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第176話 ヒカリとダイキとほっほう!
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夏の暑さが尾を引くものの、夕方から夜は冷房が必要なくなる10月初秋。二人の高校生が市内でも大きな公園のランニングコースを走っていた。
「ダイキ、ちょっと休憩しよ」
帽子にランニングウェアを着た谷高光は長い後ろ髪をポニーテールにまとめ、肩で息をしながら近くの屋根付きベンチを指差した。
「あ、ごめん。ペース早すぎた?」
ヒカリのニメートル程先を黙々と走っていた、音無大騎は足を止めるとベンチへよろよろと向かうヒカリを視界に捉える。
「ふぅー。流石野球部ね。わたしじゃもう、ついて行けないか」
ダイキは高校野球の強豪である白亜高校に所属している。1年生にしてレギュラーを取り、夏の甲子園では一層注目を浴びていた。
「いや、ヒカリちゃんも凄いよ。女子マネージャーの先輩は普段はキックボードで追いかけてくるからさ。陸上部の男子くらいだよ。野球部のランニングについて来れるの」
ヒカリとダイキはケンゴを接点に知り合った幼馴染みである。
二人は家は近いものの、区画が絶妙に別れており、二人は小学は一緒でも中学と高校は別の所へ行っていた。
「昔は、わたしの後ろを頑張って追いかけて来てたのに」
ヒカリはコの字形のベンチに仰向けで寝転がって全身を休めつつ屋根の裏側を見る。荒い息を整える様に胸が上下していた。
「あの時はケン兄ちゃんやリンカちゃんに追い付くので必死だったから」
ダイキも少し休む様にヒカリから離れた位置に当時を思い出しながら座る。息は乱れているが、荒れている程ではない。
「それが今や時の高校生か。随分と高い所に飛び出したわね」
ヒカリは身体を起こすとベンチの上を四つん這いで、のしのしと歩き、ダイキの膝の上に頭を置いて再度寝転がった。
「ヒ、ヒカリちゃん!?」
咄嗟の行動に様子を窺っていたダイキは両手をわたわたさせ、思わずそんな声を上げる。
「昔、良くやってたじゃん。膝枕。それともダイキがあたしのに乗る?」
「い……いや。これで良いです……」
「あはは」
どこに眼をやって良いか視線先を探すダイキを見上げてヒカリは笑う。
「あんたはさ。やっぱりプロになるの?」
「……どうかな。まだわからない」
夏の甲子園決勝戦。
今年の夏で最も暑い日に行われたその試合は観客からも熱中症者が出るほどに観ている者を熱くさせた。
1試合に濃縮された白亜高校VS四季彩高校の激闘の九回イニングは、高校野球史上でもトップ10に入る死闘だったと言われている。
「気にしてる?」
「……」
決勝戦でダイキは致命的なミスを犯した。そして、試合後に熱中症で倒れたダイキは病院に運ばれたのである。
「あんた、ちょっと疾走し過ぎてたからね。ちゃんと休んで、心に整理をつけてから答えを出せばいいわ。わたし達も後ろにいるから」
「……うん」
ダイキは試合後から野球部に顔を出していない。それだけ、自分のミスに責任を感じており、試合後は退部届けを出した程だった。
しかし監督の獅子堂は、
“心を整えてからもう一度考えて、答えを聞かせてください”
と言って保留にしている。
「野球やってるあんたは凄く輝いてるわ」
「そんな事ないよ。僕は……皆の歩みを止めたくなかったんだ」
いつもダイキの前を走る三人。それに追い付こうと無理して転んでしまう。すると、三人は足を止めて戻って来てくれるのだ。
「そんな大層なものじゃないわよ。わたしもリンも。ケン兄は……例外ね。彼は大人だから」
「ヒカリちゃんは水泳はやってないの?」
小学の頃にヒカリが程よい成績を修めた水泳の事をダイキは尋ねる。
「趣味程度にはね。ガチでやる程、身体も時間も作るつもりはないわよ」
