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第177話 君は負けたんだ。女の子なのにね
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「この人は国尾正義さん。ポカリ買おうとして下に落とした100円を自販機を持ち上げて取るの手伝ってくれたんだ」
ダイキが連れてきたのは、夏のコテージの撮影で川辺のシーンで近寄ってきた半裸のキャンパー、国尾だった。
筋骨隆々の体格は一気に屋根付きのベンチが狭く感じる程に巨大。ヒカリとダイキが両肩に乗っても平然としてそうなバルクをしている。
伸縮性のインナーを着ているが、ボディペイントと錯覚するほどにピチピチだ。
“今の人? 国尾さんって人。彼はホモなんだ。歴の浅いカップルも狙う、男にとっては人災だよ。女性には無害で、弁護士な事もあるから勤務中は頼もしかったりするんどけど……休みに男だけで遭遇するとヤバい人なんだ”
コテージの撮影時にケンゴから国尾の素性を一通りの聞いていたヒカリは、わたし達には無害か、とスルーしたが……
「困ってる男子……いや高校男子……いや、男の子を見過ごす事は俺には出来ないぜ」
誇るような発言と、ぽん、とダイキの肩を手を置く国尾を見てヒカリは確信した。
ダイキのお尻を狙ってる、と。
「えっと……谷高光です」
「ほっほう! 知ってるよ! 雑誌は買ったからね! 姉と俺で二部! 今じゃすっかり愛読さ! そして、君は音無大騎君だろう?」
「あ、やっぱりわかります?」
帽子に眼鏡をかけて、若干の変装してのランニングだったが、ここまで近づかれれば気づくかぁ、とダイキは帽子を取る。
「君は有名だからね! 試合を見て特に俺は気にしていた!」
「そうなんですか? なんか嬉しいです」
端から見れば普通の会話なんだろうけど……
国尾の素性を聞いているヒカリからすれば懸念しかない。
「それにしても凄い筋肉ですね。重量上げでもやってるんですか?」
「ジムでは日課だよ。君も中々に引き締まっているね!」
服の上からでもダイキの身体を正確にスキャンする国尾アイは見誤る事はない。
「触ってみるかい?」
ズイ、と丸太のような腕をV字に曲げて筋肉を強調する。
「良いんですか? やったー。ヒカリちゃんも、ほら」
「わたしは……いいわ」
どうしたものかと考えるヒカリは距離を置く。ダイキは男として憧れる大柄な国尾の体格に興味津々だった。
「うっわ。すっご……硬い……」
「君も細身ながらしっかりとしているね」
国尾もダイキの肩を品定めするように触る。触るな触るな。と、ヒカリは心の中で訴えていた。
「やっぱり、何かスポーツの為に鍛えてるんですか?」
「いや、俺は持論として筋肉が全てを解決するとは思っていない。いくら鍛えようとも結局は己自身の精神が大事だ。辛く、現状を維持する過程こそ最も価値がある」
「そうなんですか……野球に役立つなら筋トレを教えても貰おうかと思ったんですけど……」
「と、俺もついさっきまで思っていたが、やはり筋肉は万能だ! 全てを解決する! 俺も野球を極める為に鍛えてるんだぜ! きっと野球が上手くなる!」
言ってる事は無茶苦茶だがダイキは筋肉に翻弄され、おお、と深く理解もせずに納得していた。
人が嘘をつくときの反応が全く無いのが恐ろしいわね……
ヒカリは父親により培われた、嘘を見抜く眼を持つ。
人が虚偽を口にする時は何かしらの反応が見てとれ、ソレ察知する事で嘘かどうかを見抜くのだ。
しかし、国尾からはその様な反応を全く感じ取れない。言動は明らかにおかしいのだが……
