運命に抗え【第二部完結】

関鷹親

文字の大きさ
上 下
47 / 98
第二部-失意の先の楽園

31 運命の番達

しおりを挟む
 数日後。マチルドの保護を名目に退院を早めた千尋は、アーロンを伴いマチルドを迎えた。
 マチルドの両親には運命の番の話をしていないため、この場にはいない。千尋が連れていた仕事相手が偶々運命の番であった、という筋書きにするためだ。
 狙われているかもしれないマチルドを安全な場所で保護するため、セキュリティがしっかりしている場所に暫く隠れていてもらうということを事前にマチルドの両親に話してあるので、マチルドがこのままアーロンの自宅に向かっても何も問題はない。

 アーロンは車に待機させたまま、手続きを済ませた千尋とレオがマチルドを病室から連れ出し車に戻る。
 駐車場で待機させてあった大きめの車の扉をレオが開ければ、ここで初めてアーロンとマチルドが出会うのだった。
 互いを目にした瞬間、磁石のように吸い寄せられる光景は何度見ても感動的な場面だ。
 アーロンは涙を流しながら、マチルドは信じられとばかりに戸惑いながらも、お互いを離すまいとしっかりと抱き合っていた。
 その様子を確認しつつ、レオが静かに車を発進させる。向かうのはアーロンの家だ。
 二人から放たれるフェロモンがぴたりと重なり、一つの香りとなって車内を満たしていった。

 ハイウェイを一時間ほど走り到着した先。郊外にある高級住宅街の中にあるアーロンが所有する屋敷の一つに到着する。
 その頃には感動的な出会いも落ち着きを取り戻し、二人は幸せそうにぴたりと寄り添っていた。

 広い邸宅に見合った広いリビングの大きな窓からは、綺麗に整えられた庭が見える。腰を落ち着けた面々は、真剣な表情で向かい合った。
 マチルドを狙うものが再び狙う可能性を考えて、先に防犯を強化するようにアーロンに伝えていた。
 どうやらその通りに動いていてくれるらしいと千尋はアーロンの家に取り付けられた真新しい防犯カメラや、警備の者を見て思う。
 番の安全に配慮することに抜かりはないのだと示してみせたアーロンに安心した千尋は、出会ったばかりの番達の邪魔をあまりしてはいけないと、屋敷を後にすることにした。

「あの、千尋さん!」

 アーロンに抱きかかえられていたマチルドが、身を乗り出して千尋を呼び止める。

「あの、彼に、出会わせてくれて、ありがとうございます!!」

 マチルドには千尋自身が運命の相手に導くことができるとは伝えてはいなかったのだが、何か感じるものがあったのかもしれない。
 見ればアーロンもマチルドを立たせ、頭を深く下げていた。

「ここに居れば貴方を害するものは現れないでしょう。現れたとしてもアーロンが守ります。そうですよね、アーロン?」
「勿論です、千尋」
「幸せになりなさい、マチルド君」

 そう言って千尋よりも低い位置にあるマチルドの頭を撫でれば、マチルドはその大きな瞳からぼろぼろと涙を溢れさせた。
 落ち着かせるように抱きしめれば、マチルドは千尋に縋りつく。チクチクと刺さるような罪悪感が占める中、暫くしてから慰める役を運命の番であるアーロンに任せた。
 マチルドにどんな些細なことでも思い出したことがあればアーロン経由で教えて欲しいと頼んだ千尋は、盛大に感謝されながら今度こそ屋敷からホテルへの帰路についた。



 ホテルへ戻った千尋とレオは、休む間もなく翌日の帰国に備えて荷物を手早く纏めることにした。
 短期間に起きた出来事が多すぎて、千尋の疲労は限界だ。手慣れた準備を早々に終えた千尋は、ソファで寛ぎながらレオの肩に頭を預け、大きな手から温もりを分けてもらおうと冷えた手を重ねる。

