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第8話 法律と爽やか先輩の告白

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「18」
「へ?」

 くたびれたYシャツに不衛生な無精髭。競馬新聞でも愛読してそうな見た目の男は4課の箕輪みのわさん。
 彼はオレの正面に座ると同時にその数字を口にする。

「現在、成人として見られ結婚できる年齢だぁ。付き合いに関しては男か女のどちらかが成人してれば問題ねぇ」

 突拍子のない発言。何を指しているのかオレには解らない。

「けどなぁ。付き合いに関してはよぉ、相手が嫌がる素振りを見せたり、拒絶するような行為があれば立派な犯罪だぁ」

 と、今度はニュースの仮面ラ○ダーを指差す。パワーボムを決めていた。

「ありゃ暴行罪だなぁ。相手に訴える脳ミソが無いのが救いだぁ」

 なんかあったんすか? と加賀は聞くが、さぁな~、と箕輪さんはオレを見る。

「鳳ぃ、仮面ラ○ダーの正体が気になるなぁ?」
「さ、さぁ……」

 と、加賀はどことなく察した様子で成り行きを見守った。

「けけけ。まぁ、ヒーロー様はしょっぴけないのが相場だぁ。会社に害が無いなら4課俺らも動かないねぇ」

 すると、箕輪さんは会社支給の携帯の着信を受ける。それを見て立ち上がった。

「ここはアメリカじゃねぇからなぁ? 忘れてるなら暫く4課で研修を受けられるように口きいてやるぜぇ?」
「い、いえ……大丈夫びゅです」

 思わず噛んだ……

あねさんによろしくなぁ、鳳」

 箕輪さんはのそりと立ち上がると気だるそうに歩いて行った。

「おいおい、マジか鳳。お前、これか?」

 加賀は動画を止めてポーズを決めてる仮面ラ○ダーを指差す。

「他に方法がなくてな」
「てことは、このはリンカちゃんか。帰ってきて早々に二人で夏祭りかよ。相変わらず仲が良いねぇ」
「……仲……良いのかなぁ?」

 未だに何故、不機嫌なのか解らない。
 昔は中学の制服を見せながらくるっと回って、ねぇねぇ可愛い? と笑顔を見せてくれていたのだが、今はゴミを見るような目しか向けられてない。

「普通は同年代との時間が多いもんだろ? そんな中でお前を選んでんだ」

 まぁ……そう言う解釈にしておけばオレも精神ダメージは少ないか……

「それよりも4課に目をつけられるなよ? あの課の連中は全員弁護士の資格持ってるからな」

 元は会社の顧問弁護士集団であったらしいが、会社内の風紀を目に見える形で規制する為に4課として表に出て来たとの事。
 課としては比較的に新しいが、会社との関りは1課と同じくらい古くからある。

「知ってるよ。特に箕輪さんは前に世話になったしな」

 リンカが小学生の頃、彼女の父親絡みで逮捕された事があり、その時に対応してくれたのが箕輪さんだった。

“鳳ぃ。あんまり調子に乗ってガキを泣かしやがったらぁ、次は実刑にしてやるからなぁ?”

「そういや、姉さんって誰の事だ?」
「あー、あんまり広げんなよ? 鬼灯先輩の事だ」

 鬼灯先輩がどういう経緯で3課に来たのかは知らないが、その事実は彼女の謎を深めるには十分な情報ものだった。





 下校時刻。
 リンカはヒカリと取り留めのない会話をしながら、自分の下駄箱を開けると一通の手紙が入っていた。

「……」
「お、青春が始まりましたなぁ~」

 うふふ、と他人事のようにヒカリは自分の下駄箱を開けるとバサバサと手紙が落ちて来た。

「…………」
「そっちもね」
「もー! 直接言いに来なさいよ!」

 色々と己の情熱を書き連ねてあるのだろうが、こんな回りくどい事をするよりも正面から、ビシッと、言ってもらえる方がヒカリとしては好印象なのだ。
 もうすぐ夏休みなので異性への告白が多くなる時期。既に青春の波に呑まれつつある二人である。

「鮫島さん」

 すると、入り口の方から爽やかな声が聞こえた。

「あ、どうも。えっと、佐々木先輩……ですよね?」

 それはサッカー部のエースストライカーであり次期主将の佐々木先輩。
 実力を歯に着せず、人当たりの良い人格者としても知られており、男女ともに人気が高い。彼が掻いた汗が舞うと、キャーと声が上がる。通称、爽やか先輩。

「ごめんね。どうしても鮫島さんが手紙を受け取ってくれるか気になってね」

 後輩にもさん付けする程に、出来た人格の爽やか先輩は少し恥ずかしそうにリンカが手に持ってる手紙を見る。

 ルックス、性格、スポーツがトップレベルの先輩は一年生の頃から人気だったらしいが、彼女を作らない事で有名だった。

 理由は部活に集中したいからと言うもので、引退してからを狙おうとしている女子が多い。

「本来なら連絡を待つべきだと思ったんだけど」

 外からでは手紙の差出人は解らない。しかし、中身には学校中の女子生徒が魂を売ってでも手に入れようとする先輩の個人連絡先が入っているようだ。
 
「姉がさ、よくモデル雑誌を買ってて俺もたまに見せて貰ったんだけど……その時、初めて鮫島さんを見た」
「……どうも」

 一年ほど前に一度だけの雑誌モデルに載った号を爽やか先輩は拝読したらしい。

「それで、ここに君が入学したことには驚いた。手が届かない憧れに抑えておくつもりだったけど……今は真剣に君と付き合いたいと思ってる」

 最後あたりは少し勇気を振り絞った口調であった。
 その気持ちはリンカも深く理解できると同時に先輩を凄いと思った。

“来週から海外に転勤になったから、暫くお別れな”

 何故なら彼女はあの時、言えなかったかったから――

「先輩」

 リンカの返事を爽やか先輩は静かに待つ。

「あたし、先輩は凄いと思います。誰にも優しくて、サッカーも上手だし、色んな人が笑って話し掛けてくれる」

 爽やか先輩はリンカも自分を見ていてくれたのだと感じた。

「じゃあ――」
「先輩は皆に寄り添われる人です。けど、あたしはどっちかと言うと好きな人は独り占めしたい人間なんですよ」

 リンカは自分が先輩ほど出来た人間でないと語る。
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