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47 助言2
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ミリアは目の前に座るテオドールに優しく笑んで見せると、ソファから立ち上がりテオドールの隣に座り直した。
「貴方は優し過ぎるわテオドール。王族としてはダメなくらいにね。それが貴方の良いところではあるし、そんな貴方に私達家族は救われて来たの。でもね、それではダメなのよ。優しさだけでは大事な人は守れないわ。貴族は皆狡賢くていつでも他人の足元を掬おうと狙っているの。私達王族はその危機にずっと晒されている、それはわかるわよね?」
まるで幼児に話すようにミリアはゆっくりと言葉を紡ぐ。
優しさは美徳だが、それだけでは人の上に立つ貴族ましてや王族ではそれは仇になり弱みに変わる。
いついかなる時も周りに目を配り情報を集め精査し、そこから己と己の愛する者を守るにはどうすればいいのかと常に考えなければならない。
御伽噺や恋愛小説の様に、恋をしたらハッピーエンドと言う物が現実ではあるはずがなく、恋をしたからこそ愛するものが出来たからこそ守るものが増え戦うことが増えるのだ。
自分が持つカードを最大限に利用し、駒を動かし、そして最悪に陥らない様に気を配る。本心は張り付けた笑顔の下に隠し、付け入る隙を与えない様にしながら攻撃出来る隙を狙う。
貴族達は皆そうして互いを読み合い、蹴落とし合うのが常だ。
テオドールは何を考えているかわからないそんな貴族達を昔から好きになれなかった。社交の場が苦手なのだが、これからはそう言っては居られない。
愛する者を守る為には率先して自身が矢面に立たねばならないのだ。それはミネルヴァの茶会で令嬢達に牽制をしたフェリチアーノの様に。
テオドールはミリアにその出来事を嬉々として話したが、それでは駄目なのだと叱られる。
身分が高く、権力もあるテオドールが動かなければならなかった。フェリチアーノから動いたことによってどうなるかを考えろと言われたが、今までそんな事を考えた事も無かったテオドールにはわからない。
困った様にミリアを見れば真剣な表情をしたミリアが口を開く。
「あの場にシャロン・ボーモン公爵令嬢が居たでしょう? 彼女は王子妃の座を狙っているわ。そして婚姻していない王子は貴方ただ一人。隣国の姫君との婚約の話はまだ公にはされていないのよ? そんな人の前に自分の邪魔をするフェリチアーノが現れたのだから面白く思うはずが無いわよね?」
「……そうですね」
「ではどうすると思う? その相手を蹴落としに掛かるのよ」
「でも、仮にも王子の恋人にそんな事……」
「甘いわねテオドール。証拠が残らなければいくらでもシラを切れるのよ? 特に……ねぇ思い出しなさい、デュシャン家の人達を見たのでしょう? よく無い事を考える貴族達にとって彼等は格好の獲物だわ。今までフェリチアーノが全てそう言う人達が近づかない様にしていた様だし、そもそも皆遠巻きに彼等の道化を楽しんで居ただけだった。けれども貴方とフェリチアーノが恋仲になったとなれば話は変わるわ。彼等は今まで呼ばれもしなかった茶会や夜会にあちこちから呼ばれているのよ。それはただ単に道化を楽しむだけじゃない、わかる? 皆貴方達の隙を狙い始めたと言うことよ」
恋仲だと広まってからと言うもの色々な思惑が水面下で動き始めていたが、当然それに思い至らないテオドールが気がつくはずもなく、ミリアに言われて初めて気がつく。
そして自分の愚かさにも気がつくのだ。
フェリチアーノを守らなければと思いながらも、特段何かをする事は無かった。何かがあってからでは遅いと言うのに、その危機感が全く無かったと言ってもいい。
なんて独りよがりな愚か者なのだろうかとテオドールはミリアの話を聞きながら項垂れていく。
「気が付いたのなら強くなりなさいテオドール。権力も力も財力も人材も、貴方は人より持っているの。それを使う事を躊躇ってはダメよ? そして狡賢く強かに生きなさい。そうしなければ大事な者は守れはしないわ。そう言う意味ではフェリチアーノ、彼は貴方よりずっと貴族らしい貴族であり大人だわ。恋人に負けているなんて困ったものね?」
打ちのめされ力無く自重気味に口端を上げたテオドールを励ます様にミリアはテオドールの手を両手で握りしめた。
「婚約の件は私にはどうする事も出来ないわ。それは貴方が考え動かなければならない事。けれど私が貴方の幸せを願っている事は忘れないでね?」
「ありがとうございます姉上」
「さぁ、暗い話は終わりにしましょう! しゃんとなさいテオドール、そんな貴方に素敵なプレゼントを用意してるの」
「プレゼントですか?」
明るく声を上げたミリアが席を立つと、チェストから何かを取り出すとテオドールの元に戻って来るとそれをテオドールの手に握らせた。
「これは?」
「もうっ香油に決まってるでしょ! 何の為に貴方達を別棟に泊めさせると思ってるのよ」
そう言われてみるみるうちに顔を真っ赤に染め上げたテオドールを面白そうにニヤニヤとしながらミリアは見ていた。
「あっ姉上!!」
「まぁはしたないなんて野暮なこと言わないから、存分に愛を育みなさい」
「~~~!!」
口をぱくぱくと動かしながら狼狽えるテオドールの背中を押し部屋から追い出すと、満足そうに再びソファに腰を下ろしていた。
