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第1章
33.あふれる想い
しおりを挟むそう、あいつはもう来ない。
僕が帰れって追い出したから。
現にここ数日来てない。
あんな言い方しなくてもよかったんじゃないか、という自分といや、わからないあいつが悪いという自分がいる。
何が悪かったのか…
少し違ってたらあんなことにならなかったのではとも思う。
朝の気怠い体を起こし、
窓を開けて冷たい空気に身を震わせる。
ほうっと吐く息は白く、まだ外は冬の様子を残している。
ぼーっとしていた一瞬で部屋の温度が下がり冷気が肌を突き刺すようで慌てて窓を閉めた。
空気は新鮮なものに入れ替わったけど下がった部屋の温度だけはどうも戻らない。試しにパチンと指を鳴らしてみるが、シーンとなるだけで特に何も変わらない。やっぱり温度を操る魔法は僕には無理みたいだ。
寒いからはやく着替えようと急ぐけど、そういう時に限って背中の羽が引っかかってうまく着替えられない。
顔を洗って拭こうとタオルを探すけど見当たらない。
朝ごはんできたぞと後ろを向いて呼びかけるけどそこには誰もいなくて、返事はない。
2人分用意した食事を並べて椅子に座る。
目の前の食事を食べるあいつの姿はない。
ほんと僕はダメだなぁ、こんなにも自分はあいつを必要としてる。
なんでなのかはもうわかってる。
僕があいつを好き…なんだ。
カマエルがいなくなって初めて自覚するなんて、遅すぎるって自分でもわかってる。
でも、ほんと僕はいろんな面でお子様だったんだ。
あいつの今まで言ってきた言葉は、はじめは理解できなかったけど、好きだって理解した今なら分かる。
あいつが好きって気持ちを僕に真っ直ぐにぶつけてきてくれてたってこと。
本当は心の奥ではわかってたのかもしれない。
でも気づかないフリして僕自身甘えてた。
この気持ちに答えを出さなかったら、ずっとあいつはこのままそばにいてくれるって。
はじめは周りをうろつくあいつが鬱陶しかった。
いつのまにか、あいつが僕の生活に入り込んでいて、あいつが来る日を僕は楽しみにしてた。
不意に肌に触れられたらドキドキして、うるさくなる鼓動を抑えるのは大変だった。
あいつの綺麗なエメラルドグリーンの瞳はとても澄んでいて目が合うたび視線が吸い寄せられてずっと見ていた。
誰も呼んでくれない僕の名前を唯一
「ベル」と呼んでくれた。
いなくなると不安で逢いたいと思った。
本当はあいつが優しいやつだってわかってる。そういうところを含めて全部僕はあいつを好きみたいだ。
だからこそ、気付きたくなかった。
この気持ちに。
だって悪魔と天使なんて結ばれるはずない。
冷静になって考えてみれば異種族同士なんてうまくいった話は聞かない。
悪魔にとって天使は宿敵。
それは天使にとっても同じことで。
僕らは良くてもいずれ別れなきゃいけない時が来る。だったらその時笑ってお別れできるように、気づかないままでいられたらよかったのに。
涙が溢れる。
想いを自覚した途端叶わないなんてなんて残酷なんだろう。
止めどなく流れる涙は今まで蓋をしていた僕の想い。
たくさんたくさん溢れて、
でも伝えられなくて、こんなにいっぱいこぼれて空になったら、この気持ちもなくなるのかな。
やっぱり想いがなくなるなんてさみしい。
ねぇ、僕はどうしたら良いのかな。
一人で食べたご飯はとてもしょっぱかった。
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