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第367話 カレンとアヤ
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「相変わらず、じっとしてるのが苦手なヤツだね」
カレンは久しぶりにケンゴと話す事が出来て嬉しかった。
三年前にゴォォォと飛行機に乗って海外へ行ったケンゴは、びっくりするくらい変わってない。
日本国内での転勤ならまだしも、国も文化も常識も変わる海外での生活で、他の色に染まらずにそのままで帰ってきた。
カレンにとって、ケンゴはダイキの兄貴みたいなモノで、二人は本当の兄弟のように信頼していると理解していた。
「まぁ……アイツは変わらなくても、チビ共が変わっていくか」
大人はそんなには変わらない。しかし、成長する子供は思考や関係を大きく変えていく。高校生のアルバイトを多々見てきたカレンは、就職や卒業と共に辞めていく若人に自分の息子重ねていた。
「矢印の意味合いが変わったかもねぇ」
リンカ、ヒカリ、ダイキ。
ケンゴを兄貴分と慕う若い世代が、今どの様な矢印を彼に向けているのか、今後は近くで見て行こう。
「今、どーなってるか。セナに聞いてみるか」
もしかしたら、結構なイベントを逃したかもしれない。これからの楽しみが一つ増えた所でリンカの様子を見に部屋に戻ろうとした時、
「――ん?」
階段を上がってくる一人の女性が居た。
「住所ではここです」
「……ハジメ。例の場所だぜ」
例の場所と言うのは、一週間前に蓮斗が加担したショウコ誘拐事件の事である。
事は収まったとは言え、なるべく姿は見せない方が良いだろう。
「社長は車にいるように」
「そうするぜ」
ハジメは運転席から降りると、アヤの乗る後部座席の扉を開けようと回るが、
「すみません、ハジメさん。一人で行かせて貰ってもよろしいですか?」
「構いませんが……」
そう言ってアヤは自分で後部座席の扉を開けると車から降りる。
「待っていてください」
「何かあれば呼んでください」
住所の部屋番号では二階の隅の部屋。コツコツと階段を静かに上がり、廊下へ出ると通路の柵に背を預けている金髪の女性の方がいた。
「こんにちは」
「どーも」
前を失礼します、とアヤは丁寧に断ってから前を通り、目的の部屋の前に立つ。
ここに……私の使命――御父様の願いがある……
意を決してインターホンを鳴らした。
「…………」
しばらく待つが反応が無い。もう一度鳴らそうとした所で――
「隣、留守だよ」
廊下に居た女性がそう言った。
あらら。メッチャ美人……と言うか可愛い系? その中間くらいだから、服装でどっちにも寄せられる年齢か。
客商売をするカレンにとって、人間観察は自然と培われるスキルである。
アヤを見て、少なくとも自分よりは年下であると見抜いていた。
「失礼します。ご質問をよろしいでしょうか?」
「いーよ。なに?」
丁寧な物言い。姿勢も良い。それでいて、立ち姿の固さは感じない。つまり、作られた気品ではなく自然体でこれか。
「お隣様ですか?」
「ま、そんなトコ。そもそも、今日は平日だからね。基本的には皆仕事だよ」
「そうなのですか?」
常識に疎い。海外から来てるか……箱入り娘か。
「とにかく、今日はお隣さんは居ないよ。私なら日を改めるかな」
ケンゴの奴。どこでこんな美人引っかけたんだ? 随分と面白い事になりそうだねぇ。
「……そうですか」
アヤは安心と残念が半々の目で、ケンゴの部屋の扉を見る。
ちょっと情報を聞き出せるかな? カレンはそれとなく話しかける。
「お隣と知り合い?」
「はい。貴女様は、彼を良く知っておられるのですか?」
「カレンね」
カレンは先に自己紹介をする。
「音無歌恋。カレンでいいよ」
「私は白鷺綾と申します。よろしくお願いしますね、カレン様」
「……ま、いっか」
様づけは慣れないが、訂正するのも面倒なのでそのまま続けた。
「私はお隣さんとは知り合いでね。よく、息子を預けてるの」
「お子様がいらっしゃるのですか」
「片親だから色々とね。どうしても一人じゃ限界があるし」
「ご立派です」
「そっちは? お隣さんに何の用事?」
