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第363話 罠にハマって、北陸~

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 セナさんは気を使ってくれたけれど、ママさんチームではなく先にオレに連絡を入れてくれた信頼関係は中々に嬉しいものである。
 だが、“社会人”と“仕事”は光と影。どうしても無理なモノは無理なのだ。

「…………」

 カチカチとキーボードを動かしながら、自分にそう言い聞かせるも、リンカが苦しんでる様が頭には浮かぶ。

「鳳君。ここ、間違ってるよ?」
「え? ああ! すみません!」

 自社の説明資料の最新版の製作。海外支部の項目をオレが担当している。
 それは明後日にある西洋の大企業『プラント』へ持っていく為の重要な資料だ。

 社長を筆頭に真鍋課長が付き添い、加賀と姫さんがプレゼンに行く予定である。
 なんと『プラント』の社長である女郎花教理もソレを見に来るとの事で、かなり大々的なマーケティングになるとか。
 急に決まったとの事だが……恐らく4課によるショウコさん絡みでの妥協点だろう。2課の人員の三割がその資料の製作に割り当てられ、急ピッチで進められている。

「地球の裏側とは言えさー、相手は世界でも指折りの一大企業だかんねー。しかも、女郎花教理って、相当厳しい人だって話しだしー。鳳、ミスはヤバイよ~」
「ちょっとカズ。あんまりそう言う事は言わないの」

 まぁ……そのトップを殴り倒しちゃったんですけどね……ユニコ君『Mk-VI』とか言うオーバーテクノロジーで。
 『ジジィの嫌がらせ正拳』の最初の犠牲者ですよ。

「本来、壇上に立つのは姫と加賀だけどサ。アンタが立つつもりで資料は作りなよ」

 打ち合わせの時間に合わせて荷物を肩に担いだカズ先輩は、ガンバ、と出て行った。
 確かに身を入れなければ。明後日のプレゼンで恥をかくのはオレではなくソレに赴く人達なのである。

「気にしなくて良いからね」
「はい」
「でも……なんだか、仕事に身が入ってないのも事実だよ?」

 話してみて、と言いたげに姫さんは横に座る。鬼灯先輩とは違った包容力は、ポロっと本音が出てしまいそうな雰囲気が放たれた。

「ちょっと知り合いが風邪を引きまして……迎えに行けないかと連絡が」

 ポロっと出ちゃった……

「ええ!? もしかして……知り合いってリンカさんの事?」
「そうです」

 そっか、社員旅行に参加した人達はオレとリンカの関係はそれなりに把握してるんだっけ。

「母親も今、物理的に遠くにいるみたいでして。迎えに行けるのは夜中になってしまうと」
「リンカさんのお父さんは?」
「リンカちゃん。片親なんですよ」

 姫さんは知らなかったのか。

「でも、他の手はあるにはあるんです。だから大丈夫ですよ」
「ふむぅ……」

 と、姫さんは可愛らしく頬に手を当てて考えてしまった。姫さんにも気を使わせてしまい少し申し訳ない。やはり、話さない方が良かったかもしれない。

「鳳君。迎えにだけ行ってきて」
「え?」
「気になってるんでしょ?」
「まぁ……」
「リンカさん。心細いハズだから。迎えに行って安心させてあげて」
「しかし……」
「その方が結果として仕事の効率も上がるでしょ? それなら、行った行った!」
「――わかりました」

 オレは姫さんに背中を押されて、オレは財布とスマホと家の鍵だけを持つと2課のオフィスを後にした。





 LINE部屋『ママさんチーム』

セナ『リンちゃんが風邪引いちゃって~、ごめんだけど、エイちゃんか、カレンちゃんのどっちか迎えに行けな~い?』

エイ『私は無理だ!』

セナ『お仕事~?』

エイ『違う! 今、空の上だ!』

セナ『あらあら~』

エイ『カレンはどうした?』

セナ『既読つかないわね~』

エイ『いつも夜遅いからな! アイツは!』

セナ『今ね~、ケンゴ君が迎えに行ってくれるって~』

エイ『なら、ケンゴに任せれば良い!』

セナ『ケンゴ君も仕事なの~。エイちゃんは帰国の飛行機~?』

エイ『出国だ! つい乗ってしまった! 行き先は中国だから日帰りは出来るぞ! 帰国は深夜だが!』

セナ『あらあら~どうしましょ~』

エイ『ウチの者に行かせよう! ショウコとはお前も面識はあったよな?』

セナ『ええ』

エイ『ケンゴとも面識があるし、リンカとも全くの初対面ではあるまい! 悪くない人選だ!』

セナ『仕方ない、か~』

カレン『寝てた』

エイ『起きたか!』

セナ『おはよ~カレンちゃん~』

カレン『……で、ざっと履歴読んだけど……どういう状況なの?』

セナ『カレンちゃんは~、今県内~?』

カレン『……あんたら、今どこに居んの?』

エイ『中国行きのエアシップ!』

セナ『罠にハマって、北陸~』

カレン『……それで、何? リンカが風邪?』

セナ『そうなの~。お迎えはケンゴ君が行ってくれるけど~、彼仕事だから~』

カレン『あぁ、今日は平日か……曜日感覚バグってた』

エイ『いつもご苦労様!』

カレン『そっちもダイキの事、いつもありがと』

セナ『リンちゃんの事、私が帰るまでお願いしても良い~?』

カレン『良いけど、何時に帰んの?』

セナ『多分、夜中ね~。ようやく動けそうだから~』

カレン『なにやってんだか……』

エイ『ダイキの事は哲章に言っておく!』

カレン『そう? それじゃ、そっちは頼むわ』

エイ『そろそろ国の電波外だ! アディオス!』

セナ『あでぃおす~』

カレン『やれやれ。じゃあ、セナが帰ってくるまで面倒見とくよ』

セナ『ごめんね~。今度埋め合わせするから~』

カレン『別に気にしなくていいよ』
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