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第292話 持ち味をフルで活かしやがって

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『レアメタルの採掘は順調の様ですね』
『終戦条件として提示された各国への分配量をここまで丁寧に統率出来るのはMr.オミナエの指揮があってこそですな』
『枯渇しつつある資源の発見です。抜け駆けをされるのはどの国も不本意でしょう』
「ありがとうございます」

 女郎花は船内に設けられた機密室シークレットルームでレアメタルを欲する周辺国の代表と会議を行っていた。

 この部屋のみ、完全防音にて、セキュリティが何重にもかけられた機密回線を引き、中の機材も女郎花にしか起動できないモノばかりである。
 旅程の最中も女郎花はTV通信にて直接会わずに各国との取引や会議を行っている。

「皆様は把握されていると思われますが、ここで公言いたします。『ラクシャス』の近海にて海底油田を発見しました。今現在、採掘に向けてチームを結成しているところです」

 『ラクシャス』は戦火の渦の中心にあった事もあり、長らく資源の採取や調査は進んでいなかった。
 今では、女郎花の会社である『プラント』が中心になってそれが進められている。

「つきましては、各国の方々には採掘チームを推薦して頂きたい。より適したチームを陣頭に――」

 その時、女郎花は不穏な空気を感じ取り言葉が止まる。大切な光を奪われる様な……

『Mr.オミナエ?』

 船員は51人。側近者が3人に30台近くのカメラも設置されており、船内には至る所に識別センサーが張り巡らされている。
 もし、登録の無い者がセンサーを通過すれば警報が鳴り響くハズだ。

「……失礼。続けましょう」





 ジェットは柱の一つに背を預け、フルアーマーユニコ君たちと戯れる船員たちを見ていた。

「ジェット」
「よう」

 そこへカーシャが駆けつけた。

「アレは何ですか?」
「なんか、“ユニコ君”とか言う、地方のマスコットらしい。とある界隈では有名人だとよ」

 ジェットはユニコ君達を写真に撮りSNSで情報を求めた。すると、様々な情報が寄せられる。

「ユニコ君を知る奴らでも見たことの無い造形だとか。普段はこんなんで風船を配ってるんだと」

 スマホに商店街の写真を表示するとカーシャは覗き見る。
 そこには愛くるしいユニコ君が子供に風船を渡しているワンシーン。神がかった光の射し込みがユニコ君を神話生物の如く神々しさを引き立てる。
 写真の提供は“城之内”と言う人物だった。

「……ユニコ君については解りました。何故、その不思議生物がここに?」
「多分、生息地の商店街とは関係ないぜ。あんな見た目だ。『ハロウィンズ』の的にでもされたんだろ」

 『ハロウィンズ』ならやりかねない。名前を言ってはいけないネズミの着ぐるみを複製し、ホワイトハウスにパラシュート降下する奴らだ。大統領の誕生日に。

「これも偶然だと?」
「俺の理性的な部分はそう考えてる」
「では、それ以外では?」
「直感的には何か仕掛けてるな。現在進行形で」

 ジェットの勘は当たる。彼が女郎花の護衛に選ばれているのも他にはない気配を察知する能力が高いからだ。

「……」

 いつも通りの流れの中、今回はただ一つだけイレギュラーを抱えた。それは――

「……流雲昌子」

 彼女と『ハロウィンズ』に繋がりがあるとは考えにくい。最初からコレが目的だったのなら動きが後手に回り過ぎている。
 ふと、カーシャの脳裏に浮かんだのは最初にショウコを連れて行こうとした際に邪魔をしてきた男だった。

「奴が『ハロウィンズ』だとすれば――」

 一般人にしては、虚を突く行動に違和感があった。その他大勢に紛れそうな雰囲気にもかかわらず場馴れしている立ち振舞い。
 もし、一般人に擬態していた『ハロウィンズ』であったのなら納得が行く。

「ジェット。貴方はゲイルにこの事を伝えなさい。無線は使えないので口頭にて」
「やっぱりハッキングか。『ハロウィンズ』の上等手段だが、社長の通信は大丈夫なのか?」

 『ハロウィンズ』は機密施設にも普通にハッキングしてくる。

「もし、ソレが目的ならユニコ君を三体も送り込む理由がありません。目の前のアレは」
「時間稼ぎか」

 今、考えられる可能性は二つ。
 一つは本当にただの悪ふざけ。
 もう一つは、今回抱えた“新しい荷”の奪還。

「私は流雲様の元へ行きます」
「作業員達の目は覚まさせなくても良いのか?」

 女郎花に驚異が迫っていると言えば、彼らはユニコ君の排除に動くだろう。

「彼らは長い船旅でストレスが溜まっています。少しは発散させるのも良いでしょう」
「それじゃ、動かせる人員は?」
「私と貴方とゲイルの三人です。貴方達は合流し念のため社長の警護に就きなさい」





『外側は良くあるタンカー船じゃが、中身はだいぶ弄られておるのぅ』
「スムーズに行きそうにない感じ?」

 オレは船内に入る扉の横で体育座りで待機。サマーちゃんに地図を作って貰っていた。
 変に迷って時間切れになるよりも最初に少し時間をかけても道取りはキチンとしておきたいのである。

『余計な区画と部屋が追加されておる。面倒なことしおって』
「どんくらいかかりそう?」
『後二秒じゃ』
「優秀~」
『ん? フェニックスよ』

 すると、目の前にフルアーマーユニコ君達が捉えた映像が送られてくる。
 わちゃわちゃクリームパーティー。写真なんかも撮られて船上のプチアイドルと貸している中、画像の端にスーツを着た男女が映っていた。女の片方は――

「ブラック・ウィ○ウ!」
『知り合いか?』
「ショウコさんを拐った当人。グラサン男も居たけど、この男は初めて見た」
『奴らは女郎花が選定した10人の側近者じゃろう!』

 ゲッ。ブラッ○・ウィドウみたいな装備を持った奴が他に9人もいんの? あ、でも戦闘が主流ではないだろう。

『あの男はジェット・ベイクじゃな。総合格闘家では無敗の王者じゃ』
「ヤベーの居んじゃん」

 前言撤回。嘗めて考えると死ぬ。
 すると、件の側近者10人のリストと画像が目の前に現れる。

『女の方はカーシャ・ラングレン。奴は元自警団員じゃ』
「自警団って?」
『戦争自警団じゃ。戦争時の『ラクシャス』の軍体制は崩壊しており、自分達で武器を取って自衛しとった民間人を指す。噂では下手な軍隊よりも手強かったとか』

 コイツもヤベー奴だったのか。

『おぬしの言うグラサンはこやつか?』

 と、サマーちゃんがショウコさんを拐った時の運転手――グラサン大男のデータを表示する。

「あ、こいつこいつ」

 なんで写真でもグラサンつけてんだよ。取れや。

『ゲイル・バハック。こやつはカーシャの後輩じゃな。自警団ではランボーみたいに重火器を乱射した様じゃ』
「持ち味をフルで活かしやがって」
『船内の映像を見る限りじゃと、側近者はその三人だけじゃな』
「十分、ヤベー奴らだよ」

 これに女郎花教理もいるんでしょ?
 奴らに補足される前にショウコさんを連れ出なければならない。某スニーキング蛇も真っ青なミッションだぜ。

 そして、船内のマップが表示され、オレはこそっと内部へ侵入する。
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