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63 デュシャン家へ

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 とある日、フェリチアーノはそわそわとした落ち着かない気持ちで朝を迎えていた。
 テオドールとミリアが計画し、デュシャン家の面々にはその日、全員が必ず外出するようにミネルヴァからの茶会へと行くようにと仕向けられていた。
 それはフェリチアーノの残した荷物を取りに戻る為でもあるが、一番はセザールが言っていたシルヴァンに関する証拠を見つけ出す事にもある。
 屋敷に居る少ない使用人達には金を握らせ、暫くの間屋敷はもぬけの殻状態にする手はずになっていた。

 フェリチアーノがグレイス邸へと来てから既にひと月は立っている。本来であれば早めに事を起こしたかったのだが、如何せんそもそもの茶会の準備にも貴族には手順と言う物があるし、何より協力者の見極めが重要だったのだ。

 グレイス邸で開いても良かったのだが、万が一にもフェリチアーノが滞在している事が漏れては困るし、精神的に落ち着きを取り戻したように見えるフェリチアーノが好む場所に、敵である人物達を招き入れる事にテオドールが難色を示したのだ。

 そこで白羽の矢が立ったのが、以前茶会で家族達からフェリチアーノとテオドールとを上手く引き剥がしてくれたミネルヴァだった。
 しかしテオドールはミリアとの話し合いの中でミネルヴァの名を上げたは良い物の、彼女を本当に信用していい物か悩んでいた。
 ミネルヴァがフェリチアーノを可愛がっている事は既にわかっているが、だからと言って信用する事が出来るかと言えば話は別だった。

 ミリアはそんなテオドールの心配を聞きつつ、人を疑う事もせずに来たテオドールが随分と逞しくなったものだと感心しながらも、それならば直に確かめて来ると言い、数日の内にミネルヴァの元へ訪ね、見極めと協力を取り付けて来たのだった。
 本来であれば見極めも協力の交渉すらもテオドールがやるべきではあるのだが、如何せんテオドールは王子であるし、未だ覚醒して日が浅いテオドールにはそのような事は不慣れであり、早く事を進めたい今ミリアに協力を願うしかなかった。

 申し訳なさそうにするテオドールに、“人を上手く使うのも慣れなさい”と苦笑しながら、フェリチアーノの為に成長しようとする可愛い弟を微笑ましく見ていた。

 そうして漸く訪れたその日、ディッシャーに無理は禁物だと朝から口酸っぱく言われたフェリチアーノは、テオドールと共に久しぶりにデュシャン家の屋敷へと足を踏み入れたのだった。
 フェリチアーノに続き屋敷に足を踏み入れたテオドール達は、屋敷内のあまりの品の無さに一同絶句した。

「これはまた……凄まじいですね……」

 思わず口を出してしまったロイズは、ヴィンスに肘でつつかれ慌てて口をつぐんだが流石に聞こえていたらしく、フェリチアーノは苦笑していた。

「祖父と母が居た頃はこうでは無かったんですよ? でもほらあの人達は見るからに派手な物が好きですから、気がつけばこんな感じになってしまって……お恥ずかしい限りです」

 行きましょうと促され、まずはフェリチアーノの部屋へと向かった。テオドールは初めて入る恋人の部屋に少しだけ心が浮ついていたのだが、しかしそれは扉を開けた瞬間に四散した。

 開けた先には、まるで物取りにでも入られたのかと言わんばかりの光景が広がっていたのだ。
 予想していたのかフェリチアーノは重たい溜息をつくと、惨状を目の当たりにして固まるテオドール達をそのままに、自室の確認していく。衣装部屋もやはり荒らされており、宝飾品は全て無くなり、床には衣服が散らばっている。

 気まずそうにフェリチアーノの手を握って来たテオドールに大丈夫だと告げて、次は執務室へと向かう。
 流石にそこまでは荒らされては居なかったが、請求書の束やら手紙などが机の上に載った箱の中に放り込まれていて、その中身を見たロイズが思わず渋面を作った。
 二重底になっている引き出しは流石に手を付けられてはおらず、その中からフェリチアーノが取り出した手紙の束を見てテオドールの体温は一気に上昇した。

「フェリ、それは」

 良かったと小さく呟きながら、ほっとしたような表情をしたフェリチアーノに、テオドールの胸はざわつく。

「勿論テオからの手紙ですよ、ここまで荒らされていたらどうしようかと心配していましたが、無事でよかったです」

 大事そうに胸元で手紙を抱きしめたフェリチアーノに、へにゃりと表情を崩したテオドールは感極まってフェリチアーノを抱きしめた。
 自身の部屋の惨状を見ても何の感情も見せずに、逆に狼狽えるテオドール達を気にしていたようなフェリチアーノが、たかが手紙如きにここまで安堵した表情を見せた事で、それがどれだけフェリチアーノにとって大事なのかわかる。
 しかもその手紙の束は全てテオドールがフェリチアーノに宛てた物だ。嬉しくない筈がなかった。

 抱きしめたままちゅっちゅとフェリチアーノに軽く口付けていくテオドールの甘い雰囲気に、ロイズ達は呆れながらも初々しいやりとりを微笑ましく見ていた。
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