上 下
135 / 701

第134話 シスターズ

しおりを挟む
『えっと、繋がってる?』
「おお。カメラは映ってないけど声はバッチリだ」

 オレはマックス経由で、フォスター姉妹と通話を接続していた。

『そっちは映ってるんだけど……ちょっと待って』
『ミスト! 駄目! 映さなくていい!』

 すると、フォスター四姉妹の次子――サン・フォスターの声が聞こえる。

「お、サンも来てるのか。じゃあリンクもいるのか?」
『居ますよ』
『当たり前! どんだけ待ちわびたか……さぁ! お姉様を出しなさい! 出せぇぇー!!』

 ガタガタ!(ディスプレイを揺らす音)

『サ、サンお姉様落ち着いて!』
『PC壊れるって』
「おいおい、禁断症状が出てやがる。リンク、寝室に行ってダイヤの枕を持ってこい。そいつの顔面に押し付けろ。ハハ」
『は、はい!』

 カメラは映っていないが、フォスター三姉妹のドタバタ具合が目に浮かび、思わず笑ってしまった。

『何笑ってる! お前が居なければお姉様はそんな所に居なかったのに……うう絶対に許さない! こっちに来たらマフィアどもの死体と一緒にジョン・ドゥにしてくれる! うきぃぃぃ!』
「英語の早口だとオレは半分程度しか読み取れねぇぞ。ゆっくり喋れ。ゆっくり。スロートーク、OK?」
『ファッ○! ジャッ○!』
「放送禁止用語で来たか。ハハハ」
『サンお姉様! ダイヤのお姉様の枕です!』
『すーはーすーはー』

 お姉様依存症にトリップしてたヤツが少しスカイプから離れる。リンクが、ゆっくり吸って! ゆっくり! と介抱しているようだ。オレは終始笑いを堪えていた。

『ニックス。笑ってるでしょ?』
「あはは! 耐える方が無理だ。お前達は相変わらずだな」

 会話相手は四女のミスト。ちゃんと会話の出来るハイスクールガールである。

『……ダイヤお姉様は笑ってる?』
「ああ。ずっと笑ってるよ」
『今は居ないの?』
「ちょっと家庭教師に行ってる。もうすぐ戻るだろうからお前達とすぐに話が出来るようにな」
『……ありがとう』
「お? なんだなんだ。反抗期を抜けたか?」

 向こうに居たときはミストから、ありがとう、なんて言葉をオレが貰うのはレア中のレアだ。

『べ、別に! ダイヤお姉様が心配なだけ……』
「何も問題ないぜ。オレが側に居るわけだからな!」
『まぁ……全然信用出来ないけど』
「辛辣! ハハ。そう言う事でいいよ。アイツは護られる様な性分じゃないからな」

 歩き出す時は常に先頭。そんな彼女をフォローして、周りを整備してやるのがオレの役目だった。仕事でも、プライベートでも。

『けど……ニックスは例外だと思う』
「そいつは光栄だな」
『ニックスは、お姉様の事どう思ってるの?』
「どう思ってて欲しい?」
『……その返しズルくない?』
「そんな事はないぞ。オレとしてはお前達がどう思ってるのかが第一なんだ」

 サンとリンクもミストも、言わずもがなダイヤの事が大好きだ。
 それは四人の枠の外から見てても解るし、そこへオレと言う異物が割り込んだ事で、誰かが肩身のせまい思いをするのは耐え難い。

「オレの存在はお前達にとってあまり良くなかっただろうからな。なんやかんやで三年間も世話になっちまったが……ようやく日常に戻っただろ?」
『私達はね。でも……ダイヤお姉様は違ったと思う』

 ミストは、ダイヤの心境の変化に気がついてる様だ。

「大丈夫だよ。ダイヤはオレよりもお前達の方が好きだからさ。ちゃんとお前達の元に帰るよ」
『……ニックスはもうこっちに来ないの?』
「今のところ予定はない。日本には……色々と放置した問題が山積みだからな」
『そっか……』
「残念~?」
『別に! ダイヤお姉様、まだ帰って来ないの?』
「あんまり遅くはならないと思うが――」
「タダイマヨー、ニックス」

