83 / 98
第二部-失意の先の楽園
67. レオとマークス
しおりを挟む
「久しぶりだなライリー」
レオの呼びかけに、ニコール達の出会いを羨ましそうに、そして切なそうに見ていたライリーがハッと我に返る。
すると今度は慌てたようにレオの元に駆け寄り声を上げた。
「レオっ千尋を、早く千尋を助けて!! あの男に連れて行かれたの!!」
必死の形相で叫ぶライリーに、レオの神経がピリついたのはいうまでもない。
千尋がライリー達と一緒ではない時点で、千尋だけがどこかに連れてだろうことは分かっていた。
苛立ちと焦りが漏れ出し、冷たい空気を纏うレオに気が付いたのか、ライリーは小さくごめんなさいと零して体を震わせ始めてしまう。
するとマークスが後ろからライリーを安心させるようにの肩を撫でて落ち着かせ始め、レオのことを真正面から見た。
「貴方がレオですか?」
「お前は……」
「マークス……と言えばわかりますか?」
声をかけられれば、途端にざらりとした嫌な予感がレオの肌を撫でる。
そして目の前の男を警戒するようにと、別の警告音が頭に鳴り響き始めた。
敵意は微塵も感じない。だというのに、何故ここまで神経が騒ついて仕方がないのか。
彼の顔に広がる火傷のせいではない。そんな人間など過去山ほど見てきた。
ではなぜ警戒してしまうのか。
理由の一つは、αであるはずなのに彼から一切そのフェロモンを感じないからだろう。
周りに漂う薬の濃い香り阻まれている訳ではなく、自身や千尋のように一切感じないのだ。
だが同じバース性だからだろうか、目の前の男が紛れもなくαであるとレオは確信を持っていた。
自身や千尋と同じように、フェロモンを消せる者がいることに驚きはある。
フェロモンを分泌する器官が壊れているのか、それとも同じように自在に操れるのかは不明だがしかし、それ以外でも警戒してしまう理由があった。
頭の中で響いてやまない警告音に、レオは既視感があったからだ。
危険とはまた違う、それはアーヴィングの時に感じたような感覚で――
そこまで思考が及ぶと、レオは皮肉気に口端を上げ自身をせせら笑う。
こんな場所で、しかもフレディという黒幕の息子だと言う彼が千尋の運命の番であろうとは。
フェロモンは感じないが、きっと千尋はそれに気が付いたに違いない。
だがこの男はどうだろうか。
暫くの間、千尋と共に居たであろうこの男は、千尋が運命の番だと気が付いてしまっているのだろうか。
思い出したくもないアーヴィングとのやり取りを思い出しながら、レオは手にした銃のグリップを強く握り込む。
もし気が付いていたとすれば、みすみすフレディなどに千尋を取られたりするだろうか。
運命の番と出会ったαもΩも、番が害されることに関して寛容ではいられない。
それは半身を亡くすことへの恐怖と、本能で自身の精神が脅かされることが分かっているからではないかとレオは考えている。
そこまで考え、千尋以外のΩであるライリーに付き添っているマークスを観察する。
顔の火傷の痕に目がいくが、他に外傷となるようなものは見受けられない。
運命の番だと気が付いていれば、身を挺して、それこそ自分自身が死に直面したとしても番を守ろうとするはずなのだ。
しかしマークスにそんな様子は見られなかった。
なによりも、千尋の前にマークスが再び姿を見せるなど不愉快以外のなにものでもない。
――どさくさに紛れて殺してしまおうか。
そんな物騒な思考を巡らせていれば、マークスはそんなレオに何を思ったのか困ったように眉を下げ、そして肩を竦めて見せた。
「僕が貴方を千尋のところに案内します」
「……正確な場所がわかるのか?」
「恐らくですが……無作為に探すよりは、確実に早く千尋を助けられると思うんです」
マークスによれば、フレディは千尋を入り組んだ場所にある隠れ家か、地下室に連れて行った可能性が高いという。
暗く広大な森の中では、そこまでレオ達だけで到達するには時間が掛かりすぎるのも事実。
提案された通りに案内を任せた方が得策だと考え、レオはそれに乗ることにした。
「こっちです」
不安げに揺れるライリーを他の隊員に任せると、レオ達はすぐに千尋を救出するべく動き出す。
マークスを先頭に、レオ達は周りを警戒しながら燃える家の横を通り過ぎると、足場の悪い暗い森の中を進んでいく。
徐々に遠ざかり始める背後の騒めきを聞きながら、レオは万が一に備えてマークスに警戒心を向けていた。
それに気が付いたのだろう。道なき道を歩きながらレオと横並びになったマークスが小声で話しかけてくる。
「安心してください。僕は千尋に興味はありませんよ」
突然放たれたその言葉に、信用できるものかとレオは鼻白む。
「僕は確かに千尋の運命だけれど、僕が選びたい運命の番はライリーなので」
ライリーもまた、己の運命の番だというマークスに、レオはそれでも彼を信用しようとは思わなかった。
そうであるならば、ライリーの項に噛み痕があるはずだ。
しかし千尋より先にこの場所に来ていて、長い時間を共に過ごしていたはずの彼女の項はちらりと見えただけだが綺麗なものだった。
なによりも、ライリーはマークスを運命の番だとも、αだとも認識している様子は見られなかったのだ。
そんな状態で、どうして黒幕の息子であり、千尋の運命の番である男の言葉が信用できるだろうか。
返答をせず、無言を貫くレオにどうあっても納得しないのだろうと悟ったらしいマークスは、それ以上何も言うことはなかった。
レオの呼びかけに、ニコール達の出会いを羨ましそうに、そして切なそうに見ていたライリーがハッと我に返る。
すると今度は慌てたようにレオの元に駆け寄り声を上げた。
「レオっ千尋を、早く千尋を助けて!! あの男に連れて行かれたの!!」
必死の形相で叫ぶライリーに、レオの神経がピリついたのはいうまでもない。
千尋がライリー達と一緒ではない時点で、千尋だけがどこかに連れてだろうことは分かっていた。
苛立ちと焦りが漏れ出し、冷たい空気を纏うレオに気が付いたのか、ライリーは小さくごめんなさいと零して体を震わせ始めてしまう。
するとマークスが後ろからライリーを安心させるようにの肩を撫でて落ち着かせ始め、レオのことを真正面から見た。
「貴方がレオですか?」
「お前は……」
「マークス……と言えばわかりますか?」
声をかけられれば、途端にざらりとした嫌な予感がレオの肌を撫でる。
そして目の前の男を警戒するようにと、別の警告音が頭に鳴り響き始めた。
敵意は微塵も感じない。だというのに、何故ここまで神経が騒ついて仕方がないのか。
彼の顔に広がる火傷のせいではない。そんな人間など過去山ほど見てきた。
ではなぜ警戒してしまうのか。
理由の一つは、αであるはずなのに彼から一切そのフェロモンを感じないからだろう。
周りに漂う薬の濃い香り阻まれている訳ではなく、自身や千尋のように一切感じないのだ。
だが同じバース性だからだろうか、目の前の男が紛れもなくαであるとレオは確信を持っていた。
自身や千尋と同じように、フェロモンを消せる者がいることに驚きはある。
フェロモンを分泌する器官が壊れているのか、それとも同じように自在に操れるのかは不明だがしかし、それ以外でも警戒してしまう理由があった。
頭の中で響いてやまない警告音に、レオは既視感があったからだ。
危険とはまた違う、それはアーヴィングの時に感じたような感覚で――
そこまで思考が及ぶと、レオは皮肉気に口端を上げ自身をせせら笑う。
こんな場所で、しかもフレディという黒幕の息子だと言う彼が千尋の運命の番であろうとは。
フェロモンは感じないが、きっと千尋はそれに気が付いたに違いない。
だがこの男はどうだろうか。
暫くの間、千尋と共に居たであろうこの男は、千尋が運命の番だと気が付いてしまっているのだろうか。
思い出したくもないアーヴィングとのやり取りを思い出しながら、レオは手にした銃のグリップを強く握り込む。
もし気が付いていたとすれば、みすみすフレディなどに千尋を取られたりするだろうか。
運命の番と出会ったαもΩも、番が害されることに関して寛容ではいられない。
それは半身を亡くすことへの恐怖と、本能で自身の精神が脅かされることが分かっているからではないかとレオは考えている。
そこまで考え、千尋以外のΩであるライリーに付き添っているマークスを観察する。
顔の火傷の痕に目がいくが、他に外傷となるようなものは見受けられない。
運命の番だと気が付いていれば、身を挺して、それこそ自分自身が死に直面したとしても番を守ろうとするはずなのだ。
しかしマークスにそんな様子は見られなかった。
なによりも、千尋の前にマークスが再び姿を見せるなど不愉快以外のなにものでもない。
――どさくさに紛れて殺してしまおうか。
そんな物騒な思考を巡らせていれば、マークスはそんなレオに何を思ったのか困ったように眉を下げ、そして肩を竦めて見せた。
「僕が貴方を千尋のところに案内します」
「……正確な場所がわかるのか?」
「恐らくですが……無作為に探すよりは、確実に早く千尋を助けられると思うんです」
マークスによれば、フレディは千尋を入り組んだ場所にある隠れ家か、地下室に連れて行った可能性が高いという。
暗く広大な森の中では、そこまでレオ達だけで到達するには時間が掛かりすぎるのも事実。
提案された通りに案内を任せた方が得策だと考え、レオはそれに乗ることにした。
「こっちです」
不安げに揺れるライリーを他の隊員に任せると、レオ達はすぐに千尋を救出するべく動き出す。
マークスを先頭に、レオ達は周りを警戒しながら燃える家の横を通り過ぎると、足場の悪い暗い森の中を進んでいく。
徐々に遠ざかり始める背後の騒めきを聞きながら、レオは万が一に備えてマークスに警戒心を向けていた。
それに気が付いたのだろう。道なき道を歩きながらレオと横並びになったマークスが小声で話しかけてくる。
「安心してください。僕は千尋に興味はありませんよ」
突然放たれたその言葉に、信用できるものかとレオは鼻白む。
「僕は確かに千尋の運命だけれど、僕が選びたい運命の番はライリーなので」
ライリーもまた、己の運命の番だというマークスに、レオはそれでも彼を信用しようとは思わなかった。
そうであるならば、ライリーの項に噛み痕があるはずだ。
しかし千尋より先にこの場所に来ていて、長い時間を共に過ごしていたはずの彼女の項はちらりと見えただけだが綺麗なものだった。
なによりも、ライリーはマークスを運命の番だとも、αだとも認識している様子は見られなかったのだ。
そんな状態で、どうして黒幕の息子であり、千尋の運命の番である男の言葉が信用できるだろうか。
返答をせず、無言を貫くレオにどうあっても納得しないのだろうと悟ったらしいマークスは、それ以上何も言うことはなかった。
0
お気に入りに追加
1,631
あなたにおすすめの小説
俺の番が変態で狂愛過ぎる
moca
BL
御曹司鬼畜ドSなα × 容姿平凡なツンデレ無意識ドMΩの鬼畜狂愛甘々調教オメガバースストーリー!!
ほぼエロです!!気をつけてください!!
※鬼畜・お漏らし・SM・首絞め・緊縛・拘束・寸止め・尿道責め・あなる責め・玩具・浣腸・スカ表現…等有かも!!
※オメガバース作品です!苦手な方ご注意下さい⚠️
初執筆なので、誤字脱字が多々だったり、色々話がおかしかったりと変かもしれません(><)温かい目で見守ってください◀
【本編完結】運命の番〜バニラとりんごの恋〜
みかん桜(蜜柑桜)
BL
バース検査でオメガだった岩清水日向。オメガでありながら身長が高いことを気にしている日向は、ベータとして振る舞うことに。
早々に恋愛も結婚も諦ていたのに、高校で運命の番である光琉に出会ってしまった。戸惑いながらも光琉の深い愛で包みこまれ、自分自身を受け入れた日向が幸せになるまでの話。
***オメガバースの説明無し。独自設定のみ説明***オメガが迫害されない世界です。ただただオメガが溺愛される話が読みたくて書き始めました。
伸ばしたこの手を掴むのは〜愛されない俺は番の道具〜
にゃーつ
BL
大きなお屋敷の蔵の中。
そこが俺の全て。
聞こえてくる子供の声、楽しそうな家族の音。
そんな音を聞きながら、今日も一日中をこのベッドの上で過ごすんだろう。
11年前、進路の決まっていなかった俺はこの柊家本家の長男である柊結弦さんから縁談の話が来た。由緒正しい家からの縁談に驚いたが、俺が18年を過ごした児童養護施設ひまわり園への寄付の話もあったので高校卒業してすぐに柊さんの家へと足を踏み入れた。
だが実際は縁談なんて話は嘘で、不妊の奥さんの代わりに子どもを産むためにΩである俺が連れてこられたのだった。
逃げないように番契約をされ、3人の子供を産んだ俺は番欠乏で1人で起き上がることもできなくなっていた。そんなある日、見たこともない人が蔵を訪ねてきた。
彼は、柊さんの弟だという。俺をここから救い出したいとそう言ってくれたが俺は・・・・・・
巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編連載中】
晦リリ
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。
発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。
そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。
第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。
運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー
白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿)
金持ち社長・溺愛&執着 α × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω
幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。
ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。
発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう
離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。
すれ違っていく2人は結ばれることができるのか……
思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいαの溺愛、身分差ストーリー
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです
可愛くない僕は愛されない…はず
おがこは
BL
Ωらしくない見た目がコンプレックスな自己肯定感低めなΩ。痴漢から助けた女子高生をきっかけにその子の兄(α)に絆され愛されていく話。
押しが強いスパダリα ✕ 逃げるツンツンデレΩ
ハッピーエンドです!
病んでる受けが好みです。
闇描写大好きです(*´`)
※まだアルファポリスに慣れてないため、同じ話を何回か更新するかもしれません。頑張って慣れていきます!感想もお待ちしております!
また、当方最近忙しく、投稿頻度が不安定です。気長に待って頂けると嬉しいです(*^^*)
エリートアルファの旦那様は孤独なオメガを手放さない
小鳥遊ゆう
BL
両親を亡くした楓を施設から救ってくれたのは大企業の御曹司・桔梗だった。
出会った時からいつまでも優しい桔梗の事を好きになってしまった楓だが報われない恋だと諦めている。
「せめて僕がαだったら……Ωだったら……。もう少しあなたに近づけたでしょうか」
「使用人としてでいいからここに居たい……」
楓の十八の誕生日の夜、前から体調の悪かった楓の部屋を桔梗が訪れるとそこには発情(ヒート)を起こした楓の姿が。
「やはり君は、私の運命だ」そう呟く桔梗。
スパダリ御曹司αの桔梗×βからΩに変わってしまった天涯孤独の楓が紡ぐ身分差恋愛です。
竜殺しの異名を持つ冷徹侯爵に家族愛を説いてみたら、いつのまにか溺愛夫に変貌していました
津内つあ
BL
Ωとしての己の性を憎んでいた侯爵夫人のマテオは、政略結婚した夫とその間にできた子供に対し冷たく当たる日々を過ごしていた。
竜殺しの異名を持つ冷徹な夫もまた、家族に対しての愛情がなく、月に一度訪れるマテオの発情期を除いては常に屋敷の外で過ごしていた。
そんなある日、マテオは善良な日本人であった前世の記憶を取り戻す。心優しく愛に溢れた人格となったマテオは、愛しい息子のために夫と向き合う努力をし始める。
息子のために良い両親になろうと奮闘した結果、冷え切った夫婦仲にも変化が訪れて──
愛を知らない不器用美形α×元毒妻で毒親の善良な平凡Ω
肉体的には年上×年下、精神的には年下×年上です。
ほのぼの子育てBL、時々すけべな感じになる予定です。
竜がいたり魔法が使える人がいたりするちょっぴりファンタジーな世界観です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。