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第44話 灼熱の大地
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炎天下。
読んで字のごとく、炎のような天の下は、立っているだけでも体力を奪われる。
更にその中で動き回るなど、本来なら自殺行為だ。
しかし、そんな環境下に適応する者達が存在する。
その者たちの異名は『高校球児』。
彼らの中でも厳選に厳選を重ね、勝ち上がったチームが、聖地にて白球を追い、その頂に立つ優勝旗に手を伸ばすのだ。
「今日も暑いですね、大竹さん」
「と言っても我々は解説席ですが外は30度を軽く越えてます。良い塩梅でしょう」
「今年も多くの高校球児たちが優勝旗を狙っていますが、どの高校が上がってくると思いますか?」
「年々思いますが、やはり見る顔は一つか二つですね。しかし、いくつか気になる高校はありますよ」
と、解説の大竹は入場する高校でも気になっている所に声を上げる。
「レギュラー陣の身長は全員180越え! 右中間、左中間の守備範囲は随一! 『霊峰高校』!」
数ある高校の中でも頭一つ背の高い一団を指差す。
「バント、エンドラン、盗塁、三盗! 派手なヒットなど必要ない! 外野のボールは全て取る! 全員が50m5秒台に届く流星群! 『蓮生高校』!」
他の高校なら、ゴロとなる当たりでも彼らなら内野安打へと変わる。
「日本でも最も闇深き咎人たちの街。数多のアウトローを隣に彼らは勝ち上がった! 『四季彩高校』!」
特徴のないチームであるが、それ故にデータの少ない今大会のダークホースである。
「お前ら日本人に野球を教えたのはどこだと思う? 原点の血が甲子園へ殴り込み! メジャー監督を持つ、『インターナショナルハイスクール』!」
日本在学の外国人高校は、ガッチリとした白人や黒人が一際目立つ。
「そして……そして! 甲子園ならばどこか!? 必ず名を見るのはどこか!? いつから彼らはこの場所を己の地としたのか!」
その高校は夏の優勝旗を持って最後に現れた。
「前年度の夏を制した古豪! 『白亜高校』!!」
「なんか、解説おかしくない?」
「あっはっは。オレは大竹さん好きだわ」
「……何これ?」
と、三人は全国で放送されているであろう大竹の実況に三者三様のコメントを残した。
「ちなみに、リンカちゃん達の高校は?」
「隅っこ」
「モブね、モブ」
開会式が終わり、一回戦が始まる。
白亜高校とリンカ達の高校だけ、場に残り各々のベンチへ着く。
「いやはや、今日も暑いですね」
白亜高校の監督である獅子堂は眼鏡に優しげな雰囲気を持つ中年だった。
「相手は二年のエース野村君が中心になった守備が強力です。特にボールコントロールは狙った所にヒッティングさせる程に正確らしいです」
「そんなの関係無いっスよ。番が来れば俺がスタンドまで叩き込みます」
「嵐、監督の言葉に口を挟むな」
四番で二年の嵐は主将から注意される。
「頼もしいですね、嵐君。主将も冷静さを欠いていない。他の皆さんもいつもと何も変わらない」
基本的にレギュラーの中心は三年生である白亜高校にとって、甲子園と優勝旗は馴染みが深いモノ。それ故に優勝旗を取り損なう事は、逆に違和感しか感じない。
「先は永い。外も暑いですし、熱中症に気をつけていつも通りに行きましょう」
「はい!」
監督の“いつも通り”とは、文字通りの意味である。逆にそれが、レギュラー陣のコンディションを最高にする一言であるのだ。
「整列!」
マネージャーと監督を残し、レギュラー陣はベンチを出ると相手とホームベースを目印に向かい合う。
「礼!」
審判の言葉に互いに互いの健闘を称えて一礼すると、表と裏を決めるために主将だけを残し、他はベンチへ。
