フローブルー

とぎクロム

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7、

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 「大変、ご迷惑をおかけしました」
 出社と同時に、まず部長に頭を下げる。その後は、俺が休みの間、仕事を肩代わりしてくれた何人かの後輩にも、詫びと礼を言って回る。
 特に杉田は、
 「今度、回らない寿司屋でご相伴に与りたいです」
 と、ちゃっかり見返りを要求してきた。
 致し方なし。
 「今度な」
 と、返すにとどめ、自分のデスクにつく。
 書類が中々に溜まっていた。
 ざっと目を通し、期限別に仕分けていく。
 なんら変わらない。 
 いつもの仕事風景だった—。
 その日は、定時より少し過ぎに部署を後にした。
 今日は、帰りにスーパーに寄る。でなければ、うちの冷蔵庫は、もぬけの殻だ。
 エントランスを通って、歩道に出る。
 スーパーへは右だ。
 「——紺さん」
 びりっと、舌が痺れる。
 下腹部が、ぐっと重くなった。
 …振り返らなくても分かる。
 「……」
 「…ライン、見てくれた?」
 知ってはいる。
 だけど、既読のまま…無視をした。大人げないとも思ったが、返信はできなかった。
 「—おれを見て」
 気配が近づいてくる。
 つい三週間程前に、いつもの店で顔を合わせた時とは、まったく比べ物にならないくらい、魅惑的な香りをまとわせた、俺の…。
 背中に手を添えられる。
 それだけで産毛が立った。
 「…行こう?」
 どこに…?
 と、聞き忘れた。
 あとはもう、ただ手を引かれるまま…。
 
    ********

 連れてこられたのは、閑静な住宅街にある、一軒家だった。二階建ての、小さいが庭もある、どうみても新築の。
 「…ここって」
 「おれの家」
 テラスのついた一階の窓には、まだカーテンもかかっていなかった。
 「まだ引っ越してきたばかりだから。なんも無いけど」
 靴を脱いで、玄関を上がる。
 フローリングの床が、殺風景なリビングまで続いていた。
 「引っ越し?いつだ」
 「この前。紺さんと連絡が取れなくなってから」
 ウッと、良心がとがめる。
 「前のマンションには、もういられないし…それに」
 「…それに?」
 「紺さんと、一緒にいたい」
 昔みたいに…と、見つめてくる。
 やわらかい、あの、青磁の目だった。
 「…青磁、俺」
 言っていないことが、いっぱいある。
 何も言うまいとしてきたことも、ある。
 「おれを選んで…。父さんじゃなくて」
 はっとする。
 「青磁、お前…」
 知っていたのか?
 何を?何もかもを? 
 「詳しくは知らないよ?でも、なんとなく分かる。分かっちゃうんだ…」
 なんとも言えないように、笑う。
 「おれも、そういう意味では、父さんの子かな?」
 胸が詰まった。
 そうじゃないと迷わずに言えたら、どんなに良かったか。
 「俺は…」
 「貴方が、好きだ」
 「…っ…」
 「ずっと…。たぶん、出会った時から、ずっと」
 手を取られる。
 両手で包み込むように。壊れ物を扱うように。
 見つめる目…。
 俺の答えを待つ瞳。
 俺は…。
 震えている青磁の手に気がついた。
 「…ごめん。嬉しくて」
 「……嬉しい?」
 「うん。好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…」
 「…っ…」
 ——俺は、一生、誰かに好きだなんて言っちゃいけないんだ。
 高校生の俺が、顔を出す。
 「青磁、俺は…、お前のことが大事だ。あいつの子だから、じゃない」
 本当に。
 「だけど…」
 俺は、臆病だ。
 目の前の若者に、応えてやれないほど。
 必死になって、大人になろうとして来ただけで。中身は、何一つ変わっちゃいない。
 「お前の気持ちは、嬉しいよ。俺にとってお前は、息子みたいなもんだ。みたいなじゃなくて、もう半分は、俺が育てたようなもんだから、お前は俺の子だ」
 ギュッと握る手が強まる。
 俺は、それに優しく応えようとした。
 でも出来なかった。
 なぜなら、収まったと思った発情ヒートが、ぶり返したからだ。
 「…っ」
 発汗した身体が、うだる。
 熱を帯びた身体を、急いで引く。
 青磁が俺の手を掴む。強く。
 引き寄せられて。
 そうすると、嫌でも年月を感じる。
 青磁の顔が、目の前にあった。
 出会った頃は、胸に頭が届くのが、やっとだったのに。
 中性的な細身の体格にもかかわらず、目覚めたばかりの雄の香りをまとわせたアルファが、俺の鼻筋に、自分の鼻をすり寄せる。
 あともう少しで、唇が触れる。
 
