上 下
7 / 95

07 提案

しおりを挟む
 その後も楽しく話が続き、二人は月明かりの中、生垣越しではあるが気楽な時間を過ごした。
ふと時計を見たフェリチアーノは、会場を抜け出してからかなりの時間が経っている事に気が付き、そろそろこの楽しい時間を終わりにしなければならないと、少し寂しさを覚えてしまう。

「どうかしたのか?」
「その、随分と話し込んでしまったのでそろそろ戻らなければと……」

 急な沈黙にテオドールが声を掛ければ、そう返答が返ってきてしまい、テオドールもまた身分を考えなくてよい気楽な会話が終わってしまう事を残念に思ってしまった。

「そうか……せっかく楽しかったんだけどな」
「本当に、楽しすぎてあっという間でしたね」

 お互いに名残惜しさを感じ取り、二人して笑い合ってしまう。
 そこでふと、フェリチーノは面白い事を閃いてしまった。

「そう言えば、僕達はお互い似た事で悩んでいましたよね?」
「そうだな、面白い偶然もあるもんだよ」
「そこで提案なんですが、もし貴方さえよければ、僕と期間限定で恋人ごっこをしてみませんか?」
「期間限定で……恋人ごっこ?」

 余りにも突拍子も無い提案に、テオドールは相手が見えない生垣の方を振り返って目を丸くしてしまう。

「僕は愛する人を見つけられないし、見つけたとしても家の事がありますから、所帯を持つつもりが無いのですよ。迷惑をかけるので恋人を作るつもりもありません。貴方も二年後には婚約なさるのでしょう? でしたらその間だけでも、割り切った状態で恋人ごっこをしてみませんか?」
「面白い提案ではあるが……君は良いのか?」
「僕から提案している事ですよ? それにごっこ遊びでも、愛し愛される体験が出来るならきっと楽しいと思いません? お互い多少なりとも諦めきれないわけですし」

 フェリチアーノの言う通り、ごっこ遊びだとしてもその提案は魅力的ではあった。従者のロイズに期間限定で恋人を作ってみてはどうかと提案されたが、相手に悪いだろうと恋人を作る気はなかった。
 だがしかし、お互いが完全に割り切った”ごっこ遊び”という枠組みの中なら、それはとても魅力的な提案に思えた。

「お互いに魅力的な話だな」
「そうでしょう? それと契約書でも書きましょうか、そうしたらお互い遺恨も後腐れも無いでしょう」
「なんだか手馴れている気がするが?」
「あぁ、期間限定の愛人……みたいな事をやっていた事があるので……そのお陰で思いついたのですけど」

 なんとも言いにくそうに話したフェリチアーノの言葉に驚きはしたものの、逆にそういった経験があるのならば、余計に向こうは割り切っていられるのだろうし、お互いに気を使わなくて良いのではないかとテオドールには思えた。
 それは本来求めて居た物ではないが、多少なりとも残り少ない時間で、僅かにでも疑似体験がお互い同意の下でお互いが出来るのならば、それはとても運がいい事ではないだろうか。

「はははっ楽しそうじゃないか、恋人ごっこ! 俺で良ければ喜んでごっこ遊びをしようじゃないか」

 面白そうに笑うテオドールの声に、突拍子も無い提案をしたフェリチアーノ自身、安堵した。
 閃いたままに提案をしてしまい、変な人扱いされても可笑しくは無かったが、テオドールは快諾してくれた。ふと家族の事が心配になるが、相手もごっこ遊びと割り切っているので、今まで通りに上手く隠せるだろうと考えた。

 そこまでいって、フェリチアーノとテオドールは相手が誰だか判らずに話し続けていた事を思い出したのだった。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

名もなき花は愛されて

朝顔
BL
シリルは伯爵家の次男。 太陽みたいに眩しくて美しい姉を持ち、その影に隠れるようにひっそりと生きてきた。 姉は結婚相手として自分と同じく完璧な男、公爵のアイロスを選んだがあっさりとフラれてしまう。 火がついた姉はアイロスに近づいて女の好みや弱味を探るようにシリルに命令してきた。 断りきれずに引き受けることになり、シリルは公爵のお友達になるべく近づくのだが、バラのような美貌と棘を持つアイロスの魅力にいつしか捕らわれてしまう。 そして、アイロスにはどうやら想う人がいるらしく…… 全三話完結済+番外編 18禁シーンは予告なしで入ります。 ムーンライトノベルズでも同時投稿 1/30 番外編追加

孤独な王弟は初めての愛を救済の聖者に注がれる

葉月めいこ
BL
ラーズヘルム王国の王弟リューウェイクは親兄弟から放任され、自らの力で第三騎士団の副団長まで上り詰めた。 王家や城の中枢から軽んじられながらも、騎士や国の民と信頼を築きながら日々を過ごしている。 国王は在位11年目を迎える前に、自身の治世が加護者である女神に護られていると安心を得るため、古くから伝承のある聖女を求め、異世界からの召喚を決行した。 異世界人の召喚をずっと反対していたリューウェイクは遠征に出たあと伝令が届き、慌てて帰還するが時すでに遅く召喚が終わっていた。 召喚陣の上に現れたのは男女――兄妹2人だった。 皆、女性を聖女と崇め男性を蔑ろに扱うが、リューウェイクは女神が二人を選んだことに意味があると、聖者である雪兎を手厚く歓迎する。 威風堂々とした雪兎は為政者の風格があるものの、根っこの部分は好奇心旺盛で世話焼きでもあり、不遇なリューウェイクを気にかけいたわってくれる。 なぜ今回の召喚されし者が二人だったのか、その理由を知ったリューウェイクは苦悩の選択に迫られる。 召喚されたスパダリ×生真面目な不憫男前 全38話 こちらは個人サイトにも掲載されています。

