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第203話 ただの社員旅行だよ!
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三回戦目『高さレベル3』。
レベル3は馬の胸と同じくらいの高さになり、他二つとは比べ物にならない難易度となる。
「ちっ……」
目に映る位置の高さに変わった事で馬にも変化が出る。角度や助走の歩幅が合わなければ跳ぶことを強く躊躇うのだ。
カイは五つの内、四つをクリアーするものの、最後の一つはタイミングが合わにトラックを出る。
「――もう折り返しだぜ。無駄な時間を取らせてくれやがったなぁ」
カイはケンゴとすれ違う際に勝ち誇った様に告げる。
「……そうか。後、三回か」
「ったく。さっさと終わらせろよ。一年間、死ぬほどコキ使ってやるよ」
ケンゴがトラックへ行く。集まっていた野次馬達も、一、二回戦の事から今回も跳べないと見て去っていく者も少なくなかった。
「タロー。悪かったな」
ケンゴはタローの首筋を撫でながらそう語りかけるとスタートする。そして、
「あ?」
一つ目のバーを綺麗に越えた。そして、流れるように二つ目のバーを越え、問題の三つ目も当然のように越える。
「はぁ!?」
カイはそんな声を出しケンゴの馬術を凝視する。そして、四つ目を越え、五つ目を何事もなく跳び越えた。
「オレがお前に合わせるよ」
「ブルル」
先程の失敗が嘘のようにスムーズな障害馬術に見ている者は、オォ! と声を揃える。
三回戦の結果。
カイ……クリア四回。
ケンゴ……クリア五回。
「ケッ。運良く噛み合ったみたいだなぁ」
それでもカイがまだ勝ち越している。余裕の表情を崩さない彼にケンゴは、
「ミスは避ける事だ」
「あ?」
「オレとタローはこれから一つも落とさない」
「……素人が」
勝負は四回戦へ突入する。
「危なげない、ぞ!」
敗北へリーチのかかった三回戦目。何とか勝利を拾ったケンゴにテツは首皮一枚繋がったと安堵の息を吐く。
「――いや、危なくなかった」
テツと違い、リンカはケンゴとタローが跳べたのは必然のように思っていた。
三回戦ではケンゴとタローと一体になって走った時と同じ雰囲気を感じたからである。
「ふむ。では、その集中力が続く事が勝利の鍵ですな」
「むむむ。下手に声をかけるべき、か」
「……多分、聞こえてないと思う」
リンカはケンゴの深く集中した表情を見て、外からの雑音は何も聞こえていないと察した。
「ん? ちょっと失礼。応援は任せるよ」
黒船は珍しくプライベートの携帯に連絡が入った事で少し場を後にする。
少し離れてから電話に出ると、英語で会話を始めた。
「久しぶりだね、スヴェン。何の用だい?」
四回戦目『高さレベル1』。
レベルは一番低くとも馬も疲労が現れ始めるので集中力を欠けはバーを落とす事も十分に考えられる。
「余裕だな」
無論、カイは問題なく全てクリアーする。
そして、ケンゴとタローも同様にパーフェクトを収めた。
四回戦の結果。
カイ……クリア五回。
ケンゴ……クリア五回。
「へっ、駄馬を上手く使うじゃねぇか」
カイの言葉にも一瞥するのみでケンゴは返さない。まるで自分を見ていないケンゴの様にカイは苛立ちを募らせる。
「けっ」
馬鹿が。今更パーフェクト決めた所でテメーが負けてんだよ。ズルズル続けて1000円ゲームの掛け金を吊り上げようと思ったが止めだ。
「お前は一年間、奴隷決定だ」
五回戦目。カイはトラックの入り口へ入る。その時、着けているイヤホンマイクに中継している者から連絡が入った。