カレンの質問にアヤは少し困った様な笑みを浮かべる。
「会いに来たのですが……少々、気が早すぎたみたいです」
「許嫁とか?」
カレンとしては冗談で言った積もりだったが、アヤの反応は驚きの眼を向けていた。
「何故わかったのですか?」
「え? マジ?」
まさか、本当だとは思わなかった。カレンも驚いてアヤを見る。
「ふふ。なんだか、おかしな雰囲気ですね」
「着地点を見失った感じだねぇ」
ケンゴの家族関係を一切知らないカレンにとって、ケンゴは実は相当な身分のヤツ? と言う疑問が浮かんだ。
「一つ、ご質問をよろしいでしょうか?」
「なに?」
「鳳健吾様は……貴女様から見たとき、どの様な方でしょうか?」
「子供」
アヤの質問にカレンは間を置かずに返す。
「何をするにしても全力で、後先考えず突っ走る。身体だけデカくなっただけの子供」
「子供……ですか?」
アヤの反応を見てケンゴとは全く面識がないとカレンは察する。故に自分が感じている事を脚色無しで伝えた。
「でも、それを“大人”だと思えるのなら、ソイツはケンゴと一緒に居たいと思えるヤツなんだろうね」
「…………」
「参考になった?」
「はい。素敵な方だと言うことはわかりました」
どの様な異次元解釈をすれば、そんな結論にたどり着くのか。品のある人間の考え方はわからないねぇ。
「では、日を改める事にします」
「それが良いよ」
失礼します、とアヤは一礼するとカレンの前を通る。
「白鷺さん」
「はい――っと」
アヤは振り向くと、カレンから放られた飴を咄嗟にキャッチする。
「面白い話をしてくれたお礼」
「あ、えっと……何か渡せる物を――」
「ふふ。良いよ別に」
急にあたふたし出したアヤに幼さを垣間見たカレンは、ふふ、と笑う。
彼女の出現は間違いなく面白い事になる。カレンは遠くない嵐の中心で舟を漕ぐケンゴを港から見ている事にした。
「――では、今後はアヤとお呼びください」
「LIKE交換しとく?」
「あ、是非」
そんなこんなでLINE友達となった。
アヤは再度一礼して、階段を降りていくと止まってた乗用車に乗り込んで去って行った。
「さてと、何者なのかねっと」
ヒュポ、とLINEにてアヤと身の上の会話を始めた。
カレンは久しぶりにケンゴと話す事が出来て嬉しかった。
三年前にゴォォォと飛行機に乗って海外へ行ったケンゴは、びっくりするくらい変わってない。
日本国内での転勤ならまだしも、国も文化も常識も変わる海外での生活で、他の色に染まらずにそのままで帰ってきた。
カレンにとって、ケンゴはダイキの兄貴みたいなモノで、二人は本当の兄弟のように信頼していると理解していた。
「まぁ……アイツは変わらなくても、チビ共が変わっていくか」
大人はそんなには変わらない。しかし、成長する子供は思考や関係を大きく変えていく。高校生のアルバイトを多々見てきたカレンは、就職や卒業と共に辞めていく若人に自分の息子重ねていた。
「矢印の意味合いが変わったかもねぇ」
リンカ、ヒカリ、ダイキ。
ケンゴを兄貴分と慕う若い世代が、今どの様な矢印を彼に向けているのか、今後は近くで見て行こう。
「今、どーなってるか。セナに聞いてみるか」
もしかしたら、結構なイベントを逃したかもしれない。これからの楽しみが一つ増えた所でリンカの様子を見に部屋に戻ろうとした時、
「――ん?」
階段を上がってくる一人の女性が居た。
「住所ではここです」
「……ハジメ。例の場所だぜ」
例の場所と言うのは、一週間前に蓮斗が加担したショウコ誘拐事件の事である。
事は収まったとは言え、なるべく姿は見せない方が良いだろう。
「社長は車にいるように」
「そうするぜ」
ハジメは運転席から降りると、アヤの乗る後部座席の扉を開けようと回るが、
「すみません、ハジメさん。一人で行かせて貰ってもよろしいですか?」
「構いませんが……」
そう言ってアヤは自分で後部座席の扉を開けると車から降りる。
「待っていてください」
「何かあれば呼んでください」
住所の部屋番号では二階の隅の部屋。コツコツと階段を静かに上がり、廊下へ出ると通路の柵に背を預けている金髪の女性の方がいた。
「こんにちは」
「どーも」
