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第281話 伝説は続いている
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「流石だ! 名倉君! 君のおかげで話し合いはスムーズに行ったよ!」
「いえ。先方も社長の強い意思を頼れると思った様です。私だけではこの商談をまとめる事は出来なかったでしょう」
とある海外の大手企業との商談を成功の形で終えた黒船は上機嫌だった。名倉としても2課の良い印象を与えられたと満足している。
「ふっはっは! ならば二人の勝利だね!」
「お二人ともお疲れ様でした。午後はお昼をとった後に視察となります」
轟は重役しか入れないセキュリティのある扉の外で待っていた。
「おお! 流石は甘奈君! もうその話を進めているのかい!?」
「お二方が先方の社長様と会議をしている間に、偶然、取締役の方と顔を合わせる事がありまして。少しお話をさせてもらった次第です」
「ふっはっは! 優秀な者が多すぎて私が霞んでしまうな!」
「ご謙遜を。それと名倉課長。陸君より連絡があったと思います。折り返しをお願いできますか?」
「わかりました。社長、少々外します」
「うむ!」
名倉は少し場を外してスマホを見る。着信は二件。陸から、着信とショートメール。内容は――
「……」
それを確認しつつも、名倉は簡単に返事をして、スマホを仕舞う。
「名倉君。電話は良いのかね?」
「ええ。単なる近況報告でした」
いつもの調子でそう言うと、黒船も轟も特に気にかける事無くお昼の話題となった。
「お昼は何に致しますか?」
「うどんは無いかね!?」
「私は蕎麦派です」
等と会話をしながら歩いていく。
“名倉課長。娘さんが拐われました! 連絡を下さい!”
“君たちに任せます”
と言うショートメールのやり取りが名倉のスマホには残っていた。
「ここか……」
オレは私服に着替えてから、ユニコ君の守護する商店街にある『格納庫』に来ていた。
雑居ビルの1F。ここに出撃を待つユニコ君達が眠っている。
「さて……どうすっかな」
中は暗く、人の気配は皆無。呼び鈴もなければ当然ながら鍵もかかっている。すると、横の階段から人の声。
「三島。お前は滞納してるヤツらを小突いてこい」
「ハイ!」
「喜市は俺と高飛びしようとしたヤツを絞りに行くぞ」
「ヘイ!」
そう言って階段から降りてきたのは、ユニコ君に入ってた時に交戦したヤクザさん達だ。
顔は割れてないと思うが、触らぬ神に祟りなし。電柱の影に隠れるのは至極当然だろう。
三人が視界から消えた所でオレは電柱から出る。
「ふいー。どうしたモンか……」
「おい」
オレは呼ばれて振り向くと、そこにはカボチャの被り物――ジャック・オー・ランタンを被った幼女が、ゴキジェットバズーカをこちらに構えていた。しかも二丁。
情報量が多くて色々とツッコミが追い付かねえが……特に殺気がヤベー! 動けば噴射れる!
「ここに何のようじゃ?」
じゃ? 語尾にじゃをつける幼女などオレの知り合いにはいない。と言うか、アニメ以外で聞いたこともない。
服もダボ着いたTシャツで短パンのサンダルだし、袖も余ってるし、どうやってトリガーを握ってんだろ?
「敵か。ならば死ね」
「ちょ! ちょっと待った! 殺虫剤を人に向けると危険だって、お母さんに教わらなかった!?」
「マザーは容赦なく殺れと言っておるわ!」
「ちょっ、じゃあ! お父さん! お父さんの方は!?」
「父は死んだ! 戦い続けろ、が遺言じゃ!」
やべー設定の幼女が出てきたな、おい。なに言ってもゴキジェットバズーカが火を吹く未来にしか世界線が行き着かねぇ!
「待て! 自己紹介をさせてくれ!」
「覚える気はない!」
「そう言わずに!」
「時間を稼ごうと無駄じゃ! 既に増援を呼んでおる!」
すると、近くにドローンが飛んでいた。ユニコ君で大暴れした時に、テツが使ってたヤツだ。てことは……
「テツ! オレだ! ケンゴだ! 覚えてるだろ! 敵じゃない!」
オレはドローンへ顔が見えるようにアピールする。しかし、何の反応も無い。
「無駄な足掻きを。わしも忙しい身。そろそろ死ねい!」
くっ! 仕方ねぇ! 少々犯罪チックだが、このメスガキを抑え込むしか――
「鳳殿ではない、か!」
背後から戦利品と言いたげに沢山のアニメグッツを抱えるテツの声が聞こえた。
「テ、テツ!」
「うむ、む。ナツ殿! その者は話していた鳳殿、だ!」
「コレがお前の言っていた、女子高生を侍らせている色欲魔か」
ナツと呼ばれた幼女はゴキジェットバズーカを構えたまま会話を続ける。て言うかテツよ……色欲魔って……そりゃ酷いぜ……
「ナツ殿……訂正、だ! 鳳殿は色欲魔でも無ければ……女子高生を侍らせてもいな、い! 心正しき我々の理解者、だ!」
どうやら色欲うんぬんは、幼女の勝手な解釈らしい。
「……テツ、貴様、本気で言っておるのか!」
「本気……だ! 彼と黒船殿、そして魔王カンナー、ヨシ殿は……信用でき、る!」
「むむむ……」
幼女が揺らいでる。頑張れテツ! オレはゴキジェットバズーカが怖いので全部お前に任せる!
