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第27話 愛です

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 時刻も昼過ぎになり、昼休憩の最中、少し遅れた昼食を皆で取っていた。

「むう……」

 オレはキラービーの襲撃で利き手が使えないので、フォークを使って弁当を少しずつ弁当の中身を口に運ぶ。まぁ、上手くいかないんだわ。これが。

「ほら」

 苦戦しているオレを見かねて、リンカが隣に座ると箸でオカズを摘まんだ。

「流石にそれは――」
「見てて鬱陶しい」

 ほら、とリンカは中々強情だ。責任を感じさせてしまっているのだろう。気が済むまで付き合うか……少し情けない絵面だが。

「うふ、ケンゴちゃん。ラブね」

 食べ終わった弁当をゴミ箱に運ぶ西城さんがウインクしてくる。ただの介護ですよ、と西城さんに返したらリンカはおかずを掴んだ箸をオレの頬に押し付ける。口はそこじゃないですよー、リンカさん。





「あ、連絡来てる」

 昼休憩の最中、撮った写真の出来栄えを見させてもらっていると、ヒカリちゃんが自分のスマホを見てそんな事を口にする。

「誰から?」
「大騎」
「え、本当? アイツ、今何やってんの?」

 ダイキはリンカやヒカリちゃんと一緒にオレが面倒を見ていた一人だ。
 性格は二人よりも気弱で、追いかけて来ては追いつけずに転んで、逆にオレらが駆け寄った印象である。

「中学はわたし達とは別だったからさ。そのまま高校も別。今は野球やってて強豪のレギュラーだよ」
「おお。やっぱ野球やってるんだ」

 よく、アパートの前でキャッチボールをしてやった。最初は上手く投げられなかったけど次第に良い球を投げる様になったっけ。

「リンカちゃんは連絡取ってないの?」
「あたしにはあんまり来ない」
「ふーん」

 そう言えば、ダイキはヒカリちゃんの事を良く見てたな。

 “ケンにいちゃん。すきな人にあいしてもらうには……どうすればいいの?”

 どこでそんなセリフを覚えたのか。この世に産まれ落ちてから10年も経っていないダイキにオレは、その子がカッコいいと思うモノになればいいさ、って答えたっけか。

「それで、なんて連絡?」
「いつもの。試合があるから気が向いたら見てって」
「ほう。高校生って言うと甲子園?」
「地方予選だと思うけど、ダイキの所強豪だから、準決勝から中継されるって」

 三年間、日本を離れていた事もあり、その辺りの情報は新鮮だ。

「これの事?」

 オレは自分のスマホを操作し生配信されてる高野連の中継番組をつける。

「それそれ」
「返信しないの?」

 リンカの提案に、いいの、いいの、とヒカリちゃんは手を振った。

「いや、それって結構重要だと思うよ。知り合いに応援してもらえてるって解るだけでもいつも以上に力が出たりするし」
「別に大丈夫だと思うけど……じゃあ試しに――」

 ヒカリちゃんは簡単に返信した。





 地区大会準決勝。
 ダイキの通う、白亜高校は毎年甲子園へ出場し、最多の優勝経験を持つ古豪として全国に名を轟かせている。

「全員、荷物は端に寄せとけ」

 主将の指示に部員達はバラバラでも統率された動きを見せる。
 そのベンチに入った白亜高校のレギュラーの中にダイキは居た。
 彼はいつもの様にヒカリへメッセージを送る。別に返答は期待していない。いつも通り動くためのルーティーンの様なモノだった。

「――よし」

 メッセージに既読が着いたのを確認し、いつもの様に調子が整う。スマホを鞄に仕舞おうとしたとき、更にメッセージが――

「――――」
「音無。スマホは仕舞っとけ。整列行くぞ」

 ダイキのルーティーンを解っている主将は忠告を入れるに留まる。

主将キャプテン
「ん?」

 スマホを仕舞い、帽子を被り直すダイキは振り向きながら答える。

「五回コールドにしましょう」
「お、おう……」

 ドラフト確定と言われる主将が思わずたじろく程のプレッシャーを纏うダイキ。彼の周りだけ景色が歪んでいた。

“今、撮影の休憩で全部観れないかも知れないけど頑張ってね♡”

 と、返信の帰ってきたスマホが鞄に突っ込まれている。





「しまった……」
「どうしたの?」
「変換履歴で語尾に♡ついちゃった」
「ん? 整列してる奴の中に一人空気が歪んでる奴いるんだけど……」
「あ、大騎だ」

 三人はサイレントと共に始まる試合を見る。





 試合開始のサイレンを凌駕する歓声が球場に上がった。
 一番、遊撃手ショート音無大騎おとなしだいきに投げられた初球は決して甘いモノではなかった。
 古豪に突如として現れ、僅か数ヶ月で超高校生と称されるダイキ。相手バッテリーは初手に決め球を投げると決めていた。

 初球から使って来るとは思わない高速スライダー。空振りを取ることで白亜高校に、この球を楔として打ち付ける事が目的だった。
 だったのだが――

『は、入ったぁぁぁ! まさかの初球! 音無大騎おとなしだいき。完璧に捉え、電光掲示板に打球を直撃!』

 解説者が声を上げ、相手チームのバッテリーが呆然と飛んで行った球の行方を見る。
 その間、ダイキは黙々とベースを周り、ホームを踏んだ。

『サイレンを上回る歓声! これこそ音無大騎! 大竹さん、今のはどう思いますかね』
『そうですね。音無選手は派手な一本よりも確実なヒットエンドランが目立つ選手ですから、余程噛み合ったのでしょう』





 ダイキはホームベースを踏むと、今の相手の決め球だったろ、この化物め、と笑う先輩方とハイタッチしながらベンチに戻る。

「初球からバックスクリーンに運ぶとか、どんだけ上振れてんだ?」

 主将も笑いながらヘルメットを片付けるダイキに言う。
 ダイキはどちらからと言うと尻上がりスロースターターな選手である。延長戦になればなる程、その動きは洗練されていく。

主将キャプテン
「ん?」
「愛です」
「お、おう……」

 冗談めいた言葉だが、そのマジな口調に主将はそんな風にしか返せなかった。
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