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14 誓約魔法2

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 そのフェリチアーノの発言に、その場に居た全員が凝視してくる。机に置かれた魔道具は起動したまま、何の反応も起こさない。
 そんな中フェリチアーノだけはゆったりと笑みを浮かべているだけだった。

「長くないとは、病に侵されていると言う事か?」
「いいえ、私も気が付いたのはつい最近なのですが、どうやらずっと、家族から毒を盛られていたようなんです」

 事も無げに言うフェリチアーノに、室内はなんとも言えない空気を更に濃くしていった。

「領地でトラブルがあり、予定よりこちらに戻って来る時期が大幅にズレたのです。その間、いつも重たかった体がやけに軽くなりまして。しかもこちらに戻ってきたら体が再び不調をきたし始めたのですよ。不審に思い医者に掛かったら、もう長くは無いだろうと。」

 医師に宣告された事により、ずっと病死だと思っていた祖父と母の死も、もしかすれば同じように毒殺された可能性もあるとフェリチアーノは考えだしていた。
 しかし自身の体も先は既に長くは無く、緩やかな死が待つのみだった。その事実を知り、どうやって家を守って行こうと考えられるだろうか。
 搾取され続けそれでも尚ギリギリの所で耐えていたフェリチアーノにとって、二重帳簿が出て来た事もそうだが、これが家を捨てる一番の原因になったのは間違いなかった。

 しかしここにきて国の最高権力者にその事実を伝えられたのは良かったと、思わず思ってしまう。
 魔道具で嘘偽りがない事は証明されている。となれば下手に個人資産を奪い取ろうとすれば即座に家族は捕まってしまうし、自身が死ぬ前に出そうとしていた爵位返上の届もすんなり通ると言う訳だ。

「なんという事だ……君はそれでいいのかね? 今この場で私達に家族を拘束しろと、願い出る事も出来るのだ、何故そうしない?」

 普通ならば、これを好機と見て家族の罪を全て訴え出ればいいだけなのだ。普通であれば誰しもがするであろう行動を、フェリチアーノがしない事に室内に居る誰しもが疑問に思っていた。
 しかしそう問われたフェリチアーノは今気が付いたと言う顔をして、目を見開いていた。今まで誰からも手を差し伸べられなかったフェリチアーノにとって、他人に頼ると言う選択肢がそもそも抜け落ちていた為、今この場で願い出ると言う行動を思いつきもしなかったのだ。

 けれどもそれを思いついたところで最高権力者に縋ろうとも思わない。そんな行動を取ればきっとこの話も流れてしまうだろうと、そう思えたのだ。

「縋るつもりはありません、そんな事をすれば権力者の甘い汁をすする人達と変わらない人間になってしまうでしょうし。家の件で陛下や殿下たちのお力を借りようと考えてはいませんから」

 そう言い切ったフェリチアーノに、サライアスは深く溜息をつき椅子に深く沈み込んだ。末っ子がおかしなごっこ遊びをし始めたと聞き、美人局にでもあっては叶わないと相手と話をしてみれば、とんでもない話を聞かされ心中穏やかではいられなかった。

 調べられた資料を思い出す。幼くして爵位を継ぎながらも、必死で立ち続けた結果が自らの死とは何たる事だろうか。
 そして何より、縋れる状況でも縋らない、その資格は無いのだと言わんばかりの発言になんとも言えない遣る瀬無さを感じずにはいられなかった。
 そんな青年が最後に望んだ事が、金品でも家族への復讐でもなく、愛情だとは。

「では……私から、君に依頼と言う形を取るとしよう」
「依頼ですか?」
「そうすれば給金が出せるからな。それに仮にも王族との恋人ごっこだ、それなりに金をかけて貰わねばならんところもある」
「なるほど、承知いたしました陛下」
「それに妃達も言っておったが、君の申し出は渡りに船と言ってもいい物だ。テオドールには今まで相手が居なかったからな、今朝の様にやらかしてしまう事も多々あるだろう。それを他国の姫君にやられては困るのだよ。その点、君で実戦形式の予行演習できればこちらとしても有難いと言う訳だ」
「皆に利益が出る様で良かったです」

 なんとも欲のない返事に、サライアスは更に溜息をついてしまう。

「誓約魔法で盛り込む事柄はテオドールひいては王族を守る物を考慮して盛り込む事になるだろう。その為細かく詳細をこちらで詰める上、すまないがそれまで家に帰すわけにはいかなくなるが良いかね?」
「構いません……あぁそれから私から一つだけお願いが」
「なんだね」
「先程の話は、殿下には内密にして欲しいのです。……まだ少しだけしかお話しておりませんが、あの方は随分お優しそうなので」



 重苦しい会話から解放され、僅かな解放感と共に部屋を出ればテオドールが心配そうに眉尻を下げ扉の前で待っていた。
 その姿を見てやはり王族には似つかわしくない優しさをテオドールから感じてしまう。

「何を話していたんだ?」
「家族の事とかですよ、我が家の評判が悪いですからね。警戒されてしまうのは当然でしょう? それから誓約魔法の詳細を決めるまで数日こちらでお世話になる事になりました」
「そうなのか! よかった、まだフェリチアーノと話がしたかったんだよ」

 テオドールは嬉しそうにそう言いうなりフェリチアーノの手を躊躇いなく取ると、広い王宮内をスタスタと歩いて行くのだった。
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