400 / 701
第399話 お前の事、大っ嫌いだわ
しおりを挟む
「そう。ありがとう、スヴェン」
マザーは知り合いの国際警察より、前から流していた情報による、検挙が終わったと連絡を受けていた。
「スヴェン警部からか?」
「ええ。『ジーニアス計画』は完璧に終わったわ」
「一つの問題がようやく……か。これで、サマーに会いに行けるな」
「貴方もご苦労様“ブルー”」
マザーと向かい合って座るのは褐色の男。
彼の名はインディゴ・ブラオ。『ハロウィンズ』の幹部にして、コードは“ブルー”である。
「無理をさせてごめんなさいね」
「構わないさ。『ジーニアス』には“貸し”があったからな」
インディゴは今は亡き友の事を思い出す。
ようやく全部終わった。お前の“娘”は自由になれたぞ、ラインホルト。
彼はカポエイリスタでもあり、表でも有名な師範であった。
「スヴェンの腕前は信用してないワケじゃないの。けど、念のためにね」
「用心深い事だ。クロトも動いたのだろう?」
今回は弱っていた敵勢組織を完全に終わらせる動きを取った。反撃も想定して、三人のエージェントカラーズを派遣したが、思ったよりも抵抗は少なく事は終息しのである。
「『ジーニアス』は終わって次は『ウォータードロップ』か」
インディゴは、マザーが幾つか的を絞っている事案の一つを口に出す。
「……そうね。出来る事なら、紐解きたい所よ」
「あの船を最後に見つけたのは、 ジャパンフィクサー、ジョージ・カミシマだったな」
「ええ。彼はあらゆる推測と神がかりな運によって漂流していた『ウォータードロップ号』を見つけ出し、乗り込んだ」
「だが、船の中に生存者は居なかった。船の電源を再起動した際に、エンジン部が爆発し船は沈んだ……か」
「そうね」
「ソレを本気で信じてるワケではないだろう?」
インディゴは『ハロウィンズ』のトップたるマザーが、そんな見え見えの虚偽を見抜けぬハズはないと思っていた。
「船は意図的に沈められた。ジョージ・カミシマがやったかどうかは別として」
「……あの人が口を開かない限りこの件は、追及するべきではないわ」
「だが、野放しには出来ない。ウォータードロップは『パンドラの箱』だった」
それは、あらゆる情報とデータを加味した推測である。実際に船に居た者に話を聞いたワケではないが限りなく正解に近いだろう。
「目下の目標は“原点”を排除すること。それが何よりも優先よ」
世界中で情報を集めているが、未だにその輪片すら掴めない。
「わかっている。その為のユニコ君『Mk-VII』なのだからな。あの装備は今はサマーの居るジャパンに?」
そして、インディゴは『ウォータードロップ』のキーとなるモノが日本にある事を確認する。
「ええ。今、サマー達が試験をしてるわ」
「言っておくが、ビクトリアに蹴らせるな。壊してしまうかもしれん」
「あの子はそんなに腕前を上げたの?」
真面目な表情ではあるが、どこか嬉しそうなインディゴにマザーも微笑む。
「ああ。とにかく、実戦的な事を教え込んだ。互角のジョーゴが出来るのはメストレくらいだろう」
「そう。ビクトリアも頑張っているのね」
「当人はムカつく奴を蹴り飛ばす為に鍛えているんだ。強くもなる」
「ふふ。そう」
「正直な所、ジャパンに彼女の戦力は必要ない。コード“レッド”にクロトも居る。カミシマもな。逆にもて余すのではないか?」
「武力行使が目的ではないの。あの子には会わせないと行けない子が居たから」
穏やかな表情で告げるマザー。その様子は遠い過去を思い出す様に懐かしんでいた。
「だが、過剰な敵意は治した方が良い所だ」
インディゴは、ホーダの際に嫌な奴が入ってきたら徹底的に蹴り飛ばすビクトリアを思いだし、嘆息を吐いた。
人の本心を“見る”のは簡単だった。
ジョーゴはそれを助長する。自らの技を出し合って、己が何者なのかを相手に伝える。
ジョーゴとは単なる技の競い会いじゃない。相手の本心を知り、自分の本心を伝える。
それほどにカポエラは広く自由を伝える文化でもあるのだ。
故に、アタシは本気で蹴る。ついて来ないなら目の前から去るがいい。
『……』
しかし、目の前の男は立ち上がる。
サマーから最新の装備を身に纏ってようやく舞台に立てる程度。正直、イラつく。
「見るだけ見てやる」
ジンガ。意識せずとも身体はその動きを取る。コイツの本質を見て、それでこの件は終わりだ。マザーには腰抜けだと伝える。
「反撃してみろよ」
アルマーダ。アタシの蹴りにコイツは何も反応出来ない。今も防ぐので精一杯の様だ。しかし、逆にそれが相手に余裕を失くす。
余裕が無くなれば、人は考えるのを止めて本質で行動する。そのに残るのが、闘争か、冷静か、怯えか、はたまた、それではないナニかか――
「半円のコンパス」
三度目のハボジアハイア。あえて、タイミングを遅らせて防がさせる。案の定、狙った頭部に肘を添えて受けた。
「――」
蹴りの感触に違和感。まるで空箱を蹴ったよう。改めてヤツを見ると、その顔は“ナニもない真っ黒な穴”だった。
「ふーん」
だから何? そんなモノはいくつも見てきた。だから解る。これも本心を隠すために上から被せている皮だ。コイツは最初から全部偽っている。本当に……本当に腹が立つ。
「お前の事、大っ嫌いだわ」
徹底的にぶちのめしてやる。二度とアタシの“大切な人達”に近づくな。
