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19 セザール

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 セザールは侍従に連れられ、王宮の一室へと案内されていた。緊張を表に出さない様にしてはいるが、いつもより背筋が伸び、手にはじわりと汗が滲んでいる。
 豪奢な部屋に通されたがそこにフェリチアーノの姿は無く、暫く待つように言われて椅子に座りはしたが、落ち着けるはずがなかった。
 一介の使用人でしかないセザールは、これまで王宮の部屋へと通された事は一度として無かった。過去に前当主であったダーヴィドと共に登城する事はあったが、立ち入れる場所は文官達が居る表側のみであり、こんな城の奥深い場所まで来た事はない。
 いつまで待てばいいのだろうかと何度も時計を確認したくなるが、チラリと壁際に控えている従僕を確認する。醜態を晒しこれ以上デュシャン家の、フェリチアーノの評判を落としてはいけないとぐっと手に力を入れ、ただひたすらにじっと時間が過ぎ去るのを待った。

「セザール」

 どれ程待っただろうか、ガチャリと扉が開く音が聞こえ次に聞こえたのは聞きなれた主の声だった。
 その存在を確認しセザールはほっとしたように微笑むと、ソファから立ち上がり恭しく頭を下げた。

「心配致しましたよ、坊ちゃま」
「すまないねセザール、僕もまさかこんな事になるとは思わなくてね」
「フェリ、俺に紹介はしてくれないのか?」

 すっと自然にフェリチアーノの横に並び、甘やかな表情をフェリチアーノに向けたテオドールに、セザールは内心の動揺を押し隠しながら再び頭を深く下げるが、すぐさまそれをテオドールに制された。

「テオ、こちらは僕の腹心であるセザール。セザールこちらは第四王子テオドール様だよ。向こうはテオドール様の側近のロイズ様」
「ご尊顔を拝し恐悦至極に存じます。デュシャン家、家令を拝命しておりますセザール・ドロアに御座います殿下」

 慣れた様にフェリチアーノをエスコートしていき、当然の様に横並びで座った二人にあっけに取られながらも、セザールは二人が座った対面に腰を下ろし、メイド達が綺麗にテーブルを調えていく中、不敬にならないように努めながらも目の前の二人を目で観察した。

 お互いに愛称で呼び合い、まるでずっとそうしてきたかの様に寄り添い微笑み合う二人は、新聞記事に書かれているよりもより一層親密そうに見えた。

「急に呼び出してすまないねセザール、ここに戻る様に陛下から言われてしまってね。暫く帰れないんだ」
「然様でございますか、一応一通り揃えて来たのですが後程確認して頂いても宜しいですか? それと、シルヴァンが珍しく気を利かせましてな、いつも坊っちゃまが飲んでいるお茶を持っていく様に言ったものですから、そちらもお持ちしました」

 テーブルに置かれた紅茶の缶を見たフェリチアーノは、一瞬顔を曇らせた。態々シルヴァンが持たせたと言う事は、これの中に毒が仕込まれていると考えていいだろう。
 視察に出た際も体調が僅かに回復し出したのは、丁度このお茶を切らして飲めなくなってからだった。
 シルヴァンはセザールの次に信用していた使用人だった。彼もまた、祖父に母にと仕えて来た人だ。幼いフェリチアーノを、セザールの次に支えてくれていたのもシルヴァンだ。
 そんな彼がこれを態々持たせたと言う事は、シルヴァン自身もコレが何かを知っている可能性が高い。もしくは、知っていて与え続けていたかだ。
 自身の命を狙うのは家族だけだと思っていたが、どうやら違ったらしいと言う事に思考が行き着き、目の前のセザールを見やる。

 シルヴァンが裏切り者だとわかってしまった今、セザールすらももしかしたらと、猜疑心に見舞われる。
 セザールはフェリチアーノにとってもう一人の祖父であり父だ。もしそうだとしたら、立ち直れないどころではない。

「これをフェリは毎日飲んでるのか。 そんなに美味しいのか?」

 興味を惹かれた様に缶を取り上げたテオドールは、その缶を四方八方から見てラベルに書いてある産地を見て驚いたようだった。

「へぇ、これ俺がこの前まで留学していたコンサールの物なのか。これは飲んだことあったかロイズ?」
「そうですね……飲まれてはいないと思います」
「そうか、なぁフェリこれ飲んでみても良いか?」

 そう聞かれたフェリチアーノは目を見開き、体中から冷や汗がブワリと噴き出すのを感じ取った。
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