上 下
361 / 438
第10章 覇王を追撃する闇

358.魔族にはルールと誇りがある

しおりを挟む
 大量の魔獣に囲まれ、リリアーナは興奮気味だった。びたんと尻尾が地面を叩く。ドラゴンの尻尾と翼が背に残った姿で、にやりと笑う口元に牙が覗いた。

「リリー、見てていい?」

「罠仕掛けようよ」

 自分勝手な双子の会話を聞きながら、リリアーナは考える。もしサタン様ならどうするだろう。邪魔をするなと怒る? それとも寛容さを見せるために好きにさせるのかな。

 振り返って、楽しそうな2人が手を振る姿を目にしてから決断した。好きにさせよう。

「リリーを傷つけないように罠を用意しなくちゃ」

 その気遣いあふれるバアルの声に、リリアーナの鼻に皺が寄った。なんだか侮られた気分だ。

「平気だよ」

 黒竜なのだ。多少の罠なら踏み抜いてみせる。そう胸を逸らしたリリアーナの一言に、バアルが頬を指先で掻いた。

「ごめん、そういう意味じゃなくて。僕らが嫌なんだよ、リリー」

 積極的に名前を呼んでくれる態度から、バアルやアナトが認めてくれたと判断した。リリアーナの尻尾が大きく揺れる。機嫌の良さを示すように左右に揺れ、魔獣を牽制した。

「いいよ、わかってる」

 部下や仲間を許すのは、サタン様の真似。裏切ったら容赦しないけど、仲間は大切にするべきだ。敵は徹底的に排除して、二度と逆らわないよう見せしめにする。魔王のやり方は、リリアーナにとって理解しやすい。

 アガレスやロゼマリアの言葉より、よほど真っ直ぐに響いた。敵に譲歩して油断させて討つ楽しさは、老後の余興だと考えている。ウラノスも人間と同じタイプだし……私には早い。その考えが種族特有のものと知らない若い竜は、魔獣を屠るための爪を研ぎながら笑った。

「じゃ、行く」

 短く宣言すると動いた。一瞬で距離を詰めて、先頭の魔熊の頭を叩き潰す。地面に叩きつけて血と中身をぶちまけた獲物を一瞥することなく、目の前の巨大猪の鼻先を蹴飛ばした。鼻先を半分ほど吹き飛ばして着地し、不満そうに唸る。

「思ったより硬い」

 もっと壊せると思ったのに。ぼやくリリアーナが爪に魔力を流した。切れ味を上げるために無意識に行ったが、見ていた双子は顔を見合わせる。

「やっぱりリリーの才能はすごいよ」

「自覚がないところがヤバい。無意識に最適の方法を探るじゃん」

「野生の本能かな」

 かつて戦った黒曜竜を思い出すが、これほど賢くなかった。魔法を使うしブレスも多用して厄介だったが、中身はもっと獣に近かったと思う。

 ひそひそと話す子供達の前で、リリアーナの爪がキマイラのような獲物を捕らえた。爪を上手に使い切り裂くと、甲高い悲鳴をあげて息絶える。直後に、集まっていた魔獣達が逃げ出した。

 断末魔の叫びは、よほどの恐怖と混乱を引き起こしたのだろう。まるでスタンピードのように全力で駆ける魔獣に、リリアーナが慌てる。

「だめ、まだやっつけてないのに」

 全部倒す気だったの? そんな顔を見合わせた双子が笑いながら魔獣の一群を結界で包んだ。

「リリー、こっちのだけで我慢して」

「この辺は強そうだよ」

 用意された生簀の獲物に不満が喉をつきかけたものの……リリアーナは余計な言葉を飲み込んだ。双子に悪気はないし、逃した自分が悪い。以前なら八つ当たりしただろうことを自覚しながら、黒竜の娘は捕らえられた贄を狩り尽くした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家族に辺境追放された貴族少年、実は天職が《チート魔道具師》で内政無双をしていたら、有能な家臣領民が続々と移住してきて本家を超える国力に急成長