スポーツの中でも水泳は好きな方だ。水の中を己の身一つで自在に動き回るのは特別な感じがする。
「あんたはモテるでしょ?」
「え! いきなりなにさ」
その反応を見てヒカリは笑う。
「ふっふっふ。野球とサッカーは高校でも花形のスポーツなのよ。そこで目立つなんて、女子がほっとくと思う?」
「そ、そうかな……」
「学校は行ってるんでしょ? 告白くらいされたんじゃない?」
「いや! そんな事無いよ! なんか下駄箱に手紙が入ってたくらいで!」
「へー、何通?」
「いっぱい」
ダイキは普段は童顔で垢抜けない感じだが、試合時の研ぎ澄まされた相貌を見れば、きゅん、と来る者も少なくないだろう。
「……なんかマネージャー志望の女子生徒も増えたらしいし……」
「ほーん。それで手紙は開けたの?」
「開けてないよ! なんか怖いし……」
ダイキは何か勘違いしてるな、とヒカリは手紙を出した者達に同情する。
「帰ったら開けてみましょ。わたしがアドバイスしたげる」
そちらの経験が豊富なヒカリはダイキの膝から起き上がる。しかし、少しだけ立ち眩みにフラついた。
「大丈夫?」
「ちょっとフラついただけよ」
「飲み物買ってくるよ。まだ休んでて」
「あ、ちょっと――」
静止も聞かずにダイキは飛び出して行った。ペットボトルを抱えては走るのは難しくなると言うのに。
「まったく……忠犬みたいに走り回って」
ヒカリはダイキから部活を辞めると聞かされた際に彼の親から、彼の事を気にかけて欲しいと頼まれていた。
ダイキはヒカリにとっても弟の様なモノ。落ち込んで、今まで積み上げた物を一時の感情で捨てるのは間違いである。
その様に深く沈み過ぎて、自分では引き上げられなかったリンカを見ていただけに、ダイキを助けたいと思っていた。
「同い年でもまだ弟ね」
高校も別で部活が忙しくて接点が薄れていた弟分。コレを気に色々と高校生活の事を聞き出すとしよう。
「おまたせ」
「お金は後で返す――」
と、ヒカリはポカリを片手に戻ってきたダイキと、何故か隣に立っている国尾正義を見て言葉を詰まらせた。
「ほっほう!」
国尾が、わっ! と笑った。
「ダイキ、ちょっと休憩しよ」
帽子にランニングウェアを着た谷高光は長い後ろ髪をポニーテールにまとめ、肩で息をしながら近くの屋根付きベンチを指差した。
「あ、ごめん。ペース早すぎた?」
ヒカリのニメートル程先を黙々と走っていた、音無大騎は足を止めるとベンチへよろよろと向かうヒカリを視界に捉える。
「ふぅー。流石野球部ね。わたしじゃもう、ついて行けないか」
ダイキは高校野球の強豪である白亜高校に所属している。1年生にしてレギュラーを取り、夏の甲子園では一層注目を浴びていた。
「いや、ヒカリちゃんも凄いよ。女子マネージャーの先輩は普段はキックボードで追いかけてくるからさ。陸上部の男子くらいだよ。野球部のランニングについて来れるの」
ヒカリとダイキはケンゴを接点に知り合った幼馴染みである。
二人は家は近いものの、区画が絶妙に別れており、二人は小学は一緒でも中学と高校は別の所へ行っていた。
「昔は、わたしの後ろを頑張って追いかけて来てたのに」
ヒカリはコの字形のベンチに仰向けで寝転がって全身を休めつつ屋根の裏側を見る。荒い息を整える様に胸が上下していた。
「あの時はケン兄ちゃんやリンカちゃんに追い付くので必死だったから」
ダイキも少し休む様にヒカリから離れた位置に当時を思い出しながら座る。息は乱れているが、荒れている程ではない。
「それが今や時の高校生か。随分と高い所に飛び出したわね」
ヒカリは身体を起こすとベンチの上を四つん這いで、のしのしと歩き、ダイキの膝の上に頭を置いて再度寝転がった。
「ヒ、ヒカリちゃん!?」
咄嗟の行動に様子を窺っていたダイキは両手をわたわたさせ、思わずそんな声を上げる。
「昔、良くやってたじゃん。膝枕。それともダイキがあたしのに乗る?」