「音無君」
と、戻ろうとしてダイキは野村から呼び止められて振り向いた。
「えーっと野村さん、ですよね?」
「光栄だな、君に名前を覚えてもらえてるとは」
まぁ、相手のエースなんて普通は要警戒なので、当然と言えば当然なのだが。
「地方大会の準決勝を観たよ。凄まじい活躍だったね」
「あれは……あんまり蒸し返さないでくれるとありがたいです」
冷静になってから、恥ずかしい事を口にしたと認識し、先輩達にもイジられた。
「谷高光の事だろう?」
しかし、その名前を口にする野村の意図は別であると悟る。
「……そう言えば、野村さんの高校でしたね。ヒカリちゃんは」
「やはり、か。試合後のインタビューでピンと来たよ」
「何が言いたいんですか?」
「互いに求めるモノは優勝旗ではないと言う事だ」
オォォ……と、二人の間に妙な空気が流れる。
「……揺さぶりが目的ですか?」
「そのつもりはない。だが、そうなったならソレは君の責任だ」
野村の言うことは正しい。
野手であるダイキと、投手としてバッターと向かい合う機会の多い野村との違いは、対戦数の経験にある。
「……何が言いたいんですか?」
「俺にとって優勝旗はキッカケだ。彼女へ言葉を繋ぐためのな」
ピシャッ! と互いに雷が走った。
「……ヒカリちゃんは僕の幼馴染みです」
「だが、今近いのは俺だ。そして、今後もそうなる」
「……させません」
ダイキの言葉に野村は、フッ、と笑うとベンチへ帰って行った。
「ん? 音無、まだベンチに戻ってなかったのか。準備しろ。一番だろ」
「と言うことは――」
「ウチが先行だ。ほら、急げ」
一回戦は今年で一番暑くなる。
と、ダイキは今一度、野村の背を見た。
「ん? ダイキのヤツ、なんか話してるな」
「……野村先輩だ」
「エースの人? 何話してるんだ? あれ」
「……男ってバカばっかね」
恋とスポーツ。その二つは切っても切り離せない、高校生の青春そのモノである。
ちなみに、リンカ達の高校は一回戦で普通に負けた。
読んで字のごとく、炎のような天の下は、立っているだけでも体力を奪われる。
更にその中で動き回るなど、本来なら自殺行為だ。
しかし、そんな環境下に適応する者達が存在する。
その者たちの異名は『高校球児』。
彼らの中でも厳選に厳選を重ね、勝ち上がったチームが、聖地にて白球を追い、その頂に立つ優勝旗に手を伸ばすのだ。
「今日も暑いですね、大竹さん」
「と言っても我々は解説席ですが外は30度を軽く越えてます。良い塩梅でしょう」
「今年も多くの高校球児たちが優勝旗を狙っていますが、どの高校が上がってくると思いますか?」
「年々思いますが、やはり見る顔は一つか二つですね。しかし、いくつか気になる高校はありますよ」
と、解説の大竹は入場する高校でも気になっている所に声を上げる。
「レギュラー陣の身長は全員180越え! 右中間、左中間の守備範囲は随一! 『霊峰高校』!」
数ある高校の中でも頭一つ背の高い一団を指差す。
「バント、エンドラン、盗塁、三盗! 派手なヒットなど必要ない! 外野のボールは全て取る! 全員が50m5秒台に届く流星群! 『蓮生高校』!」
他の高校なら、ゴロとなる当たりでも彼らなら内野安打へと変わる。
「日本でも最も闇深き咎人たちの街。数多のアウトローを隣に彼らは勝ち上がった! 『四季彩高校』!」
特徴のないチームであるが、それ故にデータの少ない今大会のダークホースである。
「お前ら日本人に野球を教えたのはどこだと思う? 原点の血が甲子園へ殴り込み! メジャー監督を持つ、『インターナショナルハイスクール』!」
日本在学の外国人高校は、ガッチリとした白人や黒人が一際目立つ。
「そして……そして! 甲子園ならばどこか!? 必ず名を見るのはどこか!? いつから彼らはこの場所を己の地としたのか!」