「やっと帰れるな」
「えぇ、やっとですね」

 当初の滞在日程よりも少しばかりオーバーしたことで、帰国しても次の仕事が控えているのであまり休養は取れそうになかった。

「成瀬も、千尋がなかなか帰ってこないから心配しているだろうな」
「そうですね……それになる君には色々話をしないと」
「全て話すのか? 千尋のことだから多少は成瀬に隠すと思ったが」
「ここまでの状況になれば、黙っていてもいずれはバレます。なる君は起こると怖いんですよ?」
「確かにあとからバレれば私も彼に怒られるだろうな」

 苦笑しながら千尋の手を握り返してくるレオの手がとても心地良い。
 また成瀬を心配させることになるので、千尋はあまり今回の出来事を言いたくはないのだが、あとからバレて成瀬を不安定にはしたくないのだ。
 ふと、レオが視線を窓の外に向けていることに気が付き、どうしたのかと考えていれば、視線に気が付いたらしいレオから逆にどうしたのかと問いかけられた。

「いえ、外をずっと見ていたから気になって」
「あぁ、なるほど」

 するとレオが立ち上がり窓の側へ千尋を誘導する。そして開けた窓の先、ビル群の更に向こう側を指さした。

「あそこに橋があるだろう? アレを渡った数ブロック先に私が生まれた街があるんだ」
「意外と近くだったんですね」
「あぁ。元の家を手放すだろう? それで、生まれ育った場所を少し思い出していた」
「大人になってから行ったことはあるんですか?」
「いや? というより、生まれ育った家を出てからは一度も足を踏み入れてない」

 行く意味もないと零したレオだったが、千尋はレオの生まれた場所を見てみたいという気持ちが沸き上がった。

「レオ、明日の朝時間ありますよね?」
「千尋?」
「そこに行ってみたいんですが」

 千尋がそう提案すれば、レオが僅かに眉間に皺を寄せてあまり乗り気ではないことが分かる。しかし千尋は諦めようとは思わなかった。
 レオが住んでいた家に足を踏み入れたからだろうか。レオの生家が気になってしまったのだ。
 遠く離れた場所であったならここまで興味は引かれなかったかもしれない。目と鼻の先で、少し足を伸ばせばいいだけの距離にあるというのはなんとも魅力的だった。
 何よりも、忙しい身の上である千尋だ。このタイミングを逃せばそんな場所に足を伸ばせる機会など早々訪れないだろう。

「あそこは治安がいいとはいえない」
「レオが、生まれた地を見てみたいんです」
「見ても楽しいものは何もないぞ? 寧ろ不快だと思うが」
「それでもです。駄目ですか?」

 渋面を作るレオだがしかし、千尋が諦めないと悟ったのか最後は渋々ではあるが最終的には了承してくれたのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺の番が変態で狂愛過ぎる

moca
BL
御曹司鬼畜ドS‪なα × 容姿平凡なツンデレ無意識ドMΩの鬼畜狂愛甘々調教オメガバースストーリー!! ほぼエロです!!気をつけてください!! ※鬼畜・お漏らし・SM・首絞め・緊縛・拘束・寸止め・尿道責め・あなる責め・玩具・浣腸・スカ表現…等有かも!! ※オメガバース作品です!苦手な方ご注意下さい⚠️ 初執筆なので、誤字脱字が多々だったり、色々話がおかしかったりと変かもしれません(><)温かい目で見守ってください◀

【本編完結】運命の番〜バニラとりんごの恋〜

みかん桜(蜜柑桜)
BL
バース検査でオメガだった岩清水日向。オメガでありながら身長が高いことを気にしている日向は、ベータとして振る舞うことに。 早々に恋愛も結婚も諦ていたのに、高校で運命の番である光琉に出会ってしまった。戸惑いながらも光琉の深い愛で包みこまれ、自分自身を受け入れた日向が幸せになるまでの話。 ***オメガバースの説明無し。独自設定のみ説明***オメガが迫害されない世界です。ただただオメガが溺愛される話が読みたくて書き始めました。