『カイ、顧客との連絡が途絶えた! 俺も今すぐ高跳びする!』
「……は? おい! どういう事だよ!」
『詳しくはわかんねぇ! とにかく顧客との証拠を全部――なんだ!? お前ら!?』
マイクの向こうでドタドタと暴れる音が聞こえると、ブツッと通信が切れる。
なんだ? 何が起こって――
「行かないなら失敗でいいのか?」
「うるせぇよ」
ケンゴの言葉にカイは焦る様に馬を走らせた。
五回戦目『高さレベル2』。
なんだ? 何が起こってる。
カイは操馬をしながら中継先の仲間に何が起こったのかを考えていた。
日本では競馬は合法だ。加えて俺は勝負の内容を個人的にYouTubeに配信していただけ。例え、何かしらの繋がりがあったとしてもシラを切れば関連性は疑われないハズ――
「スヴェン。君は犯罪組織の資金洗浄を追ってたのかい? 本日、日本の警察と一斉検挙? そして捕まえた洗浄係の部屋の映像中継に私が映ってたと? ふっはっは! ただの社員旅行だよ! 君はしかめっ面で働きづめかい? たまに休暇を取って日本に来たまえ! 私が案内役を勤めよう! 家族サービスをしないとナラヤ君に愛想をつかされるぞ!」
そんな言葉が聞こえて思わず意識をそちらに――
「! しまっ――」
馬とのタイミングが合わずに四つ目のバーを避けざる得なかった。
「くっそ!」
悪態をつきながらトラックを出てケンゴと入れ違う。
「集中しろよ。オレはお前がギブアップしない限り、勝負を止める気はない」
「ごちゃごちゃうるせぇよ! さっさと行け!」
それどころではない。状況を何とか把握しなくては――
その後、ケンゴとタローは一つも落とさずにトラックを回りきる。
五回戦の結果。
カイ……クリア四回。
ケンゴ……クリア五回。
戦績。
一回戦……カイ○
二回戦……カイ○
三回戦……ケンゴ○
四回戦……ドロー
五回戦……ケンゴ○
勝負はサドンデスへともつれ込む。
レベル3は馬の胸と同じくらいの高さになり、他二つとは比べ物にならない難易度となる。
「ちっ……」
目に映る位置の高さに変わった事で馬にも変化が出る。角度や助走の歩幅が合わなければ跳ぶことを強く躊躇うのだ。
カイは五つの内、四つをクリアーするものの、最後の一つはタイミングが合わにトラックを出る。
「――もう折り返しだぜ。無駄な時間を取らせてくれやがったなぁ」
カイはケンゴとすれ違う際に勝ち誇った様に告げる。
「……そうか。後、三回か」
「ったく。さっさと終わらせろよ。一年間、死ぬほどコキ使ってやるよ」
ケンゴがトラックへ行く。集まっていた野次馬達も、一、二回戦の事から今回も跳べないと見て去っていく者も少なくなかった。
「タロー。悪かったな」
ケンゴはタローの首筋を撫でながらそう語りかけるとスタートする。そして、
「あ?」
一つ目のバーを綺麗に越えた。そして、流れるように二つ目のバーを越え、問題の三つ目も当然のように越える。
「はぁ!?」
カイはそんな声を出しケンゴの馬術を凝視する。そして、四つ目を越え、五つ目を何事もなく跳び越えた。
「オレがお前に合わせるよ」
「ブルル」
先程の失敗が嘘のようにスムーズな障害馬術に見ている者は、オォ! と声を揃える。
三回戦の結果。
カイ……クリア四回。
ケンゴ……クリア五回。
「ケッ。運良く噛み合ったみたいだなぁ」
それでもカイがまだ勝ち越している。余裕の表情を崩さない彼にケンゴは、
「ミスは避ける事だ」
「あ?」
「オレとタローはこれから一つも落とさない」
「……素人が」
勝負は四回戦へ突入する。
「危なげない、ぞ!」
敗北へリーチのかかった三回戦目。何とか勝利を拾ったケンゴにテツは首皮一枚繋がったと安堵の息を吐く。
