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第426話 貴方が好き
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「って事があったんだって……」
「そうなの」
ショウコさんから聞いた、二夜の件をあたしは母に話す。母は真面目に聞いてくれてた。
「……」
それを聞いてまず最初に出た感情は怒りだった。多分、嫉妬から生まれた怒りだと思う。しかし……今思えばそれは見当違いな感情だ。
だって、彼はまだ誰の物でもない。
だから……彼が誰と寝ようがお風呂に入ろうが、一緒に居ようが……あたしにそれを咎める権利は無いのだ。
それでも、彼があたしを見捨てずに居てくれるのは……それが彼だからだ。
それを……あたしはずっとずっと側で見てきたから――
「リンちゃんは、どうしたいの?」
「……あたし?」
「うん。リンちゃんはケンゴ君の事をどう思ってるの?」
「……あたしは――」
「好き……」
背中から聞こえてくるリンカの言葉にオレも集中する。
「側に居てくれる貴方が好き。手を引いてくれる貴方が好き。いつも優しい貴方が好き。誰かの為に行動する貴方が好き。ずっと……」
背中に寄り添う手に力が入るのがわかる。
「ずっと昔から……あたしは貴方の事が好き。貴方の周りにいる誰よりも貴方の事が好き」
それはとても純粋な言葉だった。
きっと、その言葉を出す為に沢山の葛藤があったのだろう。関係が壊れると言う懸念もあったハズだ。
しかし、リンカはその全てを覚悟して自分の意思をオレに伝えてくれている。
それはとても……とても美しいと思える。そう思えるのだ。なのに……まだ……オレの……オレは……オレを……
あの夜が……自分を照らす月が……誰もいないあの船が……多くの死が……父と母が死んだあの事件が……心を縛り付ける。
オレは君の言葉に応じる資格はない。ここまでされても、心は何も動かないのだ。
「リンカちゃん……オレは――」
「今は答えを言わなくていい」
返答を解っているかのようなリンカの言葉にオレは安堵した。つくづく最低だと思う。
「文化祭」
「……え?」
「来週に文化祭があるからそれに来て。その時に今の告白の答えを返してくれればいい」
「リンカちゃん――」
と、オレは振り向いて彼女と向き合う。きっと……その時になってもオレは何も変わっていない。時間を掛けても意味はない。そう言うつもりで彼女へ――
「あたしは。貴方に嫌われても貴方を嫌ったりしないから」
優しく微笑みながらリンカはそう告げてくる。
その言葉は前にオレが彼女へ贈ったモノだ。まさか……オレが言われる事があるなんて……
「なんか……こんなオレでゴメンね」
「今さら何言ってんだ」
そして再びツンになる。あー、これこれ。これがリンカだよ。
「お風呂。先に入れ。あたしは後から入るから」
「リンカちゃんは自分家で入って来ても良いけど……」
「お母さんに泊まってくるって言ったから、今から帰るのも何か気まずい」
まぁ……解らなくもない。
すると、オレの腹の虫が空腹を訴えた。
「何か作っててやる」
「……ありがとうございます」
冷蔵庫は適当に見て良いからね、と言い残しオレは風呂へ向かった。
それにしても……一世一代の告白をしたにも関わらず、リンカは随分と落ち着いてるなぁ。少しずつ精神も大人になっていると言うことか。
彼が脱衣所に消えた。その瞬間、あたしは膝から崩れる様にその場にへたり込んだ。
「言っちゃった……言っちゃった言っちゃった言っちゃった言っちゃった――」
顔を両手の平で覆っても落ち着かない。
思わず叫びそうなったので、立ち上がり押し入れを開けてそこに積まれている布団に顔を押し付けて、言っちゃったぁぁ!! と叫ぶ。
「はぁ……はぁ……」
彼の前では出来る限りの平常心を保てた。好意を口にし始めた時から心臓はフルマラソンをした時並みに早鳴っている。
それに耐えられたのは、最初にキスをした時の経験があったからだ。
「…………」
出来るだけ恥ずかしさや必死さは隠せたと思う。彼がそれを察すると、こちらに気を使って本心では返して来ないと思ったから。
