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第66話 大宮司兄弟とフードコート

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 あたしとお母さんは、お昼ご飯食べに大きめのショッピングモールへと寄った。
 実家は寝泊まりするだけの予定だったので食事は全部、出前か外食で、お風呂は近くの銭湯を利用している。
 今はショッピングモールのフードコートで、フリーの席を確保して手荷物を席に下ろした。

「……既読スルーってこと。そうですか……そうですか……」

 席に着くと母はさっきからスマホを気にしている。
 なんか、お母さんがさっきから変だなぁ。沸々と怒ってる様に見えるが、嫌悪と言う感じではない。

「バカバカバカバカ」

 と、LINEのメッセージを打っていた。子供っぽい母の一面は斬新だ。

 なに食べる? と母に聞くと思い出した様にハッ! として、そうね~、といつもの調子に戻った。

「好きなの選んでらっしゃい。リンちゃんが戻るまで荷物番しとくから」
「わかった」

 母の様子には触れないでおこう。
 フードコーナーには祭りの露天の様に様々な店が並んでいる。
 うどんにカレー。丼ものにたこ焼き。かき氷やアイスクリームなど、ちょっとした休憩から一食を賄うレベルまで、様々なモノを選べる様になっている。

「たこ焼きにしよ」

 店内は冷房が効いていて過ごしやすくなっているが、それでも熱くて汚れる可能性のあるものはなるべく避けたい。

「――鮫島か?」

 その時、後ろから声をかけられた。振り向くと、そこには――

「大宮司先輩?」

 圧のある体格をした大宮司亮が立っている。予想外の人物に正直驚いた。こんなところで出会うとは。

「にいちゃ……だれ?」

 先輩に抱き着く一人の少年は驚いた様にあたしを見た。





「まさか、こんなところで会うとは思わなかったです」
「俺もだ。墓参りか?」
「はい。霊園に行った帰りです」
「にいちゃ!」

 リンカとリョウが話している横で、少年はぐいっと彼の服を引っ張る。

「ああ、こっちは弟の駿しゅん。ほら、挨拶して」
「しゅんです! いま……よんさい!」

 指を折って歳を思い出す様に確認する駿は、リンカに対して四本だけ指を開いて、にぱっと笑う。
 リンカはルリとの関りで、幼子に対しての対応はソレになりに自身があった。

「あたしは鮫島凜香です。よろしくね、駿君」
「さめ……さめって! あのさめ!?」
「海にいるサメだよー」
「かっこいい……にいちゃ! しゅんもさめ!」
「ああ、そうだな。母さんに相談してみようか」
「うわわぁい!」

 大宮司家特有の暗号会話。先輩に弟さんが居たんだ、と微笑ましく見る。

「先輩も昼食ですか?」
「ああ。先に席を取りにな」
「アイス!」
「ご飯を食べてからな」
「うわわぁい!」
「ふふふ」

 純粋な感情を全身で表現するシュンはルリとは違った元気さがある。

「その……良い服だな」

 シュンのリアクションを楽しんでいると、リョウはポツリとそう言った。
 リンカの着ている服は外行きの一般的な服であり、それ程派手なものではない。

「ありがとうございます。先輩はカッコいいですね」

 対してリョウの服はノリトのコーディネートによるもの。落ち着いたリョウの雰囲気に合わせた様がマッチしていた。

「そ、そうか。ありがとな」

 リョウは親友ノリトにも心の中で感謝する。

「さめさん!」

 すると、兄を取られると思ったのかシュンが対抗意識からリンカへ叫ぶ。
 なに? とリンカはしゃがんでシュンに視線を合わせた。

「にいちゃ、つよいよ!」
「うん、知ってるよ」
「それとね……やさしい!」
「うん、そうだね」
「それと……それと……」
「カッコいい?」
「かっこいい!」
「そっか、シュン君はお兄さんの事、大好きなんだね」
「そうです! さめさんは……にいちゃのことすき?」

 純粋生物恐るべし。しゅ、駿! なに言ってんだ! と珍しく慌てるリョウを見てリンカは微笑む。

「うん、あたしも好きだよ。貴方のお兄さんは、強くて、優しくて、かっこいい。だから、その手を離しちゃダメだよ?」

 リョウの服を掴むシュンにそう言うと、にぱっと笑った。

「しゅ、駿! さ、先に父さん達を迎えに行くぞ!」
「あいす……」
「後で好きなだけ買ってやるから」
「うわわぁい!」
「よ、呼び止めて悪かったな、鮫島」
「いえ。素敵な弟さんを紹介してくれてありがとうございました」
「さめさん! じゃね!」

 手を上げるシュンにリンカも手を振って見送る。
 にいちゃ、かおあかーい。いいから行くぞ! と大宮司兄弟は去って行った。





 あたしも好きだよ。
 脳内では先程のリンカの台詞がリピートされまくっていた。

 あれは……違う。LoveではなくLikeの方だ。きっとそうだ!

 そう思う事で必死に平常心を保つ。

「……あんな風に笑える様に出来るのか」

 まだ謹慎になる前、学校で彼女とすれ違う事はあったが、当時の彼女は髪を長くし、どこかしら気力が無いように映った。

 狭い台の上でふらふらと落ちそうに動く壺。いつ落ちて割れてもおかしくない危うさ。

 友達も気にかけてる様だったが、それでも彼女の様子が変わることはなかった。
 次第に彼女を見かけると気にかける様になった。そして、

「……後悔は無いな」

 彼女の為に拳を振るった。殆んど無意識だっただろう。
 しかし、助けた彼女の眼は最初に会った時と何も変わらなかった。

「……」

 彼女にあの笑顔を出せる様にしたのは俺じゃなくて彼だ。
 そして、向けられる彼女の笑顔を諦め切れない自分も、最初とは何も変わらないと自覚する。

「生涯で一番の強敵か」

 それでも負ける気はない。
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