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第291話 捕まえてSCP財団に売り飛ばせ!

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「おとうさん……」
「ショウコ眠れないのかい?」

 誘拐事件からショウコの見る夢は全て悪夢となっていた。
 暗闇の中、聞こえる足音から逃げても、最後には女郎花教理に連れ戻される悪夢。
 目を覚ますといつも母――舞子が側に居てくれた。そして、彼女が海外へ行っている時は父――翔が側に寄り添った。
 どちらかが必ず側に居てくれる。けれど、悪夢が止むことはなく、いつしか眠る事を恐怖する様になった。

「眠りたくない……」

 そう言って泣くショウコの涙を翔は優しく拭う。

「大丈夫だよ。お父さんもお母さんもお前のそばに居るだろう?」
「……いなくなったら?」

 悪夢の中の彼女はいつも一人だった。泣いても泣いても帰る事は出来ない。
 すると、翔はショウコの手首に何か結んぶ。

「この赤紐をお前にやろう」

 ショウコは巻かれた赤紐を見た。小さな腕には少しばかり長いソレは翔と舞子が彼女の為に用意したモノである。

「お父さんとお母さんで用意したんだ。どんなに離れていても、これを着けていれば必ずお前を見つけられる」
「……ほんと?」
「お父さんが嘘を言った事があるかい?」
「……たぶんない」

 娘の言葉に翔は微笑む。

「ショウコ。これは家族の証だ。絶対に失くしてはダメだよ?」
「うん」

 それから悪夢には必ず赤紐が共にあるようになった。
 そう……あれは……あれが無くては私は悪夢から目覚められない……
 誰も……私を見つけて……くれない……

「……おとうさん……おかあさん……」

 彼女は起きながらに悪夢の中に居た。





「カーシャ先輩」
「ゲイル、戻った様ですね」

 カーシャは女郎花の部屋の前に立つ、サングラスをかけた大男に声をかける。彼はショウコを港まで連れてきた際の運転手だった。

「社長は会議中ですか?」
「機密回線にて行っております」
「そうですか」
「何か社長に御用でも?」
「いえ。大したことではありません。会議後に話を通します」

 ショウコの赤紐の件を女郎花へ伝えようとしたが、わざわざ会議を中断してまでする事ではない。
 カーシャは作業区へ歩きながら無線でジェットへ連絡を取る。

「ジェット、作業はどうですか?」
『積込は今終わった。チェックが済めば出港できる』
「私も向かいます。貴方は――」

 その時、無線にノイズが走る。無線の故障か? とカーシャは一度電源を入れ直すが、ノイズは消えない。





「あ? 何だ? カーシャ。聞こえるか? カーシャ」

 作業区で渡されるリストにサインしていたジェットは無線の調子の悪さに電源を切った。

「何だあれは!?」

 すると、海を作業員の一人が指差し、他の作業員が一斉にそちらを見る。無論、ジェットも顔を出すと、

「うぉ!?」

 ゴッ! と真上を通過する3機の飛行物体を目で追った。

「なんだありゃ?」





「船長! 船長! 船の回りを何か飛んでます!」
「ブリッジからも見えている」
「飛行物体の数は3! 恐らく小型のジェットパックにて飛行してると思われます!」
「直接見えておるわ。それよりも――」

 ソレの1機はブリッジの目の前で、ボボボーと滞空すると、プシューと窓に文字を書く。

“Happy Halloween”

「『ハロウィンズ』だ!」

 その瞬間、船のシステムモニターにジャック・オー・ランタンのロゴが一斉に浮かび上がる。
 滞空していたソレ――フルアーマーユニコ君(飛行型)は、再び編隊飛行へと戻る。





 『ハロウィンズ』は世間一般では迷惑な奴らと言う認識が強かった。
 しかし、それどれもがジョークとして笑えるモノばかりであり、何かと現れる時は場を楽しませるサプライズである場合が多い。
 しかも狙いどころは全てマイナーなイベントや一個人だったりすることもあり、国際警察も中々尻尾を掴めない。
 故に、こんな海上のタンカー船一つを狙い撃ちにする理由は全く持って不明。
 そもそも、他をおちょくる事に全身全霊をかけるふざけたお遊び集団である為に、民衆の支持は意外と高かった。

 タンカー船の上空には3機のフルアーマーユニコ君が飛行する。尻から色のついた煙を出し、ブルーインパルスの如く乱れぬ隊列で、“Happy Halloween”と文字を起こす。

「ハハハ!」
「あの愉快な生き物はなんだ!?」
「ホントに分けんかんねぇ奴らだな!」
「あのジェットパックって最新型だろ!」
「遊びに金かけまくってやがるぜ!」
「お前ら最高!」

 作業員と船員達は急に現れたフルアーマーユニコ君の飛行編隊に作業の手を止めて笑い上げた。
 突発的に現れる楽しい嵐。それがハロウィンズだ。
 すると、3機はボボボと甲板に着地する。

「おい、なんか降りてきたぞ!」

 作業員達は場を空ける様に円形に避けると、写真を取ろうと持っているスマホを取り出す。

『ユニコーン』

 と鳴いたフルアーマーユニコ君達は腕を向けると、ぷしゅー! とそこから飛び出すクリームで作業員たちを遅い始めた。

「うわっ! 襲撃だぁ!」
「お前ら止めろ! 入浴には制限があるんだよ!」
「おい、誰かホース持ってこい! でアイツらを撃退しろ!」
「いや! 捕まえてSCP財団に売り飛ばせ!」

 などとお祭り騒ぎ。
 ユニコーンをモチーフとした二頭身のぬいぐるみであるユニコ君が、最新のジェットパックとクリーム銃を装備し乱射してくるので、現場はてんやわんやだ。

「気を付けろ! こいつら空を飛ぶぞ! ハハハ!」
「三次元機動しやがって!」
「このクリームめっちゃ美味しいんだけど!」

 わーわー!





『無事に潜入できた様じゃな。フェニックス』

 オレはブリッジの屋根の上からユニコ君達のクリームパーティーを見下ろしていた。
 どうやら荒事にはなっていない様子で一安心。大半が外国人と言う事もあり、咄嗟の襲来にも笑って対応している様だ。

「サマーちゃん達っていつもあんなことしてるの?」
『これは軽い方じゃ! 何せ時間が無くてのぅ!』

 オレはフルアーマーユニコ君の1機の中に居た。ブリッジの窓にペイントした後にそのまま屋根の上に着地。
 アーマーから出るとコントロールをサマーちゃん達に任せたと言う形だ。

 『ハロウィンズ』と言うお茶らけた彼らの所業でなければ成し得ない侵入方法だっただろう。

「あれ全部セミオートで動かしてるんでしょ?」

 フルアーマーの中には人は居ない。

『VRとコントローラーでのぅ! クリームも人畜無害なゼロカロリーじゃ!』
「オーパーツっぷりがやべぇ」

 ユニコ君は商店街から出したらダメだな。

『そっちの様子はどうじゃ?』
「びっくりする程問題ない」

 オレは『Mk-VI』に身を包み、その上から重ねる様にフードコートを着ている。逆に目立つよな、コレ。

『流石に顔を見られるとアウトじゃからな! 『Mk-VI』は今回の件にはうってつけと言える!』
「逆に目立ちそうだけどね」
『フルアーマーに注意が向いておるから大丈夫じゃ! もって三十分! それまでに流雲昌子を見つけ、脱出せよ!』
「了解。ナビゲーションは任せるよ」

 オレはサマーちゃんの補佐を受けつつ『Mk-VI』を駆る。
 目の前には船内の地図が表示された。
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