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第126話 因縁の敵
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カッカッカと黒板に書かれる英語は中学の頃に比べて難易度は上がっている。
金曜日とは言え、体育の後の授業は眠くなる事が多い。特に英語が苦手な生徒は隠れて寝たり、スマホをいじったり、携帯ゲームをしたりと好き勝手だ。
高齢な英語教諭の紫原先生が、とにかく赤点じゃなければ良いと言うスタンスと言う事もあるだろう。(しかし、授業に必要ない物を現行犯で見つけた時は流石に注意と没収が入る)
「うーん」
あたしは黒板の英語に少し苦戦していた。
会話風の文は様々な答えがあり、単語を並べただけでは完全な回答は難しい。
「今日はノートを回収しません。今月は学力テストがあるので各々でしっかり勉強しておくように」
学力テスト。その言葉は夏休み明けの学徒には拷問に近いイベントだ。
そうだったー、やべー、と現実逃避を望む者達の声が上がる。
「うーん」
授業が終わった後にも、あたしは唸った。英語は苦手ではないが、柔軟な解答が必要な問題を前に果たして適切な解答を出せるだろうか……
「リーン、英語は厳しいわよ~」
「ヒカリ、英語は得意だっけ?」
「うんにゃ」
寄ってきたヒカリも同じ問題を抱えている。
あたしもヒカリも成績は中の上。入念に勉強してこれなのだから、凡人なりにきちんと備えておきたい。
「英語か……別に日本から出なければいらないわよね?」
「日本でも英語は良く見るから、きちんとやってないとバカ見るよ」
「うむむー。あ、そうだ! ケン兄は三年も海外に居たんでしょ? 有識者が近くにいるじゃない♪」
「あ」
ヒカリに言われて、彼よりも英語に精通、て言うか英語圏で生まれ育った人が今来ている事を思い至った。
「放課後、時間があればウチ来る?」
「一緒にケン兄を頼るのね」
「もっと出来る人がいるよ」
誰の事? と疑問詞を浮かべるヒカリに、今はアメリカ生まれでアメリカ育ちの人がホームステイしてる事を教えた。
「なるほど。状況は理解したよ」
「なんとかなります?」
「難しいな」
今朝の痴漢騒ぎを4課の真鍋課長と鷹さんに聞いて貰った。なんだかスゲー頼もしい。
「まず、痴漢ってのは現行犯じゃないと立証が難しいのさ」
「たまたま狙われたのだとすればその現行犯も難しいな」
同じ獲物を狙うのはリスクが上がると言う事か。
「ワタシは別に気にしてナイヨー」
「ダイヤ、それは違うよ」
ダイヤの発言に鷹さんが口を挟む。
「これは社会全体の問題なのさ。特に問題なく見送れば犯人を付け上がらせる結果になる。そうなれば他に被害を受ける子が出るかもしれない」
痴漢問題は被害の少ない男ではあまり危機感を感じられない。故に女性視点からの鷹さんの発言は重みのあるモノだった。
「でも、捕まえるの難しいんですよね?」
「何か特長とか覚えてないかい?」
鷹さんの質問にダイヤは、ウーン、とその時を思い起こした。そして、ア! と声を出す。
「ニンジャデス!」
「…………ん?」
「ワタシのヒップタッチ、ニンジャダッタネ!」
「おいおい……それ本気で言ってるのか? 忍者なんて現代社会に居るわけ無いだろ」
オレが、ふざけるなよな、と目線を送ると、ホントウダヨー、とダイヤも返してくる。
こんなふざけた発言を4課の方々は――
「鷹さん。ヤツです」
「今度は確実に仕留めなきゃならないね……」
「ですな」
何やら事情を知っている様子で眼をギラつかせる。
「えーっと……本気で信じてます?」
「鳳殿が知らないのはしょうがないですな。我々の会社は二度に渡り、忍びの者には被害を被っているのですよ。鳳殿が帰国する前の出来事です」
嘘だろ。この現代社会で忍者の存在も信じられないのに、ウチが被害を受けて取り逃がしてるとは……
「夏のレクリエーションで浜辺の磯研修をやった時だった。女性陣の下着を盗まれそうになった」
「参加していた女性陣のは全部でして。更衣室の防犯カメラを無力化しての犯行だったのです」
「その時はヨシと2課の加賀が取り押さえて事なきを得たが……その後、現れて2課の姫野と加賀が被害を受けた」
真鍋課長の口調は全然ふざけていない。つまりマジなのだ。マジで忍者がいる。しかも、痴漢や下着ドロをしている。
「二人は大丈夫だったんですか?」
「ああ」
「前の二件は突発的でしたからなぁ。此度は捕まえられるかもしれませぬぞ」
「ニックス! ニンジャ居るジャナイ!」
ダイヤは外国人における日本の二大神秘の一つである忍者が居たことに眼を輝かせる。
「でも、なんで忍者って解るんだよ。覆面でもしてたのか?」
「ソーダヨ」
「おい」
「本当ですぞ、鳳殿」
そう告げるヨシ君。4課の方々の眼は何もふざけていない。
「今、動かせる人員は多くないか……」
「あまり時間はかけられないよ。他の仕事だってあるんだからね」
既に捕まえるの事で話が進んでいく。4課って弁護士集団だったよなぁ……
「取りあえずヨシ、現場の様子を見て来てくれ」
「御意」
「オフィサーマナベ。ワタシとニックスも行ってヨロシ?」
元々は4課の仕事をダイヤに知ってもらうつもりだったな。でも、これは何か違う気がする……
「構わない。邪魔さえしなければ」
「ヤッタネ、ニックス」
「……4課って毎回こんな仕事ですか?」
