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第1章
19.実は、このやりとり嫌いじゃない。
しおりを挟む怪我をしてから二週間ほど経った。
カマエルが治療をしてくれたこともありもうすっかり傷は癒え、僕は元気になった。
なった…が!やつはまだうちにいる。
そして今日もーーー
「起きろ、ご飯を食べろ」
「………」
「ほーう、俺の話を無視か。じゃあ何されても文句は言えないな」
「!お触り禁止だと言っただろう、バカ」
「誰がバカだ、バカはお前だ。もう起きてるじゃないか。さっさと着替えてご飯を食べろ」
「お前は僕の母さんか!」
毎日のようにこんなやりとりをしている。
だけど、今まで寝ても、起きても1人だったから誰かがいてこんな会話をすることが少しくすぐったい気持ちになる。兄弟がいたらこんな感じなのかな。カマエルと兄弟は絶対やだけど。終始バカにされそう。
お触り禁止令を出してから触ってこないがうるさいので着替えて、いそいそと部屋を出る。台所に近づくにつれあたりにいい匂いがしてくる。テーブルにはやつの手作り朝ごはん2人分。ここで食べる気満々じゃないか?
やつはいつ天界に帰ってるんだってくらい僕が起きてる間はこの家にいる。まるで監視されてるようだとは思わなくはないけど、この家の家事全般、身の回りの世話をやつに全てされると小言さえ耳を塞げばめちゃくちゃ快適で手放しづらくなっているのは本音。
匂いを感じてしまえば、お腹が空いてきた気がして仕方がない。食べ物に罪はないからなと席につきご飯に手を伸ばす。
まず、メインのトーストから。
いただきます。
「………」
うーん!悔しいが今日もやつのご飯は美味しい。
パンはふっくらしてるけど表面はいい具合に焼けてカリッとしている。パンの厚さもちょうど良くてパンのふっくらカリカリを引き立たせる絶妙加減。
まずパンだけ食べて、パン本来の美味しさを楽しんでからさらに、少しだけ火を通したハムを乗せその上に薄くスライスしたチーズを乗せる。少しするとハムの熱でチーズが溶けてトロトロになってこれがハムの味を引き立たせパンによく合う。
これだけで何枚も食べられるな~。
「美味しく食べていただけたようで何よりだ」
「ま、まぁ普通だからな!」
「そうか」
俺の前についさっき挽いた豆で入れたコーヒーをさっと置いた。
様になってるなぁ、俺がやってもままごとか?なんて言ってくるだろうし。
カマエルは俺の前の席に座ると、目の前のご飯そっちのけで行儀悪くテーブルに肘をついてこっちを見ている。そんなやつがふっと目元を緩めると空気がふわっとする。なんでか僕の胸もざわざわして落ち着かない気持ちになるし、やつから目が離せなくなって少し困る。動揺から思わず持っていたコーヒーを一気飲みしてしまった。
これはもしや美形効果なのか!
恐るべし…
お菓子のようにふわふわした不思議な感覚と空気に耐えられずパッと目を逸らすとまだ手をつけられてないやつのご飯に目が止まった。
先程の空気を打ち消すようにお前も早く食べろと急かしてやっとご飯を食べ終えたのだった。
結論:やつの作るご飯は絶品。
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