マザーは知り合いの国際警察より、前から流していた情報による、検挙が終わったと連絡を受けていた。
「スヴェン警部からか?」
「ええ。『ジーニアス計画』は完璧に終わったわ」
「一つの問題がようやく……か。これで、サマーに会いに行けるな」
「貴方もご苦労様“ブルー”」
マザーと向かい合って座るのは褐色の男。
彼の名はインディゴ・ブラオ。『ハロウィンズ』の幹部にして、コードは“ブルー”である。
「無理をさせてごめんなさいね」
「構わないさ。『ジーニアス』には“貸し”があったからな」
インディゴは今は亡き友の事を思い出す。
ようやく全部終わった。お前の“娘”は自由になれたぞ、ラインホルト。
彼はカポエイリスタでもあり、表でも有名な師範であった。
「スヴェンの腕前は信用してないワケじゃないの。けど、念のためにね」
「用心深い事だ。クロトも動いたのだろう?」
今回は弱っていた敵勢組織を完全に終わらせる動きを取った。反撃も想定して、三人のエージェントカラーズを派遣したが、思ったよりも抵抗は少なく事は終息しのである。
「『ジーニアス』は終わって次は『ウォータードロップ』か」
インディゴは、マザーが幾つか的を絞っている事案の一つを口に出す。
「……そうね。出来る事なら、紐解きたい所よ」
「あの船を最後に見つけたのは、 ジャパンフィクサー、ジョージ・カミシマだったな」
「ええ。彼はあらゆる推測と神がかりな運によって漂流していた『ウォータードロップ号』を見つけ出し、乗り込んだ」
「だが、船の中に生存者は居なかった。船の電源を再起動した際に、エンジン部が爆発し船は沈んだ……か」
「そうね」
「ソレを本気で信じてるワケではないだろう?」
インディゴは『ハロウィンズ』のトップたるマザーが、そんな見え見えの虚偽を見抜けぬハズはないと思っていた。
「船は意図的に沈められた。ジョージ・カミシマがやったかどうかは別として」
「……あの人が口を開かない限りこの件は、追及するべきではないわ」
「だが、野放しには出来ない。ウォータードロップは『パンドラの箱』だった」
それは、あらゆる情報とデータを加味した推測である。実際に船に居た者に話を聞いたワケではないが限りなく正解に近いだろう。
「目下の目標は“原点”を排除すること。それが何よりも優先よ」
世界中で情報を集めているが、未だにその輪片すら掴めない。
「わかっている。その為のユニコ君『Mk-VII』なのだからな。あの装備は今はサマーの居るジャパンに?」
そして、インディゴは『ウォータードロップ』のキーとなるモノが日本にある事を確認する。
「ええ。今、サマー達が試験をしてるわ」
「言っておくが、ビクトリアに蹴らせるな。壊してしまうかもしれん」
「あの子はそんなに腕前を上げたの?」
真面目な表情ではあるが、どこか嬉しそうなインディゴにマザーも微笑む。
「ああ。とにかく、実戦的な事を教え込んだ。互角のジョーゴが出来るのはメストレくらいだろう」
「そう。ビクトリアも頑張っているのね」
「当人はムカつく奴を蹴り飛ばす為に鍛えているんだ。強くもなる」
「ふふ。そう」
「正直な所、ジャパンに彼女の戦力は必要ない。コード“レッド”にクロトも居る。カミシマもな。逆にもて余すのではないか?」
「武力行使が目的ではないの。あの子には会わせないと行けない子が居たから」
穏やかな表情で告げるマザー。その様子は遠い過去を思い出す様に懐かしんでいた。
「だが、過剰な敵意は治した方が良い所だ」
インディゴは、ホーダの際に嫌な奴が入ってきたら徹底的に蹴り飛ばすビクトリアを思いだし、嘆息を吐いた。
人の本心を“見る”のは簡単だった。
ジョーゴはそれを助長する。自らの技を出し合って、己が何者なのかを相手に伝える。
ジョーゴとは単なる技の競い会いじゃない。相手の本心を知り、自分の本心を伝える。
それほどにカポエラは広く自由を伝える文化でもあるのだ。
故に、アタシは本気で蹴る。ついて来ないなら目の前から去るがいい。
『……』
しかし、目の前の男は立ち上がる。
サマーから最新の装備を身に纏ってようやく舞台に立てる程度。正直、イラつく。
「見るだけ見てやる」
ジンガ。意識せずとも身体はその動きを取る。コイツの本質を見て、それでこの件は終わりだ。マザーには腰抜けだと伝える。
「反撃してみろよ」
アルマーダ。アタシの蹴りにコイツは何も反応出来ない。今も防ぐので精一杯の様だ。しかし、逆にそれが相手に余裕を失くす。
余裕が無くなれば、人は考えるのを止めて本質で行動する。そのに残るのが、闘争か、冷静か、怯えか、はたまた、それではないナニかか――
「半円のコンパス」
三度目のハボジアハイア。あえて、タイミングを遅らせて防がさせる。案の定、狙った頭部に肘を添えて受けた。
「――」
蹴りの感触に違和感。まるで空箱を蹴ったよう。改めてヤツを見ると、その顔は“ナニもない真っ黒な穴”だった。
「ふーん」
だから何? そんなモノはいくつも見てきた。だから解る。これも本心を隠すために上から被せている皮だ。コイツは最初から全部偽っている。本当に……本当に腹が立つ。
「お前の事、大っ嫌いだわ」
徹底的にぶちのめしてやる。二度とアタシの“大切な人達”に近づくな。
0
お気に入りに追加
37
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる