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第379話 神々の決めた運命!
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一台の車が田舎道を進む。
都会の喧騒が懐かしいと思える程の自然環境を横目に、確かな目的地へ向かっていた。
「ナビがあまり機能していないな」
「分かれ道は看板があるから大丈夫だと思うぜ」
助手席に座る天月新次郎は、運転する兄――天月久遠に送られて『神ノ木の里』へ向かっていた。
「それにしても、“神島”からの依頼とはな。親父の交友関係の広さには底が無い」
「熊退治とか。本当に笑えるよな」
新次郎は天月のトップに言われて、今回の件に一族を代表として派遣されていた。
「それほど本気なのだろう。神島譲治か……あまり関わるなと親父は言うが」
「天月は裏から完全に離れたからからなぁ。クリーンなアスリートとして、表舞台に出るのが義務だしよ」
「まったく……どの口が言う」
メダルを量産選手である新次郎の急な引退宣言。スポーツ界隈の先頭を走っていた新次郎の決断には彼らの父親である早雲も意味が分からなかった。
そして、日本へ帰った時に新次郎は早雲の前で一言。
“本物の愛を見つけたんだ親父。全てをなげうってでも価値のある愛を”
ふざけた事を抜かすな! と殴られそうになった所を新次郎は、アバヨー、と逃げたした。
「俺も天月の爪弾きさ。けど、後悔はしてないぜ」
「お前は昔からつまらんと感じたらすぐに止める気質があったよな……」
「世界はそれなりにメリハリがあったぜ? でも、彼女に出会って思い出しちまったワケよ」
「何をだ?」
オリンピック選手と言う肩書きは、その国に置けるスポーツのトップである証。才能に類比無き努力を重ねに重ねて維持し続けた地位であったが……それを全て捨ててでも追う価値のある気持ちを抱いたのだから仕方ない。
「俺も愛に生きる男だって事にな」
兄である久遠でさえ、理解しきれない弟の考え。しかし、何かに対して本気になった時ほど弟が手の届かなかった事はなかった。
「兄貴もミカゲさんを見たときはビビって来ただろ?」
「…………まぁな」
「はっはっは」
そして、車は封鎖の始まった『神ノ木の里』の入り口へたどり着いた。
「なんだ? ジジィ達も公民館で寝泊まりするのか?」
「まぁな。こっちの実家は今は別の一族が住んでるしよ」
「『神ノ木の里』の特徴なの」
ジョージの母屋から公民館へ戻る車を運転するゲンとヨミは、七海に『神ノ木の里』が他とは少し違う事を説明する。
「この里は本来は身よりの無い孤児を引き取る、巨大な孤児院みたいなモノなんだよ」
「へー」
「取り仕切る者は里の一族達から選定されて決められる。そして、里を管理する者は『神島』を名乗る事を義務付けられるわ」
「ジョーの爺さんの事か」
「アイツの旧姓は“大鷲”で、アイツも孤児だ」
「ジジィも孤児なのか?」
「俺はこの里の産まれだよ。旧姓は鶴岡だ」
「獅子堂の方が合ってるなぁ」
「だろぉ?」
両親は既に他界し、兄弟も居なかった事もあって、ゲンは『神ノ木の里』から完全に出奔していた。
「まぁ、ソレ以上にヨミにはビビっと来たわけだがな!」
「ビビっと来るのは良いけど、私に会いに来る口実に怪我をしてくるのはやり過ぎだと思うわ」
「オォ!? それバレてたのか!?」
「病院では有名だったわよ?」
「アッハッハ」
どんどん面白い話が聞ける七海は上機嫌に笑う。車は公民館へと戻ると路肩へ駐車した。
「ん? もう一台あるな」
七海はアヤの乗ってきた乗用車を発見。他の関係者も居ると見て敷地の中へ入る。
「帰ってきたわね! 待ってたわよ、ケイ!」
帰宅の車を見て建物から飛び出して来たユウヒは、ビシッと言い放つ。七海はそんな彼女を見てニヤっと笑う。
「どうした、ちんちくりん。宿題でわかんない所でもあったか?」
「このワタシを嘗めない事ね! 宿題なんてぱぱっと終わったわ! 何なら明日の分にも少し手をつけたくらいよ!」
と、七海はユウヒの頭を褒める様に撫でる。
「感心感心。誰よりも一歩先に出る事は良いことだぜ」
「え……あ……ありがとう」
褒められて素直に嬉しいユウヒ。そこへ後ろからコエもやってくる。
「ユウヒ、ケイさんと勝負するんじゃなかったのかい?」
「あ! そうよ!」
「勝負だぁ?」
これ以上、絆されてはいけない! とユウヒは強い眼で七海を見上げる。
「私たちと3本勝負よ! こっちが勝ったら……まずはその口調を直して貰うわ!」
「ほほぅ……ちんちくりんの癖に面白い事を言いやがる」
「だが、俺も本気でやるが。対等な勝負になるのか?」
「ふっふっふ……甘いわね! こっちは私を筆頭に最強のメンバーを揃えたわ! 万が一にもそっちに勝ち目は無いわよ!」
「そう言う事だぜ!」
公民館の奥から二メートル近い体躯の男が現れる。
「この荒谷蓮斗! ダチ公の頼みとあっちゃ力を貸さない理由はねぇぜ!」
パンッ、と手の平と拳を打ち付ける蓮斗を見て、ほー、と七海は不適に笑う。
「何やら面白そうな勝負事の様なので参加させて貰います」
もう一人の参戦者であるアヤも奥から出てくる。その姿を一目見た瞬間、七海は瞬時に察した。
コイツは超一流だな。そんじょそこらに転がってる様な人間じゃねぇぞ。
「白鳥綾と申します。ご挨拶が遅れまして、申し訳ありません」
品があるが、気取った雰囲気は全く感じない。綺麗過ぎる、と言っても良いほどにアヤの所作は完璧に近かった。
「俺は七海恵だ。このちんちくりんに何を言われたかは知らないが……アンタに手加減は必要無さそうだな」
「ええ。全力でお相手いたします」
「俺様は荒谷蓮斗! 姉ちゃんよ! 俺様を無視をすると痛い目を見るぜ!」
んで、このうるさいのは荒谷か。ん? 荒谷? 最近、どっかで聞いたような……
「あまり熱くなりすぎるなよ。病み上がりなんだから」
「心配すんなハジメ。この俺様は手加減が苦手なんだ。常にアクセルは全開だぜ!」
「だから……病み上がりだって言ってるだろ……」
と、ハジメは七海の前に出る。
「久岐一です。よろしくお願いします」
「おう。俺は七海恵だ。アイツよりもアンタの方が手強そうだな」
「私は審判をします。公平を記しますので彼の事は、適当にあしらってください」
「はは。了解」
「ケイ! 貴女もメンバーを集めなさい! ちなみに、ハジメさんとコエは審判だからね!」
「おー、ちんちくりんの癖に外堀はきっちり埋めて来たか」
「うー! またちんちくりんって言ったぁ!」
「はっはっは」
「なんだ? 面白そうな雰囲気だな!」
そこへ、獅子堂夫妻が参入。七海はゲンを見る。
「そこのデカイジイさんが俺の側の勝負メンバーだ」
「ぬ? なんか知らんが……任せな!」
ビシッ! と親指を立てるゲン。勝負と聞いて戦意を纏う。
その気迫に、ピェ……と怯えたユウヒにゲンはショックを受けて、スッ……と体育座りをする。
「怖がらせるつもりは無いんだ……スマン……」
「怖くないよ、ゲンさん」
ゲンのカバーはコエに任せてヨミは僅かな会話とユウヒの側に立つ人数を見てある程度を察する。
「三人勝負かしら?」
「ああ。けど、ヨミ婆は審判の一人に回ってくれ。こっちは二人で大丈夫だ」
互いの陣営から審判を立てる。勝負事においてこれ以上の公平性はない。
ヨミは初めて顔を合わせる面々に、獅子堂黄泉です、あっちのは夫のゲンです、と挨拶を行った。
「二人で良いの?」
と、こちらを心配してくるユウヒの優しさに七海は笑う。
「ああ。手加減はしねぇし、する必要もないからな」
「なんという事だ!」
その時、屋敷の入り口からそんな声が聞こえて、全員がそちらへ視線を向ける。
ただ七海だけは振り向かなかった。
「これは正に! そう! 神々の決めた運命! いや! 輪廻転生しようともこうなる未来だったのでしょう!」
天月新次郎は七海の姿を見て、とても嬉しそうにそう叫んだ。
そして七海は、げんなりとした視線を向けた。
都会の喧騒が懐かしいと思える程の自然環境を横目に、確かな目的地へ向かっていた。
「ナビがあまり機能していないな」
「分かれ道は看板があるから大丈夫だと思うぜ」
助手席に座る天月新次郎は、運転する兄――天月久遠に送られて『神ノ木の里』へ向かっていた。
「それにしても、“神島”からの依頼とはな。親父の交友関係の広さには底が無い」
「熊退治とか。本当に笑えるよな」
新次郎は天月のトップに言われて、今回の件に一族を代表として派遣されていた。
「それほど本気なのだろう。神島譲治か……あまり関わるなと親父は言うが」
「天月は裏から完全に離れたからからなぁ。クリーンなアスリートとして、表舞台に出るのが義務だしよ」
「まったく……どの口が言う」
メダルを量産選手である新次郎の急な引退宣言。スポーツ界隈の先頭を走っていた新次郎の決断には彼らの父親である早雲も意味が分からなかった。
そして、日本へ帰った時に新次郎は早雲の前で一言。
“本物の愛を見つけたんだ親父。全てをなげうってでも価値のある愛を”
ふざけた事を抜かすな! と殴られそうになった所を新次郎は、アバヨー、と逃げたした。
「俺も天月の爪弾きさ。けど、後悔はしてないぜ」
「お前は昔からつまらんと感じたらすぐに止める気質があったよな……」
「世界はそれなりにメリハリがあったぜ? でも、彼女に出会って思い出しちまったワケよ」
「何をだ?」
オリンピック選手と言う肩書きは、その国に置けるスポーツのトップである証。才能に類比無き努力を重ねに重ねて維持し続けた地位であったが……それを全て捨ててでも追う価値のある気持ちを抱いたのだから仕方ない。
「俺も愛に生きる男だって事にな」
兄である久遠でさえ、理解しきれない弟の考え。しかし、何かに対して本気になった時ほど弟が手の届かなかった事はなかった。
「兄貴もミカゲさんを見たときはビビって来ただろ?」
「…………まぁな」
「はっはっは」
そして、車は封鎖の始まった『神ノ木の里』の入り口へたどり着いた。
「なんだ? ジジィ達も公民館で寝泊まりするのか?」
「まぁな。こっちの実家は今は別の一族が住んでるしよ」
「『神ノ木の里』の特徴なの」
ジョージの母屋から公民館へ戻る車を運転するゲンとヨミは、七海に『神ノ木の里』が他とは少し違う事を説明する。
「この里は本来は身よりの無い孤児を引き取る、巨大な孤児院みたいなモノなんだよ」
「へー」
「取り仕切る者は里の一族達から選定されて決められる。そして、里を管理する者は『神島』を名乗る事を義務付けられるわ」
「ジョーの爺さんの事か」
「アイツの旧姓は“大鷲”で、アイツも孤児だ」
「ジジィも孤児なのか?」
「俺はこの里の産まれだよ。旧姓は鶴岡だ」
「獅子堂の方が合ってるなぁ」
「だろぉ?」
両親は既に他界し、兄弟も居なかった事もあって、ゲンは『神ノ木の里』から完全に出奔していた。
「まぁ、ソレ以上にヨミにはビビっと来たわけだがな!」
「ビビっと来るのは良いけど、私に会いに来る口実に怪我をしてくるのはやり過ぎだと思うわ」
「オォ!? それバレてたのか!?」
「病院では有名だったわよ?」
「アッハッハ」
どんどん面白い話が聞ける七海は上機嫌に笑う。車は公民館へと戻ると路肩へ駐車した。
「ん? もう一台あるな」
七海はアヤの乗ってきた乗用車を発見。他の関係者も居ると見て敷地の中へ入る。
「帰ってきたわね! 待ってたわよ、ケイ!」
帰宅の車を見て建物から飛び出して来たユウヒは、ビシッと言い放つ。七海はそんな彼女を見てニヤっと笑う。
「どうした、ちんちくりん。宿題でわかんない所でもあったか?」
「このワタシを嘗めない事ね! 宿題なんてぱぱっと終わったわ! 何なら明日の分にも少し手をつけたくらいよ!」
と、七海はユウヒの頭を褒める様に撫でる。
「感心感心。誰よりも一歩先に出る事は良いことだぜ」
「え……あ……ありがとう」
褒められて素直に嬉しいユウヒ。そこへ後ろからコエもやってくる。
「ユウヒ、ケイさんと勝負するんじゃなかったのかい?」
「あ! そうよ!」
「勝負だぁ?」
これ以上、絆されてはいけない! とユウヒは強い眼で七海を見上げる。
「私たちと3本勝負よ! こっちが勝ったら……まずはその口調を直して貰うわ!」
「ほほぅ……ちんちくりんの癖に面白い事を言いやがる」
「だが、俺も本気でやるが。対等な勝負になるのか?」
「ふっふっふ……甘いわね! こっちは私を筆頭に最強のメンバーを揃えたわ! 万が一にもそっちに勝ち目は無いわよ!」
「そう言う事だぜ!」
公民館の奥から二メートル近い体躯の男が現れる。
「この荒谷蓮斗! ダチ公の頼みとあっちゃ力を貸さない理由はねぇぜ!」
パンッ、と手の平と拳を打ち付ける蓮斗を見て、ほー、と七海は不適に笑う。
「何やら面白そうな勝負事の様なので参加させて貰います」
もう一人の参戦者であるアヤも奥から出てくる。その姿を一目見た瞬間、七海は瞬時に察した。
コイツは超一流だな。そんじょそこらに転がってる様な人間じゃねぇぞ。
「白鳥綾と申します。ご挨拶が遅れまして、申し訳ありません」
品があるが、気取った雰囲気は全く感じない。綺麗過ぎる、と言っても良いほどにアヤの所作は完璧に近かった。
「俺は七海恵だ。このちんちくりんに何を言われたかは知らないが……アンタに手加減は必要無さそうだな」
「ええ。全力でお相手いたします」
「俺様は荒谷蓮斗! 姉ちゃんよ! 俺様を無視をすると痛い目を見るぜ!」
んで、このうるさいのは荒谷か。ん? 荒谷? 最近、どっかで聞いたような……
「あまり熱くなりすぎるなよ。病み上がりなんだから」
「心配すんなハジメ。この俺様は手加減が苦手なんだ。常にアクセルは全開だぜ!」
「だから……病み上がりだって言ってるだろ……」
と、ハジメは七海の前に出る。
「久岐一です。よろしくお願いします」
「おう。俺は七海恵だ。アイツよりもアンタの方が手強そうだな」
「私は審判をします。公平を記しますので彼の事は、適当にあしらってください」
「はは。了解」
「ケイ! 貴女もメンバーを集めなさい! ちなみに、ハジメさんとコエは審判だからね!」
「おー、ちんちくりんの癖に外堀はきっちり埋めて来たか」
「うー! またちんちくりんって言ったぁ!」
「はっはっは」
「なんだ? 面白そうな雰囲気だな!」
そこへ、獅子堂夫妻が参入。七海はゲンを見る。
「そこのデカイジイさんが俺の側の勝負メンバーだ」
「ぬ? なんか知らんが……任せな!」
ビシッ! と親指を立てるゲン。勝負と聞いて戦意を纏う。
その気迫に、ピェ……と怯えたユウヒにゲンはショックを受けて、スッ……と体育座りをする。
「怖がらせるつもりは無いんだ……スマン……」
「怖くないよ、ゲンさん」
ゲンのカバーはコエに任せてヨミは僅かな会話とユウヒの側に立つ人数を見てある程度を察する。
「三人勝負かしら?」
「ああ。けど、ヨミ婆は審判の一人に回ってくれ。こっちは二人で大丈夫だ」
互いの陣営から審判を立てる。勝負事においてこれ以上の公平性はない。
ヨミは初めて顔を合わせる面々に、獅子堂黄泉です、あっちのは夫のゲンです、と挨拶を行った。
「二人で良いの?」
と、こちらを心配してくるユウヒの優しさに七海は笑う。
「ああ。手加減はしねぇし、する必要もないからな」
「なんという事だ!」
その時、屋敷の入り口からそんな声が聞こえて、全員がそちらへ視線を向ける。
ただ七海だけは振り向かなかった。
「これは正に! そう! 神々の決めた運命! いや! 輪廻転生しようともこうなる未来だったのでしょう!」
天月新次郎は七海の姿を見て、とても嬉しそうにそう叫んだ。
そして七海は、げんなりとした視線を向けた。
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