上 下
11 / 95

11 事情説明

しおりを挟む
「良い歳をした大人二人が、まさか恋人ごっことは……」

 呆れた表情をしながらも残念な子供を見る様な顔をするロイズに、やはり馬鹿げた提案をした自覚があるフェリチアーノは愛想笑いでその視線を受け流すに務めた。

「確かに恋人を作ってみてはどうかと提案したのは私ですが――」
「お互い割り切ったごっこ遊びだから一番良いと思うんだよ、なぁフェリチアーノ」
「そうですね、利害はお互いに一致していますしね」
「しかし……」
「僕の家の事……ですよね?」

 困った様に微笑みながらロイズが言い淀んだ事柄を言い当てたフェリチアーノに、軽くロイズは頷いた。

「家の評判のせいもありますし、僕が否定をいくらしても信用しては頂けないでしょう。であれば、誓約魔法を使うのはどうでしょうか?」

 誓約魔法は法を執行できる機関が魔道具を用い使う事が出来る特別な魔法だ。誓約を盛り込んだ文書を作り、それを破った場合内から魔法が体を侵食し、死に至らしめるの物。
 本来であればこの魔法が行使されるのは罪を犯した人間であり、たかがごっこ遊びの足枷にする物ではない。

「何もそこまでしなくてもいいんじゃないのか?」

 それ程に重たい物を自らに課すと言うフェリチアーノに、テオドールはたじろぎロイズも驚愕の目を向けていた。
 王族の元まで話が届いているのは愚か者としての悪評判であろうが、そんな輩を近づけたくないと言うのは解る。
 フェリチアーノが否定しても信用はどうしたって得られない。ならば最大限の誠意を見せる為、これが一番だろうとフェリチアーノは考えていた。

「期間限定の遊び相手ですし、気にする必要も無いのでは? 僕は先程説明されたように、恋愛ごっこが出来ればいいだけですし、他に何か企もうと言う考えもありませんから。それくらいで信用を多少なりともしていただけるのであれば、誓約魔法をかけられるくらいなんともありませんよ」

 事も無げに言いながら微笑むフェリチアーノに、どこか薄ら寒さを感じたロイズだが、全てを諦めたような様子だった主が、それで憂いが晴れるならば目の前の青年を利用しても良いのではないだろうかと思えた。

 今この場で誓約魔法は出来ない為、話は翌日に持ち越された。家にそのまま帰宅しようとしたフェリチアーノだが、話が終わる頃には夜会は終わっており、家族達の姿は何処にも無かった。
 帰る術を失ったフェリチアーノが途方に暮れていれば、客間に泊れば良いとテオドールから言われたのだ。ここで拒否したところで帰宅する術がないフェリチアーノは、有難くその提案を受け入れた。

 静まり返った王宮の一室で、フェリチアーノは自身に起きているとんでもない展開に苦笑するしかなかった。
 ふかふかで手触りの良い寝具を撫でながら、憂鬱でしかなかった夜会から一転して今では夢の中の出来事の様な有様だ。
 恋人ごっこをするにあたり不安がないわけではないが、今はただ未知なる遊びに楽しさの方が勝っているのだ。
 これほど心が躍ったのはいつ振りだろかと考える。今まで抑えてきた”楽しむ”と言う感情が水を得た魚の様に体中を駆け巡る。

 家を、家族を捨てる前に少しでも楽しみが増えて良かったと、そう心から思いながら重たく鈍い体を横たえ、深く眠りに落ちたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ふしだらオメガ王子の嫁入り

金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか? お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

竜血公爵はオメガの膝で眠る~たとえ契約結婚でも…

金剛@キット
BL
家族を亡くしたばかりのクルシジョ子爵家のアルセΩは、学園で従弟に悪いうわさ話を流されて、婚約者と友人を失った。 味方が誰もいない学園で、アルセはうわさ話を信じる不良学園生から嫌がらせを受け、強姦されそうになる。学園を訪れていた竜の血をひくグラーシア公爵エスパーダαが、暴行を受けるアルセを見つけ止めに入った。 …暴行の傷が癒え、学園生活に復帰しようとしたアルセに『お前の嫁ぎ先が決まった』と、叔父に突然言い渡される。 だが自分が嫁ぐ相手が誰かを知り、アルセは絶望し自暴自棄になる。 そんな時に自分を救ってくれたエスパーダと再会する。 望まない相手に嫁がされそうになったアルセは、エスパーダに契約結婚を持ちかけられ承諾する。 この時アルセは知らなかった。 グラーシア公爵エスパーダは社交界で、呪われた血筋の狂戦士と呼ばれていることを……。 😘お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。どうかご容赦を! 😨暴力的な描写、血生臭い騎士同士の戦闘、殺人の描写があります。流血場面が苦手な方はご注意を! 😍後半エロが濃厚となります!嫌いな方はご注意を! 

側妃候補は精霊つきオメガ

金剛@キット
BL
エンペサル侯爵家次男、カナル(Ω)は、国王の側妃候補に選ばれた双子の姉を、王都に送り出すが… 数か月後、姉は後宮で命を落とし、カナルは姉の元婚約者と政略結婚をするが、夫に愛されることなく流産し、失意の中、精霊伝説のある湖で自殺する。 ―――なぜかカナルは実家のベッドで目覚め、精霊の力で時間が巻き戻り、自分が精霊の加護を受けたと知る。 姉を死なせたくないカナルは、身代わりの側妃候補として王都へ向かい、国王ボルカンと謁見した。 カナルはボルカンから放たれた火の精霊の力に圧倒され、ボルカンも精霊の加護を受けたと知る。  ※お話に都合の良い、ユルユル設定×オメガバースです。ご容赦を! 😡お話の中で、本編、番外編、それぞれに暴力的な場面、殺人などがあります。苦手な方はご注意下さい。 😘R18濃いめとなっております。苦手な方はご注意下さい。

【完結】愛してるから。今日も俺は、お前を忘れたふりをする

葵井瑞貴┊書き下ろし新刊10/5発売
BL
『好きだからこそ、いつか手放さなきゃいけない日が来るーー今がその時だ』 騎士団でバディを組むリオンとユーリは、恋人同士。しかし、付き合っていることは周囲に隠している。 平民のリオンは、貴族であるユーリの幸せな結婚と未来を願い、記憶喪失を装って身を引くことを決意する。 しかし、リオンを深く愛するユーリは「何度君に忘れられても、また好きになってもらえるように頑張る」と一途に言いーー。 ほんわか包容力溺愛攻め×トラウマ持ち強気受け

オメガに転化したアルファ騎士は王の寵愛に戸惑う

hina
BL
国王を護るαの護衛騎士ルカは最近続く体調不良に悩まされていた。 それはビッチングによるものだった。 幼い頃から共に育ってきたαの国王イゼフといつからか身体の関係を持っていたが、それが原因とは思ってもみなかった。 国王から寵愛され戸惑うルカの行方は。 ※不定期更新になります。

この恋は運命

大波小波
BL
 飛鳥 響也(あすか きょうや)は、大富豪の御曹司だ。  申し分のない家柄と財力に加え、頭脳明晰、華やかなルックスと、非の打ち所がない。  第二性はアルファということも手伝って、彼は30歳になるまで恋人に不自由したことがなかった。  しかし、あまたの令嬢と関係を持っても、世継ぎには恵まれない。  合理的な響也は、一年たっても相手が懐妊しなければ、婚約は破棄するのだ。  そんな非情な彼は、社交界で『青髭公』とささやかれていた。  海外の昔話にある、娶る妻を次々に殺害する『青髭公』になぞらえているのだ。  ある日、新しいパートナーを探そうと、響也はマッチング・パーティーを開く。  そこへ天使が舞い降りるように現れたのは、早乙女 麻衣(さおとめ まい)と名乗る18歳の少年だ。  麻衣は父に連れられて、経営難の早乙女家を救うべく、資産家とお近づきになろうとパーティーに参加していた。  響也は麻衣に、一目で惹かれてしまう。  明るく素直な性格も気に入り、プライベートルームに彼を誘ってみた。  第二性がオメガならば、男性でも出産が可能だ。  しかし麻衣は、恋愛経験のないウブな少年だった。  そして、その初めてを捧げる代わりに、響也と正式に婚約したいと望む。  彼は、早乙女家のもとで働く人々を救いたい一心なのだ。  そんな麻衣の熱意に打たれ、響也は自分の屋敷へ彼を婚約者として迎えることに決めた。  喜び勇んで響也の屋敷へと入った麻衣だったが、厳しい現実が待っていた。  一つ屋根の下に住んでいながら、響也に会うことすらままならないのだ。  ワーカホリックの響也は、これまで婚約した令嬢たちとは、妊娠しやすいタイミングでしか会わないような男だった。  子どもを授からなかったら、別れる運命にある響也と麻衣に、波乱万丈な一年間の幕が上がる。  二人の間に果たして、赤ちゃんはやって来るのか……。

召喚されない神子と不機嫌な騎士

拓海のり
BL
気が付いたら異世界で、エルヴェという少年の身体に入っていたオレ。 神殿の神官見習いの身分はなかなかにハードだし、オレ付きの筈の護衛は素っ気ないけれど、チート能力で乗り切れるのか? ご都合主義、よくある話、軽めのゆるゆる設定です。なんちゃってファンタジー。他サイト様にも投稿しています。 男性だけの世界です。男性妊娠の表現があります。

男とラブホに入ろうとしてるのがわんこ属性の親友に見つかった件

水瀬かずか
BL
一夜限りの相手とホテルに入ろうとしていたら、後からきた男女がケンカを始め、その場でその男はふられた。 殴られてこっち向いた男と、うっかりそれをじっと見ていた俺の目が合った。 それは、ずっと好きだけど、忘れなきゃと思っていた親友だった。 俺は親友に、ゲイだと、バレてしまった。 イラストは、すぎちよさまからいただきました。

処理中です...