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09 恋人(仮)
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フェリチアーノは口は禍の元とはよく言ったものだと思いながら、再びテオドールと共にベンチに腰を下ろしていた。
時間を気にして会場に戻ろうとしていたがあまりの事態にそんな事など失念してしまい、テオドールに促されるままこの場に留まり、恋人ごっこをどうやって行くのかの話し合いをする事になってしまったのだ。
「恋人ごっこなんだから、本当の恋人の様に振舞うわけだろ? 前に似たような事してたって言ってたけど、実際どうだったんだ?」
「あぁえっと、そうですね……パーティーでエスコートして貰ったりだとか、デートみたいなことはしました。あとはそうですね……普通の恋人達とそんなに変わらないかと」
パトロン達との短期間、短時間の愛人契約の内容は、普通の恋人達と同じだ。変わるとすれば、そこに愛は無く、金銭が発生すると言う事だ。娼館での一晩の遊びと何ら変わらない。
そう娼館で働く者達と、フェリチアーノはなんら変わりは無いのだ。体を使う事でしか稼げないのだから。
その事を思い出し、知らずに言葉を濁してしまった。キラキラとした無邪気そうな瞳で問われ、詳しく言えるはずも無かった。嘘をついてはいない。ただ汚い部分を知られたくない為に、核心に触れなかっただけだ。
もしかしたら察せられるだろうが、自身の口から言うのは躊躇われた。
「なるほどね……じゃあこれからは出席するパーティーにはフェリチアーノを呼んでもいいってわけだ?」
「……本気ですか?」
「だって恋人ごっこだろう? どうせなら俺は期限一杯に楽しみたいんだよ。それはフェリチアーノも同じだろう?」
「それはまぁそうですけれど」
「だったら問題ないじゃないか、なぁ? それに綺麗なフェリチアーノが隣に恋人として居てくれたら、群がる令嬢と令息達を相手にしなくてすむしな」
フェリチアーノは上手く丸め込まれていくような感覚に苛まれながらも、確かに例えごっこ遊びだとしても、楽しい方が良いに決まっている、という思いはある。
しかし心配事が無いわけではないのだ。その事を思い出し、ふっとフェリチアーノの顔に影が差す。
「何か問題でもあるのか?」
「ありますね……殿下には先程お恥ずかしいですが、私の家族の話を致しましたでしょう? 提案した時はそこまで表に出なければ家族にはバレないと、思ったのです。しかし殿下と一緒となると、それを聞いた家族が殿下に何かご迷惑をかけてしまうのではないかと……」
公へ頻繁に、それもテオドールと一緒に出る様になってしまっては、注目されるのは当然の事ながら、社交界での噂を掻っ攫う事間違いなしだ。そんな状況をあの業突く張りな家族が見逃すわけがない。
相手はなんと言っても王族である。少しの間違いで首が飛ぶまではいかないまでも、罪に問われるなんて事はザラにある。フェリチアーノであればそんなヘマをしない様に細心の注意を払う事は出来るが、目先の欲に駆られやすいあの家族では、どれだけ罪を積み上げるかわかったものではないのだ。
「迷惑ねぇ……まぁある意味相手が俺で良かったんじゃないのか? 王族相手に下手な事をしてただで済まない事がわからない程頭が空っぽなわけでもないんだろう? まぁ何かあっても俺なら上手くいなせるし、周りには人も居るし、そこは気にしなくても良いぞ?」
ニコニコとしながら大した事では無いと言ってのけるその発言に、流石は王族であるとしか言いようがなく、いつもその辺りで一線を置かれてしまう事が常であったフェリチアーノは、嬉しさが込み上げて来くる。
まさかの第四王子との恋人ごっことなってしまったが、これはある意味良かったのではないかと思ってしまう程に。
隣に座るフェリチアーノの雰囲気がやっと和らいだ事を感じ取ったテオドールは、その様子に安堵した。生垣越しにしていた会話は思いの外楽しかった。その気安さと心地のよさに提案をすんなり受け入れられたところもある。
しかし正体を明かしてからのフェリチアーノからは、先程までの気安さも心地よさも全て鳴りを潜めてしまった。
折角の好機を、ただのつまらない物にはしたくは無かった。その為に多少強引になろうとも、先程までの気安さを取り戻してもらわねば困るのだ。
時間は有限だ、お互いにその期限は長くはないのだから尚更だ。
「よし、フェリチアーノ! 早速恋人ごっこを始めようか」
「今からですか!?」
「俺達には時間がないんだから早いに越したことはないだろう? それにさっきも言ったが、会場に戻るとなると周りが騒がしいから、さっそく風よけになってもらいたいっていう下心もある」
あけすけに物を言いながらサクサクと話を進めて行くテオドールに、またもや慌て出すフェリチアーノに畳みかける様にその手を取り、自身の頬にくっつけると人懐っこい笑みを浮かべた。
どう足掻いても、乗り気であるテオドールに押し切られてしまうと感じたフェリチアーノは、深く息を吐き出して第四王子と言う肩書を持つ相手と恋人ごっこをする覚悟を決め、ふわりと微笑んだ。
