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第二部-失意の先の楽園
25 その感覚は2
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「彼は、必ず助かります」
「そうだな、きっと助かる。医師達が手を尽くすと言っていただろう?」
「……いえ、必ず助かるんです。私はそれを、レオの家にいる時に確信していました」
「どういうことだ?」
話が長くなるからと、未だ膝を着いたままのレオを座るように促した千尋は、再びその大きな手を握る。
自身を落ち着かせるように何度か深呼吸し、怪訝そうに千尋の言葉を待つレオの目を見た。
「あの青年は、アーロン・クロバンスの運命の番です」
思ったよりも小さく零れたその言葉をレオはしっかりと聞き取ったようで、驚き目を見開いていた。
昨夜のパーティーでアーロンに声を掛けられた際、そのフェロモンから運命の番達は見えていた。
その中で“近くに居るけれど良くない運命”それがレオの家で倒れていた青年だったのだ。
レオの家に近づくにつれ、胸騒ぎが大きくなった。その正体が分からなかったが、レオの家に到着した途端、その正体が分かってしまったのだ。
ここにアーロンの運命が居るからだと。
だがそれだけではなかった。
千尋はあの青年を見た時に確かに感じてしまったのだ。運命が変わる瞬間を。
それまで青年はアーロンの運命の番の中では、良くない部類の者だった。だが千尋とレオが青年を見つけたことで、彼は運命の番の中で最も良い者になってしまった。
それがはっきりと分かってしまったのだ。
「そんなことがあり得るのか?」
「分かりません……今までこんなことはありませんでしたから」
数多くの運命の番の良し悪しを見てきたが、一度たりとも運命が切り替わることなどありはしなかった。
それ故に千尋はそのことに恐怖を抱いた。途轍もない恐怖をだ。
震えが大きくなった千尋の手をレオが強く握りしめてくる。少し痛いくらいの強さだが、今の千尋には丁度よかった。
「運命が切り替わった原因は、間違いなく私達があの家に来たからでしょう」
もしブライアンが千尋の予定を調整していなければ、もしレオがすぐに家に向かわず、夕方や夜にあの家に到着していなければ。
彼はあの家の屋根裏で一人、儚くなっていただろう。
レオの家に千尋達があのタイミングで到着したことで、彼は助かる未来を手に入れた。
前日の夜まで確定していた彼の寿命が延びたことで、相性などの条件から彼はアーロンの運命の番の中で一番良い者になっていたのだ。
その事実が千尋にとって、どれだけの衝撃だったか。
もしかしたら、今まで避けていた悪い運命の番の中にもあの青年のような者が居たのかもしれないと考えると、千尋はそれが心底恐ろしくて堪らなかった。
千尋の仕事はαに運命の番を導き、その運命を変えること。
今までそうして数多くのα達に運命の番を引き合わせてきた。だが引き合わせなかった運命の番の中に、今回のように未来が変わる者が居たのだとすれば。
それがα達にとって最良の運命の番だったならば。
もしかしたら、見殺しにしてきた命もあるのではないかと、そう思えてならないのだ。
「アーロンには、別の運命の番の元へ導くつもりでした。でもあの青年が助かることで、彼がアーロンにとっての最良の運命の番になった……だからアーロンに導かなければいけない運命は彼です」
「待て千尋。本当にあの青年が助かるか分からない、そうだろう? 今まで千尋を励ますために必ず助かると言っていたが、あの具合で助かるのは奇跡に近い。それにアーロンのフェロモンを嗅がないとあの青年が本当に最良の運命になったかどうかなんて、本来分からないはずだ」
今までになかったことなのだから、とレオは言う。確かにレオの言う通りだと千尋も頭では理解しているのだ。
しかしあの青年を見たとき。彼のフェロモンが香ったその瞬間、はっきりと運命が変わったと千尋の脳が確信を持って告げていた。
「レオ、これは一体何?」