「ふむ。残念ながらそろそろ時間だ。これからサウナで秘密の特訓でね」
「え、特訓ですか!? 国尾さん! 僕達も行ってもいいですか?」
「ちょっ! ダイキ!」
ヒカリは先にダイキの手綱をきちんと握るべきだったと後悔した。
「俺のサウナ特訓にかい?」
「はい!」
ダイキの返事に国尾は上半身に力を入れると、バリィ! とインナーが弾け飛ぶ。
「いいよ」
「あっはっは。やっぱり凄い筋肉ですね。服が弾け飛んじゃいましたよ」
本格的に国尾がヤバいラインを越えようとしているにも関わらず、純真無垢なダイキはそれを理解しきれていない。
「ふむ、上半身開放した俺を見てそのリアクションなのかい?」
「え? 何かおかしいですか?」
「いや……普通におかしいでしょ……」
国尾に圧倒され続け、ヒカリはようやくツッコミに口を開く事が出来た。
「なるほど! 君の色は染まっていない真っ白なキャンパスという事か! なら俺の好き放題に出来そうだな!」
「! ちょっと! 何を言って――」
「行くぞ! ダイキ君! 俺のサウナ特訓は厳しいぜ! だが、乗り越えた時……君は生まれ変わったと思う程に違う世界を知るだろう!」
「本当ですか! 行きましょう!」
「ダイキ! それ本気で言ってるの!?」
ヒカリは何とか思い止まらせようと声を張り上げる。
「大丈夫だよ、ヒカリちゃん。ただ筋トレするだけだって。国尾さんを見てよ。彼の無駄のない筋肉は相当な苦労と効率の良いトレーニングの賜物だよ。そんな彼から教えて貰えるなんて、こんな機会は滅多にないよ」
ダメだ……細身で筋肉が付きづらいダイキはすっかり国尾の肉体を羨ましがってしまっている。
「さぁ! 行くぞ! 大丈夫だ、谷高ちゃん! サウナには女湯もある! 君も退屈はしない! 全部俺の奢りだ!」
「わぁ! 何から何までありがとうございます!」
「良いんだよ」
完全に行く方向で話が纏まってしまっている。くっ! こうなったら――
ヒカリはダイキの買ってきたポカリを開けると、その場で飲み始めた。中身はみるみる減って行き、中身を全て飲み干す。
「ヒカリちゃん?」
「ふー。ダイキ……喉が渇いたからポカリ買ってきて」
「え? でも今……」
「お金払うから!」
「わ、わかったよ」
ヒカリの奇行に圧されてダイキはまた自販機へ走って行った。
「国尾さん」
そして、国尾と二人きりになったヒカリは笑顔を向ける。
「彼、今リハビリ中なんです。横から変な事を教えないで貰えますか?」
ニコリ、と素敵な笑みを浮かべるがその裏にある圧を隠すことなく国尾にぶつける。わたし達は未成年ですよ? と――
「なるほど……な」
対して国尾は腕を組み、悟る様に眼を閉じた。
「谷高ちゃん。これは同意の上なんだよ。お互いに拒絶の意思がなければ法律上は全く問題ないんだ。俺は弁護士だよ。残念だったね。つまり、君は負けたんだよ、この国尾にね。悔しいよなぁ。君は凄く可愛い女の子なのに。ダイキ君は君じゃなくて俺を選んだ。認めなよ。君は負けたんだ。女の子なのにね」
「くっ……おのれっ!!」
二度も負けたと言われたにも関わらずド正論過ぎて何も言い返せない。知識のあるホモは厄介極まりないと身を持って理解した。
「大丈夫だ! 彼の事はきっちり俺が面倒を見るよ! 君より大きなこの大胸筋で抱き締めてね!」
「ヒカリちゃーん。ポカリー」
ダイキが帰ってきてしまった。よし、行こうか! と国尾は先行して歩き出す。はい! とダイキは意気揚々とその後に続く。
あぁ……どうしよう……ケン兄に連絡……ダメだ、間に合わない。このままだとダイキが……ダイキのお尻が――
「待って!」
何とか声を絞り出したヒカリ。どうしたの? とダイキは振り向き国尾は、無駄な時稼ぎを、と勝ち誇る笑みで向き直る。
