444 / 701
第443話 宝探し
しおりを挟む
「最低限の飯は食っているか」
ジョージは探索範囲を広げつつ、熊のフンを見つけた。
熊は本来は群れない。故に複数が集まれば縄張りを巡って争うか、バラバラに去るのが通例だろう。しかし、今回は――
「熊吉のヤツ。熊どもをコントロールしてやがるな」
ロクの行った通りに複雑な事は出来ないだろう。だが、ヤツを二度の殺り逃した事で正攻法では勝てないと理解はしたようだ。そして、
「戦意は旺盛か」
二度も深傷を負ったなら、その時点で逃げ出し、この地には二度と近づこうとは思わない。しかし、熊吉の行動は真逆だ。こちらに対しての戦意は全く衰えておらず、何がなんでも報復をするつもりで動いている。
「ヤツが群のボスだとして……従わせてるのは恐怖だな」
この仮説通りなら熊吉を仕留めれば群は瓦解する。それ以前にここまで人間に報復行動を取る熊を放置することは出来ない。
「もう少し、探ってみるか」
せめて他の熊の姿を確認したい。ジョージはフンを中心に周囲を調べると、折れた枝や少し倒れた草などの痕跡を見つける。
「……野郎」
痕跡の方向はジョージの住む母屋に向かっていた。
『神ノ木の里』の長が暮らす母屋は、現在はジョージとトキが暮らして管理している。
そこへ、七海、ユウヒ、コエがトキからのミッションを完遂するべく訪れた。
「おー、やっぱり居たか」
『銃蔵』『公民館』『母屋』には犬の大和、武蔵、飛龍がジョージによって配備されている。
彼らの役目は生きたレーダーであり、もしも里に熊が下りてきた時はいち早く知らせる事を命令されていた。
「飛龍、だっけか?」
入り口の前で伏せていたハスキーの飛龍は、三人の来訪に顔を上げた。相変わらずの風格で子供なら泣いて逃げ出しそうな眼光をしている。
「飛龍。ばぁ様の頼み事で母屋に入るわね」
「……」
ユウヒが頭を撫でようとすると避ける様に立ち上がり、少し離れた日影に移動して再び伏せる。
「あれ?」
「どうした?」
「いつもなら、飛龍はユウヒに撫でられるのが好きなんだけどね」
「仕事中だからじゃねぇか? 警察犬並みに訓練されてやがる」
「飛龍のもふもふ好きなんだけどなぁ」
「夕飯の時にたくさん撫でてあげようよ」
気落ちするユウヒにコエは、その時にたくさん遊んであげる事を提案する。
「邪魔したらワリーからな。とっとと用事を済ませて俺らは引き上げるぞ」
「はーい」
「うん」
ラジオはねー、とユウヒは靴を脱いで面屋に上がり、その後にコエと七海も続いた。
「それにしても、かなり年期の入った建物だな」
一昨日来たときは外から中庭を経由しただけなので中までは入らなかった。
「床とかトイレはリフォームしたみたいだけど、他は建てられた頃と殆んど変わってないらしいよ」
「ここまで物持ちが良いと逆に気分が良くなるな」
古き良き日本式平屋は風通しもよく、快適に過ごせるだろう。
「ラジオを見つけたわ」
「仕事が早いな」
「CDはどこかな?」
ユウヒとコエは想定していた場所を順に捜索。しかし、どこにもCDは見つからない。
「ここにも無いとなると……」
「私たちじゃお手上げだね」
タンスの奥に入り、お尻を外に出して、ごそごそと探すユウヒはCDを見つけた。
「あったわ!」
そう言って、舞鶴琴音のCDアルバム『平和の音色』を掲げた。
「おー、それって超絶なお宝じゃねーか」
「そうなの? ケイさん」
「俺の友達も持ってんだけどよ。舞鶴琴音のCD第一段は世界で100万枚程しか販売されなかったらしい。しかも、当時のCDは今よりも性能は悪くてな。今でも聞ける状態のモノは結構貴重なんだぜ」
著作権の関係から、CDの複製は固く禁止されており、その件で交渉しようにも舞鶴琴音当人が、早期に死去した事もあって、かなり惜しまれているのだ。
