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夕日の沈む屋上で

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パチン!
「いったぁ……。菜々香?!」
あー、久しぶりに本気で人を殴ったな。手がジンジンする。
「ちな。お願いだからここから消えて。」


わたし、山中菜々香は高校に入ってから地獄のような毎日を送っている。
シングルマザーで働く母は忙しく、家にいてもほとんど顔を合わせない。わたしが小3の頃に父との不仲で離婚してからはずっとそんな感じだ。だからわたしは親に甘えることを知らない。遊びに出かけて楽しいと思う気持ちも、愛されているという安心感もどこかえ消えてしまった。
だからといって学校に居場所がある訳でもない。教室という小さい檻の中に入ると、大勢の小さな獣たちが群れをつくり牙をむいてくる。入学式からずっとひとりで友達を作ろうとしなかったわたしを『遊び』のターゲットにするのにそう時間はかからなかった。初めは抵抗したが、今ではそれすら面倒になった。抵抗すれば奴らはもっと楽しむ。嫌いな奴らを楽しませるのは不快だ。
唯一の拠り所だった彼氏は浮気をしていた。居場所がなくなってしまったのにはショックだったが、怒ったり泣いたりする元気はなかった。多分、彼氏は
「簡単に別れられてラッキー」
くらいに思っているんだろう。彼氏にとってのわたしの思いなんて、所詮そんなもんだ。
もう全てに疲れてしまっていた。
だって私の居場所なんてどこにもないじゃない。
次の日学校に行くと教室の前でいつものいじめっ子たちに待ち伏せされていた。
「彼氏に浮気されたんだって?‪wまー菜々香じゃしょーがないよね‪w‪w‪w」
「仕方ないからみんなで慰めてあげるよ~」
そう言ってハサミを持ち出し、腰まで伸ばしていた髪の毛をばっさり切られた。
なぜ、群れてないだけでここまでされるんだろう。
『もう壊れちゃえ』
心の中で声が聞こえる。
『これ以上この世界に留まる必要はないんじゃない?』
『楽になりなよ』

気がつくと足は屋上に向かって少しずつ、でも確実に動いていた。

遺書はめんどくさいし書かない。
残したいものなんて何も無い。
そろそろ日が落ちる。
フェンスを飛び越えようとしたとき
「菜々香!!!!!!」
と私を呼ぶ声が聞こえた。振り返るとちながいた。
加藤ちな。
イチバンアイタクナイヒトダッタノニ。
ちなとは幼稚園からずっと一緒だ。昔は確かに親友だった。でも中学に入ってクラスが別になってからはだんだん距離が離れていった。ちなは高校へ入ってわたしがいじめられてからもずっと傍観していた。
それだけならまだよかった。
奴らがいない時、ちなはわたしに寄ってきて言うのだ。
「大丈夫?」
大丈夫なわけないじゃん。辛いに決まってんじゃん。いじめられてる時はただ見てるだけのくせに。助けようともしないくせに。正義のヒーロー面しないで。
それからはわたしの方からちなを避けていた。もう関わりたくなかった。
それなのになんで今ここにちながいるの……?
「菜々香こんなところで何してるの!?早く家に帰るよ!」
あー、うるさい。また正義の味方気取りかよ。どこまでイラつかせるんだ。
わたしの手をぎゅっと掴んだちなの頬を思いっきり引っぱたいてしまった。
「いったぁ……。菜々香!?いきなり何するの!?」
叩いたところが真っ赤になっている。可哀想に。
「ねぇ、ちな。」
ごめんねちな。
「あんたってどこまで偽善者なの?」
あなたは知らなかったでしょ?
「大丈夫?って言いながら助けようともしないじゃん」
わたしがあなたにこんなにも苦しめられていたなんて。
「いい加減正義の味方面するのやめなよ」
わたしがあなたを恨んでいたなんて。
「あんたなんか友達だと思ってない」
あなたをこんなにも嫌っていたことなんて。
でも知ろうともしなかったよね。
「菜々香……酷い。わた、、しはそんなつもり、全然なかったの、に……。菜々香を助ける、ためだった、のに……。」
あーあ、泣いちゃったよ。
まぁ、なんとも偽善者らしい発想だよね。
ドコマデワタシヲイラツカセルノ?
一気にフェンスを飛び越える。
スカートがふわりと舞う。
「菜々香……!やめて!!!!お願いだから……。」
仮にも元・親友の目の前で死のうとするなんて、私も相当性格がねじ曲がってるらしい。
でもねちな。
私はやめない。
地面を見下ろしてみる。
思ったより高いな。
下はコンクリート。
確実に死ねる。
怖くはない。
これは私の望んだこと。
この世に未練なんてものはない。
綺麗で汚いこの世界で、息をするのはもううんざり。
空中に背を預ける。
空を見上げる。
夕日が綺麗だ。
ちなの泣き叫ぶ声が聞こえる。
もうそろそろかな。
最後に呟いてみる。
「さよなら自分。また来世」
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