189 / 701
第188話 トイレ休憩
しおりを挟む
「リムジンバスにはトイレも付いているが、使うのは緊急時だけとしよう! 移動距離も長い! 過度な水分摂取は個々の判断でね! 三十分後に出発だ! しかし、目安なので焦らないように!」
金田さんがフロントガラスを笑顔で掃除するバスの前で、仁王立ちする社長の言葉を背に面々はぞろぞろとバスから離れる。
煙草組は喫煙所へ行き、他はトイレと買い物へ向かう。
「人が多いな」
オレはトイレも買い物も必要もないのでバスで待機。窓からメンバーの行く先を見守る。
煙草組――真鍋課長、箕輪さん、加賀、佐藤、田中は喫煙所へ。
女性陣はサービスエリアの遊覧へ。護衛に国尾さん。必要ないと思うけど。
「やぁ、鳳さん」
「あ、どうも」
スマホでこれからの天気でも確認しようかと思っていると、バスに残った箕輪さんの奥さん――鏡子さんが声をかけてくる。
「まさか、こんな形で会うとは思いませんでしたよ」
「そうだね。一期一会ってのは意外と見えない絆でつながるようだ」
夏祭りの暗黒舞踏会以来だ。あの時は箕輪さんの同僚として会話をした程度だったが今回は先生モードとして話しかけてくる。
「箕輪さんは国語の先生で?」
「いや、私は数学だよ。昔から数字を見るのが好きな縁でね」
勝手に体育系のイメージがあったが、意外と理論系なご様子。
「鳳さんは鮫島の従兄かなにか?」
「あ、いえ……ただの隣人です」
「隣に住んでる親戚とかではなく?」
「血縁は無い赤の他人です。隣に住んでるだけの」
疑われてるのかなぁ。リンカの担任らしいし、片親でもある彼女を心配するのは正しい事だろう。
「そうかい。探りみたいになってすまないね」
「いえ。それが普通ですよ」
オレもシズカが一人暮らしして、隣人の赤の他人と仲が良いと聞いたら、最初は信用出来ないだろう。
「夫も鮫島も、鳳さんに対する評価は高かったから個人的に興味があってね」
「そうですか。ちなみに質問を返しても?」
「いいよ」
「箕輪さん――旦那さんとの接点は一体どこで……?」
想像さえも出来ない。あの人とどこで出会いがあったのか。
「夫はカバディのアマチュアだが選手でね。私も趣味でカバディをやっていた縁かな。トレーニング環境が近くて度々再会したんだ。最初は変な奴と言うイメージが強かったけど、話してみると意外と常識人じゃないか。面白れー男って思ってたら、告白されたから生涯の相方になった」
やっぱり体育系だった。めちゃくちゃノリが軽い。
「とまぁ、私はプライベートを語った訳なのだが。鳳さんも鮫島との出会いをどうぞ」
やりますねぇ……流れでリンカとの出会いを聞く作戦だったか! 別に良いけど!
「リンカちゃんとの出会いはオレが入社初日の帰りに――」
「……」
あたしはトイレを済ませて詩織さんと泉さんを待っている時、ふとバスを見ると彼と箕輪先生が話をしていた。
楽しげに談笑している。先生の事だからプライベート的な事を聞いているのだろうけど。
「うーむ」
大丈夫だとは思うが、彼が余計なことを言わないかそわそわする。
「ごめんね、リンカちゃん。待たせた?」
「あ、いえ」
泉さんがハンカチで手を拭きながら合流する。
「ったく、アイツ。箕輪さんの奥さんにまで手を出す気?」
「そ、そんな事は無いですよ! 箕輪先生は切実ですし旦那さんは弁護士ですから!」
事情を知らなければ疑いの目が向けられる構図である事は間違いない。誤解を生まない様に、あたしは慌ててフォローする。
「まぁ、アイツにそんな度胸もないか。それにしても、鏡子さんってリンカちゃんの高校の先生なの?」
「担任です」
「世間って狭いわね。その内、横からセナさんも現れるかも」
「流石にそれは……ないと思う」
あたしは、キョロキョロと辺りを見回す。流石にね。流石に――いないよね?