「オークションで売れば1000万は固いぜ。時間が立つほどに値は上がっていくからな」
「1000万!?」
「凄いなー」
ユウヒとコエはこの里に来た当初は慣れない土地故に萎縮していたが、このCDを聴かせて貰ってから皆と柔軟に交流するキッカケとなったのだ。
「落とすなよー、割ったらやべーぞ」
「ケイが持ってて! あたしがラジオ持つから!」
急に価値を知って1000万の安否が気になったユウヒは七海へ押し付ける。
「はっはっは。ちんちくりんには責任が重いか」
そう言って七海はラジオとCDを交換し、パッケージの蓋を開けて中を確認する。
「ん? これ、空だぞ?」
「え?」
ほれ、と七海はユウヒとコエに本来在るべきCDが無い事を見せてやった。
「うーん。これはお手上げだね」
「どこに行ったのよー」
もう心当たりは無い。しかし、七海は逆に気がついた。
「ユウヒ」
「なに?」
「そのラジオ、中には何が入ってる?」
「何って……」
「あ」
察しの良いコエも気がついた。カチリとラジオの蓋を開けるとそこには1000万のCDが入っていた。
「あわわわ……」
「うーん……価値を知った後だと、物凄く不用心に見えるなぁ」
「そうビビんなよ。とにもかくにも」
七海はラジオからCDを取り出すと、本来のパッケージに直し蓋を閉じる。
「後は帰るだけだな」
その時、外にいる飛龍が威嚇するように何かを吠えだした。
ジョージは探索範囲を広げつつ、熊のフンを見つけた。
熊は本来は群れない。故に複数が集まれば縄張りを巡って争うか、バラバラに去るのが通例だろう。しかし、今回は――
「熊吉のヤツ。熊どもをコントロールしてやがるな」
ロクの行った通りに複雑な事は出来ないだろう。だが、ヤツを二度の殺り逃した事で正攻法では勝てないと理解はしたようだ。そして、
「戦意は旺盛か」
二度も深傷を負ったなら、その時点で逃げ出し、この地には二度と近づこうとは思わない。しかし、熊吉の行動は真逆だ。こちらに対しての戦意は全く衰えておらず、何がなんでも報復をするつもりで動いている。
「ヤツが群のボスだとして……従わせてるのは恐怖だな」
この仮説通りなら熊吉を仕留めれば群は瓦解する。それ以前にここまで人間に報復行動を取る熊を放置することは出来ない。
「もう少し、探ってみるか」
せめて他の熊の姿を確認したい。ジョージはフンを中心に周囲を調べると、折れた枝や少し倒れた草などの痕跡を見つける。
「……野郎」
痕跡の方向はジョージの住む母屋に向かっていた。
『神ノ木の里』の長が暮らす母屋は、現在はジョージとトキが暮らして管理している。
そこへ、七海、ユウヒ、コエがトキからのミッションを完遂するべく訪れた。
「おー、やっぱり居たか」
『銃蔵』『公民館』『母屋』には犬の大和、武蔵、飛龍がジョージによって配備されている。
彼らの役目は生きたレーダーであり、もしも里に熊が下りてきた時はいち早く知らせる事を命令されていた。
「飛龍、だっけか?」
入り口の前で伏せていたハスキーの飛龍は、三人の来訪に顔を上げた。相変わらずの風格で子供なら泣いて逃げ出しそうな眼光をしている。
「飛龍。ばぁ様の頼み事で母屋に入るわね」
「……」
ユウヒが頭を撫でようとすると避ける様に立ち上がり、少し離れた日影に移動して再び伏せる。
「あれ?」
「どうした?」
「いつもなら、飛龍はユウヒに撫でられるのが好きなんだけどね」
「仕事中だからじゃねぇか? 警察犬並みに訓練されてやがる」
「飛龍のもふもふ好きなんだけどなぁ」
「夕飯の時にたくさん撫でてあげようよ」
気落ちするユウヒにコエは、その時にたくさん遊んであげる事を提案する。
「邪魔したらワリーからな。とっとと用事を済ませて俺らは引き上げるぞ」