 お疲れー、とオレがダイヤを労うと、その声を聞きつけた向こうから、ドタドタとサンが動く音が聞こえた。

『ダイヤお姉様ぁ~』
「ウン? サンのボイスネ?」
「繋がってるから、話してやってくれ」

 そう言ってオレは席を譲る。嬉しそうにPCに近づくダイヤを見たオレは、フォスター姉妹の水入らずに微笑み部屋を出た。





「追い出されたのか?」

 部屋を出ると階段から上がってくるリンカと鉢合わせた。

「今、オレの部屋はフォスター家に貸し出し中。リンカちゃんは?」
「ヒカリの見送り」

 勉強会は、ヒカリちゃんのお迎えが来たことでお開きになったらしい。

「忍者とか言うふざけたのがいるらしいからな。哲章のおじさんが迎えに来てた」
「あー、そっか。そっかそっか」

 暁才蔵の末路を一般社会が知るのは先の話か。ヤツは二度と世間を騒がせることはあるまい。

「たぶん、忍者は自首するよ」
「? なんか知ってるのか?」
「大人の事情。まぁ、忍者の事は考えくてもいいよ」
「?」

 リンカは怪訝そうな顔を浮かべたが、部屋の前で待つオレの隣に同じように並ぶ。

「テストはどう? 上手く行きそう?」
「まぁな」
「それは良かった。オレじゃ教えるのは無理だったからさ」
「……向こうに三年も居たのに?」
「必要最低限のモノだけだよ。喋る方は行けるけどね。読んだり書いたりは……筆跡に癖のある文字を見たときは頭を悩ませたから」

 日本語も同じだ。仕事で殴り書きの資料を受け取った時、想像と発想である程度は解読出来るが、英語で同じことが起こると全くわからない。

「その時はアメリア生まれでアメリア育ちの同僚に何度も助けられたよ」

 まだ、支部の立ち上げ時は二人一組で動く事が多かった。ダイヤとは四六時中一緒に行動したものだ。

「……仲良かったんだな」
「まぁね。朝起きてから夜寝るまでずっと一緒――リンカちゃん?」

 じー、と睨む様にオレを見るリンカの視線。何か失言をしたっけ?

「……なんか、変な事言った? オレ」
「……別に」

 今度はそっぽを向いた。これは……嫉妬と言うヤツだろうか?

「……嫉妬してる?」

 しれっと踏み込んで見る。

「はぁ? 何であたしが……」

 と、否定しようとしたリンカはその言葉を止めた。

「……そーだよ。嫉妬してるんだよ。お前が楽しそうだから……」
「なんだ。なら、リンカちゃんもフォスター家と話してみる? 前にも言ったけど四女のミストは君と同い年で、話も合うと思う――」

 そこでまで言ったオレは、じとー、と睨んで来るリンカの視線に気が付く。その目は、何でわかんないだよ、と言っている。オレの方こそわからん。

「えーっと……リンカちゃん?」
「夜ご飯の用意があるから。じゃあな」

 そう言ってリンカは部屋へと戻る。
 うーむ。リンカのオレに対する気持ちを理解したからと言って、彼女の言動を全て察せるわけではないか。
 まだまた難解だぜ。思春期の女の子は。

「……ダイヤさんは――」
「ん?」

 ドアノブて手を掛けた状態でリンカが告げる。

「……多分、お前の事好きだぞ」
「そうかもねぇ……」
「……お前は……どうなんだ?」
「重要なのはオレの気持ちじゃないよ」

 ダイヤが一番大切にしたいと思っているモノは何なのかを理解する事だ。

「オレは君の側にいるよ」
「――あっそ」

 短くそう言ってリンカは部屋へ帰って行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが集団お漏らしする話

赤髪命
大衆娯楽
※この作品は「校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話」のifバージョンとして、もっと渋滞がひどくトイレ休憩云々の前に高速道路上でバスが立ち往生していた場合を描く公式2次創作です。 前作との文体、文章量の違いはありますがその分キャラクターを濃く描いていくのでお楽しみ下さい。(評判が良ければ彼女たちの日常編もいずれ連載するかもです)

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

処理中です...