ハーーナ殿下
ファンタジー
 貴族五男ライルは魔道具作りが好きな少年だったが、無理解な義理の家族に「攻撃魔法もろくに使えない無能者め!」と辺境に追放されてしまう。ライルは自分の力不足を嘆きつつ、魔物だらけの辺境の開拓に一人で着手する。  しかし家族の誰も知らなかった。実はライルが世界で一人だけの《チート魔道具師》の才能を持ち、規格外な魔道具で今まで領地を密かに繁栄させていたことを。彼の有能さを知る家臣領民は、ライルの領地に移住開始。人の良いライルは「やれやれ、仕方がないですね」と言いながらも内政無双で受け入れ、口コミで領民はどんどん増えて栄えていく。  これは魔道具作りが好きな少年が、亡国の王女やエルフ族長の娘、親を失った子どもたち、多くの困っている人を受け入れ助け、規格外の魔道具で大活躍。一方で追放した無能な本家は衰退していく物語である。

家族に無能と追放された冒険者、実は街に出たら【万能チート】すぎた、理由は家族がチート集団だったから

ハーーナ殿下
ファンタジー
 冒険者を夢見る少年ハリトは、幼い時から『無能』と言われながら厳しい家族に鍛えられてきた。無能な自分は、このままではダメになってしまう。一人前の冒険者なるために、思い切って家出。辺境の都市国家に向かう。  だが少年は自覚していなかった。家族は【天才魔道具士】の父、【聖女】の母、【剣聖】の姉、【大魔導士】の兄、【元勇者】の祖父、【元魔王】の祖母で、自分が彼らの万能の才能を受け継いでいたことを。  これは自分が無能だと勘違いしていた少年が、滅亡寸前の小国を冒険者として助け、今までの努力が実り、市民や冒険者仲間、騎士、大商人や貴族、王女たちに認められ、大活躍していく逆転劇である。

残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。 しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。 相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。 そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。 無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

最難関ダンジョンで裏切られ切り捨てられたが、スキル【神眼】によってすべてを視ることが出来るようになった冒険者はざまぁする

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【第15回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作】 僕のスキル【神眼】は隠しアイテムや隠し通路、隠しトラップを見破る力がある。 そんな元奴隷の僕をレオナルドたちは冒険者仲間に迎え入れてくれた。 でもダンジョン内でピンチになった時、彼らは僕を追放した。 死に追いやられた僕は世界樹の精に出会い、【神眼】のスキルを極限まで高めてもらう。 そして三年の修行を経て、僕は世界最強へと至るのだった。

破壊神の加護を持っていた僕は国外追放されました  ~喋る黒猫と世界を回るルーン技師の**候補冒険記~

剣之あつおみ
ファンタジー
剣と魔法の共存する世界「レナスディア」 かつて破壊神に滅ぼされかけたこの世界は、異界より現れた6人の英雄によって救われる。 そして彼等の活躍は伝説として語られる程の長い年月が過ぎた。 その伝説の始まりの街とされるアルテナ国の平民街に住む少年ラルクは中学校卒業と同時に行われる「成人の儀」を境に人生が一変する。 ――彼は世にも珍しい「破壊神の加護」を持っていた。 破壊神は世界を滅ぼす存在として、その名前すらも禁忌される程の存在。 ラルクは危険な存在として捕らわれる事となった。 そして「不死」という能力も同時に発覚した彼は激しい拷問の末、国外追放を命じられる。 気が付いた時には大海原を走る船の倉庫だった。 ・・・彼はそこで世にも不思議な喋る猫スピカと出会う。 この物語は運命の出会いとルーン技師の才能に目覚め、数々の偉業を成し遂げる少年のお話です。 前日譚 なんだこのギルドネカマしかいない! Ψギルドごと異世界に行ったら実は全員ネカマだったΨ https://www.alphapolis.co.jp/novel/288355361/518780651

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

処理中です...