「はーい」
「うん」
ラジオはねー、とユウヒは靴を脱いで面屋に上がり、その後にコエと七海も続いた。
「それにしても、かなり年期の入った建物だな」
一昨日来たときは外から中庭を経由しただけなので中までは入らなかった。
「床とかトイレはリフォームしたみたいだけど、他は建てられた頃と殆んど変わってないらしいよ」
「ここまで物持ちが良いと逆に気分が良くなるな」
古き良き日本式平屋は風通しもよく、快適に過ごせるだろう。
「ラジオを見つけたわ」
「仕事が早いな」
「CDはどこかな?」
ユウヒとコエは想定していた場所を順に捜索。しかし、どこにもCDは見つからない。
「ここにも無いとなると……」
「私たちじゃお手上げだね」
タンスの奥に入り、お尻を外に出して、ごそごそと探すユウヒはCDを見つけた。
「あったわ!」
そう言って、舞鶴琴音のCDアルバム『平和の音色』を掲げた。
「おー、それって超絶なお宝じゃねーか」
「そうなの? ケイさん」
「俺の友達も持ってんだけどよ。舞鶴琴音のCD第一段は世界で100万枚程しか販売されなかったらしい。しかも、当時のCDは今よりも性能は悪くてな。今でも聞ける状態のモノは結構貴重なんだぜ」
著作権の関係から、CDの複製は固く禁止されており、その件で交渉しようにも舞鶴琴音当人が、早期に死去した事もあって、かなり惜しまれているのだ。
「オークションで売れば1000万は固いぜ。時間が立つほどに値は上がっていくからな」
「1000万!?」
「凄いなー」
ユウヒとコエはこの里に来た当初は慣れない土地故に萎縮していたが、このCDを聴かせて貰ってから皆と柔軟に交流するキッカケとなったのだ。
「落とすなよー、割ったらやべーぞ」
「ケイが持ってて! あたしがラジオ持つから!」
急に価値を知って1000万の安否が気になったユウヒは七海へ押し付ける。
「はっはっは。ちんちくりんには責任が重いか」
そう言って七海はラジオとCDを交換し、パッケージの蓋を開けて中を確認する。
「ん? これ、空だぞ?」
「え?」
ほれ、と七海はユウヒとコエに本来在るべきCDが無い事を見せてやった。
「うーん。これはお手上げだね」
「どこに行ったのよー」
もう心当たりは無い。しかし、七海は逆に気がついた。
「ユウヒ」
「なに?」
「そのラジオ、中には何が入ってる?」
「何って……」
「あ」
察しの良いコエも気がついた。カチリとラジオの蓋を開けるとそこには1000万のCDが入っていた。
「あわわわ……」
「うーん……価値を知った後だと、物凄く不用心に見えるなぁ」
「そうビビんなよ。とにもかくにも」
七海はラジオからCDを取り出すと、本来のパッケージに直し蓋を閉じる。
「後は帰るだけだな」
その時、外にいる飛龍が威嚇するように何かを吠えだした。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の涙
拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。
婚約者が消えるんだけど私が悪いらしい
神々廻
恋愛
あらすじ
しとしとと雨の降る中、私は"元"婚約者のお墓の前で花を手向けている。
先日までは私と共にお茶や乗馬を楽しんでいたと言うのに..........
"今回は"池で溺れて死んでいたそう。前の婚約者は毒殺、前の前の婚約者は銃殺、前の前の前は............と、私には"元"婚約者が何人も居て、そして何人もの人が亡くなっている。
ある人は王子、ある人はただの貴族........
私の婚約者は他殺で亡くなっているけれど.....余りにも意味の無い人だって亡くなっている。流石に可笑しいと思うんだが......