【完結】下級悪魔は魔王様の役に立ちたかった

ゆう
BL
俺ウェスは幼少期に魔王様に拾われた下級悪魔だ。 生まれてすぐ人との戦いに巻き込まれ、死を待つばかりだった自分を魔王様ーーディニス様が助けてくれた。 本当なら魔王様と話すことも叶わなかった卑しい俺を、ディニス様はとても可愛がってくれた。 だがそんなディニス様も俺が成長するにつれて距離を取り冷たくなっていく。自分の醜悪な見た目が原因か、あるいは知能の低さゆえか… どうにかしてディニス様の愛情を取り戻そうとするが上手くいかず、周りの魔族たちからも蔑まれる日々。 大好きなディニス様に冷たくされることが耐えきれず、せめて最後にもう一度微笑みかけてほしい…そう思った俺は彼のために勇者一行に挑むが…

俺にとってはあなたが運命でした

ハル
BL
第2次性が浸透し、αを引き付ける発情期があるΩへの差別が医療の発達により緩和され始めた社会 βの少し人付き合いが苦手で友人がいないだけの平凡な大学生、浅野瑞穂 彼は一人暮らしをしていたが、コンビニ生活を母に知られ実家に戻される。 その隣に引っ越してきたαΩ夫夫、嵯峨彰彦と菜桜、αの子供、理人と香菜と出会い、彼らと交流を深める。 それと同時に、彼ら家族が頼りにする彰彦の幼馴染で同僚である遠月晴哉とも親睦を深め、やがて2人は惹かれ合う。

愛をなくした大公は精霊の子に溺愛される

葉月めいこ
BL
マイペースなキラキラ王子×不憫で苦労性な大公閣下 命尽きるその日までともに歩もう 全35話 ハンスレット大公領を治めるロディアスはある日、王宮からの使者を迎える。 長らく王都へ赴いていないロディアスを宴に呼び出す勅令だった。 王都へ向かう旨を仕方なしに受け入れたロディアスの前に、一歩踏み出す人物。 彼はロディアスを〝父〟と呼んだ。 突然現れた元恋人の面影を残す青年・リュミザ。 まっすぐ気持ちを向けてくる彼にロディアスは調子を狂わされるようになる。 そんな彼は国の運命を変えるだろう話を持ちかけてきた。 自身の未来に憂いがあるロディアスは、明るい未来となるのならとリュミザに協力をする。 そしてともに時間を過ごすうちに、お互いの気持ちが変化し始めるが、二人に残された時間はそれほど多くなく。 運命はいつでも海の上で揺るがされることとなる。

あなたが愛してくれたから

水無瀬 蒼
BL
溺愛α×β(→Ω) 独自設定あり ◇◇◇◇◇◇ Ωの名門・加賀美に産まれたβの優斗。 Ωに産まれなかったため、出来損ない、役立たずと言われて育ってきた。 そんな優斗に告白してきたのは、Kコーポレーションの御曹司・αの如月樹。 Ωに産まれなかった優斗は、幼い頃から母にΩになるようにホルモン剤を投与されてきた。 しかし、優斗はΩになることはなかったし、出来損ないでもβで良いと思っていた。 だが、樹と付き合うようになり、愛情を注がれるようになってからΩになりたいと思うようになった。 そしてダメ元で試した結果、βから後天性Ωに。 これで、樹と幸せに暮らせると思っていたが…… ◇◇◇◇◇◇

さよならの向こう側

よんど
BL
''Ωのまま死ぬくらいなら自由に生きようと思った'' 僕の人生が変わったのは高校生の時。 たまたまαと密室で二人きりになり、自分の予期せぬ発情に当てられた相手がうなじを噛んだのが事の始まりだった。相手はクラスメイトで特に話した事もない顔の整った寡黙な青年だった。 時は流れて大学生になったが、僕達は相も変わらず一緒にいた。番になった際に特に解消する理由がなかった為放置していたが、ある日自身が病に掛かってしまい事は一変する。 死のカウントダウンを知らされ、どうせ死ぬならΩである事に縛られず自由に生きたいと思うようになり、ようやくこのタイミングで番の解消を提案するが... 運命で結ばれた訳じゃない二人が、不器用ながらに関係を重ねて少しずつ寄り添っていく溺愛ラブストーリー。 (※) 過激表現のある章に付けています。 *** 攻め視点 ※不定期で番外編を更新する場合が御座います。 ※当作品がフィクションである事を理解して頂いた上で何でもOKな方のみ拝読お願いします。 扉絵  YOHJI@yohji_fanart様

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

処理中です...