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31 煩わしさ
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フェリチアーノが倒れた次の日、またもや新聞に大きく記事が載りデュシャン家は大騒ぎとなった。
しかし今回は王宮から使いが来ることも無く、かといってフェリチアーノが帰宅する事も無く、デュシャン家の面々はただただどうなったのかと、新聞を読んだ者達と同じ様にそわそわと連絡を待つばかりであった。
いくら王宮へ送っても返信が無い手紙は、テオドールの指示によってフェリチアーノに最後の日まで見せられる事は無かった。
検閲に掛けられてはいるが、個人宛の手紙を読むわけにはいかないとそれをテオドールが読む事は無かったし、あまりストレスを与えてはいけないと言うディッシャーのアドバイスを元に、仲が良くないと聞いている家族からの手紙を療養中のフェリチアーノに見せる事は憚られた為の対応だった。
新聞を見た人々からまたもやお茶会への誘いが増え、フェリチアーノが帰って来て事情を聞けない事を苦々しく思いながらも、デュシャン家の面々は各自好き勝手に振舞っていた。
セザールだけはフェリチアーノの事を案じていたが、登城するには許可がいる。その許可も容易く降りる物では無い為、前回同様と言う訳にもいかず、ただひたすら不安に包まれながらフェリチアーノの帰宅を待つ他なかった。
完全に体が回復したフェリチアーノが漸く屋敷へと帰れば、何故早く帰らないとフェリチアーノを叱責し、かと思えば猫撫で声で話を聞き出そうとして来たりと、さながらフェリチアーノにとっては地獄の様な有様だった。
そんな中でセザールだけはフェリチアーノの体を心配し、涙ぐんでいた。
またも戻って来た息苦しい日常の中、変わった事と言えば週に一回はテオドールと会う事を義務づけられた事だろうか。
心配だからと王宮に何としても留まる様に言い募ったテオドールに、流石にそれは無理な話だと何とかロイズと共に説得し、何とかそれで妥協して貰ったのだ。
しかし息苦しい生活の中、フェリチアーノは砂漠で唯一のオアシスの様なその日が待ち遠しくて仕方がなかった。
そんなある日、フェリチアーノ宛てに且つてのパトロンの一人であるミネルヴァからお茶会への招待状が届いていた。だがそこには何故か“御家族も一緒に”と書かれていたのだ。
その事に些か疑問を持ったが、身分の高い彼女の招待を断る事など出来よう筈もなく、フェリチアーノは胃が重くなる感覚を味わう事となる。
朝早くから上機嫌な家族と共に馬車に揺られ、チェイアー公爵邸へと向かった。案の定茶会の誘いが来たと告げれば家族は目を途端にぎらつかせ始めたのだ。
そこからは夜会の時宜しく、服は間に合わないからと宝飾品を買い漁り、化粧品を買い漁っていた。
その割には請求書が回って来ない事に不審に思って居れば、どうやら怪しげな人物からアンベールが相当額を借り入れたらしいと言う事が分かった。
王族と繋がりを確実に持つための先行投資だろうか、フェリチアーノとテオドールの事が新聞に何度も出るようになると、よからぬ輩からひっきりなしにコンタクトを取ろうとしてくるようになったのだ。
当然の事ながらそんな物にフェリチアーノが騙されるはずもなく、ターゲットを家族に変えた者達は言葉巧みに彼等に取り入ろうとしていた。
家を捨てる決意をする前であればそんな輩を遠ざけようと必死になって動いた事もあったが、捨てる覚悟が決まっている今、家族がどんな者達と付き合おうがどうでも良く、情報だけは耳に入れておくようにするだけに留めていた。
そのまま破滅していけばいいとすら今は思う自分が居る。それ故に、大事な物は全て名義を変え祖父が隠し持っていた隠れ家に自身で隠し、帳簿も本来の物は自身の手帳に書きしるし肌身離さず持ち歩き、本来帳簿である筈の物には多めの金額を書き記しておいたのだ。ある意味三重帳簿の様になっているが、きっと彼等は気づかないだろう。
正しい数字は自身が把握し、後は最低限を回せばいいだけだ。