一方で部屋から追い出されたテオドールは渡された小瓶を握り締めながら、あまりの話の落差に頭が混乱するばかりだった。
「貴方は優し過ぎるわテオドール。王族としてはダメなくらいにね。それが貴方の良いところではあるし、そんな貴方に私達家族は救われて来たの。でもね、それではダメなのよ。優しさだけでは大事な人は守れないわ。貴族は皆狡賢くていつでも他人の足元を掬おうと狙っているの。私達王族はその危機にずっと晒されている、それはわかるわよね?」
まるで幼児に話すようにミリアはゆっくりと言葉を紡ぐ。
優しさは美徳だが、それだけでは人の上に立つ貴族ましてや王族ではそれは仇になり弱みに変わる。
いついかなる時も周りに目を配り情報を集め精査し、そこから己と己の愛する者を守るにはどうすればいいのかと常に考えなければならない。
御伽噺や恋愛小説の様に、恋をしたらハッピーエンドと言う物が現実ではあるはずがなく、恋をしたからこそ愛するものが出来たからこそ守るものが増え戦うことが増えるのだ。
自分が持つカードを最大限に利用し、駒を動かし、そして最悪に陥らない様に気を配る。本心は張り付けた笑顔の下に隠し、付け入る隙を与えない様にしながら攻撃出来る隙を狙う。
貴族達は皆そうして互いを読み合い、蹴落とし合うのが常だ。
テオドールは何を考えているかわからないそんな貴族達を昔から好きになれなかった。社交の場が苦手なのだが、これからはそう言っては居られない。
愛する者を守る為には率先して自身が矢面に立たねばならないのだ。それはミネルヴァの茶会で令嬢達に牽制をしたフェリチアーノの様に。
テオドールはミリアにその出来事を嬉々として話したが、それでは駄目なのだと叱られる。
身分が高く、権力もあるテオドールが動かなければならなかった。フェリチアーノから動いたことによってどうなるかを考えろと言われたが、今までそんな事を考えた事も無かったテオドールにはわからない。
困った様にミリアを見れば真剣な表情をしたミリアが口を開く。
「あの場にシャロン・ボーモン公爵令嬢が居たでしょう? 彼女は王子妃の座を狙っているわ。そして婚姻していない王子は貴方ただ一人。隣国の姫君との婚約の話はまだ公にはされていないのよ? そんな人の前に自分の邪魔をするフェリチアーノが現れたのだから面白く思うはずが無いわよね?」
「……そうですね」
「ではどうすると思う? その相手を蹴落としに掛かるのよ」
「でも、仮にも王子の恋人にそんな事……」
「甘いわねテオドール。証拠が残らなければいくらでもシラを切れるのよ? 特に……ねぇ思い出しなさい、デュシャン家の人達を見たのでしょう? よく無い事を考える貴族達にとって彼等は格好の獲物だわ。今までフェリチアーノが全てそう言う人達が近づかない様にしていた様だし、そもそも皆遠巻きに彼等の道化を楽しんで居ただけだった。けれども貴方とフェリチアーノが恋仲になったとなれば話は変わるわ。彼等は今まで呼ばれもしなかった茶会や夜会にあちこちから呼ばれているのよ。それはただ単に道化を楽しむだけじゃない、わかる? 皆貴方達の隙を狙い始めたと言うことよ」
恋仲だと広まってからと言うもの色々な思惑が水面下で動き始めていたが、当然それに思い至らないテオドールが気がつくはずもなく、ミリアに言われて初めて気がつく。
そして自分の愚かさにも気がつくのだ。
フェリチアーノを守らなければと思いながらも、特段何かをする事は無かった。何かがあってからでは遅いと言うのに、その危機感が全く無かったと言ってもいい。
なんて独りよがりな愚か者なのだろうかとテオドールはミリアの話を聞きながら項垂れていく。
「気が付いたのなら強くなりなさいテオドール。権力も力も財力も人材も、貴方は人より持っているの。それを使う事を躊躇ってはダメよ? そして狡賢く強かに生きなさい。そうしなければ大事な者は守れはしないわ。そう言う意味ではフェリチアーノ、彼は貴方よりずっと貴族らしい貴族であり大人だわ。恋人に負けているなんて困ったものね?」
打ちのめされ力無く自重気味に口端を上げたテオドールを励ます様にミリアはテオドールの手を両手で握りしめた。
「婚約の件は私にはどうする事も出来ないわ。それは貴方が考え動かなければならない事。けれど私が貴方の幸せを願っている事は忘れないでね?」
「ありがとうございます姉上」
「さぁ、暗い話は終わりにしましょう! しゃんとなさいテオドール、そんな貴方に素敵なプレゼントを用意してるの」
「プレゼントですか?」
明るく声を上げたミリアが席を立つと、チェストから何かを取り出すとテオドールの元に戻って来るとそれをテオドールの手に握らせた。
「これは?」
「もうっ香油に決まってるでしょ! 何の為に貴方達を別棟に泊めさせると思ってるのよ」
そう言われてみるみるうちに顔を真っ赤に染め上げたテオドールを面白そうにニヤニヤとしながらミリアは見ていた。
「あっ姉上!!」
「まぁはしたないなんて野暮なこと言わないから、存分に愛を育みなさい」
「~~~!!」
口をぱくぱくと動かしながら狼狽えるテオドールの背中を押し部屋から追い出すと、満足そうに再びソファに腰を下ろしていた。
一方で部屋から追い出されたテオドールは渡された小瓶を握り締めながら、あまりの話の落差に頭が混乱するばかりだった。
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