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第333話 野生の最高峰
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「……車が無いな」
ハジメは『何でも屋荒谷』に戻っていた。自分が居ない間は社内の掃除をさせていたのだが、四人の姿が見えない。
「まったく……」
緊急で何か依頼が入ったのだろうか? 蓮斗は力仕事関係では常人の五人分は活躍できるので、よく現場作業を頼まれる事が多いのである。
加えて人懐っこい性格からも土木現場ではそれなりに人気者なのだ。
「……出ないな」
蓮斗に電話をかけるが繋がらない。電波の入ってない所にいると言われる。
「間違えて電源を落としてるパターンか」
ハジメは部下の方に連絡をかける。しかし、そちらも同じアナウンスが聞こえた。
「……どこに行った?」
呆れて嘆息を吐くハジメは、取りあえず良く利用してくれる作業現場の監督さんの元へ連絡してみる。
「もしもし? 『何でも屋荒谷』の久岐です」
『おーう。久岐ちゃんか!』
「うちの社長がそっちに行ってますか?」
『いや、来てねぇぞ。蓮斗のおかげで作業行程は相当早くなってるからな! 今日はもう切り上げた所だ』
「そうですか。ありがとうございます」
『おう』
更に他のツテや良く行く定食屋、駄菓子屋にかけるが、どこも蓮斗を見ていないと言う。
「もしもし? 柊?」
『ハジメ姉ちゃん? どうしたの?』
ハジメは自分達の孤児院である『空の園』に連絡に入れた。数年前に自分たちの妹分が経営を引き継いだのである。
「そっちに蓮斗が行ってる?」
『レン兄は来てないよ』
「そう」
『見たら連絡しようか?』
「うん。お願い」
ハジメはスマホを切る。ちょっと眼を離したら勝手に走り回りやがって。
「やれやれ」
昔から何一つ変わらない蓮斗に呆れつつも、彼らしいと微笑みを浮かべ、帰ってくるまで事務処理をする事にした。
砂利道を走りながらショウコはふと気がつく。
「そう言えば、警察に連絡すれば良いんじゃないか?」
「それがスマホが使えないんすよ!」
「妨害電波的なヤツで、この敷地内で使われてる見たいっす!」
「絶対、マジヤベーっすよ! ここ!」
三人の内、誰か一人が敷地の外に出て掛ければ良かったのでは? とショウコは思ったがもうすぐ敷地の外だ。
「……」
犯罪紛いな事をして複数人を外からの招き入れてソレを逃がす。
本来なら誰一人として外には出したくないハズ。だと言うのに、本気で追ってくる気配が感じられない。
外に逃げられても何らかの抑制力を持っているか?
特殊な建物。特殊な技術を持つ者達。そして、平然と銃を所持していた。
ショウコは来日して数年程度だが、それでも日本の常識は理解しているつもりだ。
「……」
嫌な予感に来た道を一度だけ向き直す。
最初に蓮斗を突破しようとしたのは緑屋である。五人の中では最も足が早い彼はショウコが敷地の外に出るまでに追い付く事が可能なスプリンターだった。
「行かせるかよ!」
「無理だぜ? 俺を止めるのはな!」
緑屋は現段階でも最速ではなかった。いつでもブレーキを踏める様に一定の余力は残し、“緩”と“急”を使い分ける。
古式『間切』。緩に目が慣れれば急を繰り出し、急に目が慣れれば緩を繰り出す。
極めた者からソレを受けると相手は間が切り取られたと錯覚する程に無防備な所に攻撃を食らってしまう。
「ハッハッハ!」
蓮斗は緑屋を捕まえようとしたが、減速と加速を混ぜた動きはコマ送りの様に彼を捉え切れなかった。
「本来ならナイフでもくれてやるんだが、その役目は後ろに譲るぜ」
『間切』の強みは正面から相手の虚を突けると言う点である。緑屋に蓮斗を仕留める気があれば2回は刺されている。
「じゃあな――」
加速。緑屋が一気に速度を上げた瞬間、服を掴まれた。
「小賢しい真似をしやがって! この俺様は惑わされねぇ!」
「おいおい! そっちも特別かよ!」
動体視力。蓮斗は緩急を混ぜた緑屋の動きの流れを見て、僅かに数回で身体を捉えた。
並外れたパワーと獣並みの動体視力。
女郎花教理が最高峰の肉体を理性的に動かすのであれば、荒谷蓮斗は野生に特化した肉体を本能的に行使する。故に動作の一つ一つが読みづらい。
「ふん!」
緑屋の服を掴んだ蓮斗は片手で背負い投げる様に軽々と正面に放った。
「なんつーヤツだよ!」
緑屋は体制を整えつつ着地。蓮斗の向こう側に抜けるには、思った以上に面倒な様だ。
「うっふっふ。緑屋。アレを抜けられないなら、貴方は何が出来るのかしら?」
「お前じゃ向かい合うのも無理だぜ? 黄木」
「やはり、ヤツは。この白山が殺らねばならぬな!」
「油断はするなよ」
「いや、全員でやるぞ」
最後尾から青野が告げる。彼が蓮斗と初めて会ったのは河原の喧嘩だった。
その時、青野は傍観者で最初から最後まで見たわけでは無かったが、次々に集まる半グレどもは50は越えていた。
武器を持つ者も多く、誰もが殺意を剥き出しにして蓮斗へ襲いかかる。
全てが終わって救急車と警察のサイレンがついた頃に立っていたのは蓮斗だけだった。
「言葉を合わせれば利用出来ると思ったが……短絡的な思考と、ソレを押し通す身体能力は思った以上に面倒なヤツだ。本当によ」
五人は明確な殺意を纏い、蓮斗へ迫る。それは過去の半グレとは比較にならない、冷ややかな殺意。全員が次は一撃で彼の命を狙う事を決めている。
「ぬが!」
すると、蓮斗はその殺意に素手は不利だと悟ったのかおもむろに車の横引きドアを、バキンッ! と力任せに取り外した。
「……」
五人は自分の車を壊した蓮斗に、なにやってんだ? と無言になる。
「多勢に無勢。武器を使わせてもらうぜぇ!」
と、蓮斗は機動隊のライオットシールドの様に車のドアを正面に構えると五人へ突撃していく。
ハジメは『何でも屋荒谷』に戻っていた。自分が居ない間は社内の掃除をさせていたのだが、四人の姿が見えない。
「まったく……」
緊急で何か依頼が入ったのだろうか? 蓮斗は力仕事関係では常人の五人分は活躍できるので、よく現場作業を頼まれる事が多いのである。
加えて人懐っこい性格からも土木現場ではそれなりに人気者なのだ。
「……出ないな」
蓮斗に電話をかけるが繋がらない。電波の入ってない所にいると言われる。
「間違えて電源を落としてるパターンか」
ハジメは部下の方に連絡をかける。しかし、そちらも同じアナウンスが聞こえた。
「……どこに行った?」
呆れて嘆息を吐くハジメは、取りあえず良く利用してくれる作業現場の監督さんの元へ連絡してみる。
「もしもし? 『何でも屋荒谷』の久岐です」
『おーう。久岐ちゃんか!』
「うちの社長がそっちに行ってますか?」
『いや、来てねぇぞ。蓮斗のおかげで作業行程は相当早くなってるからな! 今日はもう切り上げた所だ』
「そうですか。ありがとうございます」
『おう』
更に他のツテや良く行く定食屋、駄菓子屋にかけるが、どこも蓮斗を見ていないと言う。
「もしもし? 柊?」
『ハジメ姉ちゃん? どうしたの?』
ハジメは自分達の孤児院である『空の園』に連絡に入れた。数年前に自分たちの妹分が経営を引き継いだのである。
「そっちに蓮斗が行ってる?」
『レン兄は来てないよ』
「そう」
『見たら連絡しようか?』
「うん。お願い」
ハジメはスマホを切る。ちょっと眼を離したら勝手に走り回りやがって。
「やれやれ」
昔から何一つ変わらない蓮斗に呆れつつも、彼らしいと微笑みを浮かべ、帰ってくるまで事務処理をする事にした。
砂利道を走りながらショウコはふと気がつく。
「そう言えば、警察に連絡すれば良いんじゃないか?」
「それがスマホが使えないんすよ!」
「妨害電波的なヤツで、この敷地内で使われてる見たいっす!」
「絶対、マジヤベーっすよ! ここ!」
三人の内、誰か一人が敷地の外に出て掛ければ良かったのでは? とショウコは思ったがもうすぐ敷地の外だ。
「……」
犯罪紛いな事をして複数人を外からの招き入れてソレを逃がす。
本来なら誰一人として外には出したくないハズ。だと言うのに、本気で追ってくる気配が感じられない。
外に逃げられても何らかの抑制力を持っているか?
特殊な建物。特殊な技術を持つ者達。そして、平然と銃を所持していた。
ショウコは来日して数年程度だが、それでも日本の常識は理解しているつもりだ。
「……」
嫌な予感に来た道を一度だけ向き直す。
最初に蓮斗を突破しようとしたのは緑屋である。五人の中では最も足が早い彼はショウコが敷地の外に出るまでに追い付く事が可能なスプリンターだった。
「行かせるかよ!」
「無理だぜ? 俺を止めるのはな!」
緑屋は現段階でも最速ではなかった。いつでもブレーキを踏める様に一定の余力は残し、“緩”と“急”を使い分ける。
古式『間切』。緩に目が慣れれば急を繰り出し、急に目が慣れれば緩を繰り出す。
極めた者からソレを受けると相手は間が切り取られたと錯覚する程に無防備な所に攻撃を食らってしまう。
「ハッハッハ!」
蓮斗は緑屋を捕まえようとしたが、減速と加速を混ぜた動きはコマ送りの様に彼を捉え切れなかった。
「本来ならナイフでもくれてやるんだが、その役目は後ろに譲るぜ」
『間切』の強みは正面から相手の虚を突けると言う点である。緑屋に蓮斗を仕留める気があれば2回は刺されている。
「じゃあな――」
加速。緑屋が一気に速度を上げた瞬間、服を掴まれた。
「小賢しい真似をしやがって! この俺様は惑わされねぇ!」
「おいおい! そっちも特別かよ!」
動体視力。蓮斗は緩急を混ぜた緑屋の動きの流れを見て、僅かに数回で身体を捉えた。
並外れたパワーと獣並みの動体視力。
女郎花教理が最高峰の肉体を理性的に動かすのであれば、荒谷蓮斗は野生に特化した肉体を本能的に行使する。故に動作の一つ一つが読みづらい。
「ふん!」
緑屋の服を掴んだ蓮斗は片手で背負い投げる様に軽々と正面に放った。
「なんつーヤツだよ!」
緑屋は体制を整えつつ着地。蓮斗の向こう側に抜けるには、思った以上に面倒な様だ。
「うっふっふ。緑屋。アレを抜けられないなら、貴方は何が出来るのかしら?」
「お前じゃ向かい合うのも無理だぜ? 黄木」
「やはり、ヤツは。この白山が殺らねばならぬな!」
「油断はするなよ」
「いや、全員でやるぞ」
最後尾から青野が告げる。彼が蓮斗と初めて会ったのは河原の喧嘩だった。
その時、青野は傍観者で最初から最後まで見たわけでは無かったが、次々に集まる半グレどもは50は越えていた。
武器を持つ者も多く、誰もが殺意を剥き出しにして蓮斗へ襲いかかる。
全てが終わって救急車と警察のサイレンがついた頃に立っていたのは蓮斗だけだった。
「言葉を合わせれば利用出来ると思ったが……短絡的な思考と、ソレを押し通す身体能力は思った以上に面倒なヤツだ。本当によ」
五人は明確な殺意を纏い、蓮斗へ迫る。それは過去の半グレとは比較にならない、冷ややかな殺意。全員が次は一撃で彼の命を狙う事を決めている。
「ぬが!」
すると、蓮斗はその殺意に素手は不利だと悟ったのかおもむろに車の横引きドアを、バキンッ! と力任せに取り外した。
「……」
五人は自分の車を壊した蓮斗に、なにやってんだ? と無言になる。
「多勢に無勢。武器を使わせてもらうぜぇ!」
と、蓮斗は機動隊のライオットシールドの様に車のドアを正面に構えると五人へ突撃していく。
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