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第360話 流れて行く雲

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「ご苦労だったね」
「ホントに大変でした……」

 次の日、オレはショウコさんをサマーちゃんの元へ送り届けて出社。
 名倉課長にも連絡して、全ての事情を互いに把握している事を認識。少し疲れた様を鬼灯先輩に心配されつつも業務を終えて、定時後に鷹さんに呼び出され、屋上へやってきた。

「『女郎花教理』に『黒金陣営』とんでもない大物が潜んでいたね」
「そんなん、予想できませんって……」

 オレは鷹さんに奢ってもらった自販機のカフェオレを飲みながら会話をする。
 それだけ、ショウコさんは魅力たっぷりなのだろう。トッポみたいに。オレもその魅惑なボディーと無知の混じった思考に何度も一線を越えそうになった。最後まで踏みとどまったオレを褒めて。

「知ってたら断ったかい?」
「……引き受けましたよ」

 全てを知っていたとしても頼られれば断らなかっただろう。そのオレの返答に鷹さんはフッと笑う。

「その性格、これから一生損するよ」
「怖いことを言うの止めてください……それで、結局はその二者は訴えるんですか?」

 鷹さんを見ながらオレはカフェオレを飲む。

「こっちからリアクションは起こすさ。ヨシが、その二者の詳細な情報を持って来てね。どうやって調べたんだか解らないけど、信憑性は極めて高い代物だったよ」

 サマーちゃんかな? それにしても仕事が早い早い。

「しかし、相手が相手だ。うち、一人は海外ってのもある。事が片付くまではひと月はかかるだろうね」
「『黒金』の方が大変なんじゃないですか?」

 証拠があるとは言え、相手は政界の一角を成す一派。変に構えるとこちらの不利益になるのではないか?

「『黒金』は政界の中でも穏健派さ。あの陣営は信頼が大事な所があるからね。マサトは話のわかるヤツだよ」
「……知り合いですか?」
「アイツの父親とは良く現場で顔を合わせててね。マサトの方も何度か依頼で弁護をしたこともある。火防の方がよっぽど厄介だよ」

 本当に鷹さんの経歴はヤバイなぁ。今の中年政治家は大半が彼女と関わりがあるみたいだし。頭の上がらない方に。

「女郎花の方も名倉を襲った外人の釈放に、交渉の連絡が来てるのさ」
「なら、ショウコさんの件は大丈夫そうですね」
「後は全部、こっちで処理するよ」

 流石4課。海外の英雄だろうが、政界の重役だろうが、全然怖くねぇや!
 これで本当に終幕か。オレはやっと肩の荷が降りたのを感じ、ふぃー、と息を吐く。

「贅沢なヤツだね。あんな美女と二夜を共にして、そんな息が吐けるなんてさ」
「え? いやー、ショウコさんは全然悪くないですよ。でも……」

 どうしても、オレの中の過去が遠ざけてしまう。それで彼女を傷つけたのかもしれない。けど……聞くのが怖くて、そのまま別れた。
 まぁ……それ以前にショウコさんは本当に――

「オレなんかじゃ釣り合わない人だったよ」

 オレの返答に鷹さんは、贅沢ばっかりだねアンタは、と言ったので愛想笑いを作る。

「まぁいいさ。それよりも身の回りはきっちりケアしておくんだよ」
「ケア?」

 すると、スマホが鳴った。LINE通知。見ると相手はリンカだった。

“帰ってきたら説明しろ”

 あ、ショウコさんを泊めるうんぬんを読んだのか。即電話じゃない所を見ると、きちんと話を聞いてくれる様だ。

「知り合いかい?」
「はい。帰ります」

 ショウコさんはショウコさんの。
 オレはオレの日常に戻る。
 ……でも……一応、一応ね。リンカはカステラが好きなので、スーパーに寄って買って行こうっと。





『そうか。そう言う結論になったんだね』
「うん。まぁ……私よりも彼の方が切実だったと言うワケだな」

 ショウコは雲のある晴天の下、屋根に座ってスマホで父と会話をしていた。

『話を聞く限りだと、お前は相当に暴走したね』
「酔いがあんなに制御出来ないモノだとは思わなかった。良い経験が積めたよ」
『知り合い以外とは飲まない様にね』
「わかってる。けど……正直言って、ケンゴさんと一緒に居たいと思ったのも事実だ」
『なら、離れた理由は?』
「やはり結論を急ぎ過ぎると思ったんだ」
『しかし、彼の事は好きなのだろう?』
「ああ。今でもそうだよ。けど……この件に関して私は極端に見聞が狭い。だから、もう少し色んな人を見て勉強してからにする」
『親目線もあるが……贔屓目に見ても、お前は綺麗だ。余計なトラブルを抱えない様にね』
「わかっているよ。今回の件で身に染みた」

“ショウコー! どこじゃ! ショウコー!”

「呼ばれてるからもう切る」
『昌子』
「なに? 父上」
『見聞を広め、彼への気持ちが変わらなかったらどうする?』
「そうだな……彼のと子供でもコウノトリに運んできてもらうか」
『まったく……お前は』

 ショウコは本気半分、冗談半分と言った口調でそう言うと、それじゃ、と言って父との通話を切った。

「ショウコー!」

 すると、二階のベランダからこちらを見つけたサマーが見上げてくる。ショウコも屋根から覗き込んだ。

「冷蔵庫が野菜まみれじゃ! 何をやっておるか!」
「マザーからお前にちゃんと野菜を食べさせる様に言われた。世話になる分、キッチリと役割を果たすつもりだ」
「本気か!? 本気でマザーはそう言ったのか!?」
「ああ。マザーに確認をとっても良い」
「どういうつもりじゃマザー! わしがニンジンとダイコンが嫌いなの知っておるじゃろー!」

 そんな事を叫びながらサマーはドタドタと室内へ戻る。本当にマザーに確認しに言ったのだろう。

「ふふ。やっぱり子供は可憐だな」

 ショウコは屋根からベランダに降りると、夕飯のサラダを作るために部屋の中へ戻った。
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