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第78話 ハリウッドスターVS怪人クモ男

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 妙な空気が漂う。
 張りつめたようなモノではなく、期待向けられるような空気。それを作り出しているのは、目の前に居るハリウッドスターである。

「なるほど……」

 万人に己の存在を期待させる。これが……素質と言うヤツか。
 オレは少し前屈みにコマンドサンボの構え。掴まえて、絞め落として、リンカと離脱。完璧な作戦だ。

 その時、ふわっと空気が動くのを感じた。刹那、オレは顔を後ろに引く。

「おっと、惜しいな」

 顔を置いていた位置を佐々木君の蹴りが通過する。雰囲気に呑まれて……反応が遅れたか?!

「逃がさないよ」

 佐々木君は勢いをそのままに回転して蹴り。下がってかわすオレ。回転、蹴り。回避。蹴り。回避。蹴り。

 オオォ、と周りから声が上がる。佐々木君は駒のように回転しながら、多彩な姿勢でオレに蹴りを連続で見舞う。
 その姿勢は徐々に低くなり、頭の位置は地面に近づいていく。

「――」

 オレは一瞬の蹴りの間を取ってタックルに入る。ほぼ倒れてる状態の佐々木君。そのまま寝転がるのなら、リンカを連れて逃げる。立ち上がれば組み付ける。

「おっと」

 だが、次に襲ってきたのは刀を振り上げるかのような蹴り上げだった。地面に沈んだ状態から、溜めたバネのような一撃が顔面に向かってくる。避けられないタイミングだったため、オレは何とか打点をヅラし肩で受けて弾かれる。

「っち」
「ふむ」

 蹴り跳ねた勢いで、シュタッと立つ佐々木君。スタイリッシュな動きは見てくれだけではない鋭さが混じっている。

「カポエラか……」
「格闘技は体幹を鍛えるのに丁度良くてね。身体は俳優の資本だよ」
「社会人も同じだ」
「生むモノの価値は天と地の差があるけどね」

 なんだとこのヤロー。お前らがスターなのは下を支える力があるからだろうが。全世界の社会人に謝れ。

「そして、俺と君の実力にも天と地の差がある」

 佐々木君は、チラッとリンカを見た。

「君の方から彼女を説得してくれないか?」
「は?」
「そうすれば、ただのデモンストレーションと言う事に出来る。俺の友人と言う形にしてね。悪い話をじゃ――」
「やなこった」

 オレは心底呆れた。

「まぁ、生きてきた環境が違うから物事の価値観もズレてくるのは解る。だが、一つだけ確かな事はあるぜ」
「聞いても良いかな?」
「彼女が拒絶してるかどうかだ」

 佐々木君は再度リンカを見る。狐のお面で表情は見えないが、多分良い印象は無いだろう。

「ふむ。そこまで言う君は彼女にとってなんなんだい? お兄さんかな?」
「いや、血縁関係はないよ」
「恋人かな?」
「それも違う」

 帰ってきて月の光の下で彼女がオレに心の内を吐き出したあの時に決めたのだ。

「人は大きな翼を広げて一人で羽ばたいて行くまで見守る奴が必要だ。彼女にとってはそれがオレだ!」

 うーん。自分で言っててなんだが……クサいな。もっと色々な名言をミックスさせれば良かったか……顔はクモ男だし。
 しかし、佐々木君は感銘を受けた様な表情。意外とクリーンヒットしたらしい。

「なら、その役目は俺が引き継ごう」
「本当に話しにならねぇ」

 大スターの思考の波を掴むにはまだ時間がかかりそうだ。
 しかし、彼の実力も並みではない。こちらはお面で視界も呼吸も悪く、長期戦はこちらが不利だ。

「…………」

“いいか、ケンゴ。必要な事だから教えたが絶対に使うな。もし、俺がソレを使ったと判断した時、お前と見た奴らを全員殺しに行く”