伸ばしたこの手を掴むのは〜愛されない俺は番の道具〜

にゃーつ
BL
大きなお屋敷の蔵の中。 そこが俺の全て。 聞こえてくる子供の声、楽しそうな家族の音。 そんな音を聞きながら、今日も一日中をこのベッドの上で過ごすんだろう。 11年前、進路の決まっていなかった俺はこの柊家本家の長男である柊結弦さんから縁談の話が来た。由緒正しい家からの縁談に驚いたが、俺が18年を過ごした児童養護施設ひまわり園への寄付の話もあったので高校卒業してすぐに柊さんの家へと足を踏み入れた。 だが実際は縁談なんて話は嘘で、不妊の奥さんの代わりに子どもを産むためにΩである俺が連れてこられたのだった。 逃げないように番契約をされ、3人の子供を産んだ俺は番欠乏で1人で起き上がることもできなくなっていた。そんなある日、見たこともない人が蔵を訪ねてきた。 彼は、柊さんの弟だという。俺をここから救い出したいとそう言ってくれたが俺は・・・・・・

巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編連載中】

晦リリ
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。 発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。 そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。 第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。

運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー

白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿) 金持ち‪社長・溺愛&執着 α‬ × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω 幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。 ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。 発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう 離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。 すれ違っていく2人は結ばれることができるのか…… 思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいα‬の溺愛、身分差ストーリー ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

可愛くない僕は愛されない…はず

おがこは
BL
Ωらしくない見た目がコンプレックスな自己肯定感低めなΩ。痴漢から助けた女子高生をきっかけにその子の兄(α)に絆され愛されていく話。 押しが強いスパダリα ‪✕‬‪‪ 逃げるツンツンデレΩ ハッピーエンドです! 病んでる受けが好みです。 闇描写大好きです(*´`) ※まだアルファポリスに慣れてないため、同じ話を何回か更新するかもしれません。頑張って慣れていきます!感想もお待ちしております! また、当方最近忙しく、投稿頻度が不安定です。気長に待って頂けると嬉しいです(*^^*)

エリートアルファの旦那様は孤独なオメガを手放さない

小鳥遊ゆう
BL
両親を亡くした楓を施設から救ってくれたのは大企業の御曹司・桔梗だった。 出会った時からいつまでも優しい桔梗の事を好きになってしまった楓だが報われない恋だと諦めている。 「せめて僕がαだったら……Ωだったら……。もう少しあなたに近づけたでしょうか」 「使用人としてでいいからここに居たい……」 楓の十八の誕生日の夜、前から体調の悪かった楓の部屋を桔梗が訪れるとそこには発情(ヒート)を起こした楓の姿が。 「やはり君は、私の運命だ」そう呟く桔梗。 スパダリ御曹司αの桔梗×βからΩに変わってしまった天涯孤独の楓が紡ぐ身分差恋愛です。

竜殺しの異名を持つ冷徹侯爵に家族愛を説いてみたら、いつのまにか溺愛夫に変貌していました

津内つあ
BL
Ωとしての己の性を憎んでいた侯爵夫人のマテオは、政略結婚した夫とその間にできた子供に対し冷たく当たる日々を過ごしていた。 竜殺しの異名を持つ冷徹な夫もまた、家族に対しての愛情がなく、月に一度訪れるマテオの発情期を除いては常に屋敷の外で過ごしていた。 そんなある日、マテオは善良な日本人であった前世の記憶を取り戻す。心優しく愛に溢れた人格となったマテオは、愛しい息子のために夫と向き合う努力をし始める。 息子のために良い両親になろうと奮闘した結果、冷え切った夫婦仲にも変化が訪れて── 愛を知らない不器用美形α×元毒妻で毒親の善良な平凡Ω 肉体的には年上×年下、精神的には年下×年上です。 ほのぼの子育てBL、時々すけべな感じになる予定です。 竜がいたり魔法が使える人がいたりするちょっぴりファンタジーな世界観です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。