「それにしても、リンカちゃんも高校生かぁ。身長抜かされちゃったわねー」
泉さんはあたしと背を比べる様に手を頭にかざす。拳一つ分あたしの方が高い。胸は同じくらいだが。
「泉さんは十分魅力的ですよ!」
「ありがとー。背が小さいのを見られるのはいつもの事だから気にしてないわ。それに今回は更に背の低い人いるし」
女性陣ではおそらく一番年上だと思われる国尾樹さんは、小柄で中学生のような見た目をしている。今は、弟さんの肩に乗って、お土産ブースを物色していた。
「個性は人それぞれだからね。リンカちゃんはセナさんの血があるし背は伸びるわよ」
「そう言えば、泉さんって母と接点が?」
あたしの目の前では二人が顔を会わせた事はなかったと記憶している。
「私、昔はタクシー会社で事務のバイトしててさ。そこにセナさんが居たの」
「そうだったんですか」
接点は更に昔であったらしい。しかも母が独身の頃。
「それからしばらくして、セナさんが辞めたって聞いてね。音沙汰はなかったけど……まさか結婚してお子さんまでいるなんて思わなかったわ」
泉さん曰く、母に言い寄る男性は多かったらしいのだが、ガードは相当高かったらしい。
「本人も仕事一筋で、三鷹さんが後継人だった事もあったから、内外共に難攻不落の要塞だったって」
“疲れるわ~。レイコちゃんは素敵な恋をしなさいな~”
とか言って、気疲れか胸のせいかは知らないが、良く肩を凝らせていたと泉さんは言う。
「じゃあ泉さんは、母の夫――父の事って知ってます?」
「リンカちゃんは知らないの?」
泉さんはあたしの質問に逆に驚いた様子だ。
「え? 今……あたしは母と二人で暮らしてますけど」
「そうなの? いやさ、その辺りの事情は知ってるものだと思ってたわ。私もセナさんの相手の事はわからないなぁ。再会した時にはリンカちゃんが居たって形だったし」
「そうですか……」
意外な接点があったので、父の事が何か分かると思ったが空白の間に全てが取り決められた様だ。
「でも、セナさんとリンカちゃんを捨てて逃げたんなら、地の果てまで追いかけて去勢してやるから。何かあったら気軽に連絡してね」
「ははは……分かりました」
一瞬牙が見えた泉さんに愛想笑いをする。それでも自分達の事に親身になってくれる泉さんに感謝していると、
「君たち可愛いね。家族で旅行?」
ナンパがやってきた。
金田さんがフロントガラスを笑顔で掃除するバスの前で、仁王立ちする社長の言葉を背に面々はぞろぞろとバスから離れる。
煙草組は喫煙所へ行き、他はトイレと買い物へ向かう。
「人が多いな」
オレはトイレも買い物も必要もないのでバスで待機。窓からメンバーの行く先を見守る。
煙草組――真鍋課長、箕輪さん、加賀、佐藤、田中は喫煙所へ。
女性陣はサービスエリアの遊覧へ。護衛に国尾さん。必要ないと思うけど。
「やぁ、鳳さん」
「あ、どうも」
スマホでこれからの天気でも確認しようかと思っていると、バスに残った箕輪さんの奥さん――鏡子さんが声をかけてくる。
「まさか、こんな形で会うとは思いませんでしたよ」
「そうだね。一期一会ってのは意外と見えない絆でつながるようだ」
夏祭りの暗黒舞踏会以来だ。あの時は箕輪さんの同僚として会話をした程度だったが今回は先生モードとして話しかけてくる。
「箕輪さんは国語の先生で?」
「いや、私は数学だよ。昔から数字を見るのが好きな縁でね」
勝手に体育系のイメージがあったが、意外と理論系なご様子。
「鳳さんは鮫島の従兄かなにか?」
「あ、いえ……ただの隣人です」
「隣に住んでる親戚とかではなく?」
「血縁は無い赤の他人です。隣に住んでるだけの」
疑われてるのかなぁ。リンカの担任らしいし、片親でもある彼女を心配するのは正しい事だろう。
「そうかい。探りみたいになってすまないね」
「いえ。それが普通ですよ」
オレもシズカが一人暮らしして、隣人の赤の他人と仲が良いと聞いたら、最初は信用出来ないだろう。
「夫も鮫島も、鳳さんに対する評価は高かったから個人的に興味があってね」
「そうですか。ちなみに質問を返しても?」
「いいよ」
「箕輪さん――旦那さんとの接点は一体どこで……?」
想像さえも出来ない。あの人とどこで出会いがあったのか。
「夫はカバディのアマチュアだが選手でね。私も趣味でカバディをやっていた縁かな。トレーニング環境が近くて度々再会したんだ。最初は変な奴と言うイメージが強かったけど、話してみると意外と常識人じゃないか。面白れー男って思ってたら、告白されたから生涯の相方になった」
やっぱり体育系だった。めちゃくちゃノリが軽い。
「とまぁ、私はプライベートを語った訳なのだが。鳳さんも鮫島との出会いをどうぞ」
やりますねぇ……流れでリンカとの出会いを聞く作戦だったか! 別に良いけど!
