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第二部-失意の先の楽園
56. 千尋の行方3
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派手に暴れまわったというのに、警察は愚か特殊部隊すらもやってこない会場。
それだけで最初から全て手配され綿密に計画されていたのだろうことが分かる。
レオはブライアンに直通で繋がる番号を押しながら、負傷を負わせた者達が万が一にも逃げないように手早く拘束していく。
何度かコール音を鳴らせば、すぐに通話が始まった。
『レオか。なにかあったのかい』
「千尋が攫われました」
『なんだって? 移動する、少し待て』
電話口の向こう側ではカメラのシャッターを切る音や、人の騒めく声が絶えず聞こえている。
丁度取材か何かの途中であったのだろう。だがブライアンはそれをすぐさま切り上げてくれるようだった。
暫く待っていれば周りの音は徐々に遠ざかっていき、周囲の雑音が一切聞こえなくなったところでブライアンが再び言葉を発する。
『待たせたねレオ。それで、君がついていながら千尋が攫われたってどういうことだい』
恐ろしい程に冷たいブライアンの声音に、レオの背筋は自然と伸びる。
ひとつ呼吸をついてからできるだけ簡潔に、アロン・ロマーニが誘拐を企てた犯人に協力し参加したパーティーで千尋を連れ去ったのだと説明した。
『何のために君を付けていると思っているんだ?』
「申し訳ございません大統領」
『それでアロンは?』
「捕らえて転がしてあります。私を制圧するために雇っていた武装集団も同じく。回収願いますか」
『いいだろう、すぐに人を送るよ。それで千尋は今どこに居るんだい? そこにもすぐに人を送るけど』
「現在GPSでの追跡不可の表示が出ています。どうやらネックガードの情報がアロンから漏れていたらしく、拉致犯に壊された可能性が高いと思われます」
『へぇ……? どうやらアロンとその周りの者達は我々が怖くないらしい。千尋を連れさった目的は聞き出せたかい』
「その件と合わせて報告がーー」
レオがアロンから聞き出したことに加え、マチルドから得たΩの楽園と呼ばれる場所と、そのリーダーであるフレディ・マーキンスについての情報を上げていく。
そしてそこから結論付けた新たな薬物とフェロモンアタックの因果関係について言及すれば、ブライアンはさらに声を低くした。
周りに人誰かしらがいるのならば、その者達はさぞ肝が冷えていることだろう。
『その情報は確かだろうね』
「はい。そこから逃げてきた者から聞き出しました」
『千尋もそこにいると?』
「このアロンの口ぶりからその可能性が高いかと」
『なるほどね……ではそいつらを潰せ、レオ。できるな?』
ブライアンはその集団の実態が分からないため、かつての戦友であるフレッドの部隊をレオの指揮下に置いて、千尋の奪還及び組織の解体を強く命じてきた。
確かに一番確実で最強の布陣ではある。
彼らはレオに劣るが、他の軍人達よりも各段に薬物への強い耐性があるうえ、強いフェロモンにも耐えることができる。
こういった任務の経験も豊富で、すぐに事態を収拾できることだろう。
何よりも知らない者達といきなり組むより簡単に連携が取れるということは、レオにとっては楽なことこの上ない。
だがフレッドは娘を、部下のニコールは運命の番の失踪とでレオ達と揉めたばかりだ。
彼らの精神もあまりいいとは言える状態ではないうえに、最悪協力的にならない可能性もある。
別の者達をと言うのは簡単だが、そうなればブライアンに事情を説明しなければならず、切迫している今の状態で無駄な勘ぐりも時間も煩わしいだけなので避けたい。
大統領命令なのだから、仕事に忠実な彼らに期待するしか結局道はないのだ。
いざとなれば脅してでも彼らを動かすしかない。もしくはあまり使いたくないてだが、フレッドとニコールを秘密裏に始末して残りのメンバーで行動するか。
ブライアンの話を聞きながら思考を巡らせていれば、起動していなかったアラームに反応があったことに気が付いた。
『どうしたレオ』
突然黙り込んだレオにブライアンが訝し気に問うてくるが、レオはそれどころではなった。
アラームの発信先は千尋が持っているネックガードからのもの。
しかし今日身に着けていた物はGPSの機能はあれど、通信機能はなかったはず――
そこまで考えたがすぐに、付け替えたネックガードを出発を急いだためにそのまま服のポケットに入れたままにしていたことを思い出した。
「大統領、千尋から通信がありました」
『ネックガードは使い物にならないんだろう?』
「いえ、付け替えた物を千尋が服に入れたままだったのでそちらからです」
『拉致犯からと言う可能性は?』
「ネックガードにも見えないようになっているものですから、その可能性は低いかと。なにより起動させるスイッチも隠れていて見つけられにくいものですし」
金銭目的でないのなら、服に入っているそれを取られていなくても納得がいく。
そのままレオがブライアンと話していれば、複数のけたたましいサイレンの音が建物の外から聞こえてきた。
どうやらブライアンが手配した警察が既に到着したようだった。
千尋にすぐさま折り返したいのを堪えたレオは、なだれ込むように入ってきた警官達を出迎えアロン達を託す。
「アロン達を引き渡しました。尋問等はお任せします」
『すぐに軍の者も到着する。そのままフレッド達と合流後、すぐに準備を整えて現地に向かえ』
「了解しました」
ブライアントの電話を終えたレオは残りの警察にあとを任せると、千尋が持っているネックガードへの通信ボタンを押した。
それだけで最初から全て手配され綿密に計画されていたのだろうことが分かる。
レオはブライアンに直通で繋がる番号を押しながら、負傷を負わせた者達が万が一にも逃げないように手早く拘束していく。
何度かコール音を鳴らせば、すぐに通話が始まった。
『レオか。なにかあったのかい』
「千尋が攫われました」
『なんだって? 移動する、少し待て』
電話口の向こう側ではカメラのシャッターを切る音や、人の騒めく声が絶えず聞こえている。
丁度取材か何かの途中であったのだろう。だがブライアンはそれをすぐさま切り上げてくれるようだった。
暫く待っていれば周りの音は徐々に遠ざかっていき、周囲の雑音が一切聞こえなくなったところでブライアンが再び言葉を発する。
『待たせたねレオ。それで、君がついていながら千尋が攫われたってどういうことだい』
恐ろしい程に冷たいブライアンの声音に、レオの背筋は自然と伸びる。
ひとつ呼吸をついてからできるだけ簡潔に、アロン・ロマーニが誘拐を企てた犯人に協力し参加したパーティーで千尋を連れ去ったのだと説明した。
『何のために君を付けていると思っているんだ?』
「申し訳ございません大統領」
『それでアロンは?』
「捕らえて転がしてあります。私を制圧するために雇っていた武装集団も同じく。回収願いますか」
『いいだろう、すぐに人を送るよ。それで千尋は今どこに居るんだい? そこにもすぐに人を送るけど』
「現在GPSでの追跡不可の表示が出ています。どうやらネックガードの情報がアロンから漏れていたらしく、拉致犯に壊された可能性が高いと思われます」
『へぇ……? どうやらアロンとその周りの者達は我々が怖くないらしい。千尋を連れさった目的は聞き出せたかい』
「その件と合わせて報告がーー」
レオがアロンから聞き出したことに加え、マチルドから得たΩの楽園と呼ばれる場所と、そのリーダーであるフレディ・マーキンスについての情報を上げていく。
そしてそこから結論付けた新たな薬物とフェロモンアタックの因果関係について言及すれば、ブライアンはさらに声を低くした。
周りに人誰かしらがいるのならば、その者達はさぞ肝が冷えていることだろう。
『その情報は確かだろうね』
「はい。そこから逃げてきた者から聞き出しました」
『千尋もそこにいると?』
「このアロンの口ぶりからその可能性が高いかと」
『なるほどね……ではそいつらを潰せ、レオ。できるな?』
ブライアンはその集団の実態が分からないため、かつての戦友であるフレッドの部隊をレオの指揮下に置いて、千尋の奪還及び組織の解体を強く命じてきた。
確かに一番確実で最強の布陣ではある。
彼らはレオに劣るが、他の軍人達よりも各段に薬物への強い耐性があるうえ、強いフェロモンにも耐えることができる。
こういった任務の経験も豊富で、すぐに事態を収拾できることだろう。
何よりも知らない者達といきなり組むより簡単に連携が取れるということは、レオにとっては楽なことこの上ない。
だがフレッドは娘を、部下のニコールは運命の番の失踪とでレオ達と揉めたばかりだ。
彼らの精神もあまりいいとは言える状態ではないうえに、最悪協力的にならない可能性もある。
別の者達をと言うのは簡単だが、そうなればブライアンに事情を説明しなければならず、切迫している今の状態で無駄な勘ぐりも時間も煩わしいだけなので避けたい。
大統領命令なのだから、仕事に忠実な彼らに期待するしか結局道はないのだ。
いざとなれば脅してでも彼らを動かすしかない。もしくはあまり使いたくないてだが、フレッドとニコールを秘密裏に始末して残りのメンバーで行動するか。
ブライアンの話を聞きながら思考を巡らせていれば、起動していなかったアラームに反応があったことに気が付いた。
『どうしたレオ』
突然黙り込んだレオにブライアンが訝し気に問うてくるが、レオはそれどころではなった。
アラームの発信先は千尋が持っているネックガードからのもの。
しかし今日身に着けていた物はGPSの機能はあれど、通信機能はなかったはず――
そこまで考えたがすぐに、付け替えたネックガードを出発を急いだためにそのまま服のポケットに入れたままにしていたことを思い出した。
「大統領、千尋から通信がありました」
『ネックガードは使い物にならないんだろう?』
「いえ、付け替えた物を千尋が服に入れたままだったのでそちらからです」
『拉致犯からと言う可能性は?』
「ネックガードにも見えないようになっているものですから、その可能性は低いかと。なにより起動させるスイッチも隠れていて見つけられにくいものですし」
金銭目的でないのなら、服に入っているそれを取られていなくても納得がいく。
そのままレオがブライアンと話していれば、複数のけたたましいサイレンの音が建物の外から聞こえてきた。
どうやらブライアンが手配した警察が既に到着したようだった。
千尋にすぐさま折り返したいのを堪えたレオは、なだれ込むように入ってきた警官達を出迎えアロン達を託す。
「アロン達を引き渡しました。尋問等はお任せします」
『すぐに軍の者も到着する。そのままフレッド達と合流後、すぐに準備を整えて現地に向かえ』
「了解しました」
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