前を失礼します、とアヤは丁寧に断ってから前を通り、目的の部屋の前に立つ。
ここに……私の使命――御父様の願いがある……
意を決してインターホンを鳴らした。
「…………」
しばらく待つが反応が無い。もう一度鳴らそうとした所で――
「隣、留守だよ」
廊下に居た女性がそう言った。
あらら。メッチャ美人……と言うか可愛い系? その中間くらいだから、服装でどっちにも寄せられる年齢か。
客商売をするカレンにとって、人間観察は自然と培われるスキルである。
アヤを見て、少なくとも自分よりは年下であると見抜いていた。
「失礼します。ご質問をよろしいでしょうか?」
「いーよ。なに?」
丁寧な物言い。姿勢も良い。それでいて、立ち姿の固さは感じない。つまり、作られた気品ではなく自然体でこれか。
「お隣様ですか?」
「ま、そんなトコ。そもそも、今日は平日だからね。基本的には皆仕事だよ」
「そうなのですか?」
常識に疎い。海外から来てるか……箱入り娘か。
「とにかく、今日はお隣さんは居ないよ。私なら日を改めるかな」
ケンゴの奴。どこでこんな美人引っかけたんだ? 随分と面白い事になりそうだねぇ。
「……そうですか」
アヤは安心と残念が半々の目で、ケンゴの部屋の扉を見る。
ちょっと情報を聞き出せるかな? カレンはそれとなく話しかける。
「お隣と知り合い?」
「はい。貴女様は、彼を良く知っておられるのですか?」
「カレンね」
カレンは先に自己紹介をする。
「音無歌恋。カレンでいいよ」
「私は白鷺綾と申します。よろしくお願いしますね、カレン様」
「……ま、いっか」
様づけは慣れないが、訂正するのも面倒なのでそのまま続けた。
「私はお隣さんとは知り合いでね。よく、息子を預けてるの」
「お子様がいらっしゃるのですか」
「片親だから色々とね。どうしても一人じゃ限界があるし」
「ご立派です」
「そっちは? お隣さんに何の用事?」
カレンの質問にアヤは少し困った様な笑みを浮かべる。
「会いに来たのですが……少々、気が早すぎたみたいです」
「許嫁とか?」
カレンとしては冗談で言った積もりだったが、アヤの反応は驚きの眼を向けていた。
「何故わかったのですか?」
「え? マジ?」
まさか、本当だとは思わなかった。カレンも驚いてアヤを見る。
「ふふ。なんだか、おかしな雰囲気ですね」
「着地点を見失った感じだねぇ」
ケンゴの家族関係を一切知らないカレンにとって、ケンゴは実は相当な身分のヤツ? と言う疑問が浮かんだ。
「一つ、ご質問をよろしいでしょうか?」
「なに?」
「鳳健吾様は……貴女様から見たとき、どの様な方でしょうか?」
「子供」
アヤの質問にカレンは間を置かずに返す。
「何をするにしても全力で、後先考えず突っ走る。身体だけデカくなっただけの子供」
「子供……ですか?」
アヤの反応を見てケンゴとは全く面識がないとカレンは察する。故に自分が感じている事を脚色無しで伝えた。
「でも、それを“大人”だと思えるのなら、ソイツはケンゴと一緒に居たいと思えるヤツなんだろうね」
「…………」
「参考になった?」
「はい。素敵な方だと言うことはわかりました」
どの様な異次元解釈をすれば、そんな結論にたどり着くのか。品のある人間の考え方はわからないねぇ。
「では、日を改める事にします」
「それが良いよ」
失礼します、とアヤは一礼するとカレンの前を通る。
「白鷺さん」
「はい――っと」
アヤは振り向くと、カレンから放られた飴を咄嗟にキャッチする。
「面白い話をしてくれたお礼」
「あ、えっと……何か渡せる物を――」
「ふふ。良いよ別に」
急にあたふたし出したアヤに幼さを垣間見たカレンは、ふふ、と笑う。
彼女の出現は間違いなく面白い事になる。カレンは遠くない嵐の中心で舟を漕ぐケンゴを港から見ている事にした。
「――では、今後はアヤとお呼びください」
「LIKE交換しとく?」
「あ、是非」
そんなこんなでLINE友達となった。
アヤは再度一礼して、階段を降りていくと止まってた乗用車に乗り込んで去って行った。
「さてと、何者なのかねっと」
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