「――いや、危なくなかった」
テツと違い、リンカはケンゴとタローが跳べたのは必然のように思っていた。
三回戦ではケンゴとタローと一体になって走った時と同じ雰囲気を感じたからである。
「ふむ。では、その集中力が続く事が勝利の鍵ですな」
「むむむ。下手に声をかけるべき、か」
「……多分、聞こえてないと思う」
リンカはケンゴの深く集中した表情を見て、外からの雑音は何も聞こえていないと察した。
「ん? ちょっと失礼。応援は任せるよ」
黒船は珍しくプライベートの携帯に連絡が入った事で少し場を後にする。
少し離れてから電話に出ると、英語で会話を始めた。
「久しぶりだね、スヴェン。何の用だい?」
四回戦目『高さレベル1』。
レベルは一番低くとも馬も疲労が現れ始めるので集中力を欠けはバーを落とす事も十分に考えられる。
「余裕だな」
無論、カイは問題なく全てクリアーする。
そして、ケンゴとタローも同様にパーフェクトを収めた。
四回戦の結果。
カイ……クリア五回。
ケンゴ……クリア五回。
「へっ、駄馬を上手く使うじゃねぇか」
カイの言葉にも一瞥するのみでケンゴは返さない。まるで自分を見ていないケンゴの様にカイは苛立ちを募らせる。
「けっ」
馬鹿が。今更パーフェクト決めた所でテメーが負けてんだよ。ズルズル続けて1000円ゲームの掛け金を吊り上げようと思ったが止めだ。
「お前は一年間、奴隷決定だ」
五回戦目。カイはトラックの入り口へ入る。その時、着けているイヤホンマイクに中継している者から連絡が入った。
『カイ、顧客との連絡が途絶えた! 俺も今すぐ高跳びする!』
「……は? おい! どういう事だよ!」
『詳しくはわかんねぇ! とにかく顧客との証拠を全部――なんだ!? お前ら!?』
マイクの向こうでドタドタと暴れる音が聞こえると、ブツッと通信が切れる。
なんだ? 何が起こって――
「行かないなら失敗でいいのか?」
「うるせぇよ」
ケンゴの言葉にカイは焦る様に馬を走らせた。
五回戦目『高さレベル2』。
なんだ? 何が起こってる。
カイは操馬をしながら中継先の仲間に何が起こったのかを考えていた。
日本では競馬は合法だ。加えて俺は勝負の内容を個人的にYouTubeに配信していただけ。例え、何かしらの繋がりがあったとしてもシラを切れば関連性は疑われないハズ――
「スヴェン。君は犯罪組織の資金洗浄を追ってたのかい? 本日、日本の警察と一斉検挙? そして捕まえた洗浄係の部屋の映像中継に私が映ってたと? ふっはっは! ただの社員旅行だよ! 君はしかめっ面で働きづめかい? たまに休暇を取って日本に来たまえ! 私が案内役を勤めよう! 家族サービスをしないとナラヤ君に愛想をつかされるぞ!」
そんな言葉が聞こえて思わず意識をそちらに――
「! しまっ――」
馬とのタイミングが合わずに四つ目のバーを避けざる得なかった。
「くっそ!」
悪態をつきながらトラックを出てケンゴと入れ違う。
「集中しろよ。オレはお前がギブアップしない限り、勝負を止める気はない」
「ごちゃごちゃうるせぇよ! さっさと行け!」
それどころではない。状況を何とか把握しなくては――
その後、ケンゴとタローは一つも落とさずにトラックを回りきる。
五回戦の結果。
カイ……クリア四回。
ケンゴ……クリア五回。
戦績。
一回戦……カイ○
二回戦……カイ○
三回戦……ケンゴ○
四回戦……ドロー
五回戦……ケンゴ○
勝負はサドンデスへともつれ込む。
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