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第145話 魔女の店

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 下りの電車に揺られながらユニコ君の商店街が頭を過ったので、最寄駅で降りた。
 あの時は大宮司先輩の付き添いだったのでじっくり見る機会はなかったのだ。
 商店街は相変わらず多くの人が行き交っていた。

「……やっぱりこっちの方が安い」

 足の届くスーパーと比べて商店街のモノはお得で安い。くっ……何か良い方法があれば!

「おっと……いけない、いけない」

 今日はインスピレーションを求めに来たのだ。相変わらずユニコ君は商店街を通過するお客さんを楽しませている。

「結構、他校の生徒いるなぁ」

 歩いていて気づいたのは、制服の違う生徒が多々いると言う事だった。彼らもテスト期間だったのだろうか? 解放感が伝わってくる。そう言えば、この商店街は周囲の高校が交わる中間地点にあるとか。

「食べ歩きには最適な場所かもなぁ」

 クレープ屋さんは勿論、露天の様に揚げ物屋さんがメンチカツなんかも売ってたりする。

「……」

 お隣さんは好きそうな場所だ。多分……来たことはあると思うが、あの時はドタドタしてて、じっくり回る機会はなかっただろうし。

“今度はオレがどこかに連れていくよ”

「ここにするか」

 二人でも楽しめる場所の候補としてこの商店街を上げて置こう。

「……いや、だから違うって」

 また、考えが蛇行してしまった自分にツッコミを入れる。今は、母へのプレゼントに集中しなければ。

「……雑貨店」

 ふと、商店街の生活的な店舗の中で、一つだけ異質な雰囲気を放つ店が目についた。
 煌びやかな雑貨が外から見ても確認できる。なにか、ヒントが得られるかも。
 カランカランと言う音と共に店に入る。

「イッヒヒ。いらっしゃい」

 カウンターの方からこちらを見る目と声が聞こえる。視線の先には老婆がこちらを見ていた。帽子をかぶって箒を持てば魔女にしか見えない風体をしている。

「……どうも」
「ゆっくりしていきな。アドバイスは無料だよぉ。イッヒヒ」
「アドバイス……」

 少し……いや、かなり……いや、絶対に怪しい人物であるが、こう言う人なら何かしらのインスピレーションを貰えるしれない。

「あの……」

 と、話しかけようとした所で、老婆は枯れ木のような手の平をこちらに向ける。待て、と言いたいらしい。

「まずは店内を見てみな。自分で答えが見つかるかもしれないよぉ? イッヒヒ」
「あ……ど、どうも……」

 意外とマトモだ!

「じゃあ、少し店内を見させてください」
「イッヒヒ。億のモノもあるからねぇ。壊したら買い取ってもらうよ~。イッヒヒ」
「は、はい。気を付けます」

 魔女の館に迷い込んだと感じるのは錯覚では無いだろう。





「ここは変わらんな」

 休暇を取った真鍋は馴染みのある商店街へ久しぶりに足を運んでいた。
 古い店は数える程しかないが、ユニコ君の姿があるだけで唯一無二であると感じ取れる。

「あら真鍋くん」

 八百屋の荷出しをしている中年の女性が話しかけてくる。昔から真鍋と顔見知りの人だった。

「どうも」
「あらやだ。かなりイケメンになっちゃって! 渋みが凄いわ~。今は何の仕事を?」
「弁護士をやってます」
「あらやだ。優良物件になっちゃって! 言い寄るヒトも多いんじゃないー?」
「いえ、特には」

 彼女の言う通り、クールで仕事が出来る真鍋に言い寄ってくる女性は多かった。しかし、真鍋の食べ物(バロットとかバッタ)を見ると途端に距離を開けられるのだ。

「そっか。シオリちゃんは元気ー?」
「はい」
「あらやだ。即答って事は……やっぱり付き合ったのね。二人ならお似合いよー」

 真鍋と鬼灯はこの商店街で出会った幼馴染みだった。二人が小学生から高校を卒業するまでの成長は商店街の面々とユニコ君が直に記憶している。
 と、真鍋は懐から名刺を渡す。

「何かあれば連絡を」
「あらやだ。頼もしいわ。最近、初代ユニコ君が大暴れして、蜂の巣をつついたから皆、少し不安だったのよー」

 蜂の巣とは、商店街の間の暗号として使われるヤクザの事である。
 数週間前に起こった初代ユニコ君の大立ち回り。なんでも、1頭でヤクザをボコボコにし、刺されても平気だったらしく中に、人は入ってなかったとか言われている。

「……」

 真鍋は八百屋の女将との会話も程ほどに目的へ向かう。その際にユニコ君が視界に入るが、まさかな、と視線を外した。

 そして、待ち合わせの喫茶店へと入る。
 改装されて現代の風潮に合わせた様変わりは、成功した様で平日の昼間でもそこそこ客が入っている。外の暑さを忘れさせる涼しさに包まれた店内から女性店員が声をかけてきた。

「いらっしゃいませ。お一人様ですか?(わぁ、イケメン)」
「連れが居るので案内は結構です」

 ジェスチャーも交えて丁寧に断ると、店内を見渡す。すると、ある席でパフェを食べる人物を見つけた。

「お? 来たね、鍋」

 丸眼鏡型のサングラスとニット帽を被る阿見笠流あみかさながれは、こっちこっち、と手を上げていた。

「お前も何か食う? 奢るよ」
「それでは、ピラフとコーヒーを」

 店員にコーヒーは先に、と言ってナガレの正面に座り、開口一番に嘆息を吐く。

「わざわざここじゃなくても良いでしょう?」
「オレらの思い出の地じゃんよ。前に聞きそびれたけど、鬼ちゃんは元気?」
「ええ」
「しっかり側に居てやんな。世界でお前だけだからな。鬼ちゃんを助けてあげられるのは」

 ナガレと真鍋は高校の頃からの付き合いで先輩後輩の間柄だ。高校卒業後は一時は疎遠になったものの、政界で再会し関係が復活したのである。

「……それで、今日はオレの力が必要な案件ですか?」

 ナガレは、スッと一枚の名刺を真鍋の前に出す。

「確か、お前も同じ会社だったよな? 3課と4課で部署の違いはあるが……知ってたりする? 鳳健吾君のこと」
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