運命に抗え【第二部完結】

関鷹親

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第二部-失意の先の楽園

64. 燃える家

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「クソ、クソ、クソ!!」

 頭を抱えながら、しかし痛みですぐには起き上がれない様子のフレディを一瞥した千尋達は、悪態を吐きながらのた打ち回るフレディを残して外に向かう。

「あ、ちょっと待って」

 突然足を止め声を上げたマークスに、千尋達はどうしたのかと視線を一斉に向けた。
 一体どうしたのかと見ていれば、彼は近くにあった灯油缶を蹴り倒し、躊躇いなく火を点けたマッチを床に落とした。

「時間稼ぎ、できた方が良いでしょ」

 自身の顔にある火傷の痕に手を這わせたマークスは、体を震わせながら引き攣った様に笑う。
 その痛々しい表情に、千尋達は息を呑んだ。

「これが原因で、火は苦手なんだ。料理する時は極力火を使わないようにしていたんだけど……時間を稼ぐには、これが一番かと思って」

 傷が原因で火がトラウマになっていると告白したマークスに、ライリーが心配だとばかりに寄り添う。
 そうこうしていれば、木造の建物は火が回るのが早くあっという間に煙が充満していった。
 精神の乱れを誤魔化すように気丈さを見せたマークスは、千尋達を促して外へ続く廊下を進む。

 殴ることといい、時間稼ぎのやり方と言い、マークスとフレディはある意味似ている親子なのだろうと内心思ってしまったが、千尋はそれを口に出すことはなかった。
 大きな扉の前、煙を吸い込まないようにと鼻をハンカチで塞いだ千尋達は、新鮮な空気を求めて闇に包まれた外に出る。

 出た先にあったのは光景は、阿鼻叫喚といったところだった。
 野外だというのにあられもない姿で交わり合う大勢の人々。ライリーは咄嗟にアイリスの目を覆ったが、聞こえてくる複数の喘ぎ声は防ぎようがない。
 なによりも目の前の光景に足が竦み、アイリスは体を動かせないようだった。

「千尋、タオルで私の鼻を覆って後ろで結んでくれないかしら」

 冷静さを保とうとしているライリーに頼まれた千尋は、受け取ったタオルを素早くつけ、頭の後ろできつく結んで落ちないように固定する。
 するとライリーはアイリスを抱き上げ、目を肩につけ耳を塞いでいるよう指示を出した。
 そこまで子供ではないアイリスだが、平均より小柄が故に年齢より下に見えて庇護欲をそそられるのだろう。

「僕がアイリスを……」
「いいえ、私が。マークス、貴方は安全な場所に案内をしてくれるんでしょう?」

 マークスが複雑そうな表情そ一瞬見せたが、すぐに切り替えた彼は先導するように木々が茂る方へ進もうと歩き出した。
 千尋もそれに続こうとすれば、途端に後ろから強く手を引かれて蹈鞴を踏む。

「逃がさないよ千尋」

 額から血を流しながら千尋の腕を引いたのは、目を限界まで見開き血走らせたフレディだ。

「離してくださいっ」
「動くなッ!!」

 燃える火に照らされたのは、フレディが取り出したハンドガン。
 銃口の先はマークス達に向けられていて、いつ引き金がひかれてもおかしくない状況だ。

「千尋っ!!」

 思わずといった様子で一歩踏み出してしまったマークスに、フレディが躊躇いなく引き金を引き絞った。

「動くなと言ったはずだ!!」

 大きな音を立てて放たれた銃弾は、ライリーの足元に着地した。
 抱えるアイリスをキツく抱きしめじりじりと後退するライリーに、マークスも千尋を気にしつつも両手を上げて後ろ足で進み距離を開けた。

「いいかい、そのまま動くな? 今度動いたら、誰かの頭を撃つからね」 

 マークス達が頷くのを見たフレディは彼らに背を向け、逆戻りするように燃える家の中に足を進めていく。

「っ!! 逃げてくださいっレオ達を探してっ……助けを!! ゴホッゴホッ」

 危険だがレオ達の元に行くように千尋は声を張り上げた。
 なんとか逃れようと僅かに抵抗して見せた千尋だったが、逃げようにもフレディの腕を腕を掴む力は強く、拘束は解かれることはなかった。
 大声を上げたせいで煙を大量に吸ってしまい、盛大に咳き込んでしまう。
 喉が熱くなり目は煙のせいで痛んで涙で視界が狭まっていれば、次の瞬間別の痛みが襲い溜まった涙が空中に散った。

「大人しくしてくれないと、君も撃つよ?」

 声を上げたことでフレディに頬を思い切り叩かれたが、千尋が僅かに頷けばそれ以上のことはされず、燃え盛る室内へ進んでいくだけだった。

「千尋っ!」

 マークスが千尋を呼ぶ声が聞こえ、振り返る。
 その時、玄関の上にあった大きな柱が火に焼かれ、千尋とマークス達の間に大きな音を立てて落下した。
 完全に分断されてしまったことに歯を食いしばった千尋は、沸き上がる恐怖心を押さえつける。

 彼らがレオが連れてきた者達の誰かに接触できれば、すぐにこの状況がレオに伝わることだろう。
 そうすればレオが必ず助けてくれる。
 こんなことになるならば、多少なりとも護身術を習っていればよかっただろうかと恐怖心が芽生えた頭で考える。
 だがこんな状況になってしまっては全ては今更だ。

――レオが助けに来ないはずはない。そう自身に言い聞かせながら骨が軋むほどに強く腕を掴まれた千尋は、フレディについていくしかなかった。
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