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堕ちた王子①
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アランは、足早に王城内を歩いていた。
気が急いて仕方がない。
「アラン殿下の御な~り~」
衛士の先触れに、広間の者たちが背を正し、アランを迎える。
日の出まであと数刻という真夜中にも関わらず、誰の顔も冴えている。
アランは、表情を引き締めた。
「父上が、お隠れになった今…。畏れ多いが、私にも王子としての義務がある」
「恐れながら、我ら左翼の忠臣どもは、アラン殿下を次期国王へと考えております」
「…我ら右翼の真の民は、正当なる第一王子であらせられるルシウス殿下を、次期国王へと考えております」
アランの口中に、苦みが走る。
当然と言えば当然で。第二王子である自分の王位継承権は、兄より低い。そんなことは、わかっている。
だが…。
遠く、雨の隙間を縫って、大聖堂の鐘の音が、アランの耳に届く。
王と王妃の魂を鎮めるための弔鐘の音。
ささくれた気を律するように、アランは目を閉じた。
先々代の頃より仕え、皺の刻まれた白い顔をした宰相が、アランに向かい、
「今宵は皆、神経が高ぶっておいでだ。この話は、明日、改めて話し合うことになさりませんか?」
アランは、目を開け、
「事は、一刻を争う。父上が倒れたと、他国の王の知るところとなれば、どうなるか。宰相。あなたが、分からないはずはない」
「……」
「然様です」
壮年の武大臣が口を挟む。アランを次期国王へと推した男だ。
「アラン殿下の仰る通り。事は、一刻を争います。ところが、ルシウス殿下は、事ここに至っても、お姿を現すどころか、王の最後も看取らず終い。いくら病身とはいえ…」
渋い顔をして見せる。
宰相は黙っていた。
アランもここでは、何も言わなかった。
**********
襟を緩め、上衣を荒々しくベッドに脱ぎ捨てる。
薄い肌着一枚になっても、まだ胸が落ち着かない。
脱ぎ捨てた服を召使いの女が拾い上げ、慌ただしく退出していった。
その様子を目の端で捉えるも、特に声もかけず見送る。
そうして、思い出したように窓辺に寄り、大聖堂のある東に向かって、手を組み、ひざまずく。
気が急いて仕方がない。
「アラン殿下の御な~り~」
衛士の先触れに、広間の者たちが背を正し、アランを迎える。
日の出まであと数刻という真夜中にも関わらず、誰の顔も冴えている。
アランは、表情を引き締めた。
「父上が、お隠れになった今…。畏れ多いが、私にも王子としての義務がある」
「恐れながら、我ら左翼の忠臣どもは、アラン殿下を次期国王へと考えております」
「…我ら右翼の真の民は、正当なる第一王子であらせられるルシウス殿下を、次期国王へと考えております」
アランの口中に、苦みが走る。
当然と言えば当然で。第二王子である自分の王位継承権は、兄より低い。そんなことは、わかっている。
だが…。
遠く、雨の隙間を縫って、大聖堂の鐘の音が、アランの耳に届く。
王と王妃の魂を鎮めるための弔鐘の音。
ささくれた気を律するように、アランは目を閉じた。
先々代の頃より仕え、皺の刻まれた白い顔をした宰相が、アランに向かい、
「今宵は皆、神経が高ぶっておいでだ。この話は、明日、改めて話し合うことになさりませんか?」
アランは、目を開け、
「事は、一刻を争う。父上が倒れたと、他国の王の知るところとなれば、どうなるか。宰相。あなたが、分からないはずはない」
「……」
「然様です」
壮年の武大臣が口を挟む。アランを次期国王へと推した男だ。
「アラン殿下の仰る通り。事は、一刻を争います。ところが、ルシウス殿下は、事ここに至っても、お姿を現すどころか、王の最後も看取らず終い。いくら病身とはいえ…」
渋い顔をして見せる。
宰相は黙っていた。
アランもここでは、何も言わなかった。
**********
襟を緩め、上衣を荒々しくベッドに脱ぎ捨てる。
薄い肌着一枚になっても、まだ胸が落ち着かない。
脱ぎ捨てた服を召使いの女が拾い上げ、慌ただしく退出していった。
その様子を目の端で捉えるも、特に声もかけず見送る。
そうして、思い出したように窓辺に寄り、大聖堂のある東に向かって、手を組み、ひざまずく。
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