗りは今よりもずっと慎重で勘も鋭かったらしいですから避けてたんです。でも今は、造船の技術も昔よりもずっと上がって、ある程度の嵐は避けずに進める様になったので」
「ふむ」
「昔の人は、トールの怒りとか、リヴァイアサンの住みかとか言って一種の聖域に見る人も居ましたからね。オーロラを見たら幸運が舞い降りるとか」
「ソイツは見てみたい気がするのぅ」
「だいぶ中まで行かないと見れないそうですよ。まぁ、グランパの事だから何かあればすぐに引き返すと思いますし、警戒し過ぎるな越したことは無いですからね」
「…………」
トキは自分と夫の都合で『ガルート号』の面々に危険な事をさせてしまう事を心の中では謝った。
“親父、お袋。結婚を前提に連れてきた、九官鳥だ”
“その自己紹介の仕方っ! あ! 僕、アキラって言います! 特技は歌です! ラブ&ピース! 出会い頭に一曲歌いましょうか?”
「将平……アキラ。お前達なら……」
あの二人はどんな窮地に陥っても諦めるハズはない。そして……息子であるケンゴを護り、絶対に生きているハズだ。
「グランパ? デルタスポットに入る前に皆で腹ごしらえしようよ。トキサン考案のマグロのタタキ丼ってヤツを作ったから。めっちゃ旨そうだよ」
マカはブリッジに無線で早めの食事を提案し、船長はそれを了承。
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