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第117話 化学反応

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「あまり印象に残るモノが無くてね。高価なモノではないが」
「あ、いえ……これで良いです」

 オレはダイヤの事に関して少しでも印象を良くするために赤羽さんのお土産――アステカの古代コインを受け取った。なんだか……コインから黒いモヤの様なモノが見えるが気のせいだろう。

「……だいぶ古いコインですね」
「昔のモノだからね。すぐ失くなるらしいから大事にしてくれたまえ」

 すぐ失くなるんだ……それならそれで良い気がするけど。

「ニックス、ソレ捨てなヨ」
「おや? そちらのレディは?」

 オレにコインの処理を耳打ちするダイヤに赤羽さんは眼を向ける。

「ダイヤ・フォスターデス! フツツカ者デスガ! お世話になりマス!」
「聞いてないよ、鳳君。国際結婚したなら一報をくれたまえ。二人部屋を用意――」
「いや、数日泊まるだけなので、その許可を頂きたく……」

 ほー、そっち。と赤羽さんはダイヤを改めて見る。

「あまり騒がしくない様にね。隣には鮫島さんもいるから」
「気を付けます」
「ダイヤさん、不馴れな事もあるかもしれないが、大体は彼に任せればいい」
「知ってマース」

 ダイヤの返答に、にこ、と笑う赤羽さんはジャックを抱えると一階の自室へ入って行った。





「荷物は適当に置いていいぞ」
「コーナーに置くネ」

 部屋に入るとダイヤは、興味深そうに室内を見回す。何も珍しいモノなんてないぞ。

「ニックス、このマスクは、何かの儀式デス?」
「そいつは……日本を護ってるヒーローとビィランだ」

 オレは壁に安置している仮面ラ○ダーと怪人クモ男のお面二つについて説明する。

「スパイディー?」
「どっちかと言うとホッパーだな。こっちはクモだけど」

 オレはスーツがシワにならないように上着を脱いだダイヤにハンガーを手渡した。

「ホッパー……強そうネ」
「つえーぞ。必殺技はキックだ。食らうと相手は爆散する」
「スパイディーより、ストロング?」
「うーむ、難しい質問だな」

 地上で戦うか、空中で戦うかで勝敗は変わってくるだろう。いつか、夢の対決か共闘を映画で観てみたいモノだ。

「それよりも……」

 オレはネクタイを外しながらリンカへの返答を考える。何かと変な誤解が生まれる前にダイヤの事も紹介したいし……夕食の席に人数が増えても良いか聞いてみるか。

「ニックス。さっきからナニ見てるネ」
「お隣さんの――って! お前! 服着ろって!」

 ダイヤはワイシャツを脱いだ状態で肩口からオレのスマホを覗いていた。下着姿。セナさんに引けを取らない山がそこにある。

「シャツをレンタルくだサイ」
「室内着くらい持ってきとけよ……」

 オレはタンスの中に設置してある棚から適当なTシャツを取ろうと動くがダイヤはそのまま手を回して背後から抱きつく。

「おい」
「二人キリデスヨ」
「そうだな」
「ニックスはドキドキしないカ?」
「あー、うん。胸の感触は悪くない」
「当テテンノヨ!」
「それもマックスのアホからか?」
「YES」

 一回、ヤロウには電話をかけるか。いや……国際電話は高くつくのでスカイプを検討しよう。

「ダイヤ。動けないんだが……」
「ワタシはこのままでもイイヨ」
「オレは良くない!」

 そう言うと、ようやく絡めた手を離した。オレはやれやれ、とTシャツとズボンを取り出すとダイヤへ出す。

「風呂場で着替えてこいよ」

 すると、今度は正面から抱きついてくる。

「ダイヤさん。先に着替えて来てくれませんか?」
「……ホントに……ドキドキしてないネ」

 ダイヤはオレの胸に耳を当てて心音を確認していたらしい。

「着替えてらっしゃい」
「ハーイ」

 フッ、脳にジジィが居座るオレにはお色気攻撃は通用しない! まったくよ――

「…………やれやれ。やってくれるな、ハレンチ娘が」

 オレは下半身の息子は正常であると確認すると同時にすぐさまスマホで犬のバトル漫画を拝読する。





「ただいま~」
「おかえりなさい」

 料理が出来上がった頃合いにセナが帰宅する。リンカはいつもの挨拶で出迎えた。

「あら~肉じゃが?」
「そうだよ」

 すんすん、と匂いで何を作っているのか察したセナはリンカに問う。

「ふふ~ん。ケンゴ君は来れるって?」
「一応は……聞いてるよ」

 それが本命だろうに、とセナは微笑むとスーツを着替えに奥へ行く。リンカはちらっとスマホを見るが返答はまだない。

「……」

 廊下を移動する音は聞こえたので帰ってきてはいる。だが、返答がないのは……
 その時、ピロン、とスマホが鳴った。即、手に取るとLINEを確認。

“会社の同僚も同席していい?”

 廊下を移動する際に少し騒がしかったのは、知り合いと一緒だったからか。それで返答に迷っていたのだとリンカは認識。

“いいよ”
“ありがと。もう、そっちに行ってもいい?”
“いいよ”

 やり取りを終えて同僚って誰だろうと考える。
 鬼灯さんなら名前を言うだろうし、長らく会ってない加賀さんや泉さんの事かな? ま、いっか。すぐにわかる事だ。

 隣の部屋の扉が開く音と閉じる音。そして、インターホンが鳴った。
 リンカは、待ちわびた様に扉を開ける。

「いらっしゃ――」
「コンバンワ! ワタシ、ダイヤ・フォスター、イイマス! アメリカ生まれのアメリカ育ちネ! ランチに来まシタ!」

 扉を開けた瞬間に現れたグラマラスな欧米美女ダイヤにリンカは脳処理が追い付かず、ロード時間に入った。
 え? 誰? 外国人? 何で? ナンデあたしの部屋の前に?

「ワォ、良い匂いネ!」
「ダイヤ! オレが行くまで開けるなって、言ったろ!」
「ワタシ、ハングリーヨ。ニックス」

 そこへ、ケンゴが割り込んできた。彼の姿を見てリンカの再起動は完了し、冷静に相手の姿を見る。何故か、外国人は彼の服を着ているのだ。

「おい」

 リンカはケンゴに詰め寄った。

「ちゃんと説明出来るんだろうな」
「な、なんで怒ってるの!?」
「コレガ、ジョシコーセー、デスカ!」
「あらあら賑やかね~」

 色々と説明が必要である。
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