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第33話 シシドウガール

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「ねぇねぇ、お姉さん。凄く綺麗だよね」
「あら~、ありがとう」
「良かったら俺らと昼飯でも食べない?」
「ごめんなさいね~。一人じゃないの~」

 と、セナさんはオレの登場に合わせて目線を送ってくれた。
 ケーキに集る蟻共がオレへ視線を向ける。むっ……こいつら意外と鍛えてやがるな。

「何、お前。何か用?」
「いや、彼女はツレなんで。色々と間に合っているので別の方を狙ってください」
「は? 何でお前に指図されるわけ?」

 沸点の低い若者達だ。

「何度も言うけど間に合ってんの」
「お? 何君。すげー可愛いじゃん」

 すると背後で声。見るとナンパの別動隊がリンカに声をかけていた。

「じゃあ俺らはあの娘と行くわ」

 後ろの奴らはお前らの仲間かよ。チャラい癖に徒党を組やがって。

「おい待て」

 ビーチには他にも女の人はまばらに居るが、夜闇を照らすセナさんとリンカと言う光は余計な虫を呼び寄せるにほどに強烈らしい。

「はぁ? お前はこっちと間に合ってろよ」

 虫共は海に来るだけに身体は鍛えられており、筋肉質な様子が窺える。暴力沙汰は御法度だが、並みの男なら威圧されるだろう。
 ナンパ共は慣れている様にオレの事を避けて行く。

「離せ!」

 手を掴まれたリンカは振り払おうとした拍子に持っている飲み物がナンパの一人にかかった。まぁ、水着なので大した事はない。

「あーあ。濡れちまったよ」
「おいおい、責任取って貰うぜ」

 リンカの胸を見るハイエナ共。手が足りねぇ。
 セナさんとリンカの両方を救うにはもう騒ぎを起こして監視員を呼ぶしかないとオレは結論を出す。取りあえず両手に持っている飲み物を、そいつらにぶっかけて気を引こうかと思っていると、

「けんごー!」

 そんな声が海から聞こえた。全員の視線は海から来る一人の幼女へと向けられる。





 それは、こちらに天使のような純粋な笑顔を向けていた。
 先ほど気になった海の上を不自然に滑っていた少女はオレを見て手を振りながら海の上をこちらへ滑ってくる・・・・・
 いや、少女の下に何か居る。
 海から陸に近づくに連れて、少女の身体は潜水艦のように浮上して行き、その下には水泳ゴーグルを着けたハ○クが現れた。

「じぃー、けんごー」

 そう言う少女を肩車するように海から上がったハル○はこっちを見ると、ずんずん、と歩いてくる。

「……」

 ソレを見上げるナンパ共とオレとリンカ。セナさんは面白そうに成り行きを見守っていた。
 〇ルクから、ぽたぽた、と水が垂れ、少女はその肩の上で、きゃっきゃっ、とオレに手を振って騒いでいる。

「おお! ケンゴじゃねぇか! こんな所で何やってんだ? ナンパかぁ?」

 ゴーグルを外して、ニッ、と笑うのは3課の課長ボスである獅子堂課長だった。

「ふむ」
「ふむ?」

 獅子堂課長は状況を一瞥し、肩に乗る少女もそれを真似する。

「悪いな坊主たち。彼女たちは間に合ってるんだが……それでも連れてくかい?」
「つれてくかい!」

 速攻で状況を察してくれた獅子堂課長はナンパ共へ告げる。その言葉を肩に乗る少女も真似をする。
 ナンパ達も鍛えてはいるが、やはり獅子堂課長のボディビルダーみたいな身体は格が違う。この人も脱いだらスゲーのな。

「い、いや……烏龍茶かけられて」

 この威圧に言い返すナンパ男。素直に尊敬するわ。オレなら漏らしてる。

「ほう」

 と、獅子堂課長は、ずんずん、とリンカに烏龍茶をかけられた男へ近づく。道を開けるナンパ仲間。たじろぐ当人。

「濡れてナンボが水着だろ? それともナニか? 海水浴に来たのに水着じゃない、と?」

 その肩に獅子堂課長は、ぽん、と手を置く。

「い、いや……そんな事は……」
「じゃあ、問題ない。そうだろ?」
「そーだろー」

 少女の可愛いオウム返し。ナンパ男と獅子堂課長はまるでウサギとライオンだ。頭から取って食われても仕方のない食物連鎖を連想する。

「よっしゃ、お前ら! ナンパするくらい寂しいなら遊んでやるよ! 一人ずつ海にダイブだ! 俺が投げてやる! 折角、夏と海にいるんだ! ならではの遊びをせんとな!」
「せんとな!」

 獅子堂課長はマジ○ガーZがブレス○ファイアーを撃つ時みたいに腕を上げて、ガハハと提案する。
 しかしナンパ男たちは、だ、大丈夫です、予定あるんで! と言って逃げて行った。
 うん。オレなら銃を持ってても逃げる。

 



「ししどーるりです! 5さいです!」
「あら~ご丁寧に。鮫島瀬奈さめじませなです。セナちゃんって呼んでね♪」
「せなちゃん!」
「ふふ」

 偶然にも強力な介入者のおかげで大事には至らなかったナンパ共の黙示録。
 獅子堂課長とその孫娘、瑠璃るりちゃんと言う戦力は物理的にも精神的にもオレらのパーティーに良い効果を及ぼしてくれた。

「ししどーるりです!」
鮫島凛香さめじまりんかです。よろしくね、ルリちゃん」
「よろしく! りんか!」

 特に呼び名が無ければ呼び捨て。まぁ、それが許容できる年頃なのですよ。

「間一髪だったみたいだな」
「本当に助かりました」

 鮫島家とルリちゃんの自己紹介を横目にオレは獅子堂課長に改めてお礼を言う。

「気にすんな! 二人はレベル高けぇからよ! もう一人くらいは、誰かツレが居た方が良かったな!」

 国尾とか呼んどけよ。それはオレの方が危ないです。
 などと会話をしてると、ルリちゃんが走ってくる。

「じぃ。お腹空いた……」
「よっしゃ飯にすっか! ご婦人方も一緒にどうですか?」

 身体に似合わず紳士な立ち振舞いが出来る獅子堂課長の提案をオレたちは断る理由もないのでご一緒することに。
 獅子堂課長は仔猫でも持ち上げるかのようにルリちゃんを肩に装備する。

 じぃと居るときはそこが定位置なのね。
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