    ********

 舌と舌が、絡まる。
 飲み込み切れなかった唾液が、顎を伝うと、青磁がそれを、舌先で追う。
 喉仏を甘噛みされ、
 「っあ」
 と、思ったより高い声が出た。
 自分の声じゃないみたいだ。
 物も何もないはずの新居に、なぜかしっかりと据え付けられた寝室のベッド。
 真新しいシーツの上で、フェロモンを溢れさせる。
 雄を誘う香り。アルファを。
 身に纏うものがシャツ一枚になって初めて、正気に返る。
 「…あっ」
 身体を隠したくて、シーツを掻き寄せた。
 その手を取られ、指を絡めて繋がれ、首筋にキスを落とされる。
 鎖骨をたどる唇の感触に、吐息が漏れた。
 するりと足の間に伸ばされた手が、立ち上がったペニスをやわく握る。
 「…っ、青磁。そこは、」
 小ぶりな、オメガ特有の男性器。
 繁殖機能はほとんど失われ、オメガ性の男には、精通も来ない。
 形ばかり残ったそれを、青磁にまざまざと見られていると思うと、顔がカッと熱くなる。
 昔は一緒に風呂にも入ったし、今初めて見られるわけでもないのに…。
 「見るなっ」
 「かわいいい」
 「~~っ~」
 パクパクと口を開閉させる俺に、青磁がうっそりと微笑む。
 そうこうするうちに、さらに伸びた手が、粘液を滴らせるオメガの秘部を暴く。
 最初は指、次に舌。
 ほぐされ、とろかされ、軽く達した。
 完全に、青磁のペースだ。
 悔しさに、腕を交差させて顔を隠す。
 「——見せて」
 「……ぃやだ」
 かっこう悪い…。こんな姿、この若者に見せたくなかった。
 指が、中にあるシコリを押す。
 「っあ」
 拳で口を塞ぐ。
 何度も何度も、そこをいじられ、
 「んっ…、せい」
 快楽から逃げたくて、うつ伏せで、頬をシーツにつける。
 上がった尻を持ち上げられて、腰をしっかりと押さえられる。
 「——れるよ?」
 「ぁ…」
 早く欲しい。
 早く。
 入り口にあてがわれた青磁のものに反応して、腰が揺れる。
 動かないように一層、力を込めて腰を掴まれ、青磁が、中に入ってきた。
 「ぅん…」
 雁首が通った後は、嘘のように一気に根元まで通る。
 青磁の熱が、中いっぱい満たしていく。
 「んん…ぁ」
 ぞくぞくとしたものが、背を駆け上がって、口から唾液が伝う。
 最奥手前で、一瞬だけ、中のモノが止まる。
 「…せい?」
 振り返るより早く、グッと、突きあげられた。
 「ああっ、っうぁ」
 律動に、早くも意識が霞む。
 腰と腰が、ぶつかり合う。
 揺れるベッド。
 思うさま奥を突かれて、開きっぱなしの口からは、目も当てられないような甲高い声が出る。
 「ひっ…、あ、ぁ、せぃ、じ…——うぁっ」
 濡れた音が、寝室を支配する。
 青磁以外聞いていない、でも、それが一番恥ずかしい。
 「——ン」
 青磁が、力む。
 (……ぁーーーーー)

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