残り少ない人生を、煩わしさで潰されるなんてごめんだと、テオドールと過ごしてからはそう思うようになっていた。
しかし今回は王宮から使いが来ることも無く、かといってフェリチアーノが帰宅する事も無く、デュシャン家の面々はただただどうなったのかと、新聞を読んだ者達と同じ様にそわそわと連絡を待つばかりであった。
いくら王宮へ送っても返信が無い手紙は、テオドールの指示によってフェリチアーノに最後の日まで見せられる事は無かった。
検閲に掛けられてはいるが、個人宛の手紙を読むわけにはいかないとそれをテオドールが読む事は無かったし、あまりストレスを与えてはいけないと言うディッシャーのアドバイスを元に、仲が良くないと聞いている家族からの手紙を療養中のフェリチアーノに見せる事は憚られた為の対応だった。
新聞を見た人々からまたもやお茶会への誘いが増え、フェリチアーノが帰って来て事情を聞けない事を苦々しく思いながらも、デュシャン家の面々は各自好き勝手に振舞っていた。
セザールだけはフェリチアーノの事を案じていたが、登城するには許可がいる。その許可も容易く降りる物では無い為、前回同様と言う訳にもいかず、ただひたすら不安に包まれながらフェリチアーノの帰宅を待つ他なかった。
完全に体が回復したフェリチアーノが漸く屋敷へと帰れば、何故早く帰らないとフェリチアーノを叱責し、かと思えば猫撫で声で話を聞き出そうとして来たりと、さながらフェリチアーノにとっては地獄の様な有様だった。
そんな中でセザールだけはフェリチアーノの体を心配し、涙ぐんでいた。
またも戻って来た息苦しい日常の中、変わった事と言えば週に一回はテオドールと会う事を義務づけられた事だろうか。
心配だからと王宮に何としても留まる様に言い募ったテオドールに、流石にそれは無理な話だと何とかロイズと共に説得し、何とかそれで妥協して貰ったのだ。
しかし息苦しい生活の中、フェリチアーノは砂漠で唯一のオアシスの様なその日が待ち遠しくて仕方がなかった。
そんなある日、フェリチアーノ宛てに且つてのパトロンの一人であるミネルヴァからお茶会への招待状が届いていた。だがそこには何故か“御家族も一緒に”と書かれていたのだ。
その事に些か疑問を持ったが、身分の高い彼女の招待を断る事など出来よう筈もなく、フェリチアーノは胃が重くなる感覚を味わう事となる。
朝早くから上機嫌な家族と共に馬車に揺られ、チェイアー公爵邸へと向かった。案の定茶会の誘いが来たと告げれば家族は目を途端にぎらつかせ始めたのだ。
そこからは夜会の時宜しく、服は間に合わないからと宝飾品を買い漁り、化粧品を買い漁っていた。
その割には請求書が回って来ない事に不審に思って居れば、どうやら怪しげな人物からアンベールが相当額を借り入れたらしいと言う事が分かった。
王族と繋がりを確実に持つための先行投資だろうか、フェリチアーノとテオドールの事が新聞に何度も出るようになると、よからぬ輩からひっきりなしにコンタクトを取ろうとしてくるようになったのだ。
当然の事ながらそんな物にフェリチアーノが騙されるはずもなく、ターゲットを家族に変えた者達は言葉巧みに彼等に取り入ろうとしていた。
家を捨てる決意をする前であればそんな輩を遠ざけようと必死になって動いた事もあったが、捨てる覚悟が決まっている今、家族がどんな者達と付き合おうがどうでも良く、情報だけは耳に入れておくようにするだけに留めていた。
そのまま破滅していけばいいとすら今は思う自分が居る。それ故に、大事な物は全て名義を変え祖父が隠し持っていた隠れ家に自身で隠し、帳簿も本来の物は自身の手帳に書きしるし肌身離さず持ち歩き、本来帳簿である筈の物には多めの金額を書き記しておいたのだ。ある意味三重帳簿の様になっているが、きっと彼等は気づかないだろう。
正しい数字は自身が把握し、後は最低限を回せばいいだけだ。
残り少ない人生を、煩わしさで潰されるなんてごめんだと、テオドールと過ごしてからはそう思うようになっていた。
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