「サウナ……わたしの知り合いの店があるから、そこに行きましょう」
それが今のヒカリに出来る精一杯の抵抗だった。
ダイキが連れてきたのは、夏のコテージの撮影で川辺のシーンで近寄ってきた半裸のキャンパー、国尾だった。
筋骨隆々の体格は一気に屋根付きのベンチが狭く感じる程に巨大。ヒカリとダイキが両肩に乗っても平然としてそうなバルクをしている。
伸縮性のインナーを着ているが、ボディペイントと錯覚するほどにピチピチだ。
“今の人? 国尾さんって人。彼はホモなんだ。歴の浅いカップルも狙う、男にとっては人災だよ。女性には無害で、弁護士な事もあるから勤務中は頼もしかったりするんどけど……休みに男だけで遭遇するとヤバい人なんだ”
コテージの撮影時にケンゴから国尾の素性を一通りの聞いていたヒカリは、わたし達には無害か、とスルーしたが……
「困ってる男子……いや高校男子……いや、男の子を見過ごす事は俺には出来ないぜ」
誇るような発言と、ぽん、とダイキの肩を手を置く国尾を見てヒカリは確信した。
ダイキのお尻を狙ってる、と。
「えっと……谷高光です」
「ほっほう! 知ってるよ! 雑誌は買ったからね! 姉と俺で二部! 今じゃすっかり愛読さ! そして、君は音無大騎君だろう?」
「あ、やっぱりわかります?」
帽子に眼鏡をかけて、若干の変装してのランニングだったが、ここまで近づかれれば気づくかぁ、とダイキは帽子を取る。
「君は有名だからね! 試合を見て特に俺は気にしていた!」
「そうなんですか? なんか嬉しいです」
端から見れば普通の会話なんだろうけど……
国尾の素性を聞いているヒカリからすれば懸念しかない。
「それにしても凄い筋肉ですね。重量上げでもやってるんですか?」
「ジムでは日課だよ。君も中々に引き締まっているね!」
服の上からでもダイキの身体を正確にスキャンする国尾アイは見誤る事はない。
「触ってみるかい?」
ズイ、と丸太のような腕をV字に曲げて筋肉を強調する。
「良いんですか? やったー。ヒカリちゃんも、ほら」
「わたしは……いいわ」
どうしたものかと考えるヒカリは距離を置く。ダイキは男として憧れる大柄な国尾の体格に興味津々だった。
「うっわ。すっご……硬い……」
「君も細身ながらしっかりとしているね」
国尾もダイキの肩を品定めするように触る。触るな触るな。と、ヒカリは心の中で訴えていた。
「やっぱり、何かスポーツの為に鍛えてるんですか?」
「いや、俺は持論として筋肉が全てを解決するとは思っていない。いくら鍛えようとも結局は己自身の精神が大事だ。辛く、現状を維持する過程こそ最も価値がある」
「そうなんですか……野球に役立つなら筋トレを教えても貰おうかと思ったんですけど……」
「と、俺もついさっきまで思っていたが、やはり筋肉は万能だ! 全てを解決する! 俺も野球を極める為に鍛えてるんだぜ! きっと野球が上手くなる!」
言ってる事は無茶苦茶だがダイキは筋肉に翻弄され、おお、と深く理解もせずに納得していた。
人が嘘をつくときの反応が全く無いのが恐ろしいわね……
ヒカリは父親により培われた、嘘を見抜く眼を持つ。
人が虚偽を口にする時は何かしらの反応が見てとれ、ソレ察知する事で嘘かどうかを見抜くのだ。
しかし、国尾からはその様な反応を全く感じ取れない。言動は明らかにおかしいのだが……
「ふむ。残念ながらそろそろ時間だ。これからサウナで秘密の特訓でね」
「え、特訓ですか!? 国尾さん! 僕達も行ってもいいですか?」
「ちょっ! ダイキ!」
ヒカリは先にダイキの手綱をきちんと握るべきだったと後悔した。
「俺のサウナ特訓にかい?」