破滅回避の契約結婚だったはずなのに、お義兄様が笑顔で退路を塞いでくる!~意地悪お義兄様はときどき激甘~
狭山ひびき@バカふり160万部突破
恋愛
☆おしらせ☆
8/25の週から更新頻度を変更し、週に2回程度の更新ペースになります。どうぞよろしくお願いいたします。
☆あらすじ☆
わたし、マリア・アラトルソワは、乙女ゲーム「ブルーメ」の中の悪役令嬢である。
十七歳の春。
前世の記憶を思い出し、その事実に気が付いたわたしは焦った。
乙女ゲームの悪役令嬢マリアは、すべての攻略対象のルートにおいて、ヒロインの恋路を邪魔する役割として登場する。
わたしの活躍(?)によって、ヒロインと攻略対象は愛を深め合うのだ。
そんな陰の立役者(?)であるわたしは、どの攻略対象ルートでも悲しいほどあっけなく断罪されて、国外追放されたり修道院送りにされたりする。一番ひどいのはこの国の第一王子ルートで、刺客を使ってヒロインを殺そうとしたわたしを、第一王子が正当防衛とばかりに斬り殺すというものだ。
ピンチだわ。人生どころか前世の人生も含めた中での最大のピンチ‼
このままではまずいと、わたしはあまり賢くない頭をフル回転させて考えた。
まだゲームははじまっていない。ゲームのはじまりは来年の春だ。つまり一年あるが…はっきり言おう、去年の一年間で、もうすでにいろいろやらかしていた。このままでは悪役令嬢まっしぐらだ。
うぐぐぐぐ……。
この状況を打破するためには、どうすればいいのか。
一生懸命考えたわたしは、そこでピコンと名案ならぬ迷案を思いついた。
悪役令嬢は、当て馬である。
ヒロインの恋のライバルだ。
では、物理的にヒロインのライバルになり得ない立場になっておけば、わたしは晴れて当て馬的な役割からは解放され、悪役令嬢にはならないのではあるまいか!
そしておバカなわたしは、ここで一つ、大きな間違いを犯す。
「おほほほほほほ~」と高笑いをしながらわたしが向かった先は、お兄様の部屋。
お兄様は、実はわたしの従兄で、本当の兄ではない。
そこに目を付けたわたしは、何も考えずにこう宣った。
「お兄様、わたしと(契約)結婚してくださいませ‼」
このときわたしは、失念していたのだ。
そう、お兄様が、この上なく厄介で意地悪で、それでいて粘着質な男だったと言うことを‼
そして、わたしを嫌っていたはずの攻略対象たちの様子も、なにやら変わってきてーー
※タイトル変更しました
死を回避したい悪役令嬢は、ヒロインを破滅へと導く
miniko
恋愛
お茶会の参加中に魔獣に襲われたオフィーリアは前世を思い出し、自分が乙女ゲームの2番手悪役令嬢に転生してしまった事を悟った。
ゲームの結末によっては、断罪されて火あぶりの刑に処されてしまうかもしれない立場のキャラクターだ。
断罪を回避したい彼女は、攻略対象者である公爵令息との縁談を丁重に断ったのだが、何故か婚約する代わりに彼と友人になるはめに。
ゲームのキャラとは距離を取りたいのに、メインの悪役令嬢にも妙に懐かれてしまう。
更に、ヒロインや王子はなにかと因縁をつけてきて……。
平和的に悪役の座を降りたかっただけなのに、どうやらそれは無理みたいだ。
しかし、オフィーリアが人助けと自分の断罪回避の為に行っていた地道な根回しは、徐々に実を結び始める。
それがヒロインにとってのハッピーエンドを阻む結果になったとしても、仕方の無い事だよね?
だって本来、悪役って主役を邪魔するものでしょう?
※主人公以外の視点が入る事があります。主人公視点は一人称、他者視点は三人称で書いています。
※連載開始早々、タイトル変更しました。(なかなかピンと来ないので、また変わるかも……)
※感想欄は、ネタバレ有り/無しの分類を一切おこなっておりません。ご了承下さい。
ずっと女の子になりたかった 男の娘の私
ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。
ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。
そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。
女の子にされちゃう!?「……男の子やめる?」彼女は優しく撫でた。
広田こお
恋愛
少子解消のため日本は一夫多妻制に。が、若い女性が足りない……。独身男は女性化だ!
待て?僕、結婚相手いないけど、女の子にさせられてしまうの?
「安心して、いい夫なら離婚しないで、あ・げ・る。女の子になるのはイヤでしょ?」
国の決めた結婚相手となんとか結婚して女性化はなんとか免れた。どうなる僕の結婚生活。
俺の婚約者は、頭の中がお花畑
ぽんちゃん
BL
完璧を目指すエレンには、のほほんとした子犬のような婚約者のオリバーがいた。十三年間オリバーの尻拭いをしてきたエレンだったが、オリバーは平民の子に恋をする。婚約破棄をして欲しいとお願いされて、快諾したエレンだったが……
「頼む、一緒に父上を説得してくれないか?」
頭の中がお花畑の婚約者と、浮気相手である平民の少年との結婚を認めてもらう為に、なぜかエレンがオリバーの父親を説得することになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる