運命に抗え【第二部完結】

関鷹親

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第二部-失意の先の楽園

43 かつての戦友と今

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 視線を彷徨わせていたフレッドは、僅かに口を開き静かに語り出す。
 アイリスは小さな頃から運命の番が出てくる物語に憧れを抱いていたそうだ。
 バース性がΩだと判明してからは、その憧れはさらに強くなっていったのだという。
 本棚には運命の番との出会いを描いた恋愛小説が増え、好んでみる恋愛ドラマや映画も運命の番が題材の物が多かった。

 それほどの気持ちを抱いていることを知っているフレッドは、娘に最高の出会いを演出しようと考えた。
そしてすぐにでもアイリスの元に行きたいと言うニコールを説得し、共にサプライズをしようと企んだのだ。
 アイリスが好むシチュエーションを秘密裏に調べ上げ、その通りの出会いを演出できるようにと二人は張り切っていたらしい。

「娘が、アイリスが喜ぶ顔が見たかったんだ……だけど、私はあの子を追い詰めてしまった」

 フレッドは一枚の紙きれを懐から出すと、それをテーブルの上に置き苦し気に手で顔を覆ってしまう。
 そこに書かれていたのは、現状の苦しさからの解放を望んだアイリスの言葉だった。

 ニコールを止めていたものの、フレッドは家に帰れば笑顔で迎えてくれるアイリスに早く幸運を伝えたくて仕方がなかった。
 しかしサプライズを計画しているため、口が裂けてもニコールの存在を明かせない。
 そこでフレッドがとった行動が、頻繁に運命の番の話題を出すということだった。

「最初は笑顔で受け答えしていた……だけど、思い出せば途中から顔が曇っていた気がするんだ。その時に止めていれば……」
「私も、フレッドから話の反応を聞いて喜んでたアイリスに期待されてるって勝手に思い込んでいて……だから運命の番の話題を沢山出すようにフレッドを煽ってしまったの」
「アイリスは喜んでたんじゃない……私達が追い詰めて、そして絶望させてしまったんだ」

 後悔はいつもことが起こってからするものだ。それを彼らは今、身に染みて感じているのだろう。
 悔いるように歯を噛みしめる彼らに、千尋は自身の思い付きで招いてしまった事態に頭を抱えたくなってしまった。
 二人に話せば、すぐに引き合うだろうと思っていた。運命の番が手に入ると分かった者達は、これまで皆そうしていたからだ。
 現に、彼らに話した直後はすぐに日程を調整してニコールとアイリスを出会わせようと盛り上がっていた。
 だがその間にフレッドとニコールに任務が入り、時間が空いてしまった。
その余白が考える猶予を与えたのだ。
 彼らにつられて心が落ち込みそうになるが、それに気が付いたようにレオが千尋の肩に手を置いてくる。
 大きく暖かな手はいつでも千尋を手放さない。その安心感は言い知れなかった。

「だとしてもだ。千尋に大量のフェロモンをぶつけるのはいただけない。千尋はαの女神である前に、Ωだ。撒き散らされたフェロモンでどれだけ影響を受けるか、分からないわけではないだろうに」
「……それは、本当に謝るわ。気が動転してしまって……でも、千尋なら私のフェロモンから居場所が分かるはずだと思って、だから――」
「俺に殺されたいのか、ニコール」

 レオの冷たく低い声音に、ニコールがびくりと体を揺らす。フレッドも伏せていた顔を上げてレオを凝視していた。

「俺に、かつての仲間を殺させたいのか? 俺は千尋の安全に関して、手段を選ばなくてもいいんだぞ? 先程の行動がお前でなければ拘束するだけではすまなかった」

 アーヴィングを殺したことが蘇っているのだろう、レオの言葉には重みがあった。
  レオが憤りを抑えているのが痛いほどに分かる。もしニコールでなければレオは躊躇いなく相手を撃っていた。場合によっては致命傷を与えていてもおかしくない。
 レオにはそれが許されている。その力を行使しなかったのは、かつての戦友であるからに他ならない。
だがそれすらも場合によっては配慮されはしない。アーヴィングの時のように――

 強く拳を握りしめるレオの宥めるために、千尋はレオの背に手を当てするりとあやすように撫でる。
 そうすればレオは肺にある空気を全て吐き出すように、重たい溜息をもらすのだった。

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