上 下
157 / 701

第156話 何か悪巧み~?

しおりを挟む
「主任。今日は定時で上がってください」
「あら、私を追い出して何か悪巧み~?」

 事務の女性社員の言葉にセナは、ふふ、と笑う。
 普段なら皆の仕事の進捗を一通り確認してから、明日の社の全体の流れをプランニングしてから帰宅する。
 そのシステムは6月に派遣で来ていた鬼灯によって提唱され、自社の生産性を上げたものの、使いこなして全体に反映させているのはセナだけだった。

「私たちも主任の仕事を肩代わり出来るようになったかの確認したいのです」
「明日の朝、チェックをお願いします」

 それを今日は事務の女の子たちが肩代わりしてくれるとの事。挑戦しようとする部下の提案にセナは微笑む。

「それならお願いしようかしら」

 出来る人間が増えるのは良い事だ。

「鮫島主任! 今日ですよね! ディナ―――」
「沖合さん。さっき黒鉄先生から指定の連絡がありましたよ。今すぐ行った方が良いと思います」
「ちょっ! 何でもっと早く言ってくれないの!?」
「何度も電話しましたよ。でも折り返しが無くて会社に帰って来てからしか話せないなら仕方ないでしょう?」

 政治家からの指定を持つほどに沖合の仕事ぶりは優れていると社内でも認められていた。慌てて飛び出す沖合をセナは、ふふ、と笑って見送る。

「それじゃ、お言葉に甘えさせてもらうわ~」

 気を使ってくれる会社の人たちに感謝しつつ、セナはいつもよりも早く家に帰ることにした。





 会社を出て、駅まで行くバスに普段より二つは早い時間帯で乗り込む。
 始まり出した帰宅ラッシュに座れる所は無いので入り口近くの吊革を掴む。
 揺られる事30分。駅に到着し、バスから降りるとそこからJRで4駅程登る。
 女性専用車輌に乗って、吊革に掴まって外の流れる景色を見ながら昔を思い出した。

 あの人が過去を追いかける事を助ける為に、仕事先に近いアパートに引っ越した。
 唐突の生活環境の変化にリンカにはとても寂しい思いをさせてしまっただろう。なにせ、私たちの都合で何も知らない土地に連れてきてしまったのだから。

「……」

 こんな時、父と母が生きていたらと考える事がある。
 父は厳格だったので、あの人の事は素直に受け入れられなかっただろう。その点、母は私の判断を否定せず、一度やってみなさい、と背中を押してくれる。
 そして、二人ともリンカの事は目に入れたい程可愛がってくれたハズ。あの厳格な父がデレデレする所を見れなかったのは、かなり残念だ。

“誘拐じゃないです! 最近、隣に越してきた鳳健吾と言います! お嬢さんが部屋の前で座られてたものですから! ハイ!”

「ふふ」

 彼と最初に話したのはスマホに連絡を貰った事だった。
 リンカからの番号に出てみると若い男の子の声。そして、リンカにも彼の事を聞いてみると、問題なさそうだったので世話をお願いしたのだ。

「もう六年も経つのね」

 自分は仕事で娘にはかまえない。寂しい思いをさせて、素行悪く育ってしまう懸念があった。将来悪い母親だと言われようとも、自分達の都合を娘に押し付けた報いだと受け入れるつもりだった。

“お帰りなさい! 今日ね、お兄ちゃんとデパートに行ったんだ! そしたら友達が増えたよ! ヒカリちゃんって言うの――”

 彼は私の代わりに娘の心を支えてくれた。寂しい思いをさせてしまい、恨み辛みをぶつけても良いのに……娘は楽しそうに日々の事を私に話してくれる。

“ご飯どう? 一応、包丁と火はお兄ちゃんの監修が入ってます”
“生煮えとかは無いと思いますけど”

 二人して夕飯を作ってくれた時は本当に嬉しかった。私が、美味しい、と言うと二人はハイタッチして、今後はあたしが夕飯は作るから、お母さんは仕事に集中しても良いよ! とリンカが言ってくれた時には思わず涙が出た。

 ある時、あの人絡みでリンカに害が及び、更に彼も捕まったと聞いた時は、本当にあの人に連絡しなければと思った。

“今、オレは出ました。セナさんはアパートで待っててください。リンカちゃんは必ずオレが連れ帰ります”

 彼が中心となって色々な人が協力してくれたのだろう。アパートで待っていると彼は眠るリンカを背負って帰ってきてくれた。

“リンカちゃんが一番心を許せるのは世界でセナさんだけですよ”

 血の繋がる家族はどんな形になろうとも切れない絆で繋がり、それを裂こうする存在は許せないと言ってくれた。

“オレには怖いジジィとバァさんしかいないので。リンカちゃんにはセナさんみたいな美人で優しいお母さんが居て羨ましいなぁ”

 彼は私にとってもう息子の様なものだった。リンカも少しツンツンしているが彼の事を再び受け入れてくれている。

「まったく、あの子は……天の邪鬼なんだから」

 これから何が待ち受けるのかは分からないが、彼が本当の息子となってくれた時は、全てが解決した時だろう。

「ふふ」

 私は二人の成長を見守りながらお酒を片手にその時を待つことにしよう。
 JRが最寄駅に着いたので、他の人と一緒に車輌から降りる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが集団お漏らしする話

赤髪命
大衆娯楽
※この作品は「校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話」のifバージョンとして、もっと渋滞がひどくトイレ休憩云々の前に高速道路上でバスが立ち往生していた場合を描く公式2次創作です。 前作との文体、文章量の違いはありますがその分キャラクターを濃く描いていくのでお楽しみ下さい。(評判が良ければ彼女たちの日常編もいずれ連載するかもです)

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

処理中です...