あたしにとって人生で一番の告白。
これ以上に自分の意思で気持ちを表に出す事は後にも先にも無いだろう。しかし……
「……なんでなんだろう……」
それでも彼の反応は変わらなかった。
キスをしたとき、一緒に温泉に入ったとき、そして、今の瞬間も彼の心が動いた様子はない。
「……文化祭……か」
告白の答えを文化祭にしたのは完全な先延ばしではない。
きっと、即座に返答を求めると彼は当たり障りのない言葉で、こちらを傷つけまいとしてくるだろう。
そうじゃない。あたしは……彼の本心を聞きたいのだ。
「……どっちにしてもか」
“リンちゃん。そう言うときはね~とにかく言葉を交わすのよ~。例えダメだったとしてもリンちゃんとケンゴ君の関係はそんなことで壊れたりしないわ~。お母さんが保証する~”
「……うん。そうだよね」
背負われるのが当たり前だった彼の背中をずっと見てきた。けど、今日は少しだけその隣で手を繋げたと思う。
「さて……なんか作りますか」
冷蔵庫を見てみよう。彼にはレシピも渡して自炊を促していたので何かしらの材料は買い込んでいるハズ。
「ん?」
ふと、視界の端に押し入れの屋根が外れているのを見つけた。そして、その端に箱の一部がはみ出して見える。
「なんだろ?」
それは長方形の大きめなアルミ缶。簡単に蓋の開くタイプだった。
ずるずると引きずり出すと、居間に持ってきて開ける。
「……」
まぁ、中には色々と入っていた。あたしは少し考える。
これは明らかに彼のシークレットだろう。隠してあったのだから見つけて開けた、あたしが悪い。
「……おい」
お婆さんの所のコスプレのカタログを見つけた。しかもあたしの載ってる旧バージョンのヤツ。なんでこんなモンを持ってんだ……。そして、
「これはなん――!」
ふと、煙草のような黒い箱を手に取ると、ソレが何なのか即座に理解した。
アレだ……あたしも、彼とそう言う事になった時のために軽く調べた事があるし、知っているモノだ。
「……まぁ……見なかった事にしておくか」
しかし……まぁ……念のため……あるって事は覚えておこう。
「そうなの」
ショウコさんから聞いた、二夜の件をあたしは母に話す。母は真面目に聞いてくれてた。
「……」
それを聞いてまず最初に出た感情は怒りだった。多分、嫉妬から生まれた怒りだと思う。しかし……今思えばそれは見当違いな感情だ。
だって、彼はまだ誰の物でもない。
だから……彼が誰と寝ようがお風呂に入ろうが、一緒に居ようが……あたしにそれを咎める権利は無いのだ。
それでも、彼があたしを見捨てずに居てくれるのは……それが彼だからだ。
それを……あたしはずっとずっと側で見てきたから――
「リンちゃんは、どうしたいの?」
「……あたし?」
「うん。リンちゃんはケンゴ君の事をどう思ってるの?」
「……あたしは――」
「好き……」
背中から聞こえてくるリンカの言葉にオレも集中する。
「側に居てくれる貴方が好き。手を引いてくれる貴方が好き。いつも優しい貴方が好き。誰かの為に行動する貴方が好き。ずっと……」
背中に寄り添う手に力が入るのがわかる。
「ずっと昔から……あたしは貴方の事が好き。貴方の周りにいる誰よりも貴方の事が好き」
それはとても純粋な言葉だった。
きっと、その言葉を出す為に沢山の葛藤があったのだろう。関係が壊れると言う懸念もあったハズだ。
しかし、リンカはその全てを覚悟して自分の意思をオレに伝えてくれている。
それはとても……とても美しいと思える。そう思えるのだ。なのに……まだ……オレの……オレは……オレを……
あの夜が……自分を照らす月が……誰もいないあの船が……多くの死が……父と母が死んだあの事件が……心を縛り付ける。
オレは君の言葉に応じる資格はない。ここまでされても、心は何も動かないのだ。
「リンカちゃん……オレは――」
「今は答えを言わなくていい」
返答を解っているかのようなリンカの言葉にオレは安堵した。つくづく最低だと思う。
「文化祭」
「……え?」
「来週に文化祭があるからそれに来て。その時に今の告白の答えを返してくれればいい」