「そんなわけ無いだろ」
鷹さんが即答してくれたので、オレはホッと胸を撫で下ろした。
金曜日とは言え、体育の後の授業は眠くなる事が多い。特に英語が苦手な生徒は隠れて寝たり、スマホをいじったり、携帯ゲームをしたりと好き勝手だ。
高齢な英語教諭の紫原先生が、とにかく赤点じゃなければ良いと言うスタンスと言う事もあるだろう。(しかし、授業に必要ない物を現行犯で見つけた時は流石に注意と没収が入る)
「うーん」
あたしは黒板の英語に少し苦戦していた。
会話風の文は様々な答えがあり、単語を並べただけでは完全な回答は難しい。
「今日はノートを回収しません。今月は学力テストがあるので各々でしっかり勉強しておくように」
学力テスト。その言葉は夏休み明けの学徒には拷問に近いイベントだ。
そうだったー、やべー、と現実逃避を望む者達の声が上がる。
「うーん」
授業が終わった後にも、あたしは唸った。英語は苦手ではないが、柔軟な解答が必要な問題を前に果たして適切な解答を出せるだろうか……
「リーン、英語は厳しいわよ~」
「ヒカリ、英語は得意だっけ?」
「うんにゃ」
寄ってきたヒカリも同じ問題を抱えている。
あたしもヒカリも成績は中の上。入念に勉強してこれなのだから、凡人なりにきちんと備えておきたい。
「英語か……別に日本から出なければいらないわよね?」
「日本でも英語は良く見るから、きちんとやってないとバカ見るよ」
「うむむー。あ、そうだ! ケン兄は三年も海外に居たんでしょ? 有識者が近くにいるじゃない♪」
「あ」
ヒカリに言われて、彼よりも英語に精通、て言うか英語圏で生まれ育った人が今来ている事を思い至った。
「放課後、時間があればウチ来る?」
「一緒にケン兄を頼るのね」
「もっと出来る人がいるよ」
誰の事? と疑問詞を浮かべるヒカリに、今はアメリカ生まれでアメリカ育ちの人がホームステイしてる事を教えた。
「なるほど。状況は理解したよ」
「なんとかなります?」
「難しいな」
今朝の痴漢騒ぎを4課の真鍋課長と鷹さんに聞いて貰った。なんだかスゲー頼もしい。
「まず、痴漢ってのは現行犯じゃないと立証が難しいのさ」
「たまたま狙われたのだとすればその現行犯も難しいな」
同じ獲物を狙うのはリスクが上がると言う事か。
「ワタシは別に気にしてナイヨー」
「ダイヤ、それは違うよ」
ダイヤの発言に鷹さんが口を挟む。
「これは社会全体の問題なのさ。特に問題なく見送れば犯人を付け上がらせる結果になる。そうなれば他に被害を受ける子が出るかもしれない」
痴漢問題は被害の少ない男ではあまり危機感を感じられない。故に女性視点からの鷹さんの発言は重みのあるモノだった。
「でも、捕まえるの難しいんですよね?」
「何か特長とか覚えてないかい?」
鷹さんの質問にダイヤは、ウーン、とその時を思い起こした。そして、ア! と声を出す。
「ニンジャデス!」
「…………ん?」
「ワタシのヒップタッチ、ニンジャダッタネ!」
「おいおい……それ本気で言ってるのか? 忍者なんて現代社会に居るわけ無いだろ」
オレが、ふざけるなよな、と目線を送ると、ホントウダヨー、とダイヤも返してくる。
こんなふざけた発言を4課の方々は――
「鷹さん。ヤツです」
「今度は確実に仕留めなきゃならないね……」
「ですな」
何やら事情を知っている様子で眼をギラつかせる。
「えーっと……本気で信じてます?」
「鳳殿が知らないのはしょうがないですな。我々の会社は二度に渡り、忍びの者には被害を被っているのですよ。鳳殿が帰国する前の出来事です」
嘘だろ。この現代社会で忍者の存在も信じられないのに、ウチが被害を受けて取り逃がしてるとは……
「夏のレクリエーションで浜辺の磯研修をやった時だった。女性陣の下着を盗まれそうになった」
「参加していた女性陣のは全部でして。更衣室の防犯カメラを無力化しての犯行だったのです」
「その時はヨシと2課の加賀が取り押さえて事なきを得たが……その後、現れて2課の姫野と加賀が被害を受けた」
真鍋課長の口調は全然ふざけていない。つまりマジなのだ。マジで忍者がいる。しかも、痴漢や下着ドロをしている。
「二人は大丈夫だったんですか?」
「ああ」
「前の二件は突発的でしたからなぁ。此度は捕まえられるかもしれませぬぞ」
「ニックス! ニンジャ居るジャナイ!」
ダイヤは外国人における日本の二大神秘の一つである忍者が居たことに眼を輝かせる。
「でも、なんで忍者って解るんだよ。覆面でもしてたのか?」
「ソーダヨ」
「おい」
「本当ですぞ、鳳殿」
そう告げるヨシ君。4課の方々の眼は何もふざけていない。
「今、動かせる人員は多くないか……」
「あまり時間はかけられないよ。他の仕事だってあるんだからね」
既に捕まえるの事で話が進んでいく。4課って弁護士集団だったよなぁ……
「取りあえずヨシ、現場の様子を見て来てくれ」
「御意」
「オフィサーマナベ。ワタシとニックスも行ってヨロシ?」
元々は4課の仕事をダイヤに知ってもらうつもりだったな。でも、これは何か違う気がする……
「構わない。邪魔さえしなければ」
「ヤッタネ、ニックス」
「……4課って毎回こんな仕事ですか?」
「そんなわけ無いだろ」
鷹さんが即答してくれたので、オレはホッと胸を撫で下ろした。
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