「リンカちゃんとの出会いはオレが入社初日の帰りに――」
「……」
あたしはトイレを済ませて詩織さんと泉さんを待っている時、ふとバスを見ると彼と箕輪先生が話をしていた。
楽しげに談笑している。先生の事だからプライベート的な事を聞いているのだろうけど。
「うーむ」
大丈夫だとは思うが、彼が余計なことを言わないかそわそわする。
「ごめんね、リンカちゃん。待たせた?」
「あ、いえ」
泉さんがハンカチで手を拭きながら合流する。
「ったく、アイツ。箕輪さんの奥さんにまで手を出す気?」
「そ、そんな事は無いですよ! 箕輪先生は切実ですし旦那さんは弁護士ですから!」
事情を知らなければ疑いの目が向けられる構図である事は間違いない。誤解を生まない様に、あたしは慌ててフォローする。
「まぁ、アイツにそんな度胸もないか。それにしても、鏡子さんってリンカちゃんの高校の先生なの?」
「担任です」
「世間って狭いわね。その内、横からセナさんも現れるかも」
「流石にそれは……ないと思う」
あたしは、キョロキョロと辺りを見回す。流石にね。流石に――いないよね?
「それにしても、リンカちゃんも高校生かぁ。身長抜かされちゃったわねー」
泉さんはあたしと背を比べる様に手を頭にかざす。拳一つ分あたしの方が高い。胸は同じくらいだが。
「泉さんは十分魅力的ですよ!」
「ありがとー。背が小さいのを見られるのはいつもの事だから気にしてないわ。それに今回は更に背の低い人いるし」
女性陣ではおそらく一番年上だと思われる国尾樹さんは、小柄で中学生のような見た目をしている。今は、弟さんの肩に乗って、お土産ブースを物色していた。
「個性は人それぞれだからね。リンカちゃんはセナさんの血があるし背は伸びるわよ」
「そう言えば、泉さんって母と接点が?」
あたしの目の前では二人が顔を会わせた事はなかったと記憶している。
「私、昔はタクシー会社で事務のバイトしててさ。そこにセナさんが居たの」
「そうだったんですか」
接点は更に昔であったらしい。しかも母が独身の頃。
「それからしばらくして、セナさんが辞めたって聞いてね。音沙汰はなかったけど……まさか結婚してお子さんまでいるなんて思わなかったわ」
泉さん曰く、母に言い寄る男性は多かったらしいのだが、ガードは相当高かったらしい。
「本人も仕事一筋で、三鷹さんが後継人だった事もあったから、内外共に難攻不落の要塞だったって」
“疲れるわ~。レイコちゃんは素敵な恋をしなさいな~”
とか言って、気疲れか胸のせいかは知らないが、良く肩を凝らせていたと泉さんは言う。
「じゃあ泉さんは、母の夫――父の事って知ってます?」
「リンカちゃんは知らないの?」
泉さんはあたしの質問に逆に驚いた様子だ。
「え? 今……あたしは母と二人で暮らしてますけど」
「そうなの? いやさ、その辺りの事情は知ってるものだと思ってたわ。私もセナさんの相手の事はわからないなぁ。再会した時にはリンカちゃんが居たって形だったし」
「そうですか……」
意外な接点があったので、父の事が何か分かると思ったが空白の間に全てが取り決められた様だ。
「でも、セナさんとリンカちゃんを捨てて逃げたんなら、地の果てまで追いかけて去勢してやるから。何かあったら気軽に連絡してね」
「ははは……分かりました」
一瞬牙が見えた泉さんに愛想笑いをする。それでも自分達の事に親身になってくれる泉さんに感謝していると、
「君たち可愛いね。家族で旅行?」
ナンパがやってきた。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる