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第二部-失意の先の楽園
65. 不気味な場所
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レオは万全の準備を整え、森の中に来ていた。
かつて特殊部隊に所属していた時とメンバーが殆ど変わらないチームは、レオの指揮で作戦を立てる。
記憶を取り戻したマチルドに内部情報をできる限り聞き出していたレオは、情報を隊員達と共有するためにタブレットを見ながら話しだした。
おかしなカルト教団だと顔を顰める者、騙されたΩ達を思い悲壮な顔をする者、そして怒りを露わにする者。
話を聞いた反応は様々だった。
レオはそんな面々を見ながら、淡々と話を続けていく。
彼らが拠点としている森の中には家点在していて、そのほぼ中央にあたる場所にある一際大きな建物。
それがあの不気味な楽園を作ったフレディという男が暮らす場所であるらしい。
突入は夜に設定し、作戦を練り隊員達と動きを入念に確認しながら、レオ達は夜の帷が訪れるのを待った。
常に特殊な任務を熟す彼らと共にあるのはとても心強い。
無駄のない各々の動きと、意思疎通の速さ。背中を安心して任せられることへの安堵感。
臨時の護衛達と連携をとらなければならない時よりも、長年慣れ親しんだ感覚がしっくりと体に馴染み、心地よさすらあった。
周りの緑がオレンジの光に照らされ始めた頃。
暗い森の中に溶け込めるように全身を黒い装備で固めたレオは、千尋の状況を確認しようとネックガードで通信を試みていた。
だがその通信が取られることがないまま、時間だけが過ぎていく。
千尋に何かあったのだろうかと不安と焦りが募る。しかしここで冷静を欠いて良いことはないと、レオは自身に言い聞かせた。
「千尋君と連絡はまだ取れないのかレオ」
フレッドにそう問われ視線を通信機から上げれば、不安そうに揺れる瞳でレオのことを見つめているフレッドとニコールがいた。
彼らもまた、己の娘と運命の番が心配なのだろう。
千尋との連絡手段はレオしか持っていないうえに、彼らが捜しているアイリスは千尋と一緒にいることになっている。
故に千尋と連絡が取れないということは、アイリスの安全も分からないということなのだ。
レオは目を一度眇めると、フレッドとニコールに釘を刺す。
「何度も言うが、最優先は千尋だ。アイリスじゃない」
口を開こうとしたニコールは、ここに来るまでの道中で散々レオに言い含められていることを思い出したのか、耐えるように唇を噛みしめた。
「もし千尋を優先しないことがあれば、私は迷わずお前達を撃ち殺す」
ごくりと息を呑んだのはどちらだろうか。フレッドかもしれないし、ニコールかもしれない。
彼らにしてみればかつての仲間を躊躇いなく殺すというレオに怒りが湧いていることだろう。
四つの目が、引き締め戦慄く口が、握りしめた拳がそれを如実に表していた。
だがそんなことには構いやしない。
千尋の救出が最優先であるのはレオが望んでいることでもあるが、千尋を囲む権力者や狂信者達が望んでいることでもあるからだ。
銃撃戦になっても盾にできる装甲車両の前、チームの全員を集めたレオは突入前の仕上げにかかる。
「奴らは強制的にβであっても運命の番だと思い込ませることのできる薬を持っている。これは最近頻発しているフェロモンアタックで使用されていたものだ」
僅かに震える隊員達には怯えが見て取れる。
誰だってこんな場所で強制的によく知りもしない、犯罪に手を染めている者と番にはなりたくはないだろう。
レオは軍で使用する強力な抑制剤をケースから取り出すと、それを隊員達に配る。
同時に予備の緊急用抑制剤も配ると、隊員達からようやく安堵の空気が流れた。
「行くぞ」
薬が回り切り周辺の暗さが丁度良くなった頃合いを見計らうと、レオ達はバラけて森の中へ足を踏み入れていく。
手入れされていない場所は草の背が高く普通であれば足を取られて動きづらい。
しかしその中でも装備で重たい体を難なく動かし、できるだけ音を立てないようにしてレオ達は一番近くの家に忍び寄る。
ハンドサインで合図を出しながら窓から家の中を覗けば、先に広がっていた光景にレオは思わず眉を顰めた。
一緒についてきているフレッドとニコールも、レオとは別の窓から中を覗くと同じような反応を見せる。
半分に開かれていたカーテンの隙間から見えたのは、複数の男女が入り乱れてことに及んでいる光景だった。
その光景はまるで理性が外れた獣のような有様で、ただでさえ他人のそういった行為を見ることも嫌であるのに、さらに上をいくような光景に嫌悪感しか感じない。