「はい!」
ダイキの返事に国尾は上半身に力を入れると、バリィ! とインナーが弾け飛ぶ。
「いいよ」
「あっはっは。やっぱり凄い筋肉ですね。服が弾け飛んじゃいましたよ」
本格的に国尾がヤバいラインを越えようとしているにも関わらず、純真無垢なダイキはそれを理解しきれていない。
「ふむ、上半身開放した俺を見てそのリアクションなのかい?」
「え? 何かおかしいですか?」
「いや……普通におかしいでしょ……」
国尾に圧倒され続け、ヒカリはようやくツッコミに口を開く事が出来た。
「なるほど! 君の色は染まっていない真っ白なキャンパスという事か! なら俺の好き放題に出来そうだな!」
「! ちょっと! 何を言って――」
「行くぞ! ダイキ君! 俺のサウナ特訓は厳しいぜ! だが、乗り越えた時……君は生まれ変わったと思う程に違う世界を知るだろう!」
「本当ですか! 行きましょう!」
「ダイキ! それ本気で言ってるの!?」
ヒカリは何とか思い止まらせようと声を張り上げる。
「大丈夫だよ、ヒカリちゃん。ただ筋トレするだけだって。国尾さんを見てよ。彼の無駄のない筋肉は相当な苦労と効率の良いトレーニングの賜物だよ。そんな彼から教えて貰えるなんて、こんな機会は滅多にないよ」
ダメだ……細身で筋肉が付きづらいダイキはすっかり国尾の肉体を羨ましがってしまっている。
「さぁ! 行くぞ! 大丈夫だ、谷高ちゃん! サウナには女湯もある! 君も退屈はしない! 全部俺の奢りだ!」
「わぁ! 何から何までありがとうございます!」
「良いんだよ」
完全に行く方向で話が纏まってしまっている。くっ! こうなったら――
ヒカリはダイキの買ってきたポカリを開けると、その場で飲み始めた。中身はみるみる減って行き、中身を全て飲み干す。
「ヒカリちゃん?」
「ふー。ダイキ……喉が渇いたからポカリ買ってきて」
「え? でも今……」
「お金払うから!」
「わ、わかったよ」
ヒカリの奇行に圧されてダイキはまた自販機へ走って行った。
「国尾さん」
そして、国尾と二人きりになったヒカリは笑顔を向ける。
「彼、今リハビリ中なんです。横から変な事を教えないで貰えますか?」
ニコリ、と素敵な笑みを浮かべるがその裏にある圧を隠すことなく国尾にぶつける。わたし達は未成年ですよ? と――
「なるほど……な」
対して国尾は腕を組み、悟る様に眼を閉じた。
「谷高ちゃん。これは同意の上なんだよ。お互いに拒絶の意思がなければ法律上は全く問題ないんだ。俺は弁護士だよ。残念だったね。つまり、君は負けたんだよ、この国尾にね。悔しいよなぁ。君は凄く可愛い女の子なのに。ダイキ君は君じゃなくて俺を選んだ。認めなよ。君は負けたんだ。女の子なのにね」
「くっ……おのれっ!!」
二度も負けたと言われたにも関わらずド正論過ぎて何も言い返せない。知識のあるホモは厄介極まりないと身を持って理解した。
「大丈夫だ! 彼の事はきっちり俺が面倒を見るよ! 君より大きなこの大胸筋で抱き締めてね!」
「ヒカリちゃーん。ポカリー」
ダイキが帰ってきてしまった。よし、行こうか! と国尾は先行して歩き出す。はい! とダイキは意気揚々とその後に続く。
あぁ……どうしよう……ケン兄に連絡……ダメだ、間に合わない。このままだとダイキが……ダイキのお尻が――
「待って!」
何とか声を絞り出したヒカリ。どうしたの? とダイキは振り向き国尾は、無駄な時稼ぎを、と勝ち誇る笑みで向き直る。
「サウナ……わたしの知り合いの店があるから、そこに行きましょう」
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