『くふふ。ナツ殿、テツ殿が外界の者をそこまで言うのは類い稀。信用してもよいと思われます』
「レツ! 貴様もか!」
レツ……新たな人物が出てきたな。口調からコイツもキャラが濃そうだ。
するとテツが手を広げてオレの前に出る。
「鳳殿を撃つなら……小生から、だ!」
「テツ。何もそこまでしなくても……」
「鳳殿……小生はあの時の恩を返す時を待ってい、た! 本当に嬉しかったの、だ!」
いや、感動的なシーンなんだろうけどさ……
ジャック・オー・ランタンを被った幼女にゴキジェットバズーカを向けられるオタク(42)って構図はメルヘンを通り越してカオスだ。
この光景を他人に見せて、何をしているのでしょうか? とクイズにしたら、答えられる人類はいないと思われる。
「……全く、そこまで言うのなら。お前の顔を立てよう」
ナツは構えているゴキジェットバズーカの筒先を上に向けてくれた。テツの真摯な声が心に届いたらしい。
「レツ! ドローンは撤収せい! 公僕に見られると面倒じゃ!」
『くふふ、了解』
テツも冷や汗を浮かべて安堵の様子。どうやら、この幼女が彼らにとってのリーダーの様な存在らしい。
「鳳殿。何か用、か?」
「あ、ああ。実は『ハロウィンズ』ってのを探しててな」
住所が格納庫で、自由に出入りするテツなら何か知っていると思い聞く。
「なん、と!」
「貴様……どこでソレを調べた!」
『くふふ』
再び、ゴキジェットバズーカを向けられ、ドローンがブーンと帰ってくる。
オレは慌てて赤羽さんから渡された名刺を取り出す。
「えっと……赤羽って人からここに行くように言われたんだ!」
その名刺を見せると今度は全員が驚いた様子だった。
「ま、まさか! エージェントカラーズ!」
「馬鹿な! レッドフェザー! あの爆発から生きていたと言うのか!?」
『くふふ。伝説は続いていると言うことですねぇ』
「え? なになに?」
オレはもう不思議の国に迷い込んだアリス状態。
ウサギさーん。ウサギさんは……ドコ……?
「いえ。先方も社長の強い意思を頼れると思った様です。私だけではこの商談をまとめる事は出来なかったでしょう」
とある海外の大手企業との商談を成功の形で終えた黒船は上機嫌だった。名倉としても2課の良い印象を与えられたと満足している。
「ふっはっは! ならば二人の勝利だね!」
「お二人ともお疲れ様でした。午後はお昼をとった後に視察となります」
轟は重役しか入れないセキュリティのある扉の外で待っていた。
「おお! 流石は甘奈君! もうその話を進めているのかい!?」
「お二方が先方の社長様と会議をしている間に、偶然、取締役の方と顔を合わせる事がありまして。少しお話をさせてもらった次第です」
「ふっはっは! 優秀な者が多すぎて私が霞んでしまうな!」
「ご謙遜を。それと名倉課長。陸君より連絡があったと思います。折り返しをお願いできますか?」
「わかりました。社長、少々外します」
「うむ!」
名倉は少し場を外してスマホを見る。着信は二件。陸から、着信とショートメール。内容は――
「……」
それを確認しつつも、名倉は簡単に返事をして、スマホを仕舞う。
「名倉君。電話は良いのかね?」
「ええ。単なる近況報告でした」
いつもの調子でそう言うと、黒船も轟も特に気にかける事無くお昼の話題となった。
「お昼は何に致しますか?」
「うどんは無いかね!?」
「私は蕎麦派です」
等と会話をしながら歩いていく。
“名倉課長。娘さんが拐われました! 連絡を下さい!”
“君たちに任せます”
と言うショートメールのやり取りが名倉のスマホには残っていた。
「ここか……」
オレは私服に着替えてから、ユニコ君の守護する商店街にある『格納庫』に来ていた。
雑居ビルの1F。ここに出撃を待つユニコ君達が眠っている。
「さて……どうすっかな」
中は暗く、人の気配は皆無。呼び鈴もなければ当然ながら鍵もかかっている。すると、横の階段から人の声。
「三島。お前は滞納してるヤツらを小突いてこい」
「ハイ!」
「喜市は俺と高飛びしようとしたヤツを絞りに行くぞ」
「ヘイ!」
そう言って階段から降りてきたのは、ユニコ君に入ってた時に交戦したヤクザさん達だ。
顔は割れてないと思うが、触らぬ神に祟りなし。電柱の影に隠れるのは至極当然だろう。
三人が視界から消えた所でオレは電柱から出る。
「ふいー。どうしたモンか……」
「おい」
オレは呼ばれて振り向くと、そこにはカボチャの被り物――ジャック・オー・ランタンを被った幼女が、ゴキジェットバズーカをこちらに構えていた。しかも二丁。
情報量が多くて色々とツッコミが追い付かねえが……特に殺気がヤベー! 動けば噴射れる!