その次に見た家の中も、その次も。どこもかしこも家の中は似たようなもので、精神が地味に削られていくのレオは感じていた。
「もうやだ、なんなのよここ」
それはどうやらレオ意外も同じであるようだった。
とうとう小さく悪態を吐いたニコールは、気分が悪いとばかりに顔を歪めている。
それに同意するようにレオが頷けば、隣にいたフレッドだけは顔を青ざめさせ体を震わせていた。
「しっかりしろフレッド。千尋から連絡を受けた時のアイリスの声は明るかった。お前が想像していることは起きていないだろう」
「そう……そうだ、そうでなければ……私は自分が許せなくなってしまう」
目にしたくはない光景の数々に、アイリスが同じような目にあっているのではないのかと心配しているのだろう。
フレッドの言葉にニコールもその考えに至ったらしく、口元に手を当て顔を青ざめさせはじめた。
「そんなに心配なら早く千尋を見つけるんだ。しっかりしろ、遅くなればなるほど良くないと分かっているだろう」
レオの言葉に呼吸を整えた二人は目つきを鋭くして、かつての時の同じような真剣さを漸く纏う。
内心呆れ果てていたレオだったが、いつまでも腑抜けて居られても困るので内心で溜息を吐くに留め、歩みを更に進めた。
*X(旧Twitter)で先日叫んでいたのですが……
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ノミネートされてみたいッ!!!
ということで、運命に抗えの書籍が今回対象となっていますので、是非とも!!!
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→@seki_takachika
よろしくお願いします!!🙏✨✨
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話を聞いた反応は様々だった。
レオはそんな面々を見ながら、淡々と話を続けていく。
彼らが拠点としている森の中には家点在していて、そのほぼ中央にあたる場所にある一際大きな建物。
それがあの不気味な楽園を作ったフレディという男が暮らす場所であるらしい。
突入は夜に設定し、作戦を練り隊員達と動きを入念に確認しながら、レオ達は夜の帷が訪れるのを待った。
常に特殊な任務を熟す彼らと共にあるのはとても心強い。
無駄のない各々の動きと、意思疎通の速さ。背中を安心して任せられることへの安堵感。
臨時の護衛達と連携をとらなければならない時よりも、長年慣れ親しんだ感覚がしっくりと体に馴染み、心地よさすらあった。
周りの緑がオレンジの光に照らされ始めた頃。
暗い森の中に溶け込めるように全身を黒い装備で固めたレオは、千尋の状況を確認しようとネックガードで通信を試みていた。
だがその通信が取られることがないまま、時間だけが過ぎていく。
千尋に何かあったのだろうかと不安と焦りが募る。しかしここで冷静を欠いて良いことはないと、レオは自身に言い聞かせた。
「千尋君と連絡はまだ取れないのかレオ」
フレッドにそう問われ視線を通信機から上げれば、不安そうに揺れる瞳でレオのことを見つめているフレッドとニコールがいた。
彼らもまた、己の娘と運命の番が心配なのだろう。
千尋との連絡手段はレオしか持っていないうえに、彼らが捜しているアイリスは千尋と一緒にいることになっている。
故に千尋と連絡が取れないということは、アイリスの安全も分からないということなのだ。
レオは目を一度眇めると、フレッドとニコールに釘を刺す。
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四つの目が、引き締め戦慄く口が、握りしめた拳がそれを如実に表していた。
だがそんなことには構いやしない。
千尋の救出が最優先であるのはレオが望んでいることでもあるが、千尋を囲む権力者や狂信者達が望んでいることでもあるからだ。
銃撃戦になっても盾にできる装甲車両の前、チームの全員を集めたレオは突入前の仕上げにかかる。
「奴らは強制的にβであっても運命の番だと思い込ませることのできる薬を持っている。これは最近頻発しているフェロモンアタックで使用されていたものだ」
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目にしたくはない光景の数々に、アイリスが同じような目にあっているのではないのかと心配しているのだろう。
フレッドの言葉にニコールもその考えに至ったらしく、口元に手を当て顔を青ざめさせはじめた。
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