「バレなきゃいっか」

 ジジィの警告は利に叶ってるが……オレの初心者サンボでは佐々木君を制圧する事は不可能だ。護るものがあるってのも大変だが……

「まぁ、悪くはないな」

 オレはリンカを見る。周囲には多くの観客とスマホによる録画の眼。もしジジィにバレたら刺し違えてオレの命だけ散らすか。

「ほう……」

 コマンドサンボの構えを解く。佐々木君はオレが諦めたと思ったのか少し嬉しそうだ。

「ようやく、理解してくれたかな?」
「バカ、逆だ。逆」

 さて、佐々木君には少し痛い思いをしてもらいますか。オレは傍から見たら無防備に近づこうとして――

「――チッ! 時間をかけすぎたか!」





 オレは足を止めた。
 嫉妬心ダークフォースを纏う、ベ○ダー(佐藤)とト○ーパー(田中)がゆらりと佐々木君の側に現れたからだ。

「見つけたぞぉ……」
「今度は逃がさねぇ……ひひ」
「き、君たちは?」

 溢れ出る負のオーラに佐々木君でさえビビってる。人はここまでの感情を宿せると言うのか!?

「大スターさんよぉ、手を貸すぜ」
「アレは俺たちの系譜の敵でもあるんでね」

 くっそ! 面倒な状況を更に面倒にしやがって! 

「お前ら本当にいい加減に行くしろよ。周りを見ろ! YouTuberに公開されんぞ!」
「テメェの素顔を叩き晒してやるぜ!」
「コイツが俺たちの敵です、ってなぁ!」

 そうだった。こいつらにも言葉は通じないんだった。

「む……ま、まぁ不本意ではあるが……君が招いた結果と言うことにしておこう」

 佐々木君……奴らはもう救えないんだ。しかし都合良く共闘になんてならない。
 三対一。こりゃマジでジジィに殺されるな。

「けけけ。苦戦してるねぇ……クモ男」

 その時、オレの側にも声がかかる。ペタペタと歩いてくるのは……仮面ラ○ダー!?
 の、お面をつけた箕輪さんだ。ちなみに1号。

「み……仮面ラ○ダー、助けてくれるんですか?」
「無関係じゃねぇしなぁ~。オレもアイツも」
「どういう事です?」
「お嬢ちゃん、キョウコのクラスの生徒なんだと」

 マジですか。世間ってこんなに狭いの? まぁ生活圏が近いならそう言う事もあるか。
 
「って事で手を貸すぜぇ~」

 仮面ライ○ーは気だる言うとオレと並ぶ。数の不利はまだあるが、スゲー頼もしい。

「おい! 仮面ラ○ダー!」

 ベ○ダー(佐藤)が指差す。おいヤメロ。このライダーの中身は弁護士だぞ!

「クモ男はお前の敵だろ!」
「そーだ、そーだ!」
「うるせー! こっちは劇場版だ!」

 オレが言い返す。
 新たな敵を前にいがみ合う二勢力が手を組む事はスクリーンの中では良くあること。
 そりゃ暗黒面ダークサイドが地球を侵略しに来たら、ライダーもショッカーも手を組まざるえない。

「良く聞け」

 箕輪ライダーはオレにある事を耳打ちする。

「奥さんもやりますね」
「俺の惚れた女だしなぁ~」
「「まとめて始末してくれるわ!!」」

 更に血涙ブーストの二人。それ、自在に出来るようになったらダメなヤツだろ。

「……」

 ほら、お前らのインパクトが強すぎて佐々木君が空気になってる。ハリウッドスターを越える存在感とは……ここで終わらせねばな。

 盤面は、
 ベ○ダー(佐藤)&ト○ーパー(田中)&ハリウッドスター(佐々木君)。
 VS
 仮面ライダー(箕輪さん)&クモ男(オレ)。

 スマ○ラでも実現しないマッチメイクだ。版権はどこに行く?
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