その高校は夏の優勝旗を持って最後に現れた。
「前年度の夏を制した古豪! 『白亜高校』!!」
「なんか、解説おかしくない?」
「あっはっは。オレは大竹さん好きだわ」
「……何これ?」
と、三人は全国で放送されているであろう大竹の実況に三者三様のコメントを残した。
「ちなみに、リンカちゃん達の高校は?」
「隅っこ」
「モブね、モブ」
開会式が終わり、一回戦が始まる。
白亜高校とリンカ達の高校だけ、場に残り各々のベンチへ着く。
「いやはや、今日も暑いですね」
白亜高校の監督である獅子堂は眼鏡に優しげな雰囲気を持つ中年だった。
「相手は二年のエース野村君が中心になった守備が強力です。特にボールコントロールは狙った所にヒッティングさせる程に正確らしいです」
「そんなの関係無いっスよ。番が来れば俺がスタンドまで叩き込みます」
「嵐、監督の言葉に口を挟むな」
四番で二年の嵐は主将から注意される。
「頼もしいですね、嵐君。主将も冷静さを欠いていない。他の皆さんもいつもと何も変わらない」
基本的にレギュラーの中心は三年生である白亜高校にとって、甲子園と優勝旗は馴染みが深いモノ。それ故に優勝旗を取り損なう事は、逆に違和感しか感じない。
「先は永い。外も暑いですし、熱中症に気をつけていつも通りに行きましょう」
「はい!」
監督の“いつも通り”とは、文字通りの意味である。逆にそれが、レギュラー陣のコンディションを最高にする一言であるのだ。
「整列!」
マネージャーと監督を残し、レギュラー陣はベンチを出ると相手とホームベースを目印に向かい合う。
「礼!」
審判の言葉に互いに互いの健闘を称えて一礼すると、表と裏を決めるために主将だけを残し、他はベンチへ。
「音無君」
と、戻ろうとしてダイキは野村から呼び止められて振り向いた。
「えーっと野村さん、ですよね?」
「光栄だな、君に名前を覚えてもらえてるとは」
まぁ、相手のエースなんて普通は要警戒なので、当然と言えば当然なのだが。
「地方大会の準決勝を観たよ。凄まじい活躍だったね」
「あれは……あんまり蒸し返さないでくれるとありがたいです」
冷静になってから、恥ずかしい事を口にしたと認識し、先輩達にもイジられた。
「谷高光の事だろう?」
しかし、その名前を口にする野村の意図は別であると悟る。
「……そう言えば、野村さんの高校でしたね。ヒカリちゃんは」
「やはり、か。試合後のインタビューでピンと来たよ」
「何が言いたいんですか?」
「互いに求めるモノは優勝旗ではないと言う事だ」
オォォ……と、二人の間に妙な空気が流れる。
「……揺さぶりが目的ですか?」
「そのつもりはない。だが、そうなったならソレは君の責任だ」
野村の言うことは正しい。
野手であるダイキと、投手としてバッターと向かい合う機会の多い野村との違いは、対戦数の経験にある。
「……何が言いたいんですか?」
「俺にとって優勝旗はキッカケだ。彼女へ言葉を繋ぐためのな」
ピシャッ! と互いに雷が走った。
「……ヒカリちゃんは僕の幼馴染みです」
「だが、今近いのは俺だ。そして、今後もそうなる」
「……させません」
ダイキの言葉に野村は、フッ、と笑うとベンチへ帰って行った。
「ん? 音無、まだベンチに戻ってなかったのか。準備しろ。一番だろ」
「と言うことは――」
「ウチが先行だ。ほら、急げ」
一回戦は今年で一番暑くなる。
と、ダイキは今一度、野村の背を見た。
「ん? ダイキのヤツ、なんか話してるな」
「……野村先輩だ」
「エースの人? 何話してるんだ? あれ」
「……男ってバカばっかね」
恋とスポーツ。その二つは切っても切り離せない、高校生の青春そのモノである。
ちなみに、リンカ達の高校は一回戦で普通に負けた。
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