「リンカちゃん――」
と、オレは振り向いて彼女と向き合う。きっと……その時になってもオレは何も変わっていない。時間を掛けても意味はない。そう言うつもりで彼女へ――
「あたしは。貴方に嫌われても貴方を嫌ったりしないから」
優しく微笑みながらリンカはそう告げてくる。
その言葉は前にオレが彼女へ贈ったモノだ。まさか……オレが言われる事があるなんて……
「なんか……こんなオレでゴメンね」
「今さら何言ってんだ」
そして再びツンになる。あー、これこれ。これがリンカだよ。
「お風呂。先に入れ。あたしは後から入るから」
「リンカちゃんは自分家で入って来ても良いけど……」
「お母さんに泊まってくるって言ったから、今から帰るのも何か気まずい」
まぁ……解らなくもない。
すると、オレの腹の虫が空腹を訴えた。
「何か作っててやる」
「……ありがとうございます」
冷蔵庫は適当に見て良いからね、と言い残しオレは風呂へ向かった。
それにしても……一世一代の告白をしたにも関わらず、リンカは随分と落ち着いてるなぁ。少しずつ精神も大人になっていると言うことか。
彼が脱衣所に消えた。その瞬間、あたしは膝から崩れる様にその場にへたり込んだ。
「言っちゃった……言っちゃった言っちゃった言っちゃった言っちゃった――」
顔を両手の平で覆っても落ち着かない。
思わず叫びそうなったので、立ち上がり押し入れを開けてそこに積まれている布団に顔を押し付けて、言っちゃったぁぁ!! と叫ぶ。
「はぁ……はぁ……」
彼の前では出来る限りの平常心を保てた。好意を口にし始めた時から心臓はフルマラソンをした時並みに早鳴っている。
それに耐えられたのは、最初にキスをした時の経験があったからだ。
「…………」
出来るだけ恥ずかしさや必死さは隠せたと思う。彼がそれを察すると、こちらに気を使って本心では返して来ないと思ったから。
あたしにとって人生で一番の告白。
これ以上に自分の意思で気持ちを表に出す事は後にも先にも無いだろう。しかし……
「……なんでなんだろう……」
それでも彼の反応は変わらなかった。
キスをしたとき、一緒に温泉に入ったとき、そして、今の瞬間も彼の心が動いた様子はない。
「……文化祭……か」
告白の答えを文化祭にしたのは完全な先延ばしではない。
きっと、即座に返答を求めると彼は当たり障りのない言葉で、こちらを傷つけまいとしてくるだろう。
そうじゃない。あたしは……彼の本心を聞きたいのだ。
「……どっちにしてもか」
“リンちゃん。そう言うときはね~とにかく言葉を交わすのよ~。例えダメだったとしてもリンちゃんとケンゴ君の関係はそんなことで壊れたりしないわ~。お母さんが保証する~”
「……うん。そうだよね」
背負われるのが当たり前だった彼の背中をずっと見てきた。けど、今日は少しだけその隣で手を繋げたと思う。
「さて……なんか作りますか」
冷蔵庫を見てみよう。彼にはレシピも渡して自炊を促していたので何かしらの材料は買い込んでいるハズ。
「ん?」
ふと、視界の端に押し入れの屋根が外れているのを見つけた。そして、その端に箱の一部がはみ出して見える。
「なんだろ?」
それは長方形の大きめなアルミ缶。簡単に蓋の開くタイプだった。
ずるずると引きずり出すと、居間に持ってきて開ける。
「……」
まぁ、中には色々と入っていた。あたしは少し考える。
これは明らかに彼のシークレットだろう。隠してあったのだから見つけて開けた、あたしが悪い。
「……おい」
お婆さんの所のコスプレのカタログを見つけた。しかもあたしの載ってる旧バージョンのヤツ。なんでこんなモンを持ってんだ……。そして、
「これはなん――!」
ふと、煙草のような黒い箱を手に取ると、ソレが何なのか即座に理解した。
アレだ……あたしも、彼とそう言う事になった時のために軽く調べた事があるし、知っているモノだ。
「……まぁ……見なかった事にしておくか」
しかし……まぁ……念のため……あるって事は覚えておこう。
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