押し寄せてくる言い知れぬ恐怖に、千尋はただただレオの手に縋りつくことしかできなかった。
「そうだな、きっと助かる。医師達が手を尽くすと言っていただろう?」
「……いえ、必ず助かるんです。私はそれを、レオの家にいる時に確信していました」
「どういうことだ?」
話が長くなるからと、未だ膝を着いたままのレオを座るように促した千尋は、再びその大きな手を握る。
自身を落ち着かせるように何度か深呼吸し、怪訝そうに千尋の言葉を待つレオの目を見た。
「あの青年は、アーロン・クロバンスの運命の番です」
思ったよりも小さく零れたその言葉をレオはしっかりと聞き取ったようで、驚き目を見開いていた。
昨夜のパーティーでアーロンに声を掛けられた際、そのフェロモンから運命の番達は見えていた。
その中で“近くに居るけれど良くない運命”それがレオの家で倒れていた青年だったのだ。
レオの家に近づくにつれ、胸騒ぎが大きくなった。その正体が分からなかったが、レオの家に到着した途端、その正体が分かってしまったのだ。
ここにアーロンの運命が居るからだと。
だがそれだけではなかった。
千尋はあの青年を見た時に確かに感じてしまったのだ。運命が変わる瞬間を。
それまで青年はアーロンの運命の番の中では、良くない部類の者だった。だが千尋とレオが青年を見つけたことで、彼は運命の番の中で最も良い者になってしまった。
それがはっきりと分かってしまったのだ。
「そんなことがあり得るのか?」
「分かりません……今までこんなことはありませんでしたから」
数多くの運命の番の良し悪しを見てきたが、一度たりとも運命が切り替わることなどありはしなかった。
それ故に千尋はそのことに恐怖を抱いた。途轍もない恐怖をだ。
震えが大きくなった千尋の手をレオが強く握りしめてくる。少し痛いくらいの強さだが、今の千尋には丁度よかった。
「運命が切り替わった原因は、間違いなく私達があの家に来たからでしょう」
もしブライアンが千尋の予定を調整していなければ、もしレオがすぐに家に向かわず、夕方や夜にあの家に到着していなければ。
彼はあの家の屋根裏で一人、儚くなっていただろう。
レオの家に千尋達があのタイミングで到着したことで、彼は助かる未来を手に入れた。
前日の夜まで確定していた彼の寿命が延びたことで、相性などの条件から彼はアーロンの運命の番の中で一番良い者になっていたのだ。
その事実が千尋にとって、どれだけの衝撃だったか。
もしかしたら、今まで避けていた悪い運命の番の中にもあの青年のような者が居たのかもしれないと考えると、千尋はそれが心底恐ろしくて堪らなかった。
千尋の仕事はαに運命の番を導き、その運命を変えること。
今までそうして数多くのα達に運命の番を引き合わせてきた。だが引き合わせなかった運命の番の中に、今回のように未来が変わる者が居たのだとすれば。
それがα達にとって最良の運命の番だったならば。
もしかしたら、見殺しにしてきた命もあるのではないかと、そう思えてならないのだ。
「アーロンには、別の運命の番の元へ導くつもりでした。でもあの青年が助かることで、彼がアーロンにとっての最良の運命の番になった……だからアーロンに導かなければいけない運命は彼です」
「待て千尋。本当にあの青年が助かるか分からない、そうだろう? 今まで千尋を励ますために必ず助かると言っていたが、あの具合で助かるのは奇跡に近い。それにアーロンのフェロモンを嗅がないとあの青年が本当に最良の運命になったかどうかなんて、本来分からないはずだ」
今までになかったことなのだから、とレオは言う。確かにレオの言う通りだと千尋も頭では理解しているのだ。
しかしあの青年を見たとき。彼のフェロモンが香ったその瞬間、はっきりと運命が変わったと千尋の脳が確信を持って告げていた。
「レオ、これは一体何?」
押し寄せてくる言い知れぬ恐怖に、千尋はただただレオの手に縋りつくことしかできなかった。
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