「い……いや。これで良いです……」
「あはは」
どこに眼をやって良いか視線先を探すダイキを見上げてヒカリは笑う。
「あんたはさ。やっぱりプロになるの?」
「……どうかな。まだわからない」
夏の甲子園決勝戦。
今年の夏で最も暑い日に行われたその試合は観客からも熱中症者が出るほどに観ている者を熱くさせた。
1試合に濃縮された白亜高校VS四季彩高校の激闘の九回イニングは、高校野球史上でもトップ10に入る死闘だったと言われている。
「気にしてる?」
「……」
決勝戦でダイキは致命的なミスを犯した。そして、試合後に熱中症で倒れたダイキは病院に運ばれたのである。
「あんた、ちょっと疾走し過ぎてたからね。ちゃんと休んで、心に整理をつけてから答えを出せばいいわ。わたし達も後ろにいるから」
「……うん」
ダイキは試合後から野球部に顔を出していない。それだけ、自分のミスに責任を感じており、試合後は退部届けを出した程だった。
しかし監督の獅子堂は、
“心を整えてからもう一度考えて、答えを聞かせてください”
と言って保留にしている。
「野球やってるあんたは凄く輝いてるわ」
「そんな事ないよ。僕は……皆の歩みを止めたくなかったんだ」
いつもダイキの前を走る三人。それに追い付こうと無理して転んでしまう。すると、三人は足を止めて戻って来てくれるのだ。
「そんな大層なものじゃないわよ。わたしもリンも。ケン兄は……例外ね。彼は大人だから」
「ヒカリちゃんは水泳はやってないの?」
小学の頃にヒカリが程よい成績を修めた水泳の事をダイキは尋ねる。
「趣味程度にはね。ガチでやる程、身体も時間も作るつもりはないわよ」
スポーツの中でも水泳は好きな方だ。水の中を己の身一つで自在に動き回るのは特別な感じがする。
「あんたはモテるでしょ?」
「え! いきなりなにさ」
その反応を見てヒカリは笑う。
「ふっふっふ。野球とサッカーは高校でも花形のスポーツなのよ。そこで目立つなんて、女子がほっとくと思う?」
「そ、そうかな……」
「学校は行ってるんでしょ? 告白くらいされたんじゃない?」
「いや! そんな事無いよ! なんか下駄箱に手紙が入ってたくらいで!」
「へー、何通?」
「いっぱい」
ダイキは普段は童顔で垢抜けない感じだが、試合時の研ぎ澄まされた相貌を見れば、きゅん、と来る者も少なくないだろう。
「……なんかマネージャー志望の女子生徒も増えたらしいし……」
「ほーん。それで手紙は開けたの?」
「開けてないよ! なんか怖いし……」
ダイキは何か勘違いしてるな、とヒカリは手紙を出した者達に同情する。
「帰ったら開けてみましょ。わたしがアドバイスしたげる」
そちらの経験が豊富なヒカリはダイキの膝から起き上がる。しかし、少しだけ立ち眩みにフラついた。
「大丈夫?」
「ちょっとフラついただけよ」
「飲み物買ってくるよ。まだ休んでて」
「あ、ちょっと――」
静止も聞かずにダイキは飛び出して行った。ペットボトルを抱えては走るのは難しくなると言うのに。
「まったく……忠犬みたいに走り回って」
ヒカリはダイキから部活を辞めると聞かされた際に彼の親から、彼の事を気にかけて欲しいと頼まれていた。
ダイキはヒカリにとっても弟の様なモノ。落ち込んで、今まで積み上げた物を一時の感情で捨てるのは間違いである。
その様に深く沈み過ぎて、自分では引き上げられなかったリンカを見ていただけに、ダイキを助けたいと思っていた。
「同い年でもまだ弟ね」
高校も別で部活が忙しくて接点が薄れていた弟分。コレを気に色々と高校生活の事を聞き出すとしよう。
「おまたせ」
「お金は後で返す――」
と、ヒカリはポカリを片手に戻ってきたダイキと、何故か隣に立っている国尾正義を見て言葉を詰まらせた。
「ほっほう!」
国尾が、わっ! と笑った。
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