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第409話 カレンとショウコ
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「ふむ」
最初はオドロオドロしい雰囲気にもだいぶ馴れたのか、ショウコは店内の奥へ入っても特に気にならなくなっていた。
案内された戸を開けると、衣装の列が両脇に存在し、奥には大きな鏡が自分の姿を写す。ハンガーツリーも用意されており、コスプレ衣装を購入する際に試着出来る様になっているのかもしれない。
「メイド服に浴衣、中華服もあるな」
なんだか、服の展示会を回っている様で少しだけ楽しくなる。コスプレ衣装は、用途ごとに区分けされており、札によって綺麗に整理されていた。
「女教師?」
ふと、気になったワードが目に入り、それを見ると、普通のYシャツにスカートだけがひとまとめてハンガーにかかっている。
一体、なんだコレは。これが女教師?? コスプレ界隈では、Yシャツとスカートは女教師なのか……意味わからん。
「…………」
キョロキョロと“猫耳”が無いか探していると出入口の扉が開き、カレンが入ってきた。
「どーも」
「どうも」
カレンは軽く挨拶をすると、室内を見てショウコと同じ反応をしつつ一度、衣装を見る。
年齢はカレンの方が上だが、二人で並ぶと大人びた雰囲気と身長差も相まって、ショウコの方が歳上に見えた。
「結構あるじゃん。お、アッハハ! なんだこのTシャツ」
白い生地の真ん中に『煩悩』と言う文字が書かれたTシャツを見つけてカレンは笑う。
「音無さんはこう言う経験は豊富なのですか?」
「ん? アタシ? いや、無いよ。今回が初めて」
「それにしては、随分と同に入ってると言いますか……」
「まぁ、ワクワクはしてるかな。アタシの青春時代はだいぶ不貞腐れててさ。学校なんて行ってなかったから」
「家庭の事情で?」
「いいや。ただの反抗期」
反抗期で学校には行かなくなるものなのか? 誘拐の件で学校には行かず、一般的な教養を流雲で教わったショウコには理解できなかった。
カレンは話ながらも、バニースーツの札を、あったあった、と見つけて衣装を手に取る。
「別に特別な事じゃないよ。“普通”がダサいと感じた子供が大人びた結果、色んなモノを捨てて、唯一の宝物だけを護って生きる事になったってだけの話」
「だいぶ、壮大なストーリーっぽい……」
「褒められた事じゃないってのは確かだね。でもアタシの自業自得だし、恨んでる人は誰もいない。それに現状に後悔は欠片もないからさ」
そう語るカレンの眼は母の舞子が作る眼と同じモノだった。その瞳は向けられると心から安心できるモノでもある。
「貴女は母親なのですか?」
「ん? おお。凄いね。誰かから聞いたの?」
「いえ、母と同じ眼をしていたもので」
子を心から愛して育てた事で備わる眼なのだろう。
「流雲さんだっけ?」
「ショウコで良いです」
「ショウコは洞察力が凄いね。初対面の人に子持ちだって見切られたのは初めてだよ」
「そうでしょうか?」
「うんうん。ちなみに、アタシは幾つに見える?」
童顔。身長。体格。肌質。雰囲気。それらを全て見て、簡単にショウコは答える。
「22ですか?」
「やっぱり、それくらいに落ち着くかね。答えは32」
「……本当に?」
「アハハ。ホントホント」
はい、と車の免許証を見せられてショウコはカレンの言葉が本当であると理解した。免許証の写真と顔つきは全く姿は変わってない。
「ショウコは23くらい?」
「いえ……21です」
「21? ほほー。モデルをやってるんだよね?」
「はい」
「なら結構、言い寄られるんじゃない?」
その事は良く言われる。最近は流雲の一族からも連絡が来たりするが、あちらの受け答えは母に任せていた。
「今は休業中なのでなんとも」
「そうなの? まぁ、詳しい話は聞かないよ。事情は人それぞれだろうからね。でも、彼氏くらいは居るでしょ?」
「居ません」
「え? マジ?」
こんな美女が何でフリーなんだ? とカレンは不思議がる。
「私は色々と未熟なので、その件に関しては見聞を広めている最中です」
「ショウコって、何か古くさい喋り方するよね」
「不快感を与えてしまいましたか……」
「そんな事はないよ。まぁ、見た目とのギャップでステータスにもなってるから面白いし」
そのままでいなさい、とカレンのお墨付きも貰いショウコの方もなんだか嬉しくなった。
「あんまり待たせるのも悪いからさっさと着替えようか」
「はい」
ショウコには大きいサイズを渡し、カレンは自分に合いそうなモノサイズを選ぶ。すると、扉が少しだけ開いた。
「失礼……します」
「ん?」
「リンカ?」
申し訳なさそうに入ってきたのはリンカだった。
「どうしたの? 何かアタシに渡してたっけ?」
「いや……カレンさんには本当に……本当に言いづらいんだけど……実はもう一つの案件を抱えてるのを忘れてて……」
リンカは文化祭の件をカレンに簡単に説明する。
「あらら。で、どうするの?」
「あたしも撮られる事になった」
リンカとして流石にこの件までカレンに頼るべきではないと思っていた。
「でも、あたしの写真は二十歳になってから上げる事を交渉したから! 結果として……カレンさんはコスプレする必要は無くなったので、戻ってくれてもいいよ」
「あはは。別に良いよ。アタシも撮られたげる」
「いいの?」
「いいよいいよ。良い思い出になりそうだしさ。それにお婆さんも振替えの写真が無いと困るでしょ」
「うぅ……ホントにごめん」
「気にしない気にしない。それよりも、ほら、着替えた着替えた」
もしも、娘が産まれていればこんな感だったのかもしれない、とカレンはリンカとのコスプレを楽しむ事にした。
最初はオドロオドロしい雰囲気にもだいぶ馴れたのか、ショウコは店内の奥へ入っても特に気にならなくなっていた。
案内された戸を開けると、衣装の列が両脇に存在し、奥には大きな鏡が自分の姿を写す。ハンガーツリーも用意されており、コスプレ衣装を購入する際に試着出来る様になっているのかもしれない。
「メイド服に浴衣、中華服もあるな」
なんだか、服の展示会を回っている様で少しだけ楽しくなる。コスプレ衣装は、用途ごとに区分けされており、札によって綺麗に整理されていた。
「女教師?」
ふと、気になったワードが目に入り、それを見ると、普通のYシャツにスカートだけがひとまとめてハンガーにかかっている。
一体、なんだコレは。これが女教師?? コスプレ界隈では、Yシャツとスカートは女教師なのか……意味わからん。
「…………」
キョロキョロと“猫耳”が無いか探していると出入口の扉が開き、カレンが入ってきた。
「どーも」
「どうも」
カレンは軽く挨拶をすると、室内を見てショウコと同じ反応をしつつ一度、衣装を見る。
年齢はカレンの方が上だが、二人で並ぶと大人びた雰囲気と身長差も相まって、ショウコの方が歳上に見えた。
「結構あるじゃん。お、アッハハ! なんだこのTシャツ」
白い生地の真ん中に『煩悩』と言う文字が書かれたTシャツを見つけてカレンは笑う。
「音無さんはこう言う経験は豊富なのですか?」
「ん? アタシ? いや、無いよ。今回が初めて」
「それにしては、随分と同に入ってると言いますか……」
「まぁ、ワクワクはしてるかな。アタシの青春時代はだいぶ不貞腐れててさ。学校なんて行ってなかったから」
「家庭の事情で?」
「いいや。ただの反抗期」
反抗期で学校には行かなくなるものなのか? 誘拐の件で学校には行かず、一般的な教養を流雲で教わったショウコには理解できなかった。
カレンは話ながらも、バニースーツの札を、あったあった、と見つけて衣装を手に取る。
「別に特別な事じゃないよ。“普通”がダサいと感じた子供が大人びた結果、色んなモノを捨てて、唯一の宝物だけを護って生きる事になったってだけの話」
「だいぶ、壮大なストーリーっぽい……」
「褒められた事じゃないってのは確かだね。でもアタシの自業自得だし、恨んでる人は誰もいない。それに現状に後悔は欠片もないからさ」
そう語るカレンの眼は母の舞子が作る眼と同じモノだった。その瞳は向けられると心から安心できるモノでもある。
「貴女は母親なのですか?」
「ん? おお。凄いね。誰かから聞いたの?」
「いえ、母と同じ眼をしていたもので」
子を心から愛して育てた事で備わる眼なのだろう。
「流雲さんだっけ?」
「ショウコで良いです」
「ショウコは洞察力が凄いね。初対面の人に子持ちだって見切られたのは初めてだよ」
「そうでしょうか?」
「うんうん。ちなみに、アタシは幾つに見える?」
童顔。身長。体格。肌質。雰囲気。それらを全て見て、簡単にショウコは答える。
「22ですか?」
「やっぱり、それくらいに落ち着くかね。答えは32」
「……本当に?」
「アハハ。ホントホント」
はい、と車の免許証を見せられてショウコはカレンの言葉が本当であると理解した。免許証の写真と顔つきは全く姿は変わってない。
「ショウコは23くらい?」
「いえ……21です」
「21? ほほー。モデルをやってるんだよね?」
「はい」
「なら結構、言い寄られるんじゃない?」
その事は良く言われる。最近は流雲の一族からも連絡が来たりするが、あちらの受け答えは母に任せていた。
「今は休業中なのでなんとも」
「そうなの? まぁ、詳しい話は聞かないよ。事情は人それぞれだろうからね。でも、彼氏くらいは居るでしょ?」
「居ません」
「え? マジ?」
こんな美女が何でフリーなんだ? とカレンは不思議がる。
「私は色々と未熟なので、その件に関しては見聞を広めている最中です」
「ショウコって、何か古くさい喋り方するよね」
「不快感を与えてしまいましたか……」
「そんな事はないよ。まぁ、見た目とのギャップでステータスにもなってるから面白いし」
そのままでいなさい、とカレンのお墨付きも貰いショウコの方もなんだか嬉しくなった。
「あんまり待たせるのも悪いからさっさと着替えようか」
「はい」
ショウコには大きいサイズを渡し、カレンは自分に合いそうなモノサイズを選ぶ。すると、扉が少しだけ開いた。
「失礼……します」
「ん?」
「リンカ?」
申し訳なさそうに入ってきたのはリンカだった。
「どうしたの? 何かアタシに渡してたっけ?」
「いや……カレンさんには本当に……本当に言いづらいんだけど……実はもう一つの案件を抱えてるのを忘れてて……」
リンカは文化祭の件をカレンに簡単に説明する。
「あらら。で、どうするの?」
「あたしも撮られる事になった」
リンカとして流石にこの件までカレンに頼るべきではないと思っていた。
「でも、あたしの写真は二十歳になってから上げる事を交渉したから! 結果として……カレンさんはコスプレする必要は無くなったので、戻ってくれてもいいよ」
「あはは。別に良いよ。アタシも撮られたげる」
「いいの?」
「いいよいいよ。良い思い出になりそうだしさ。それにお婆さんも振替えの写真が無いと困るでしょ」
「うぅ……ホントにごめん」
「気にしない気にしない。それよりも、ほら、着替えた着替えた」
もしも、娘が産まれていればこんな感だったのかもしれない、とカレンはリンカとのコスプレを楽しむ事にした。
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