「不束者ではございますが、よろしくお願いします殿下」
時間を気にして会場に戻ろうとしていたがあまりの事態にそんな事など失念してしまい、テオドールに促されるままこの場に留まり、恋人ごっこをどうやって行くのかの話し合いをする事になってしまったのだ。
「恋人ごっこなんだから、本当の恋人の様に振舞うわけだろ? 前に似たような事してたって言ってたけど、実際どうだったんだ?」
「あぁえっと、そうですね……パーティーでエスコートして貰ったりだとか、デートみたいなことはしました。あとはそうですね……普通の恋人達とそんなに変わらないかと」
パトロン達との短期間、短時間の愛人契約の内容は、普通の恋人達と同じだ。変わるとすれば、そこに愛は無く、金銭が発生すると言う事だ。娼館での一晩の遊びと何ら変わらない。
そう娼館で働く者達と、フェリチアーノはなんら変わりは無いのだ。体を使う事でしか稼げないのだから。
その事を思い出し、知らずに言葉を濁してしまった。キラキラとした無邪気そうな瞳で問われ、詳しく言えるはずも無かった。嘘をついてはいない。ただ汚い部分を知られたくない為に、核心に触れなかっただけだ。
もしかしたら察せられるだろうが、自身の口から言うのは躊躇われた。
「なるほどね……じゃあこれからは出席するパーティーにはフェリチアーノを呼んでもいいってわけだ?」
「……本気ですか?」
「だって恋人ごっこだろう? どうせなら俺は期限一杯に楽しみたいんだよ。それはフェリチアーノも同じだろう?」
「それはまぁそうですけれど」
「だったら問題ないじゃないか、なぁ? それに綺麗なフェリチアーノが隣に恋人として居てくれたら、群がる令嬢と令息達を相手にしなくてすむしな」
フェリチアーノは上手く丸め込まれていくような感覚に苛まれながらも、確かに例えごっこ遊びだとしても、楽しい方が良いに決まっている、という思いはある。
しかし心配事が無いわけではないのだ。その事を思い出し、ふっとフェリチアーノの顔に影が差す。
「何か問題でもあるのか?」
「ありますね……殿下には先程お恥ずかしいですが、私の家族の話を致しましたでしょう? 提案した時はそこまで表に出なければ家族にはバレないと、思ったのです。しかし殿下と一緒となると、それを聞いた家族が殿下に何かご迷惑をかけてしまうのではないかと……」
公へ頻繁に、それもテオドールと一緒に出る様になってしまっては、注目されるのは当然の事ながら、社交界での噂を掻っ攫う事間違いなしだ。そんな状況をあの業突く張りな家族が見逃すわけがない。
相手はなんと言っても王族である。少しの間違いで首が飛ぶまではいかないまでも、罪に問われるなんて事はザラにある。フェリチアーノであればそんなヘマをしない様に細心の注意を払う事は出来るが、目先の欲に駆られやすいあの家族では、どれだけ罪を積み上げるかわかったものではないのだ。
「迷惑ねぇ……まぁある意味相手が俺で良かったんじゃないのか? 王族相手に下手な事をしてただで済まない事がわからない程頭が空っぽなわけでもないんだろう? まぁ何かあっても俺なら上手くいなせるし、周りには人も居るし、そこは気にしなくても良いぞ?」
ニコニコとしながら大した事では無いと言ってのけるその発言に、流石は王族であるとしか言いようがなく、いつもその辺りで一線を置かれてしまう事が常であったフェリチアーノは、嬉しさが込み上げて来くる。
まさかの第四王子との恋人ごっことなってしまったが、これはある意味良かったのではないかと思ってしまう程に。
隣に座るフェリチアーノの雰囲気がやっと和らいだ事を感じ取ったテオドールは、その様子に安堵した。生垣越しにしていた会話は思いの外楽しかった。その気安さと心地のよさに提案をすんなり受け入れられたところもある。
しかし正体を明かしてからのフェリチアーノからは、先程までの気安さも心地よさも全て鳴りを潜めてしまった。
折角の好機を、ただのつまらない物にはしたくは無かった。その為に多少強引になろうとも、先程までの気安さを取り戻してもらわねば困るのだ。
時間は有限だ、お互いにその期限は長くはないのだから尚更だ。
「よし、フェリチアーノ! 早速恋人ごっこを始めようか」
「今からですか!?」
「俺達には時間がないんだから早いに越したことはないだろう? それにさっきも言ったが、会場に戻るとなると周りが騒がしいから、さっそく風よけになってもらいたいっていう下心もある」
あけすけに物を言いながらサクサクと話を進めて行くテオドールに、またもや慌て出すフェリチアーノに畳みかける様にその手を取り、自身の頬にくっつけると人懐っこい笑みを浮かべた。
どう足掻いても、乗り気であるテオドールに押し切られてしまうと感じたフェリチアーノは、深く息を吐き出して第四王子と言う肩書を持つ相手と恋人ごっこをする覚悟を決め、ふわりと微笑んだ。
「不束者ではございますが、よろしくお願いします殿下」
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