「ここに何のようじゃ?」
じゃ? 語尾にじゃをつける幼女などオレの知り合いにはいない。と言うか、アニメ以外で聞いたこともない。
服もダボ着いたTシャツで短パンのサンダルだし、袖も余ってるし、どうやってトリガーを握ってんだろ?
「敵か。ならば死ね」
「ちょ! ちょっと待った! 殺虫剤を人に向けると危険だって、お母さんに教わらなかった!?」
「マザーは容赦なく殺れと言っておるわ!」
「ちょっ、じゃあ! お父さん! お父さんの方は!?」
「父は死んだ! 戦い続けろ、が遺言じゃ!」
やべー設定の幼女が出てきたな、おい。なに言ってもゴキジェットバズーカが火を吹く未来にしか世界線が行き着かねぇ!
「待て! 自己紹介をさせてくれ!」
「覚える気はない!」
「そう言わずに!」
「時間を稼ごうと無駄じゃ! 既に増援を呼んでおる!」
すると、近くにドローンが飛んでいた。ユニコ君で大暴れした時に、テツが使ってたヤツだ。てことは……
「テツ! オレだ! ケンゴだ! 覚えてるだろ! 敵じゃない!」
オレはドローンへ顔が見えるようにアピールする。しかし、何の反応も無い。
「無駄な足掻きを。わしも忙しい身。そろそろ死ねい!」
くっ! 仕方ねぇ! 少々犯罪チックだが、このメスガキを抑え込むしか――
「鳳殿ではない、か!」
背後から戦利品と言いたげに沢山のアニメグッツを抱えるテツの声が聞こえた。
「テ、テツ!」
「うむ、む。ナツ殿! その者は話していた鳳殿、だ!」
「コレがお前の言っていた、女子高生を侍らせている色欲魔か」
ナツと呼ばれた幼女はゴキジェットバズーカを構えたまま会話を続ける。て言うかテツよ……色欲魔って……そりゃ酷いぜ……
「ナツ殿……訂正、だ! 鳳殿は色欲魔でも無ければ……女子高生を侍らせてもいな、い! 心正しき我々の理解者、だ!」
どうやら色欲うんぬんは、幼女の勝手な解釈らしい。
「……テツ、貴様、本気で言っておるのか!」
「本気……だ! 彼と黒船殿、そして魔王カンナー、ヨシ殿は……信用でき、る!」
「むむむ……」
幼女が揺らいでる。頑張れテツ! オレはゴキジェットバズーカが怖いので全部お前に任せる!
『くふふ。ナツ殿、テツ殿が外界の者をそこまで言うのは類い稀。信用してもよいと思われます』
「レツ! 貴様もか!」
レツ……新たな人物が出てきたな。口調からコイツもキャラが濃そうだ。
するとテツが手を広げてオレの前に出る。
「鳳殿を撃つなら……小生から、だ!」
「テツ。何もそこまでしなくても……」
「鳳殿……小生はあの時の恩を返す時を待ってい、た! 本当に嬉しかったの、だ!」
いや、感動的なシーンなんだろうけどさ……
ジャック・オー・ランタンを被った幼女にゴキジェットバズーカを向けられるオタク(42)って構図はメルヘンを通り越してカオスだ。
この光景を他人に見せて、何をしているのでしょうか? とクイズにしたら、答えられる人類はいないと思われる。
「……全く、そこまで言うのなら。お前の顔を立てよう」
ナツは構えているゴキジェットバズーカの筒先を上に向けてくれた。テツの真摯な声が心に届いたらしい。
「レツ! ドローンは撤収せい! 公僕に見られると面倒じゃ!」
『くふふ、了解』
テツも冷や汗を浮かべて安堵の様子。どうやら、この幼女が彼らにとってのリーダーの様な存在らしい。
「鳳殿。何か用、か?」
「あ、ああ。実は『ハロウィンズ』ってのを探しててな」
住所が格納庫で、自由に出入りするテツなら何か知っていると思い聞く。
「なん、と!」
「貴様……どこでソレを調べた!」
『くふふ』
再び、ゴキジェットバズーカを向けられ、ドローンがブーンと帰ってくる。
オレは慌てて赤羽さんから渡された名刺を取り出す。
「えっと……赤羽って人からここに行くように言われたんだ!」
その名刺を見せると今度は全員が驚いた様子だった。
「ま、まさか! エージェントカラーズ!」
「馬鹿な! レッドフェザー! あの爆発から生きていたと言うのか!?」
『くふふ。伝説は続いていると言うことですねぇ』
「え? なになに?」
オレはもう不思議の国に迷い込んだアリス状態。
ウサギさーん。ウサギさんは……ドコ……?
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